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仮初めのピースフル 5

 悠は突然舞い込んで来た非日常に呆気にとられた。



 戦いが終わってたかだか半年。



 まだ半年しか経っていないというのに、新たな戦いの火種はもうこんなところで燻っていたのだ。



「悪というものは人の預かり知らぬ闇の奥底で発達するもの、か」



「おお、いい言葉だね。誰の言葉だい?」



「……ヴァンですよ」



「げ、あんな奴の言葉を褒めてしまった。だが、それは概ね間違ってないよ。以前も私たちは、まだ規模の小さかったドミネーターという組織の発足を防ぐことが出来なかったからあのような未曾有の被害が起きた。今回はまだこの時点で気づけただけでも幸いさ」



「……それで、なにか対策はあるんですか?」

「私を誰だと思っている。科学界のブラックジャック先生とは私のことだぞ。当然出来ているとも。今回そのために作った発明品は三つ。一つはクラックの誘導装置だ。これを作動させると、これから世界に出現するクラックの全てはこの研究室の上の、白い部屋に誘導させることができる。二つ目はクラックの遮断装置。こちらを作動させると、十分二十七秒後にクラックを遮断することが出来る。最後に、クラックの発生を防ぐ制御装置だ」



「おお、バッチリじゃないですか」



「しかし、後手に回ったのは事実だ。しかも、クラックから発生した謎のエネルギーを利用しなければこの三つの装置を作ることはできなかった。正直悔しいよ」



「別世界の原理を知らなくても当然ですよ。先生は、この世界で一番の先生ですよ」



「……君は優しいね。出会いが違っていたら私は君に惚れていたかもしれない」



「なんてこと言ってんですか。俺はまだ学生ですよ」



「たかだか一、二年待てばいい話だろう」

「その口ぶりだと、今でも狙ってるような気がしますけど」



「ははは!確かに君は私の生き甲斐だが、その域にまでは至っていないよ。いわば君は、私を救ってくれた救世主だ。恩人だ。……そして共犯者だ。恋人以上に特別な感情を抱いていて、なによりも大切だと思っているが、その中に愛は含まれていない。……残念だがね」



 沈希はパイプを咥え、眉を下げて肩をすくめた。



 これだけの美人に惚れていたかもしれない、などと言われて一瞬その気になってしまったが、どうやらその恋は始まる前に終わってしまったようだった。



 前々から綺麗だ、と意識していた者にそう言われて少し、心に響いた。



「さて、無駄話はこの辺りにしておいて、そろそろ誘導装置を起動しようか。実はこれ、さっき完成したばかりでまだ作動していないんだ」



「それは作動しておいてくださいよ」



「仕方ない。だって、本当に君が来る数分前に完成したばかりなんだ。それまで食事を一切摂っていなかったからとりあえず生き長らえるのに必死で作動を後回しにせざるを得なかったんだ」



 沈希は腹をさすり、満腹だということを悠へ知らせる。



「なら、早く起動しましょう」



「そうだね。早いに越したことはな――」



 ――その時、研究室にけたたましいサイレン音が鳴り響いた。



 その音は聞いた瞬間に脳内に危険を知らせる警戒音で、なおかつ、実に半年ぶりに聞いた懐かしい音だった。



「なっ……今クラックが開いたのか⁉︎くそっ、失敗した!だから私は詰めが甘いというんだ!」



「先生、今は自分を責めるより!」



「分かっている!……まずいぞ斎賀君。このエネルギー量は……!」



 沈希の声は今まで聞いたことのないくらい絶望色に染まり、いつも気丈なその声を震わせていた。



「東京のど真ん中だ。しかも、これまでにないほど巨大なクラックが出来ている。そこから、大量の怪物が……」



「行きましょう!カタパルトの準備をお願いします!」



「ああ!誘導装置はクラックが出来てしまった後では効果を発揮しない!とりあえず街に追加のクラックが発生しないよう誘導装置と制御装置、そして遮断装置を起動だ。斎賀君、十分だ。十分間、被害を最小限に抑えてくれ」



「はい!」



 悠は研究室の奥の部屋へ駆けると、懐にしまっていた機械――デッドノートの装着に必要な装置、インパクションを拳に装着した。



 そしてベルトに下げていたナックルダスター型のエネルギー発生装置、グリムフィストをもう片方の手に持つ。



「デッドノートの使用許可を出す。存分に暴れてきたまえ」



「はい。いきます!」



 悠は叫ぶと、インパクションとグリムフィストのコネクタをぶつけ合わせ、デッドノートシステムを作動する。



 すると悠の体にいくつかの光のラインが走った装甲が出現し、装着準備状態であるアンダーモードへ移行する。



「システムの安全性を高めるために、今回はここで装着していくといい。瞬間装着機能にはやはり不安が残るからね」



 普段外でデッドノートを装着する際には、瞬間的な装着を可能とするためにインパクションとグリムフィストをぶつけたその場で簡易的な装着ガレージを形成するのだが、やはり本格的な設備の研究室と比べると装着精度が落ちる。



 もう一つモードがあるのだが、そちらはガレージを通すことなく、僅か一秒でデッドノートを装着することができるのだが、いわば緊急用で、あまり多用は勧められていない。



 それでも完璧すぎるほどに完璧なのだが、以前一度だけ誤作動を起こしてメインカメラにノイズが入ると失態が起きてしまったため、それを警戒しているのだ。



 加えて相手は未知の怪物。



 別世界からやってきた彼らがどんな力を持っているかわからないが故に警戒を怠ってはならない。



 やがて研究室の奥のガレージが重々しく開き、聞き慣れたシステム音に耳を傾けることなく奥へと進んでいく。



 そしてガレージ内で一時停止し、ユーザー認証を終えるとガレージ上下左右から無数のアームと装甲が出現。



 それを悠の体へ一つずつ装甲を装着していき、ものの十数秒で悠の服装を金属のパワードスーツへと変えた。



 やがて夥しい量の煙を吐き出し、ガレージの二重扉が上下と左右に開く。



 完全な装着を実現したことを知らせるように装甲の光ーーデッドノートのエネルギー源である、沈希が作り出した新エネルギー、シャープレイが流れるレイスプリットという箇所が一瞬、一際強い光を放つ。



 出動準備が整い、カタパルトに足を乗せた時、沈希から通信が入る。



『さて、全バレルを装備していくぞ。君にはやってもらうべきことがあるんでね』



「……はい。わかってます」



 悠は沈希の言いたいことがなんとなく理解できて、静かに口を開いた。



「行きます!」

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