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貧国の開放物語

2000年代の初め、極北の内戦中の国、スラロビアで私はなんとか毎日を生き延びていた。


 政府が半ば機能していないこの国の平均月収は日本円にして約二万円で、飯にありつけるだけの金も無く、生きる術は反政府勢力であるロージナに加担するか、もしくは何か生きるために皆が非合法な仕事や手段をとらざるをえなかった。


 当時は小規模な政府軍との戦闘はすぐ隣の町で継続的に続けられ、政府の支配地域では無実の政府関係者や市民が反政府活動者の疑いを掛けられ路上で公開銃殺されることも日常茶飯事だった。


 そんな国で生きるために車が好きだった私は自動車泥棒を始めた。

具体的にいうとわたしはちょうど前線付近の反政府勢力最大拠点の町、国の最北に位置するベルホセヴェルゴロドに住んでいたので、政府軍のピカピカな輸送トラックなどを警備の手薄な夜明け前に盗み出し、反政府軍のテリトリーまで売りに運んだのだ。


もちろんこれらはバレたら即射殺級の行為だが、時には反撃を受けながらも、なんとか数ヶ月間で無事に数台の物資満載の軍用トラックを反政府勢力のロージナに売ってのけたのだ。


リスクを犯した対価として、それから1,2年が過ぎた後、私はこの国基準での小金持ちになり、とても小さい整備工場つきの中古車屋を催した。余談だが、店の裏にはジャガイモ畑もある。


その店もまたお行儀の良くない店で、海外の窃盗団から買った中古の盗難車なども普通に取り扱っていた。

 「お客様いらっしゃいませ、なにをお探しでしょうか!」

まさにこの店員が私、フョードルだ。


 「フョードル冗談はよしてくれよ。いつもみたいに車を買い付けにきただけだ。」

店のドアを開け、一人の男が入ってくる。こいつは反政府軍の構成員のビタリーで政府のトラックを売るときに仲介してくれた奴だ。それ以来交流が続いている。ちなみに彼はこの極北地域の最大拠点の指揮官だ。つまり、反政府組織のボスである。


 「ああわかっているさ、冗談だ。それで清き革命のためにどんな車が必要??」


 「またお前俺らを小馬鹿にしてないか・・まあいい、いつものごとくピックアップトラックだ。機銃を積んでテクニカルにする。あとはでかめのトラック二台だ。」


テクニカルは自家用車の簡単な改造戦闘車両のことである。


 「ああわかった。具体的に欲しい車種や特徴があれば隣国経由で国境の外から取り寄せるから言ってくれよ。なければいつもみたいに適当に見繕ってくるよ!」


 「もちろん適当に見つけてきてもらうつもりだ。6台ほしい。大型トラックを含めてだ。ちゃんと走れば何でもいいぞ。どうせ壊されるからな。ケガ人は出なかったが、今日も輸送車一台が敵の無反動砲の餌食になった・・」ビタリーは店の中からショーウィンドウの窓越しに遠くのほうを見ながら言った。


 「了解だ!大事なお客様の意見に沿えるよう最善を尽くすよ!船で海外からもってくるから二週間はみといてくれよな!」

そんなことはお構いなしに陽気に語りかけていた。


 「助かるよ。また寄るからそのときに具体的な納入日を教えてくれ。」


 「わかった。何か必要なものがあればまた気軽に聞きにきてよ!」

どうやらフョードルは普段どおりの簡単な商談成立に喜んでいたようだ。


 「ああ、ありがとう。ところでなんだが、お前に用事が無ければこの後飯屋にでも行かないか。最近敵の攻勢で忙しくてなかなか一緒に遊びにいけなかっただろ。やっと仕事が落ちついてきたんだ。どうだ?」


 「じゃあお言葉に甘えて行くことにするかな!」


 「あ、あのうぅ」

まさにそのとき、一人の女性が墨のような液体をあちらこちらへ垂らしながら自動車整備場から現れた。


 「どうしたんだナージャ!服が真っ黒じゃないか!」


 「はいぃ、じつはぁエンジンオイルを抜いたときにぃ服にかかっちゃってぇ・・」


 「それでどうしてその服のままここへ来たんだ!?」


 「じつはぁ、オイルがかかったのを忘れたまま作業してお客様の車のシートをオイルまみれにしてしまいましたぁ!」

彼女はナージャ。つい二ヶ月前に隣国からきた技術学校の留学生だ。金髪に灰色の目が特徴のかわいらしくて美しい女性だ。ただ残念ながら見てのとおり彼女はあまりにもドジなのだ。



 「一体何をやっているんだ!ああもう・・ 申し訳ないビタリー、今日は行けそうに無い・・」


 「問題ないさ。そんなことより彼女を許してやってくれよ。綺麗な女性をオイルまみれのままそこに立たせていたら可哀想だ。」


 「ごめんなさいぃ またご迷惑おかけしてぇ・・」


 「まったく、信じられないな・・でもなんで一体わざわざお前は内戦中の国まで来たんだ・・実地研修にしては危険すぎやしないか・・」余計な仕事が増えたことにため息をつきながら言った。


 「えっとぉ私はこんなでも車が好きだから・・」

かなり自信なさげに彼女は言った。


 「それはいいことだが、そもそも君の出身の国、西のグルポスタンでは車は全然走ってないような田舎じゃないか・・帰ってからここでの知識と経験は役に立つのか?・・」とただただ呆れながら訊いた。


ちなみにグルポスタンは非常に貧乏な隣国で、スラロビアへの出稼ぎ労働者も多いネットですら繋がっていない未開の国だ。


 「ううぅ・・ごめんなさぃ・・」

ドジな上に非常にメンタルの脆いナージャは今にも泣きかけていた。


 「おいおいフョードル、言い過ぎだぞ。あの国だって情勢は不安定だ。それに飯なんかまた行けるんだから彼女を許してやってくれよ。普段のおまえは女を泣かせるような男じゃないはずだ。」とやさしい性格のビタリーは落ち着いて諭した。



 「そうだ言い過ぎた・・ごめんよナージャ、とりあえず今日の君の仕事は終わりだから着替えたほうがいいぞ・・」一方のフョードルは突発的なトラブルにまだ困惑し、疲弊した様子だった。


 「ごめんなさいビタリーさん、フョードルさん・・もしよろしければなんですがぁ今夜何かお料理お作りしますのでぇ、ビタリーさんも夕食にご招待しませんかぁ・・私が植えたニンジンが食べごろのようですしぃ・・」物静かなナージャが少しだけ下を向きながら手をもじもじさせながら提案した。


 「その手があったか!ナージャは料理の腕だけは滅茶苦茶上手いんだ!よかったら食べていってくれ!」

表情は微笑みに変わりフョードルのテンションが急に上がる。ついでに自分も立ち上がった。


 「料理だけっていったらかわいそうじゃないか・・もちろん行かせてもらうよ。何時からかな?」

一方のビタリーは商談テーブルに頬杖をつきながら多少困惑しつつも喜んだ様子で言った。

 「よっ夜の9時頃にいらしてくださいぃ それまでにはすべて終わります!」


 「わかった。だいたいその時間くらいにいくよ。あとは商談成立の報告をしないとな。また会おう。」

と言って、彼は満足気に愛車のシルバーの安っぽいセダンで彼の職場であるこの町の軍事拠点へとそそくさと一旦戻っていった。


 「よし!ナージャ、料理の準備を始めてくれ!俺は客の車の後始末をしておくからね・・」

なんだか哀愁漂う言葉にしがたい顔をしていた。


 「ほっ本当にごめんなさいぃ!私がだめだめなばかりにぃ うぅ・・うぅ・・・」

また再び泣きそうになってしまうナージャ。


 「気にしないでくれ、さっきは言いすぎたかも・・俺の指導だって下手なんだし・・なによりも楽しい会食の準備をしようじゃないか!」と彼はやさしくほほえんで語りかけた。

 「はいぃ!がんばりますぅ!!!」

ナージャは元気いっぱいに満面の笑みで返事をした。


それから数時間後、ビタリーの車のエンジンの不安定なアイドリング音が整備工場の二階、つまりフョードルの家に聞こえてきたのだ。


 「ようこそ!さあ早く中へ入って入って!」

フョードルは待ちきれずに家から飛び出しビタリーのところへと近づく。


 「ああ、ありがとう。おいしい料理も俺のことを待っているだろうから冷める前に早く家に入らないとな。」まだエンジンのかかった車のドアを開きながら微笑んで語りかける。


二人が玄関を抜け二階へあがるとナージャがテーブルに料理をならべていた。

 「全部準備できましたよぉ!みなさんテーブルへどうぞぉ」


テーブルに置いてあるナージャの料理はそれはそれは素晴らしかった。なぜなら材料がジャガイモやニンジンばかりなのにボルシチのようなスープからニンジンの漬物、ジャーマンポテト風な炒め物まであるレストランの料理にも劣らないバリエーションに富んだ料理を作り上げたからだ。


 「これはすごい!さあ早くいただくとしようよ!」


三人とも料理が待ちきれないようで、急ぎ気味にテーブルに着く。そして食事と歓談が同時に始まった。


 「ナージャ、やはりフョードルの言っていることは一部正しかったようだ。君の料理はあなたへのすべての悪い評価をも覆すほどに素晴らしい。」


 「だろだろ?」


 「俺はお前じゃなくナージャを褒めているんだ・・・」


 「ありがとうございますぅでも言い過ぎですよぉ・・わたしこれ以外できることがあんまりないのでぇ・・」


 「自分を蔑まなくていいよナージャ!君の料理は本当に美味しくて人を笑顔にしてくれるんだ!これは誰にでもできることなんかじゃないよ!」


 「はいぃ!光栄ですぅ!」

ナージャは二人からおだてられまくりでウッキウキだった。

 「そういえばフョードル、最近俺の車が何だかおかしいんだ。エンジンがなんかいつもブルブル振動したりしなかったりしているぞ。」


 「あぁそれはノッキングだろう。車はもうどのぐらい使っているの?」


 「もう10年になる。若いときに中古の中国車を8万スラロで買ったんだ。」


ちなみにスラロとはこの国の通貨で、1スラロが二円、つまり日本円にして16万円ということになる。


 「走行距離はいまどのくらい?」

 

 「90万キロ以上だ。」


この走行距離の車は従来では値段がつくどころか引き取り費用が発生するほど酷使された車両だ。


 「えぇ!?中国の車でそれはすごいなぁずいぶん大切に乗っているんだね。見なきゃわかんないけど、エンジンはもう直せないかも。できるだけ買い替えをおすすめするけど、その車にすごく愛着があるならエンジン積み替えも考えるよ。」

目を光らせながらさぞ感心しながら話を聴いている。


 「壊れるまで乗るよ、もし壊れたらお前の店の世話になる。買い替えという意味でな。」


 「毎度ありぃ!」



 「気が早すぎだぞ。ところでフョードル、お前のような人材が反政府軍に入らないなんてもったいないぞ。政府の拠点に潜入して何度もトラックを盗むなんて普通の神経をしているやつならできないぞ。つまりおまえにはすでにその適正と才能がある。俺らと一緒に特殊工作活動をしないか?スパイみたいなものだ。」


 「そんなのとんでもないよ!俺はあの時切羽詰まっていただけさ!もちろん俺はあんたらの活動を支持するし支援もしているが自分としてはもう危ない橋は渡りたくないのさ。それでもロージナのおかげでここの治安は保たれているし、空爆される恐れも無い。本当に感謝しているよ。」


 「対空砲や対空ミサイルがお前の持ってきたトラックにてんこ盛りだったからさ。あれが効いた部分もあるのさ。それでも地上からの小規模な攻撃は朝から晩まで止むことはない。」


 「それじゃあこれから敵はどう出て来ると思う?こちらが優勢とはいえまだ南側、つまり首都のニジノスラビャンは陥落していないし・・・」


ニジノスリャビャンはこの国の経済特区であり、大自然に囲まれた国の中にある唯一の高層ビル群が見られる都会である。


 「さあどうだろう、それでもスラロフ大統領は自身が気に入らないがためだけに処刑した優秀な政府高官たちのことを思い出しながら日々前線が押し下げられていることに恐怖しているだろう。前線から首都までの距離はあと数十キロだし、航空基地も先日に我々が押さえた。あと数ヶ月で決着がつくかもしれない。」


 「身内の優秀な高官や知識人に自分のポストを取られないように皆殺しにするなんてスラロフの野郎は致命的に馬鹿だよなぁ・・」


スラロフは選挙で国民によって選び出され、一代でこの国の最高権力を握った大統領で、就任後から人が変わったかのように豹変し、突如として選挙制度を廃止にし、スラロビアを独裁国家に変えてしまった独裁者だ。


 「だから今の政府には今の現状があるのだろう。」


 「フフ!ああ、君に完全に同意だよ!」

フョードルはすこしだけにやりと笑いながら組んでいた両腕を広げながら言った。


そのとき、突然ビタリーの携帯電話が鳴り出した。


 「ああ失礼、少し電話をさせてもらう。」


 「ああどうぞごゆっくり。」

そう言いおえると水の入ったグラスのほうへ視線を向けた。


「もしもし、ビタリーだが、どうした。」


 「こちらは西方地域管理拠点です。大変です!いきなりグルポスタン軍が宣戦布告すらせず国境を越えて進軍してきました!交戦許可を!」


 「どういうことだ・・どうして何の前触れもなく攻めてくるんだ!わけがわからん!クソッ!やられた!極北管理拠点は西管のグルポスタン軍との交戦を許可。国境を超えた敵兵力を徹底的に殲滅せよ。こちらからも西へ増援部隊を送る!」

電話を掛けながら左手で髪をぐしゃぐしゃといじっていた。


 「お、おいいったい何の話をしてたんだ・・・?」


 「西管拠点からの電話だ・・グルポスタンがなぜか宣戦布告もなしに西の国境へ突然進軍してきたんだ・・」眉をひそめながらうつむいていた。


 「ええぇ!私の祖国がぁ一体なんでぇ・・うぅもうかえれないよぉ・・バタリ」

ナージャはショックのあまり倒れてしまった!


 「大丈夫かナージャ!?・・・」

倒れる彼女をフョードルが横から咄嗟に支えた。


 「申し訳ない、私は今から急いで自分の拠点に戻る!今日は二人ともありがとう。これで失礼する。」


ビタリーは小走りで家を出て、彼の車に乗り込みセルを回した。


ウィンウィンウィンウィンウィン・・・・


エンジンは何度もセルを回しても掛からなかった。どうやら寒さで古いバッテリーが切れてしまったようだ。


 「クソッ!こんなときに限っていかれやがって!」


心配したフョードルがゆっくりと家から出てくる。


 「あの・・・乗せていこうか??この町の拠点まで俺の車で・・・」


 「恩に着る!親愛なる友よ!」

ビタリーはフョードルの手を力強くにぎり、上下に強く振っていた。


 「じゃあ俺は車のカギ取ってくる!!ナージャ、留守番頼む!」


 「はいぃ!おきをつけてぇ!」

ナージャは心配そうに手を大きく振っていた。


こうして彼らはヴェルホセヴェルゴロドの拠点へと急ぐのであった。


続く


初めての投稿なので至らぬ点のほうが多いと思います。

ほとんど本を読んだことが無いので、改行やら何やらのルールすらわかってないのですが、興味本位で投稿してみました。

なによりも読んでいただきありがとうございます。

ゆっくりでも続きは書いていこうとおもいますので、もしよろしければよろしくお願い申し上げます。

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