第10話
シンシア様に連絡を入れて、シンシア様とカサンドラ様が対談する場が設けられた。私とエリック様も同席する。エリック様は有言実行。シンシア様と親睦を深めるつもりなのだろう。
場所はエウレカ邸だ。シンシア様もカサンドラ様もお互いに自分が『最大の敵』だと思い込んでいた相手との対面である。すごく緊張されているようだ。
「は、初めまして。カサンドラ・エウレカと申します。」
「は、初めまして…シンシア・ロビンスンです。」
お互いに緊張している。
「ほら、肩の力を抜いて、深呼吸。」
促すと二人はスーハーやってた。
「「あ、あのっ、わたくし…」」
お互いに口を開いてしまって譲り合いながら事情を説明し合っていた。やはりお互いに相手に陥れられるに違いないと誤解していたようだ。お互いの説明を聞いてびっくりとして「そんなつもりありませんわ!」とお互いに繰り返していた。誤解はちゃんと解けた。お二人は謝り合って和解した。一件落着である。
落着すると盛り上がるのはお互いの前世のことである。
「まあ、カサンドラ様とシンシア様は高校生でしたの?」
「ええ。リディ様は大学生?やっぱり私たちと違って落ち着きが…」
「止めてくださいな。数年しか違いませんわよ。」
没年の話である。私は女子大生であったがシンシア様とカサンドラ様は女子高生であったらしい。
「『コウコウセイ』と『ダイガクセイ』って何だい?」
さり気なく会話に加わってくるエリック様が尋ねる。私たちは代わる代わる日本の教育機関についてエリック様に説明した。エリック様は教育の豊富さに感心されていた。こっちの世界では基本家庭教師だもんね。隣国には『学校』があると聞くけど。一応この世界にも国によって学校があるし、認知されている。
日本のことを色々説明した。王制ではなく民主主義で選挙をやって国を動かす代表を決めるとか。私の没年は20歳。酒も煙草もやらなかったけど選挙にも行ってない。非国民?さーせん。20歳からは成人として両親の許可を得なくても結婚できるという話をしたら「ご結婚されていたのですか?」とエリック様に妬かれた。「まさかあ。」と笑った。乙女ゲームで『俺の嫁』ならいたけどね。
「カサンドラ様は『メロエク』でのご贔屓キャラは誰でしたの?」
カサンドラ様は頬を赤らめて「シグルド様ですの…」と仰っていた。メインヒーローだもんねえ。格好良かったですよ?なんて言うかメンタルが儚い感じのキャラだったよね。ガラス細工の様というか、触れたら壊れそうな…
「リディ様は?」
「スペンサー様ですわ。」
「あー…わかります。復讐に燃えるダークな一面と、ヒロインによろめきそうになる自分を必死で律そうとする姿が切ない…」
シンシア様が同意してくださった。
「ですよね!あの苦悩する姿には萌えましたわ。」
「ふふ。素敵ですわよね。」
「でも現実では、エリック様に夢中になってしまいましたし、ゲームは所詮ゲームなのですよね。」
皆から明るい笑い声が漏れた。
「シンシア様のご贔屓は?」
「モーリス様ですの。面倒見が良くて、優しくて、理知的で素敵だなあ…って。」
「アタックしてみてはいかが?まだ特定の女性はいらっしゃらなかったはずでしょう?」
確かモーリス様はご婚約者はまだ決まってなかったはずだ。男爵令嬢が王族を望むのは中々ガッツがいるけれど、ゲームでのシンシアは上手くいってたし、やって出来ないことでもないのでは?
「脈はあるのではない?トラウマこそクラッシュさせられてしまったけれど、ヒロインには抗いがたい魅力があるものですよ。シンシア様はすごくお可愛らしいですし。」
カサンドラ様もお勧めされたが、シンシア様は首を横に振った。
「確かに素敵ではありますけれど、私、美形はダメなんです。なんて言うか美形は鑑賞用で、実際恋をするなら、もっと落ち着いた風貌の方がいいんです。勿論性格もじっくり吟味しますけれど。」
うーん…ヒロインなのに…と思うと勿体無い気もするが…
***
私とカサンドラ様とシンシア様は社交界では大の仲良し3人組として知られるようになった。カサンドラ様とシンシア様は甲乙つけがたいトップレベルの美少女。私もちょっと離れて3番目くらいに綺麗な子。つまり社交界で一番可愛い子から三番目に可愛い子までがセットになっているので、話題を呼ばないはずがない。3人でキャッキャしていると女性陣の羨ましそうな視線と、男性陣の魅了されきった視線が注がれる。いくら魅了されきっていてもカサンドラ様は王太子の婚約者。しかもどうやらシグルド様はカサンドラ様に惚れ切っているらしい。視線はよくカサンドラ様を追いかけてるし。一緒にいるとデレデレしているのを隠しきれていない。シンシア様に取られる心配なんてありえないくらいカサンドラ様にデレデレだ。私は私で公爵子息であるエリック様と親しくしているのは周知の事実。よってフリーなシンシア様に注目が集まるのだが、シンシア様は市井育ちなどとはとても信じられない優雅さで、社交界を泳ぎ回り、お眼鏡にかなう殿方を探し当てた。
お相手に選ばれたのはジョナス・ベイカー伯爵子息。すごく地味で凡庸な見た目をしているが、性格はシンシア様が拘りぬいたのがよくわかる、性格美人だった。すごくいい人。少しヘタレなとこもあるけれど落ち着いていて、頼りがいがあって素敵な方。勿論私にはエリック様の方が素敵に思えるわけだが。
当初、シンシア様がジョナス様を選んだ際には男性方が大暴動をおこした。「飛び切り魅力的なシンシア嬢が選ぶ男性がそんな平凡男だなんて納得いかない!」と。でもすぐに、何故か同盟を組んでいたシグルド様とエリック様がジョナス様を庇護してしまったので他の貴族たちは口を出せなくなってしまった。エリック様はいつの間にかシグルド様とすご―――――く仲良くなっていたのだ。そしてその輪にジョナス様も加わると。
何だかとてもよくまとまっている。




