21話『落葉』
八雲達は再び木曽の町へ訪れた。
『しっかし、俺とテンと紅葉の3人パーティって凄いメンツだよな』
『パーティ〜?』
『んー…旅の仲間?』
『僕たち凄いの?』
『ホントお主ら凄いな…その女子は幽霊だよな?』
『幽霊…まぁ幽霊だよね』
前回会った門番の兵に話し掛けられたが
数週間ぶりとは言え、覚えられていたらしい。
『まぁ 悪さする訳ではないから大丈夫だとは思うが…あまり町人を驚かさない様にな』
思った以上に門番は寛大だった。
…とは言え、幽霊を止める手段はないだろうが。
『あぁ 大丈夫。ありがとう』
その怪しい一行は領主屋敷へと向かう。
領主である中原兼遠に会って、紅葉の子孫か確認する為だ。
紅葉が言うには子孫には微量にでも第六天魔王の気が流れてるだろうとの事だ。
町の奥の方へ歩いて行くと それらしい屋敷と、門番の兵が見えた。
『ここかな?』
『ここは中原様の屋敷である、何用か?』
『あぁ ちょっと兼遠さんに会いたくてね』
『お主の名は?』
『榊八雲って名前だ』
『聞いた事のない名だが…』
『うん、多分 知らないと思う』
『身分を保障出来ない者は通せないな』
普段はどうか知らないが、紅葉が言うには戦が近い
それなら怪しい物を ほいほいと通す訳がない。
どうしようかと逡巡していた時、不意に中から見た事のある者が現れた。
『お?お前は この間の…』
『ん?おぉ鍛冶屋で会った人か』
『どうした?俺の部下になりに来たか?』
『いやいや 今日はそうじゃなくて、兼遠さんて人に会いに来たんだ』
『…野狐と幽霊(?)を連れてか?』
『そうそう、こいつは紅葉って言うんだけど…身内を探しててね』
『身内?お前 何か企んでるのか? 』
『悪さをするつもりは無いさ、そんなんしたってツマランから』
『じゃぁ 一体 何用だ?』
『そうだな…第六天魔王ってのの悪戯から守りに来た…ってトコかな?』
『第六天…? はぁ?』
急にそんな事を言われたら誰だってそういう反応をするだろう。
八雲もそれは分かっているが…他に説明のしようがなかった。
『話せば長くなるんだけどさ、何とか兼遠さんに会えないかな?』
『むぅ…分かった、ただし数人 付き添わせて貰うぞ』
『それは構わんよ』
『おい!兼光、兼平と菊をすぐに呼べ!』
(あら?あいつらも居るのか)
『よし、八雲と言ったな?俺は次郎ってんだ まず中に入ろうか』
『(次郎?) あぁ、助かるよ』
屋敷の中へと入り、想像するよりは小さめの広間に案内された。
畳ではなく板の間に座布団も無しに座るってのは少々ケツが痛いなと思った。
間も無く兼光、兼平、菊の3人が広間へと入って来た。
『や 八雲様!?』
『八雲殿!?』
『おぉ こないだぶりだね、まさかこんなに早く再会するとは思わなかったよ』
兼平は鵺に足を飛ばされて寝ていた者で
菊はその時に戦意喪失していた女だ。
『其方が八雲殿か!この間は大変 助かった』
『ん?あぁ 腕が無くなってた人か』
『うん、拙者は兼光、樋口兼光と申す。兼平の兄だ』
『そうか、治って良かったよ』
『あぁ?もしかして鵺を倒した旅の者って八雲の事か?』
『兄上、そうです。あの時 八雲様が居なければ私達は今頃 三途の川の向こうに居ました』
『そうかぁ、八雲 うちの兄弟達が世話になったな』
『いやいや 俺は鵺と戦ってみたかっただけさ』
『それに治療術まで使えるとはな、やっぱ俺の部下にならねぇか?』
『部下にはならんけど、状況次第では手伝う事になるかもな』
『お、良いぞ。八雲なら大歓迎だ』
ふと八雲が紅葉の方へ視線を向けると、何やら紅葉がフルフルと震えて居るのに気が付いた。
『…どした?』
『八雲様…』
『兼平様と兼光様は…中原家の方でしょうか?』
『ん?そうなの?』
八雲が兼平達の方へ言葉を投げ掛けた。
『えぇ、拙者は樋口家を継いで居りますが父は兼遠で兼平は実の弟でござる』
『…だってさ』
『やはり…血の繋がりを感じます』
血の繋がりと言っても正確には波旬の魔力を感じられたと言う事だろう。
受け継がれる血に代々と薄くはなりつつも自分に流れる波旬の魔力と同系統の力を感じられた様だ。
『??』
兼光 兼平の兄弟は怪訝な顔をしている。
『あー…兼光さんと兼平さん、言い難いんだけど ここに居る紅葉は君達の先祖の者だよ』
『なんと!?』
『兼遠さんに会う前に用事が終わっちゃったな』
『某の先祖の方…父 兼遠に聞けば分かるかも知れませぬ!』
『あぁ そうだね』
『私が義父を呼んで参ります』
菊が広間を出て数分後、中原兼遠が広間へとやって来た。
『儂が中原兼遠だ。何やら息子達が世話になった様だな』
中原兼遠は領主と言うよりは住職と言う感じだった。
頭髪を剃り上げただけなら良いが服装も僧侶だ。
『いやいや俺はたまたま通りかかっただけですよ』
『それでもだ、仏様に感謝しなければならぬ…して そちらの幽霊が中原家の祖先の方だと?』
『はい…兼遠様には より一層 経若の名残があります…』
紅葉との血の繋がりの根拠について八雲なりに簡潔に説明した。
そんな漠然とした物で納得してくれかは分からないが。
『そうか…儂が知ってる中原家の始祖は儂の祖父で中原以忠、元は十市以忠と言う者だ』
大和の国に十市家が在った。
以忠はどこからかやって来て、養子として十市家に入った。
十市家は朝廷から中原姓を戴き、中原以忠となった。
兄の有象の血筋は今も大和国に居るが、以忠の息子、兼遠の父の代で木曽の領主として移住して来た。
『と言う事までは聞いておる…もしかしたら以忠と言う人物、儂の祖父が紅葉殿の息子 経若かも知れぬ』
『えぇ…そうだと思います…良かった…経若は生き延びてくれていた』
八雲はふと紅葉を見ると
紅葉の頰からはらはらと流れる涙が、その名の様に
まるで落葉の様だと感じていた。




