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第3話

8歳。楽しく自分磨きに精を出していると、トレイシー・フェレモア侯爵が失脚しそうだという話をお父様がお話しているのを聞いた。

トレイシー様は宮中で文官をされている。そして同僚のガルベック侯爵に嵌められるのだ。不正の濡れ衣着せられて断罪される。トレイシー様のご子息のスペンサー様こそ第3の攻略対象。家が潰れて両親が失意のまま首を括り、ご本人は遠縁の男爵家の養子に入る。スペンサー様は復讐に燃える青年。じっと爪を研ぎ、16歳で王宮に仕官が適ってから3年間執念深くガルベック侯爵の不正の証拠を探すのだ。復讐に燃え、心を凍りつかせたスペンサー様。その心を春の日差しのように照らすのがシンシアなのだ。幸福など感じて浮かれてはならない、自分には父の無念を晴らす義務があるのだ。シンシアに傾く心を必死に律するスペンサー様。だけれどシンシアに、「肩の力を抜いてください。どのような大望があるのか私如きにはわかりませんが、力み過ぎていては手に入れられるものも手に入れられません。」と諭されて、自分が力み過ぎていたことに気付く。肩の力を抜いてみるとなんだか自分が今まで一点に集中しすぎて見えていなかったものが見えてくる。肩の力を抜いて視野を広げることでガルベック侯爵の不正の証拠を掴むことが出来る…というストーリーだ。養子入りしてしまっているのでお家の再興はならないけれど、男爵位から子爵位に陞爵される。

これは絶対に放置できないシナリオだ。濡れ衣と分かっていながらトレイシー様をみすみす失脚させて、失意のまま首を括らせるなどあってはならない。


「お父様。トレイシー様は無実だと思うの。何とか濡れ衣を晴らして差し上げられないかしら?」


まずはお父様におねだりした。


「そうならば濡れ衣を晴らしてあげたいと、お父様も思うよ。でもね、リディ。お父様には無理なんだ。お父様は武官。騎士なんだ。だから畑違いの文官の領域に口出しなどできないし、しても失笑を買うだけなんだ。お父様にはどうもしてあげられないよ。」


お父様は幼子に言い聞かせるように優しく説明してくれた。


「どうしても?」

「本当に、本当に、お父様だって助けてあげたいよ?数度しか会ったことはないけれど彼のご仁は良い人だったから。でもね、人には出来ることと出来ないことがあるのだよ。文官と武官は戦う場所も方法も違うんだ。だから、お父様は文官の戦場では戦えない。」


だよね。わかっていたけれど現実は冷たい。

私はもう一つの方向のアプローチを考えた。私の唯一の伝手。アゼリア王妃様だ。正直王妃様が宮廷のお仕事にどれだけ意見を述べられるのかは未知数だ。しかし偽善者たる私はまだトレイシー様のお命が諦められない。打てる手は惜しみなくすべて打とう。

私はアゼリア王妃様にトレイシー・フェレモア侯爵が無実の罪を着せられている可能性があるので、是非とも事件の再捜査を行ってもらいたい旨のお手紙をしたためた。こんなお手紙を差し上げたら無礼なのは百も承知。それでも一度は恩を売れているのだから酷いお叱りは受けないだろうと、信じた。

祈るような気持ちで3ヶ月過ぎた。アゼリア王妃様から手紙が届いた。「シグルドの恩人の言葉を信じて、夫に再捜査を頼み込んでみました。結果はガルベック侯爵の陰謀であった。ガルベック侯爵は何度も他の貴族を陥れた前科があるようなので、余罪を追及している。トレイシー・フェレモアが濡れ衣を着せられることはないので安心して良い。宮中の膿を出せるとあって王もお喜びだ」と言う旨のお手紙が届いた。


「よ、よかったぁ~…」


私はへなへなとへたり込んでしまった。最悪のシナリオを回避できた。

もうここまで手を付けたなら全員のトラウマをクラッシュしたいと思う。『メロエク』攻略対象最後の一人はエリック・ウェルスト様。ウェルスト公爵家のご子息だ。彼のご不幸はまず3つのときに実母を無くしてしまったこと。6歳の頃お父様のダンカン・ウェルスト様がビヴァリーというご夫人と再婚される。ビヴァリーは最初は優しい義母だった。ただし、エリック様が9歳の頃、ビヴァリーは男児を出産して馬脚を露す。我が子に公爵家を継がせたい。それにはエリックは邪魔だ…ということでありとあらゆる方法でエリック様に虐待を加える。しかも怪我をさせるのはお尻だとか、エリック様が自らのお父様に言い出しにくい場所。使用人を全て抱き込んで、口を封じ、巧妙にダンカン様の目を盗んで虐待する。そして14歳の時遂に毒殺に踏み切る。しかしエリック様は奇跡的に生き残り、ビヴァリーの悪事が露見する。ビヴァリーは離縁されたもののエリック様は心に深い傷を負い、シンシアの優しさに傷を癒されるまでずっと心を凍らせて生きてくるのだ。

そんなの認められるはずがない。エリック様の傷が浅いうちにお救いしたい。だってエリック様はゲームの二次元の存在ではなく、私と同じ、生きた心を持つ一人の少年なのだから。自分に救える機会があるなら救ってあげたいよ。私は善良な人が不幸になるとわかってて見過ごすのは嫌なんだ。シンシアにとって疫病神でしかないだろうけど、救えるものなら救ってあげたい。偽善者?上等。やってやんよ。

エリック様は私と同い年。つまりまだ8歳。ビヴァリーはまだ馬脚をあらわしていないだろう。虐待はエリック様が9歳の頃と描写されていたが、来年のいつ頃男児を出産されて、いつ頃から虐待が始まるのかわからない。少し猶予を持って私が10歳になった頃ダンカン様に告発のお手紙を差し上げようと思う。




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