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夢幻の放浪記  作者: やっさん
第1章 『異世界』
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1話 『子狐』

榊 八雲(さかき やくも)は失業中であった。


前の会社が社長の年齢を理由に会社を潰し、廃業した為だ。


いや倒産だったのかも知れない。

バブルが崩壊した頃の借金を返し切れてない様な事を聞いた気がする。


いずれにしろ給料も最後まで貰えたし八雲個人に被害は無かったので(どっちでも良い)と思って居た。



今 八雲はハローワークからの帰り道を愛用の流星号と名付けている軽自動車に乗り走らせて居た。


ハローワークと言っても仕事を探している訳ではない。


倒産による解雇なので失業保険はすぐに貰えるし金に困って居る訳ではないので3ヶ月程は休もうかと考えていた。


失業中でもない限り社会人には長期休暇などない。


ブラック企業と言う程でもなかったが休みは不定期であり夜間の仕事もあった。




『さて…失業認定はしたし家に帰って何しようかなぁ』


前方に見える信号が黄色に変わり八雲はブレーキを じわりと踏む。


やがて赤信号になり停止線の前に車を停めた。




その時 八雲の視界が大きく揺れた。


微かに世界がクルクルと回転している様に感じる。


自分が回転しているのか世界が回転して居るのかは分からない。


無音の中 グルグルと視界が回り続けるーーーーー。






ふと目を開け周囲を見渡すと どう見ても山だ。


(あれ…俺はなんで此処に居るんだっけ?)


まだ頭が起きて居ない、いや眠ったつもりもないのだが。




『ねぇねぇ なんで人間がこんな所で寝て居るの?』


声がした方に八雲が視線を向けると一匹の子狐が自分を見ている。



『…ん?』



『ねぇってば なんで寝てるの?』


どう見ても子狐がコチラを見て言葉を話している。



『うーん…人形?』


『人形?なにそれ〜?』


首を傾げて居る子狐はどう見ても人形には見えない。



(夢かコレ)


なんとなく車を運転して居たはずだと、じわりと思い出して来たが

それが何故 気が付いたら山に居て、喋る子狐と相対しているのか…


(信号待ちで寝てもーたか?)


そうとしか思えない。

そうじゃないとオカシイ。



『おーい 起きてる〜?』


また目の前の子狐が語りかけて来ている。

自分の頬をつねるが痛いだけで目を覚ます気配はない。



『うーん…なんでお前は喋れるのか?』


『わかんなーい。野狐(やこ)だから?』


(…野弧って何だ?)


『じゃぁココはどこだ?』


『ココは おんたけさんって言ってたよ〜』


(おんたけさん…聞いた事ある気がするけど、それどこだっけ?)



少しずつ頭が覚醒して来た。

…して来たが全く理解不能だ。


目の前の喋る狐も おんたけさんと言う名も

少なくともハローワークの帰り、いや地元の付近では おんたけさんと言う地名も山の名もない。


今 自分に降りかかっている状況に脳が追いつかない。


いやこれが現実だとするなら追い付くはずがない。



『ねぇねぇ 名前は何て言うの〜?』


『ん、俺か?俺は八雲って言うんだ』


『八雲って言うんだ〜 良いなぁ〜』


『良いなぁ…って何がだ?』


良い名前だね って言われるなら分かる。



『ぼくねぇ 名前ないんだ〜』


『ん、そうなのか…じゃぁ 今からお前の名はテンだ』


意味は特にない。

なんとなく響きが良いからってだけだ。

と言うか親狐は名前を付けてないのだろうか?



『テン〜?良い名前だね。そうする〜。ぼくは今日からテンだ』


そう言うと子狐の身体が白く強く発光しだす。



『おおう!?大丈夫か?』


『うん。大丈夫だよ〜。』



発光して居たのは時間にして数秒の事だった。

八雲が薄目でテンを見ると変わらず子狐がチョコンと八雲を見つめ首を傾げて居た。



『なんだったんだ今の』


『わかんな〜い。だけど母さまに言われたの〜』


(言われた? 何をだ?)


『名前を付けてくれる人間を探せって〜』


『名前を付けてくれる人間?』


『うん。その名前を付けてくれた人間に付き従い成長しなさいって言われたの』


その事と さっきの発光の関係性が分からないが…。



『うーん、正直 ここがどこかも分からないし どこへ行けば帰れるのかも分からないんだけど…付いて来るか?』


『うん。テンも一緒に行く〜』



何もない山道を歩くなら話し相手が居るのは有難い。

…と言うか これが夢じゃないならの話だけど。



『じゃぁ まずは山を降りるか、街はどこにあるか知ってるか?』


『町〜?あっちに行くと人間がいる所があるらしいよ〜 僕もさっきまでそこへ行くつもりだったの〜』


『お、そうか それならそこへ行ってみようか』


『うん』



自分の家へ帰るために まずは麓へと降りて情報収集から始めなくてはならないな。


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