17話『予言』
素振りだけをし続けて3日目
身体の使い方が分かって来た気がしていた。
身体に流れる力のスムーズな流し方。
電気信号、気、色々解釈はあるだろうが、八雲はそれを魔力だと解釈した。
木曽の町で術師と診断された時から、もしかしたら近接系の技術の習得には不向きなのかと思ったが
意外と術の力で応用出来そうだ。
…正確には魔力の流れを感じる力か。
(後はレベルを上げて素の強さを上げれば速くもなるし力強くもなりそうかな)
ただの素振りだが、普段考える事のない自分の身体の動きを自分で意識して理解すると言うのは勉強になった。
呼吸を意識すると途端に呼吸し難くなると言うのに近いのかも知れない。
『ふむ、何かを掴んだか』
『あぁ天狗のおっちゃん、素振りは勉強になったよ、身体の…』
『コラ!また 道士様におっちゃん呼ばわりか!』
『うお!?梟も居たのか』
『梟ではない 夜王のカズオ様だ!』
『お、おう、夜王か』
『あぁ コヤツは夜王と言う珍しい種族でな』
『す 凄い名前の種族だな』
『まぁ それは良い、お主は身体の気の流れを感じれたのだな?』
『気?あぁ まぁ そんな感じかな、魔力だと思ったけど』
『魔力…ふむ術の一部だと申すか』
『いや術そのものじゃなくてさ…なんかこう、術の元…元素?、いや違うな 素だ』
『うむ、概ね正解だ。気と言うのは元から身体の中にも外にも自然にも全てにあるのだ』
『おぉ…? 自然にも?』
『うむ、今は分からなくても良い。まずは自分の身体の事を理解しなければならんのだ』
『なるほど、術師で良かったよ』
『いや術師でなくとも 全ての者は術を使えるはずなのだ…術師?お主は術師か?』
『ん?そうらしいよ、木曽の町の鍛冶屋でそう言われたから』
『ふむ、珍しいのぅ。術師を持ってこの世に生を受ける者は100年に一度と言われておる』
『へぇ…』
『ワシが知っておるのは賀茂忠行と安倍晴明と言う人物がそれだった様だ』
『んー?安倍晴明は聞いた事あるよ、陰陽師だっけ?』
『うむ。賀茂忠行はその師だ』
『へ〜…なら同時代に2人も術師が居たって事ね』
『今の安倍家の当主、安倍泰親の5代前の話しだ』
『ん?その間は術師が居なかったって事か?』
『世に出て来たのはそれだけだ』
『はぁ…珍しいんだな』
特に考えた事もなかったが安倍晴明は職業が陰陽師だと思っていた。
…もっと言えば京都に行けば会えるんじゃないかとも考えていたが、まさか5代も前の人とは思わなかった。
『良いか、お主はその珍しき術師だ。その力を世の為に使わなければならぬ』
『世の為に?』
『あぁ、そうだ世の為だ』
『って事は、鬼だか妖怪だかを倒せと?』
『それもある…が、世を正しく導かねばならぬ』
『正しくって、俺は別に王様でも殿様でもないし無理でしょ』
『民でも武士でも身分は関係ない、この先 お主は必ず世を動かす、世を選択しなければならない場所に立たされる』
『はぁ…俺が?』
『うむ。選択を失敗する時もある、それでもその時は最善だと思う事を選べ後悔はするな必ず良くなる、そして人に失望するな』
天狗…いや法眼の言っている事は全く意味が分からなかった。
陰陽師だけに何か占いでもしたのだろうかと思ったが、八雲は占いの類を殆ど信用しない性格だ。
なので余計に何を言ってるんだと思って聞いていた。
しかしこの言葉はこの先、良くも悪くも八雲に重くのしかかりる事となる。
『ははは、分かったよ。肝に命じとく』
『うむ、忘れるでないぞ…最後に初めに見せた旋風を教える』
『つむじ?あぁ、気が付いたら倒されてたアレか』
『自分の気の流れを感じられたら、次は相手の気の流れを見ろ。後はその気の流れに逆らわない様に受け流し、倒す』
『…(合気道か?)』
『よし、ワシに斬り掛かって来い』
『…分かった』
前回は胴払いを受け流された。
(なら次は袈裟斬りだ。)
『ッッシ!』
理想的な力の抜き方で魔力の流れを阻害せず右上段から刀を振り抜くーー。
と、思いきや流れを止める様に受けるのでは無く
八雲のそれに天狗は合わせた。
合わせ、そして天狗に向かっている筈の力の方向を下へ後ろへ空へとずらす。
(…!?)
やがて八雲の身体はその場で旋風にでも飲み込まれたかの様に回転し、気付けばまた空を真正面に見ていた。
『よし、これでお主への基礎修行は終わりじゃ』
『痛た…ありがとう、勉強になったよ』
『うむ。これからも精進せい』
『次に会ったら また試させてくれよ』
『ふむ、ワシは京に家があるでな…次に会うとすればそこだろう』
『京都か…なら近いうちに行ってみるよ』
『うむ、では達者でな』
『あぁ、おっちゃんもな』
天狗は木陰まで悠然と歩いて行くと、いそいそと着替え法眼に戻っていた。
(憎めない おっちゃんだったな〜)
『テン、悪かったな。じゃ北へ向かおうか』
『やったー移動だ移動だ〜』
数日の剣術の修行を終え、八雲とテンはまた北へと歩き出した。




