11話『接近戦』
八雲は木曽の町で聞き得た情報を思い返していた。
度々 鬼共が京の町に襲い掛かって居る。
それにも関わらず 人間同士争い続け、結果的に京の町は荒れて居る。
このままでは近い内に平家が神にもなるかも知れない。
(なるほど…平家って事はココは平安時代なのか)
平安時代と言われても そう細かく覚えてなどいない。
なんとなく源平合戦が各地であって なんとなく鎌倉幕府が出来上がって なんとなくそれが続く
その程度の事しか習った覚えはない。
(平安時代、木曽、配下…鍛冶屋に居た 次郎とかって奴は木曽義仲…?まさかな…)
平安時代に特に興味があった訳ではない八雲にとっては
木曽義仲の名前は知っていても どこに領地があったとか、いつ頃に京都を占領するとか なんとなく知っては居ても覚えてるはずがない。
仮にアレが木曽義仲だとしても それから平安時代のいつ頃かと言う事が分かる訳もない。
(ま、いずれにしろタイムスリップではないだろな)
術と言う物が存在する段階でタイムスリップな訳がない事は分かる。
そんな物は漫画の中だけの話しのはずだ。
『八雲〜 次はドコに向かうの〜?』
『んー…木曽の町を出てはみたものの目的なんかないよな〜』
『そうなの〜?』
『京都に行ってみたいけど、なんか荒れてそうだしな』
『ん〜 じゃあ海でも行かない?ぼく久しぶりに魚が食べたいな』
『海か、なら新潟…いや北の方か?』
『うん行こう!』
1人と1匹は東山道と言う名の道を北上して行く。
ひとまず信濃の国府を目指す事になり そこから越後の国へと行く事になる様だ。
東山道を北に進む。
やはりと言うべきか 次から次へと魔物が現れた。
主な魔物は野兎や狼だったが、たまに猪が出現した。
『意外と勝てるもんだなぁ』
『ぼくも八雲も強いね』
『あぁ テンは本当に強いな』
『えへへ』
この訳の分からない 平安時代の様な世界に 不意に来てしまった訳だが
最初にテンに出会えた事こそが最大の幸運だと八雲は考えていた。
戦い方や道案内など教えてもらった事も大きいが
なによりテンが可愛いというのが一番だ。
テンに出会わなければ 今頃どこかも分からない山中で魔物に殺されて居た可能性がある。
もしかしたら その死で次の異世界転生と言う事にもなりそうではあるのだが。
『よし 次は刀で戦ってみようかな』
『八雲 大丈夫?』
『あぁ大丈夫さ、何事も経験だしな…危なくなったら術で援護してくれ』
『うん 分かった〜』
これがゲームの様な世界なら もしかしたら刀を使う事によってスキルの様なのを覚えるかも知れない。
仮にそんな物が なくても術だけではなく近距離で戦う術を覚えなくてはならないだろう。
『お、ちょうど良いのが来たな』
ガサガサっと草叢から猪が顔を出した。
その顔は いかにも突進するぞと言う警告の表情の様に見える。
大きさは2m程だろうか テレビで見た猪よりは大きい気がする。
『ブオオオオ…』
『悪いけど練習相手になって貰うぞ』
八雲は土偶からドロップした刀 唐柏を鞘から抜き構える。
剣道の経験などないが異世界だしテレビや漫画で見た真似で何とかなるだろうと楽観視して居た。
5mの程の距離で猪と睨み合う。
先に動いたのは猪だった。
ズドンと音がするかの様な猛烈なダッシュで八雲に迫る。
ギリギリまで寄せ付け、左に飛びつつ猪の胴体を斬りつけた。
『プギーーー』
(よし、この硬そうな猪を斬っても刀は折れないみたいだ)
『行くぞ』
今度は八雲が一気に距離を詰める。
レベルアップの影響か
はたまた異世界でのチートなのか
八雲には理由は分からないが、本人の認識以上に身体が素早く、そして力強く動く。
気付くと猪の身体が真っ二つに分かれて居た。




