第6話
私とエリック様は文通を繰り返すようになった。エリック様のお手紙はいつもお優しく、思いやりに溢れている。お手紙からエリック様のお心の美しさが窺い知れる。素敵な手紙ばかりをくださる。「一緒に出掛けよう」などと誘われて、な、なんと人生初のデートまで体験してしまったのです。一緒に話題の恋物語などを観劇してたっぷり楽しんだ。一緒にお食事を頂きながら感想を述べあうのは夢のような時間でした。
3年間二人で手紙を交わしたり、時折出かけたり、かなり親密に付き合った。シンシアの攻略対象だから、悪役令嬢その2如きが望むには過ぎた人だというのはわかっているのだけれど、お手紙を頂くたび、お会いするたびに恋心が加速していく。
そりゃあ、あんな美男子に優しく「あなたは特別です」とばかりに接せられてときめかなかったら乙女として死んでるよ。16歳になられたエリック様はそれはもう素敵なのだもの。お綺麗だったお顔にも男らしさが加わってすごく凛々しくなられた。美しくありながら凛々しく、丁寧な物腰で、お優しいんだよ!著しい高スペックながら決して驕ることなく謙虚で心清い。パーフェクトボーイかよ!画面越しでもキュン死したって言うのに三次元の破壊力は尋常じゃない!!
原作通り絵画の方も才能をめきめき開花させて画壇はエリック様のお話でもちきりだ。素晴らしく美しくのびのびとした絵を描いて賞を総なめにしている。私はエリック様が新作を発表されるたびに見に行ってその完成された美しさに溜息をついている。抽象画も具象画も両方描かれるけど、どちらも味わい深く美しい。
私はエリック様に見守られていると思うと、勉強、音楽、見た目、全てにより一層磨きをかけなくてはならない気がして、張り切って自分磨きをしている。エリック様は本質がお優しいから、優しくしてくださるけれど、内心も少しは私のことを「可愛い」と思ってくださっているだろうか。物思いに耽ってしまう。
***
そして今日は22歳になったドミニク兄様の結婚式。お兄様も今では無事王宮への仕官が適っている。妻を娶るに不足はないと判断された。
我が家の恩人たる、エリック様、ダンカン様、ビヴァリー夫人の産んだ男児のショーン様も招かれている。
ドミニク兄様のお嫁様はミリオン伯爵家ご令嬢のアメリア様。金髪に茶色の瞳の美しいお義姉様。おっとりした人で、大変優しい。お兄様とは恋愛婚である。社交の場で共にお話しているうちに仲良くなったらしい。白い婚礼衣装が良く似合う。
うっとりするほど素敵。花嫁衣裳姿のアメリアお義姉様は美しさ2割り増しと言ったところか。19歳の美しい方なんだよねー。
16歳になった私は胸元はむっちりとしているのに腰と手足は細く華奢な魅惑のわがままボディである。ヤダー。リディさん、結構なものをお持ちじゃないですかー。スチルの地味ドレスからじゃ全然わからなかったよ。相変わらず髪も手入れしているし、綺麗なお洒落カールヘア。もうわかめ女とは言わせない。顔はちょっと色っぽい系の美少女である。鏡を見るのがすごく楽しい。勿論傾国の美女かと言われればそんなことはないけど、クラス3番目の位置をちゃんとキープしてる感じ。
「リディ嬢。今日の装いは華やかで一段と素敵ですね。」
エリック様が褒めてくださったので、ちょっと赤くなる。嬉しいけど…
「有難うございます。もう年頃なので、本当はこのドレスの丈は恥ずかしいのですけれど。」
16とはいえ社交界デビュー前の私の水色のドレスの丈は踝までない。膝より少し長いくらい。ストッキングのようなものを穿いてるけど、もう大人の一歩手前なので、この丈のドレスは恥ずかしかったりする。容姿はほぼ大人なのに足を晒した少女ドレス。
「ふふ。そろそろ隠されてしまう貴重なおみ足ですから、じっくり堪能させていただきましょう。」
エリック様は悪戯っぽく笑っている。じっくり堪能とか…うあ…
「も、もう!エリック様ったら!」
恥かしくてエリック様を叱ったが、エリック様はニコニコしている。
「ねえ、リディ嬢。『新緑祭』では僕にエスコートさせてもらえないかな?」
「え…」
新緑祭。多くのものが社交界デビューする夜会である。エスコートは必須ではない。寧ろそれ自体が婚活の場にされるくらいなので。そしてシンシアのゲームスタートの場でもある。シンシアは新緑祭での出会いを起点に4人の攻略対象たちと接点を持つのだ。
「リディ嬢のような素敵な女性をエスコートしたいんだ。無理にとは言わないけれど…駄目かな?」
こうしてこれ以上なくお優しく接してくださるエリック様も、新緑祭ではシンシア…シンシア様に見惚れるのだろうか。私の目の前で、別の女性に心が傾いていくのだろうか。それをこの目にするのは辛い…けれど、お誘い自体は嬉しい。私も人生に一度しかない社交界デビューでくらい素敵な男性にエスコートされたという記憶が残っていいのではないかと思う。
「お願いいたします。」
苦しいけど微笑んだ。
最後になるかもしれないけど、素敵な思い出をくださいね。
結婚式は素敵だったし、式の後の立食形式の軽いパーティーも楽しかった。アメリア様のご友人たちが気安くお声をかけてくださって、楽しい雰囲気。盛り上がってる。
……でも、何となくさっきから男性陣の様子が不審だ。私に近付いてきて話しかけるのかな?と思いきや、すいっとスルーされたり、突然怯えたように顔を青褪めさせたり。何?私は自画自賛して可愛くなったつもりだったけど、案外モテないんだろうか。男性陣の視線を辿ってみると私…というより背後を見てる?
背後にはエリック様が…振り返ると優しげに微笑まれた。
「どうしたの?」
「なんか私の周りの男性方の様子が不審かなって思ったんですけれど…」
「そう?不思議だね。」
ニコニコと微笑んでいる。まさかね。こんな優しいエリック様に怯えたりするわけないよね。やっぱり私がモテないだけか…がっくり。美少女になった!って思ってたんだけどなあ…気のせいだったか。わかめではないけど美少女でもないのだろう。そもそも私の美的感覚って前世に引きずられてるから、もしかしたらこっちの人基準でいうとさほどでもないのかもしれん。
「リディ嬢のお勧めの食事ってどれかな?」
にっこり微笑むエリック様に尋ねられた。
「えーとですねえ…」
流石に主催者の家の娘ですから、私なりのおすすめメニューもあるのですよ。是非食べていただきたい!ってやつが。エリック様に順々にお勧めすると喜んで口にされた。
「うん。これは美味しいです。お肉を遠火でじっくり焼き上げたのですね。肉の旨味を逃がさない丁寧な調理法です。ソースも甘辛いのに爽やかな酸味があって絶品だ。」
食事をたっぷり楽しんでくださっているようだ。
勿論高位貴族の嫡男で、しかも見目麗しいエリック様ですから、話しかけようと近づく女性も多くいるが、エリック様はあまり相手にせずに丁寧にお引き取り願っている。
何だか私にべったりな気がするのだけど、大丈夫なのかな?




