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心霊研究同好会 〜勧誘〜

 青威が月詠学園に転入してきて三日が経とうとしていた。

 好奇心旺盛で順応性に長けている青威は、すぐにクラスの生徒とも打ち解け、考祥と学級長とはかなり仲良くなっていた。


「し・の・の・め・君、お前って、凪紫龍の従兄弟だったんだな、うらやましい」

 そう言って、青威の憂鬱な朝を、余計に憂鬱にしてくれたのは、お笑い担当の考祥であった。

 考祥は青威の首に絡みつくように抱きつくと、猫なで声で言葉を続ける。

「という事はだ、我が学園のマドンナである、朱音さんと同じ屋根の下に住んでるわけだ……あれ、でも何で? お前の親は?」

 考祥のその言葉に、青威の眉毛がピクリと反応し、表情に影が差す。

 隠しておく理由も無いのだが、青威自身母親の存在を失ってしまった現実を、今だ受け入れる事ができないでいた。

「そんな事より、東雲君は部活、何に入るか決めたのかい?」

 青威の微妙な表情の変化に学級長が気付いたのか、気を利かせ話題を変えてきた。

「おお、そうだった。部活、部活!」

 考祥も話題に執着するようなタイプではなく、この時の青威にはそれが救いであった。

「う〜ん、体育会系なら、何でもござれだけど……お勧めの部活は?」

 青威の言葉に、考祥と学級長は待ってましたとばかりに、顔を見合わせ同時に言葉を発する。

「心霊研究同好会!」

「はあ!?」

「まあ、ようは月に一度、肝試し大会をして、女子と抱きつく口実を作る会なんだけどな。どうだ、入る気ないか? でもお前はそんな必要ないかもな。俺達みたいにモテないタイプの男の気持ちなんてわからないだろう?」

 考祥は眉毛と目を八の字にして、情けない顔をわざわざ作りそう言った。

 青威は眼の前の考祥達の魂胆がわかったような気がして、それが可笑しくて、クスクスと軽く笑う。

「もしかして、俺で女子を誘き寄せるつもりか?」

「かあ〜! お前って天狗様だな……でも情けない事にご名答!」

 考祥のその気持ちのいいくらいの正直さが、青威は楽しくてとても好きだった。

「そうだな。楽しそうじゃん、女子と抱きつける会、参加しましょう!」

 青威はそう言って、紺碧の瞳を輝かせる。内心、少しはこれで、この間感じた胸の痛みが、和らぐかもしれない、そう思っていた。


「あんた達、またあのくだらない肝試し大会するの? 止めた方がいいわよ。だってさこの間の肝試しの後、考祥の肩に乗っかってたよ。これが!」

 涼香が可愛らしい顔をしかめ、そう言いいながら、幽霊の真似をする。

「はあ!? お前に霊感なんてあるわけない!」

 考祥は見開いても細い目で涼香を睨みつけ、涼香はそれを鼻先で払うように皮肉っぽい笑みを浮かべ、その場に険悪は雰囲気が漂い始めた。 

「あら、それは聞き捨てならないわ、私の占いが良く当たるのは、私の持ってる霊感の力なんだから」

 涼香の言葉に、青威はこの間の死神のカードの事を思い出し、不快感を露にする。

「青威君、凪君に忠告しておいて、また死神が出たから気をつけてって」

 涼香はそう言って、自分の占いは絶対に当たると言わんばかりに、上から目線で青威にそう言い、顔を覗き込んでくる。青威はその高飛車な態度が気に入らず、涼香を睨みつけると、怒りを抑えた重い口調で言葉を発した。

「自分で言えよ」

 いつも明るく笑顔の多い青威から、冷たい言葉が飛び出して、涼香は一瞬怯えを含んだ表情浮かべ、気まずそうに目を逸らす。そして何を思ったか、いきなり背中を向け自分の席からタロットカードを取り出し戻ってくると、青威の机の上にカードを並べだした。

「そんなに信じないなら、青威君の事を占ってあげる」

 そう言いながら、タロットをめくって行く。

 青威は、そんな涼香を不機嫌そうに見ていた。どうせ当たるわけがない。そう思っていたのだ。

 カードは次々に捲られていき、女子だけは興味深々そのカードをくいるように見ている。

「……新しい門出……失恋でもしたのかしら? 貴方、最近大事な人を失ったわね……」

 涼香の静かに紡がれる言葉に、青威は勢いよく立ち上がると、顔色を変えて唇を噛み締めていた。ただ事ではない雰囲気に、涼香の占いが的を射てる事を、考祥も学級長も周りの女子達も感じる。

「影村さん、やめた方が……」

 青威の表情を見て、学級長がそう促がすが、涼香もプライドがあるのか、止め様とはせず続けてカードを捲っていった。

 そんな険悪な雰囲気の中、教室の後ろ側のドアが開き、紫龍が教室に入って来る。皆の視線が紫龍に集まり、紫龍は一斉に注がれる視線の中にタロットカードを見つけると鼻で笑い、ゆっくりと机の上に広げられていたタロットカードに近付いていった。

 紫龍は机に並べられたタロットカードを冷ややかに見つめると、いきなり全部のカードを机から払い落とした。床にばら撒かれたカードの一番上に、死神のカードが顔を出している。

 紫龍は死神のカードを見て微かに僻みっぽく微笑むと、ゆっくりとそのカードを手にとって見つめる。

「死神のカードが出たから気をつけて……か。占いってのは人の中身を暴いたり、脅かしたりするものじゃなく、人の心を救うもの、それができないお前は、占いする資格はねえな」

「私の占いは当たるのよ。だから忠告してるんじゃない」

「お前のは、ただ人を脅かしてるだけだ……まあ、お前の忠告とやらを一応聞いておいてやる。だがな、運命は自分で変えて切り開くもんなんだよ」

 紫龍はそう言うと、見つめていたカードを優しく手の平でなぞり、涼香に絵が見えるように眼の前に差し出して、カードから静かに手を放す。カードは床にはらりと落ち、見えた絵は皇帝に変わっていた。

 その光景に青威も考祥も学級長も女子達も驚愕の表情を浮かべる。

「す、すげえ! 紫龍、今どうやったんだ? 手品か?」

 考祥はそう言って、紫龍の手を握ってまじまじと見ている。

「俺に忠告してくれたお礼にいい事を教えてやる。自分の占いに自信があるなら、自分の事を占ってみな、きっと死神が出るぜ」

 紫龍はそう言い、口元を微かに歪め冷ややかな笑みを浮かべると、席に着いた。

 涼香は床に散らばったカードを拾い集めて、カードの絵を確かめる。すると死神のカードと皇帝のカードは一枚ずつしかなかった。いったいどういう事なのだろうか、やはり手品を使ったという事なのだろうか、涼香は腑に落ちない顔をしてカードを手にしていた。

「い、いいわよ。占ってやるわ」

 引っ込みがつかなくなったのか、青威の机の上にまたカードを並べて自分の事を占っていく。

 最後に出たカードは……死神であった。

 その場の雰囲気が一瞬にして凍り付き、皆の視線は一斉に紫龍の元に注がれる。だが紫龍はそんな事を気にする風でもなく、冷ややかに真っ直ぐ前の見つめているだけだった。

「凪君が何かしたんじゃない?」

 女子の間からそんな声が微かに上がり、周りを囲んでいた女子達も、その言葉を自分に言い聞かせるように席に戻っていく。

 ただ涼香だけは、少し様子がおかしかった、顔色が青ざめカードを集める手が震えていた。

「紫龍、お前悪ふざけが過ぎるぞ!」

 青威は紫龍が何か小細工をしたと思いそう言い、考祥も学級長も涼香の様子を見て心配しているようだった。

 涼香は力なく立ち上がると、自分の席へと戻っていき、椅子の上の体重を落とすように座る。周りの女子達が涼香の落ち込んだ様子に、心配し慰めていた。

 青威は過去の傷口をあれ以上抉られずに済んで、正直良かったと安堵していたが、紫龍の容赦ない攻撃を受けた涼香に対して、可愛そうだとも思っていた。

 青威は横に座っている紫龍の顔を見る。すると紫龍は冷ややかな視線で、涼香の後姿を見ていた。青威もそれにつられる様に、涼香へと視線を移動する。

 あれ!?

 青威は涼香の後姿に、なにか黒いもやの様な物がかかっているのが見え、一瞬驚いた。

 何だ!?

 錯覚かと思い、目を擦ってまた見てみる。

 今度は何も見えず、いつもとかわらな白いブラウスの背中が見えるだけだった。

 今日はかなり熟睡したはずなのに、疲れてるのか? 

 青威はそう思いながら不思議そうに首を傾げる。

 隣から深い溜息が聞こえ、青威はそれが気になり紫龍を見た。漆黒の髪の毛を掻き揚げ、不機嫌そうに俯いて目を閉じている。

 いつもの強気な紫龍とは少し違うように見えた。

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