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権藤と日比野は、捜査本部に関係者を集め、捜査の状況の説明に入った。長いテーブルの右には、モニターの主催者側。手前から、千堂祐次、矢口誠一、有田百合、浜嶋佐登留、そして北原朋彦。左手側はモニター被験者。笠倉岬、日達瑠璃、久住照好、古川順也、古川直也。向かい側には、芹沢菫が座っている。
みなさん、と、日比野が少しざわついている雰囲気を制するように言う。
「あらためて集まっていたただいたのには理由があります。どうしても、皆さんに同時に確認していただきたいことがあるのです。そして、それが事件の解決への決定的な証拠となります」
「証拠、ということは、あと足りないのはそれだけなのかしら?」
向かい側から菫のまっすぐな、けれど少し意地悪な視線が向けられる。
「論理的に考えれば、導かれる答えは一つしかありません」
順に顔を見て回る。おびえているもの、挑戦的ににらんでいるもの、我関せずと、興味なさそうに座っているもの。さまざまな表情にあふれている。
「改めて事件をまとめましょう。まずは、一日目。私を含め、モニター活動をしている真っ只中に、千堂美影さんが殺されました」
日比野は銃を撃つジェスチャーをする。それを見て、さっと目をそらすもの。そのまま、日比野をにらみ続けているもの。
「そのときに用いられた凶器はすでに警察が押収しています。その場に落ちていました」
「それって、K田博士が作ったものなんでしょぅ?」
瑠璃が手を上げて確認する。日比野はそれに、そうですね、とあいまいに答えて続ける。
「凶器は、以前別の事件で用いられたものと同じものです。これは権藤警部のほうが詳しいでしょう」
「Kカンパニーの幹部が殺された事件です。夏休みの半ばに起きました。ニュースにもなったから、知っている人もいるかと思います。そして、皆さんご存知のとおり、この研究施設もKカンパニーのものです」
「つまり、同一犯、ということ、ですか?」
「残念ながら、違います。なぜなら、以前の事件の犯人はすでに捕まっています。ただ、凶器だけが、行方不明だった。それが、今回見つかったのです」
日比野は再び、テーブルを見渡してから続ける。
「元来であれば、この事件の被害者は一人であるべきでした。当日の夜には警察が到着していましたし、島の警備もしていた。ですが、そうはいかなかった。秘書の伊崎園子さんが、殺されました」
次のジェスチャーは、両手で殴る仕草だ。
「おそらく、後頭部を一撃。そのまま川に突き落としたのでしょう。そして、彼女は島の南西にある、崖の下に流れ着いた。あるいは、犯人としては、彼女が見つかるのは予定外だったのでしょうが」
「見たわけではないが、その後頭部の怪我というのは、川から突き落とされたときにできた可能性もあるのでは?」
祐次主任が、顔をしかめたまま、日比野に問いかける。日比野は、一度だけ首を振ってから、それはありえません、と断言する。
「彼女の体には、他にも多くの傷がありました。その多くは、途中、流されているときにできた傷でしょう。ですが、後頭部の傷だけは全く異質なものです。そして、はっきりと申し上げておきますが、彼女が、高い場所から落ちて、そして、そのときに後頭部を傷つけた、という可能性もありません。おそらくは、それこそが、保険としての犯人の意図だったのでしょう。もし、彼女の死体が見つかったとしても、それは他殺ではなく、自殺の可能性があると、警察が判断する、という」
「だが、遺書が見つかったと聞いたが」
祐次主任が続けて聞く。
「……その通りです。権藤警部、読み上げて」
「被験者を部屋に案内したすぐあとに、私はあいつの部屋に行きました。あいつが、私の祐次の妻だなんて、有り得ないことだもの、許せなかった。だから、私は何のためらいもなかった。問題が起きたって言ったら、あいつは何のためらいもなく扉を開けたわ。それはそうでしょう? まさか殺されるなんて予想しているはずなんてないんですから。私はことを終えると、すぐにモニタールームに戻りました。誰も不審に感じる人なんていませんでした。時間的にも、わずか1、2分普通に作業するより余分にかかっただけですから。ええ、でも、そんなこと許されないだなんて、当然です。だって、祐次のあの悲壮な姿を見てしまったんだから、私はなんてことをしてしまったんだろう、て。最初から私とあの人が結ばれるなんて、有り得ないことだった、ええ、ええ、そうよ、そんなことあるはずがない、全部私の夢、妄想だったってこと、ね、お笑いだわ。だけど、もうどうでもいい。私は、私を許すことが出来ない。だから、私は……いいえ、これが最後の言葉だもの、余計なものはいらない。ただ、去るだけ」
権藤警部は、コピーしたその遺書を全文声に出して読み上げる。
「残念ながら、彼女がこれを書き残す時間はありませんでした。平たく言いましょう。この遺書はパソコンに残っていたわけですが、この文章が保存された時間、すでに彼女は死んでいました。彼女が、他のメンバーのように、プログラムの知識が豊富であるならば、あるいは、わざとそういう遺書を残したのかもしれません。ですが、彼女はそれほどコンピューターに強くありません」
「その日の夜の行動は?」
手を広げて、矢口誠一が声を出す。
「俺も、その日の夜に誰が外に出て行ったのか聞いたが、どう考えても矛盾があるんじゃないか?」
「あれは厄介なものでした、ですが……」
日比野が正面を見る。芹沢菫が、やれやれといった様子で立ち上がる。
「あの証言から分かることは、矛盾ではありません。この研究施設のエントランスが、一つではないという事実ですわ」
「ない」
「事実です。ない、というのは、ここにいるほとんどの人の思い込み。実際、そのエントランスを使っているところを、目撃している人もいます。さらに言えば、その入り口を使えるのは、一人しかいません。少なくとも、その人物は、その入り口を使っていたはずですし、あの夜も、そうでした。私も、もし、3時半に女性が戻ってきていなければ、事実だと確認することができませんでしたが」
「そういうことです。伊崎さんは、施設の外で殺され、戻ってきていないはずなのです。そうでなければ、彼女が外で見つかるはずがない。見つからないことを想定していたのだとしたら、犯人にとって、不幸だった、としておきましょう」
日比野は、再度、テーブルを見渡してから、咳払いをした。
「そして、それが可能だった人物は一人しかいません。今、まさに今ですが、外から、別の入り口がどこにつながっているのかを調べているところであります」
日比野のその発言に、千堂祐次が椅子を勢いよく倒しながら立ち上がる。
「どうぞ、お座りください」
日比野の呼びかけに応じようとしない千堂を、権藤が無理やり座らせる。
「そしてあなたは、自分が捕まるだろうことも、予測の範囲のうち」
千堂の、静かな笑い声が響く。




