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         〜差別〜

「ねえねえ、東雲君てハーフなの?」

 はいはい、ハーフです、ママが日本でパパがアメリカ

「ねえねえ、向こうの学校でもモテたでしょう?」

 はいはい、すっごくモテましたよ。スポンサーもいたし……

「何が得意? 勉強は?」

 運動は何でもいけるね。勉強? 聞かないでくれ。

「なんで転校してきたの?」

 なんで? って、俺も聞きたいね。

 苦笑いを浮かべながら、青威はそんな事を思っていた。


 一時間目が終了した休み時間、青威は生徒達から質問攻めに合っていた。

 その殆どが女子である。 


「でもさ、東雲君のその席、運が悪いね。皆もそう思わない?」

 黒髪でつぶらな瞳の可愛らしい女子が、青威の隣の席を見てそう言った。

 周りの女子もそれに賛同するように、頷いている。

 女子の言葉に青威は、不思議そうな表情を浮かべた。

 この女子の名前は影村涼香かげむら すずかと言い、占いを趣味にしていて、涼香の占いはよく当たると評判であった。

「ここの人ね、この学校を牛耳る家の御曹司なの。それをいい事に遅刻しても急に早退しても先生達から何も言われないし、授業中寝ていても何も言われない。本当に不公平なんだから」

 涼香は腕を組み、自分の言葉に賛同を求めるように、周りにいる生徒を見渡した。

「でね、変な噂もあるのよ。アイツにかかわると病気になったり、怪我したりするって」

 涼香は人差し指を立て、眉間にしわを寄せながらそう言う。

 この女子、見た目はそれなりに可愛いけど、俺の好みじゃないな。 

 青威はそんな事を思いながら、つまらなさそうな表情で頬杖を付いていた。

「涼香、いかげんいしろよ。それは単なる噂だろう? はいはい散った散った。ここからは男同士の時間だ」

 そう言って、女子の間に割り込んできたのは、考祥と学級長であった。

 女子達は不機嫌そうな表情を浮かべながらも、それぞれに散っていく。

「俺の名前は吉本考祥。噂話を嫌うこのクラスのお笑い担当」

 考祥はニッコリと笑って親指を立てる。

 髪の毛は茶色で、目は笑うと線にしか見えなくなるくらい細く、ソバカスが鼻の中腹に沢山あった。

「僕は白川誠しらかわ まことと言います。皆は学級長と呼びますね。東雲君もお好きなように読んでください」

 真面目を絵に描いたような、黒縁の眼鏡を掛けて、ちょっと冷ややかな冷静さを漂わせている。笑う表情からは、真っ直ぐな心が感じられた。

「ところで、俺の隣ってどんなヤツ?」

 青威は眼の前の考祥と学級長に聞く。

 考祥と学級長は顔を見合わせ、そして青威の隣の席を見つめる。

 先に口を開いたのは考祥の方だった。

「学校に登校してきたと思ったら、またしばらく休んだり、無口で無表情。あんまり人と関わらないタイプだな。謎めいてるから、学校で変な噂が立ってるんだ。俺が知ってるのはこの学校のスポンサーになってる家の息子で、三才年上、それで隣のB組にはソイツの可愛い妹がいる……なあ、誠」

「そうですね。生徒会の副会長をしていて、学校の人気者ですよ。お兄さんとはタイプが正反対ですね。僕が知ってる事といえば、確かに女子が言った通り、この学校では、あの人は何をやっても怒られませんね。あのモッチーでさえ遅刻しても怒りませんから。だけどそんなに悪い人ではないと思います」

 誠は眼鏡を上げてそう言う。

「なぜ?」

 青威はその言葉に食いつく様に身を乗り出す。

「二年の時に、隣町の不良にかつあげされそうになった時、助けてくれたんですよ」

 女子の言い分と男子の言い分には差がある。

 青威の中で、情報が混乱していた。


 百聞は一見にしかず。

  

 短い休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。

 生徒達は自分達の席へと戻り、教科書を出した。 

 チャイムが鳴り終わると同時に、教室のドアが開き、教師が入ってくる。

 銀縁眼鏡をかけ、はげている頭に無理矢理髪の毛を載せた、バーコード頭の教師だった。

 教師は青威の方を見て、口を開く。

「転校生の東雲青威とは君かね?」

「はい」

「私は、英語を教えている照山光二てるやま こうじと言う、よろしくな。では授業を始める」

 照山は黒板に向って、文字を書き始めた。

 生徒達もその文字をノートに写している。その時、いきなり後ろ側のドアが開き、一つの影が入ってきた。

 照山も含めて、生徒達の視線が一気に後ろ側のドアへと集まる。勿論、青威の視線も自然と向けられる。

 青威以外の生徒達は、その影の正体を確認すると、すぐに黒板へと向き直る。

 照山も何事も無かったように、黒板に向かい文字を書き始めた。

 漆黒の髪の毛に黒い瞳、身長が高くて線の細い男であった。

 あの時の、男……

 青威の心は一気にどんよりと曇り、この先、晴れる事を望めないような気がしていた。

 しかもその人物が、自分の隣の席へと座るという現実に、息を吸うのも忘れそうになる。


 青威の隣に座った人物は、今朝、ホテルのロビーでぶつかった相手と同一人物だという事が判明したからだ。


 青威は隣が気になり、横目で見る。

 漆黒の髪の毛の合間から、長い睫毛が見え、鼻は低くも無く、高くも無く、鼻筋が通り、透き通るほどの肌の白さが、冷ややかな印象を感じさせた。

 青威の視線に気付いたのか、その冷ややかな黒い瞳が青威の方に向く、青威は咄嗟に目を逸らしてしまい、なぜ俺が目を逸らさなきゃいけないんだ! と自問自答していた。

 隣の男は冷めた目を伏せ、まるで隣の青威を馬鹿にするように笑ったのだ。

 単純な青威が怒りを感じないわけが無い。何か報復する手段は無いか、と考え、一つの事実に気付く。

 そう、この男は遅刻をしたはずである。なのに、照山も他の生徒も何も言わない。

小さな事かもしれないが、今の青威には重大な事だったのである。

 生徒達が何も言わないのは仕方が無いとしても、教師である照山が何も言わないのはやっぱり不自然な事である。

 その現状に、青威は納得できず行動を起こした。

「先生!」

「何だね、東雲」

「コイツが遅刻してきたのに、なぜ先生は何も言わないんですか?」

 青威は隣の男を指差しながらそう言う。

 照山は一瞬、表情を曇らせる、クラスの中も、一瞬にして凍り付いたような雰囲気が漂った。

「コ、コイツとは何です? その方は特別なんです」

 照山の額から汗が一筋流れ落ちる。

「それって、おかしいんじゃねえか? 俺は遅刻してこっぴどく怒られたぜ」

 青威は自分に対してと、隣の男に対しての態度の差が、大きすぎる事に腹を立て、照山に食いつくように声を荒げた。

「う、うるさい! この私がいいと言っているんだ! 文句があるなら教室から出て行け!」

 照山も痛い所をつかれたのか、動揺しながら青威に向って怒鳴った。

 青威はこの理不尽さに唇を噛み締め、拳を握り締める。そんな青威を挑発するかのように、隣の席から、クスクスと笑い声が聞こえてくる。耳障りの悪い笑い声であった。

 青威はそんな男に怒りを感じ、紺碧の瞳を凛と輝かせ睨み付ける。

 男は、青威の瞳を蔑んだような目で見つめると、頬杖を付いて口を開いた。

「理由は簡単さ、この学校は俺の家の支援で成り立ってる、だから皆何も言えないのさ。なあ、照山先生」

 男は、一重で切れ長の黒い瞳を鋭く輝かせ、照山を真っ直ぐに見つめる。

 言葉の最後に照山の名前を強調した事も、照山を見る瞳も意味ありげであった。

「……いけすかねえ。この男もこの学校も、何もかもがいえすかねえ! ここに来るしかなかった現状にも腹が立つぜ」

 青威は悔しそうに唇を噛み締め、目を伏せた。

 男は青威の栗毛の髪を、愉快そうに見つめている。

 生徒達の視線が、青威と隣の男のやり取りに集められ、授業などそっちのけであった。

「お前、名前は?」

 青威は顔に似合わない凄みのある声で、隣の男にそう聞く。

凪紫龍なぎ しりゅう

 凪、その名前を聞き、青威は驚愕の表情を浮かべていた。

 凪家は青威の親戚であり、その家に間借りする手はずになっていた。

 よりによって、こんな傲慢な男と衣食住を共にする事になるとは、思ってみなかったのである。

 青威にとって、高校最後の一年は輝かしい思い出で終わる。そう淡い期待を抱いての登校だった。

 クラスの第一印象は最高であったのにも関わらず、学園生活が始まったばかりで、その夢は脆くも崩れ去ろうとしている現状に、怒りにも似た失望を感じ、うな垂れる青威だった。

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