14話『御礼』
『うぅ…』
『お?目が覚めたかい?』
『兼平兄さん!良かった!』
(兄さん?)
『あ、あぁ…俺の足が無ぅなった気がしたが夢だったか』
『兄さん…夢じゃないの この御方が治して下さったのです』
『む…治療術師の方で御座ったか、忝い』
『治療術師ってのは分からないけど 俺はただの術師だよ』
木曽の町の鍛冶屋で教えて貰った職業は忍、侍、陰陽師などで それ以外の職業については良く分からない。
治療術師と言うのは恐らくだが よくあるゲームでの僧侶とか白魔道士とか その辺りなんだろうなと解釈した。
『術師…聞いた事はないが とても有能な方なのだろうと言うのは理解した』
『えぇ、この御方…八雲様と子狐のテンちゃんが鵺も倒して仕舞われました』
『ぬぅ…それは凄まじい強さだな』
『八雲〜ぼく達 強いんだねぇ』
『ん〜…どうなんだべな?』
嬉しそうなテンと困惑している八雲。
ゲーム開始して間もなく いきなり強い強い言われても そんな訳がないだろと思ってしまう。
まぁ本人にとっては来た当初より術は使えるようになったし、基本的な身体能力もかなり上がってると言うのは実感しているが。
『失礼だが八雲殿は 何処かの武家の御家来衆で御座るか?』
『んん…誰かの配下かって事?いや俺は俺だよ、誰の配下でも家臣でもないさ』
『そうか…うちの殿に仕える気は御座らぬか?』
『殿?それが誰かは分からないけど やめとくよ、この世界を自由に満喫したいんだ』
『そうで御座るか…』
『それに殿と言うのが木曽義仲って人物なら俺が居なくても天下取るはずだよ』
『な、なぜその名を!』
またか と思ったが、コレは完全に自分が悪いと思い直した。
『あぁ ごめんごめん 菊ちゃんの兄さんっての忘れてた』
『兄?いや某は菊と乳兄弟であるが実の兄ではないのだ』
『そうなの? 幼馴染みたいなもんかね?』
『む…まぁその様なものだ』
乳兄弟とは血縁はないが同じ女性に育てられた者同士と言う意味があるが
今回の場合は木曽義仲と菊が父を殺され中原兼遠に匿われた経緯があり
この兼平は兼遠の実の息子だった。
『さっき菊ちゃんにも言ったけど 俺は別に木曽義仲って人に敵意があるとかそんなんじゃないから、単に有名人だから知ってるってだけ』
『そうか…では先程の殿が天下を取ると言うのはどう言う事で御座るか?』
『別に隠す事でもないから言うけども 俺は何故か別世界からココに来たのよね、…そこは多分 未来』
『『未来!?』』
厳密に言えば未来ではない。
ココから たった1000年程度で術やら段位やらが無くなるとは到底 思えないからだ。
『本当に未来かは知らんけどね、ははは』
『八雲殿!では 兄の次郎は いえ義仲は これから先どうなるのですか!?木曽家は!?』
『いや 菊ちゃん近い近い 顔が近い』
興奮のせいか気付けば 菊は八雲のすぐそばの距離まで顔を寄せていた。
『すすす すいません』
『ははは、気持ちは分かるけど俺は歴史に詳しい訳じゃないからね、細かい事は知らないよ』
『では何処まで知っているので御座るか?』
『ほぼ知らないと言って良いよ、木曽義仲は一気に天下を取るけど確かその期間は短かったはず。最後は…分からんなぁ』
『そうで御座るか…それなら尚の事 八雲殿には木曽家に来て頂きたいが…』
『さっきの通り 当分は自由に過ごしたいからね、なにせ来たばっかりで良く分からんから見て歩きたいのよ』
数ヶ月後か数年後か数十年後か分からないが木曽家に戦が起こる。
今はまだそう言うのは良いやと八雲は思っていた。
『で、では私に稽古を付けて頂けませんか?』
菊は未だ若干 赤ら顔だ。
先程 八雲に近づき過ぎたのが原因だろう。
『稽古ったって…俺は何も知らんよ?むしろ俺が習いたい位だし』
『そうですか…』
『…他の人はまだだけど一人復活して大丈夫そうだし 俺らはそろそろ行くよ』
『せ せめて御礼を』
『要らないよ、代わりに鵺から出た銭とアイテムだけ貰ってく』
『それは当たり前ですが…分かりました、では次に会った時に御礼をさせて下さい』
『うんうん 分かったよ、テン行こうか』
『行く〜 お姉ちゃんバイバ〜イ』
『八雲殿、御武運を』
『ありがとう、じゃあね』
人に物事を頼むのは労力の要る事だ。
しかしそれを断り続けるのも なかなかの労力だなと 改めて八雲は思いつつ信濃国府に移動を再開し
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