第1話
「この世界が乙女ゲームの舞台だったので、良いようにまとめてみた結果」の不快指数を下げた焼き直しです。
一話につき2000字程度でサクサク。
スキップするように加齢していきます。
ヒロイン視点を11話アップした後、ヒーロー視点を11話アップします。
基本的には同じシーンの別視点。
王太子の婚約者選定のガーデンパーティーの日、鏡に映った自分の姿を見てふと思う。
あれ?私って『リディ・ネックラーイ』なのか…
ふと、自分の頭の中に自分以外の記憶があることに気付いた。私はそれを私の前世なのではないだろうかと思うのだが、前世の私は地球の日本の一般オタク女子で、乙女ゲームプレイヤー。ここまでくるとテンプレだなあ、と思うのだが、私は前世の私がプレイした『メロメロ・エクスプレス』の登場人物として転生したようだ。自信はないが、多分あのゲームの舞台となる世界だと思う。
『メロエク』は至ってシンプルかつテンプレな物語。市井育ちの男爵令嬢が、貴族として社交界にデビューする。そして4人の貴公子と出会う。4人の貴公子の心の傷を癒しながら恋に落ちるというストーリー。んでもって4人の中のメインヒーローであるシグルド王太子の婚約者であるカサンドラ・エウレカ公爵令嬢は愛しの婚約者の周囲をちょろちょろするシンシアが気に食わない。徹底的に苛めぬく。しかしその苛めが法に触れるレベルに達した時、全てが明るみに出て、カサンドラ様は修道院行きという報いを受ける。シンシアはいずれかの恋のお相手と結ばれてハッピーというストーリーだ。私、リディ・ネックラーイ子爵令嬢がこの物語でどういった役割かというとズバリ悪役令嬢その2である。カサンドラ様がスチルで出てくるときにはその背後に2人の取り巻きが描かれることが多い。一人目はダイアナ・ファット。ぶくぶくに肥えた豚のようなぶっとい令嬢である。もう一人がリディ・ネックラーイ。長い前髪で顔を隠し、周囲にうねうねと広がる黒く長い髪はまるでわかめのような、根暗な印象の令嬢。因みにこの二人はカサンドラ様の苛めの命令を実行する実行犯。カサンドラ様が修道院に送られる際、ついでとばかりに修道院に突っ込まれる不遇な役である。
いやいや。特に思い入れもないヒロインに命令のままに苛めを実行して、貴族社会からドロップアウトするとか御免被るよ。てか別にリディ要らなくない?カサンドラ様のアクセサリーのようにお傍に侍り、カサンドラ様の尻馬に乗ってヒロインを非難しているだけのように思えた。苛めの実行犯ってことになってるけど、そんなの別の令嬢がやってくれればいいし。私は大したメリットもないのにそんな損な役割一抜けた。
私は現在6歳。長い前髪で顔を隠し、うねうねと黒髪が広がっている。これをあと10年引き延ばすとあの魔女の様な令嬢になるのだね。
前髪を持ち上げてみた。
おろ?
私可愛くない?眉毛は綺麗な弓型。長い睫毛に縁取られたぱっちりした瞳は菫色。右の目尻にはアクセサリーのような涙黒子。ツンと鼻筋は通り、ぷっくりとした肉厚な唇は薔薇色。肌は白絹のように滑らか。
中々これは…絶世の美少女かといえば違うんだろうけど、程よく美しい感じである。このうねうねのわかめの様な髪も、上手にカットして、きちんと手入れをすれば綺麗なカールになりそうな気配がする。
磨いてみようかな…?
まあ、それはともかく、今日はガーデンパーティーに出席せねば。
***
ガーデンパーティーは盛況。美しく着飾った子供たちが楽しそうにしている。『王太子の希望を尊重した』という態でガーデンパーティーが開かれているが、実際の所カサンドラ様が選ばれるというのが十中八九内定している。エウレカ公爵家という後ろ盾が魅力的過ぎた。出来レースではあるが「王太子様に見初められて王太子妃になれるかも…」と淡い夢を見た少女たちがシグルド様に話しかけている。シグルド様はどこか憂鬱そうに令嬢たちと言葉を交わしている。
シグルド様の心の傷は幼少期に存在する。シグルド様は正妃様の第一子であり王太子であるが実は側妃様の第一子である、異母兄のモーリス様というのがいらっしゃる。モーリス様は優秀で、シグルド様についた家庭教師たちは「シグルド様、また間違えておりますよ。モーリス様は一度でお出来になったというのに…」「生まれたお腹が反対だったらよろしかったのに」などとモーリス様と比べてネチネチとシグルド様を甚振るのだ。他人の目がない時を狙って。シグルド様は「モーリス兄様は僕と違って有能なんだ。皆モーリス兄様が王位に就かれるのを望んでいる。なのに僕が正妃のお母様の子だから、僕が王太子なのだ。僕はきっと本当はいなければ良かった子なのだ…」と思いつめ、大きくなっても幼少期に受けた心の傷を引きずっている。
対するモーリス様は弟のシグルド様が大好きで、シグルド様が王太子として責任を背負っていることを尊敬し、「将来は優秀な家臣となってシグルドを支えていこう…」と歩み寄ろうとしているのに、シグルド様はモーリス様にコンプレックスを抱いて、殊更距離を置こうとする。それが悲しい。「もっと仲良くしたいのにシグルドは僕が嫌いなのだ…」と思いつめる。
それをシンシアが誤解を解き、二人を仲直りさせて、心の傷を癒す…というシナリオだ。因みにモーリス様も攻略対象である。
そりゃあ、ゲームの中なら、「そういうシナリオだし」と特に思うところもなかったが、乙女ゲームの舞台だったとしても、ここは紛れもない現実で、お二人は心ある人間で、まだ7歳と6歳のいたいけな子供なのだ…と思ったらシナリオを知りながら放置するのはどうも気が引けた。
シンシアのお株を奪うことになるのは申し訳ないが、いたいけな子供の心の傷は浅いうちに癒してしまおう…と思った。私は偽善者であるからして。
ニコニコとガーデンパーティーを見守る正妃様であるアゼリア様に近付いた。
「ごきげんよう。アゼリア様。お初にお目にかかります、リディ・ネックラーイと申します。」
「まあ、宜しくね。リディちゃん。」
「お庭のお花は素敵ですね。どなたのご趣味なのでしょう?」
「ジュリエンヌの趣味なのよ。ジュリエンヌはセンスがいいから、お庭に植える花もあれこれ厳選して、美しく仕立ててくださるの。」
ジュリエンヌ様というのがモーリス様のお母様である側妃様だ。アゼリア様とジュリエンヌ様の仲の良さは有名で、二人で仲良くされている。
「そうですか、それは素敵ですね。」
2,3世間話を交わした後、本題を切り出した。
「アゼリア様とジュリエンヌ様は大層仲がおよろしいと聞きます。シグルド様とモーリス様も仲がおよろしいのでしょうか。」
アゼリア様の顔が一瞬強張る。やっぱりゲーム通りにシナリオが進行してるんだろうな。
「すみません。推測だけで何の確証もないお話なのですが、モーリス様とシグルド様の無駄な比較を行い、対立を煽っている者がいるのではないかと思いまして…」
「え…」
「お信じになるもならないも、アゼリア様に委ねますが…シグルド様とモーリス様の家庭教師が怪しいのではないかと睨んでおります。密かに内偵をしてみることをお勧めする次第です。」
アゼリア様が神妙な顔になる。
「もし、煽っている者が追放できましたら、モーリス様の素直なお心の内をシグルド様に直接聞かせて差し上げれば兄弟仲がぐっと良くなられるのではないかと愚考しました。」
「…………心に留めおくわ。」
「余計なことを申し出てすみません。戯言を申しました。」
すっと頭を下げた。
「では、私は料理人の手製を食して参りますので、失礼いたします。」
「ええ。よく味わってちょうだい。」
アゼリア様は難しい顔をしながら頷いた。
王宮料理人の腕を振るった料理と素敵なお庭を楽しみ、時折他の令嬢とのおしゃべりを楽しんだ。今は見た目が禍々しいので親しくお喋りしてくれるご令嬢は少なかったけども。
ふん。そのうち可愛い普通の令嬢になってやるんだから!
カサンドラ様からの接触は特になかった。
いつから太鼓持ちやってるのかとかどちらから接触したのかだとか、そういうことは原作では触れられていないのでよくわからない。




