13話『菊』
『テン、あの氷の術 凄いな』
『えへへ、さっき覚えたの』
『偉いぞこのこの〜』
『あの…貴方様は相当な手練れと思い尋ねるのですが、もしかして治療術…いや丸薬の類いは持っていませんか』
声がした方に八雲が視線を向けると先程の女が、こちらを見て立って居る。
完全に…いや少しだけ存在を忘れていた。
『あぁ さっきの娘か』
『配下の者が意識を失っています、今ならまだ…』
周りを見渡すと 確かに配下の者と思われる物が
そこら辺に転がって居る。
『うーん…薬は持ってないけど治療術は試してみようかな』
『え?治療術を使えるのですか!?』
『いやまだ試してないから使えるかは分からんけど…治療術ってのは存在するんだよね?』
『存在はしますが…使えるか分からない?』
『本当は目の前で使ってる所を見れたらイメージしやすいんどけどね、まぁ やってみるよ』
術作成と言うスキルを持っている八雲と
それを知らない女は微妙に話しが噛み合ってない様だが…それもまぁ仕方ない事だろう。
『おう…腕ないけど大丈夫かい?、コッチの人は足がねぇ』
女の配下と思われる者達が3人居た。
それぞれ四肢が欠損する程のダメージを受けて居る様子だが息はしている。
『(治療は)大丈夫そうですか?』
『(ダメージ大き過ぎて)大丈夫ではないだろね』
『あぁ…』
『まぁ、やってみるか』
八雲はイメージのしやすそうな術なら割と作れそうな気はしていた。
RPGでは回復系の魔法は必ずと言って良い程にある。
(身体を活性化する様なイメージ…水系か?それともあるのか知らんけど光系か?いや両方で試してみよう)
足の無い男の前で屈み、その男に手をかざし体内で術を練る。
他の術を使う時もそうだが、八雲は術と言うのはパズルに似ていると考えていた。
水属性 一つにしても、温度や硬度、不純物の多さ 種類 などなど脳内でコレと言う物を取捨選択し、それを組み立て術を練り上げる。
一度 出来た物は悩む必要なく すぐに術を取り出せるが、術を作る時が一番楽しいと思えた。
『さて、名前は…ヒールにしておこうか』
『ひ、ひーる ですか?』
平安時代で和風RPGなこの世界に対する、八雲なりのちょっとした皮肉なのだが…
あえて説明はしないでおいた。
(ヒール!)
足の無い男に手をかざし水と光の混合術を練り上げる。
八雲の手から男に魔力が伝わると身体全体が光に包まれた。
数秒後、光が収まると男の身体には元通り足が有り
傷口も見事に塞がっていた。
『すご〜い』
『上手く行ったみたいだけど…まだちょっと加減が分からんな、異常に疲れる』
『あ、有難うございます』
『まださ、ほんじゃ次々と治そうか』
倒れ伏せて居る他の二人にも同様にヒールを使った。
今度は術力を少し控えめに調整して どの程度治るのか試してみたのだが
それでも問題なく失った腕は復活した様だし全身のダメージも回復した様だった。
『とりあえず傷口は治ったようだな、後は意識が戻るのを待つだけだ』
『はい、有難う御座いました』
『いやいや別に気にしなくて良いさ、俺もヒール覚えれたから満足だし』
『八雲〜 寝てる人達が起きてるまで待つの〜?』
『ん?あぁそうだな この辺は魔物が多いし付き添ってやるか』
『え?非常に有難いのですが、そこまでしていただいて良いのですか?』
『まぁ しゃぁないさ 旅は道連れ世は情けって名言もあるしね』
『ねぇ ねぇ 姉ちゃん達はなんで ココにいたの〜?』
『え…あ そうだ 私は木曽次郎の妹 菊と申します』
『木曽?木曽義仲の?』
『な 何故それを』
『何故?何故って有名人でしょ木曽義仲は』
『まさか貴方は義朝殿の手の者ですか!?』
『よしとも…誰それ?俺は八雲って名前で コイツはテン、で 俺は誰の手の者でもないし 何の目的もなく移動してる…あ 魚が食いたいってテンが言うから越後を目指してるけど』
史実では伯父に当たる源義朝に木曽義仲は父は殺され、家臣に連れられ上野から信濃の木曽へと逃亡した様だが…もちろん八雲はそんな事まで知るはずがない。
そこまで詳しいのは歴史好きだけだろう。
『へ?魚?』
『うん 海に居る魚だ』
『さかな〜♪』
『そ、そうですか…兄は偽名で次郎を名乗って居るのです。誰も本当の名を知るはずはないのですが…』
『そうなんだ、そりゃすまんかった』
『いえ…私達はその兄から東山道に魔物の主が湧いたから討伐する様にと言われココに参りました』
『主?そんなの居るのか、俺らじゃ まだ流石に勝てないかなぁ』
『え?さっきの鵺がそうです』
『嘘でしょ!?』
主と言えば中ボスをイメージしていた八雲だが
いくらなんでも この世界に来て早々にボスを倒せるまで強くなったとは思えなかった。
倒した魔物の数はそれなりかもだが
自分の実力を他の誰かと比べた事が皆無なので、いまいち自分の力が分からない。
『誠で御座います…鵺を放っておけば今以上に魔物が増えていました。それについても感謝申し上げます』
『ん?んー…俺らは単に段位を上げるのが楽しいだけだから 感謝される覚えはないさ。しかし兄さんも酷いな、よりによって女の子に討伐に行かせるかね?』
『それについては私が自ら進んで行かせてくれとお願いしたのです』
『そうなんかい なかなかの無茶だねぇ』
『はい、井の中の蛙だったと反省しております』
『今度からは無茶しない様にね』
『はい、肝に命じます』




