エリック視点・第6話
リディ嬢と自然に文通できるようになった。「無事事件が終結して良かったですが、その後、リディ嬢やご家族にお変わりないですか?」というようなその後のリディ嬢やご家族の様子を尋ねるようなお手紙を出したら、それに返事があって、更に返事を出す、繰り返しで、上手く文通できている。リディ嬢のお手紙は日々の出来事を生き生きと綴られていて、見ていて楽しくなるお手紙だ。リディ嬢はご自分を「偽善者だ」と仰るけど、お手紙から察せられる心は美しく、魅了されるものだった。やはり素敵な方だ、という思いを新たにした。勇気を出して「一緒に出掛けよう」と誘ったら色よい返事を頂けて、二人で観劇に出かけた。話題の恋物語で、出来栄えも上々。観劇の後は予約してあったレストランで一緒に食事をしながら感想を語り合った。これは所謂デートと言うものではないだろうか、と心が高揚した。うっとりと劇の感想を語るリディ嬢は最高に可愛らしく、その隣にいられるということがとても嬉しかった。
3年間手紙を交わしたり時々会ったりしながら過ごした。リディ嬢はいつ見てもお可愛らしく、会うたびどんどん素敵になられて、僕を夢中にさせる。会えば会うほど好きになる。僕は父の跡を継げる優秀な公爵になる為に勉強をする、というのも勿論あるのだが、リディ嬢に好きになってもらう為に、より一層自分を磨いた。天狗になることなく、謙虚に優しくあれ、と内面を磨く。同時に、年頃の女性が引かれるような、きらりと光る外見というのも心掛けた。リディ嬢の好みの男性の見目はついぞ聞けなかったが、幸いにも僕の見た目は大よそ万人受けするタイプなので、美容やファッションセンスなども学んだ。
絵画の実力もめきめきと伸びて、色んな絵画展で賞を頂けている。リディ嬢は僕が新しい絵を発表するたびに絵画展へ足を運び、その絵の感想を手紙にしたためてくれる。
お父様は結局ビヴァリーで懲りたのか、あれ以降後妻は貰わなかった。ショーンは特に母を恋しがる様子もなく、元気いっぱいに成長して、お父様にも、僕にも、よく懐いている。
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そして今日は22歳になったドミニク殿の結婚式。ドミニク殿は19で仕官が適ってもう3年騎士団に勤めておられる。そろそろ妻を貰ってもいい頃合いということだろう。奥様はアメリア嬢。ミリオン伯爵家のご令嬢だった方だ。ドミニク殿とは恋愛婚だと聞く。
式には僕も御呼ばれしている。父とショーンも共に。家同士の親交も深いということは良いことだ。
渾身の婚礼衣装を身に纏ったアメリア嬢は勿論美しいのだけれど、僕の目はちょっとお洒落して着飾ったリディ嬢に釘付けだ。水色の爽やかなドレスを身に纏っている。もう今年、社交界デビューするはずだが、まだデビュー前だということで、ドレスに丈は踝までない短いもの。ホワイトサファイアとアクアマリンの華やかな髪飾りで髪をまとめていらっしゃる。
「リディ嬢。今日の装いは華やかで一段と素敵ですね。」
微笑むとリディ嬢は頬を赤くされた。
「有難うございます。もう年頃なので、本当はこのドレスの丈は恥ずかしいのですけれど。」
うん。おみ足が眩しいです。薄い少し透けた靴下を履いていらっしゃるけれど、露わになった脹脛が艶めかしく感じて僕はどきりとしてしまった。しかし僕だけではなく、ドミニク殿のご同僚の男性諸君もそう感じているらしく、リディ嬢に注がれる視線は多い。
「ふふ。そろそろ隠されてしまう貴重なおみ足ですから、じっくり堪能させていただきましょう。」
「も、もう!エリック様ったら!」
リディ嬢は恥ずかしがってぷんぷんしている。かわいい。
本当はリディ嬢をお嫁さんに貰って、寝室で堂々と美しいおみ足を拝見できるようになりたいのだけれど。僕は年齢が上がるにつれて相応の欲も持つようになってきた。リディ嬢からはほんのりと好意のような感情を向けられていると思う。好きでいてくれるんじゃないかなあ…と思うけれど、自分に都合のいい勘違いという線もあるので、余り過信しないようにしよう。謙虚に!
ドミニク殿は素晴らしい男性に育っておられる。後輩からも「先輩!先輩!」とよく懐かれ、同僚の人望も厚いようだ。この人を義兄と呼べたらいいなあ…と思う。
「ねえ、リディ嬢。『新緑祭』では僕にエスコートさせてもらえないかな?」
「え…」
新緑祭。多くのものが社交界デビューする夜会である。エスコートは必須ではない。寧ろそれ自体が婚活の場にされるくらいなので。隣国には貴族学校があり、そこでお相手を探す場合もあるというが。
「リディ嬢のような素敵な女性をエスコートしたいんだ。無理にとは言わないけれど…駄目かな?」
リディ嬢は少し憂うような表情をしたが、最終的には「お願いいたします。」と言ってくれた。
嬉しいし、リディ嬢が愛おしい。
しかし式の後の立食形式の軽いパーティーで、リディ嬢はドミニク殿のご同僚から注目を浴びまくることになってしまった。リディ嬢が傾国の美女かと言われればそうではないだろうけど、よくよく見ると「おっ!?」と思うような可憐さと、瑞々しく、それでいて艶めかしい、濃厚な色香があって、列席されていたアメリア嬢のどのご友人よりも魅力的なのだ。これが人目を惹かないはずがない。すごいイラっとする。いけないことと思いつつ、僕はリディ嬢に汚い独占欲を感じてしまった。リディ嬢に話しかけたそうにちょろちょろ寄ってくる男性に氷のような視線を投げかけて追っ払うという作業を先ほどから行っている。僕の顔はどうやら整いすぎて、表情によっては恐ろしく感じるらしいし、公爵家嫡子という殆どの貴族が道を譲ってしまう立場があるので、リディ嬢に近付こうとする男性諸君は僕に威嚇され、さざ波のように引いていく。
リディ嬢が不審に思って振り返る素振りを見せたので、一瞬のうちにブリザードを引っ込めて、優しげな笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「なんか私の周りの男性方の様子が不審かなって思ったんですけれど…」
「そう?不思議だね。」
ニコニコと微笑む。ごめんね。汚くて。でもリディ嬢が好きなんだ。叶うことなら他の男性になど目を向けて欲しくないし、触れても欲しくないんだ。
「リディ嬢のお勧めの食事ってどれかな?」
にっこり微笑んで尋ねた。
「えーとですねえ…」
リディ嬢のおすすめメニューはどれも美味しかった。女性の好みそうなヘルシーな物から、肉体資本の男性向けのガッツリ系まで、リディ嬢はジャンルにこだわらず、特に美味しいものだけをお勧めしてきた。
公爵家嫡子の僕目当てのご令嬢方から話しかけられるも、丁寧に愛想よくお引き取り願って、リディ嬢に張り付いた。社交界に出ればこんなこと出来なくなるだろうし、今だけ許してほしい。
楽しく結婚式を祝わせていただいた。




