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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第七章 星の輝く場所、名探偵の到着
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 1

「そう考えれば、自然と結論が導き出される。つまり、ここが……」

 久住照好は、借りてきた懐中電灯を消してから、一歩大きく踏み出す。

「星の輝く場所なんだ」

「すごい」

 後ろから付いてきていた日達瑠璃が思わず感嘆の声を漏らす。それもそうだろう。四方はすべて塞がれているような場所だというのにそれを感じさせない。まるで満天の星空のような、空が広がっている。否、それは星ではない。生物なのか鉱物なのか分からないが、夜空の星のように輝いている。

 そして、耳を澄ませば、せせらぎが聞こえてくる。照好は瑠璃の手をしっかりと握ると、その音がするほうへと、ゆっくりと進む。わずかに輝いているとはいえ、暗いという事実に変わりがない。目がもう少し慣れてくれば、視界もクリアになるのだろうが、それを待つ時間がもったいない。

 少し進むと、緩やかに流れる小川にぶつかった。暗い中だというのに、その水が澄んでいることが分かる。青白く輝き、底の岩の形さえもはっきりと見ることができる。結構な深さがあるようで、誤って落ちると危険だろう。

「これがレテの川」

「おそらく、あの暗号が言っているレテの川だと思う」

 佐根の川から続く、レテの川……神名島の西にあった岩清水、そこから佐根川となり、いくつかの支流のうちのひとつが、ここにつながっている。ここを辿れば、彼らが入ってきたところとは別の入り口があり、ここを先に進めば別の出口がある。もちろん、そこを人が通ることができるのかは分からないが。

「だけど、多分だけどね、古川さんも気づいてると思うんだけど、あの暗号、嘘だと思うの」

「へ?」

「うーんと、うまく説明できないんだけど、この島が佐根姫と繋がっていること自体が、嘘なんじゃないかな、て」

「へ?」

 首を捻り、顎に指を一本当てながら瑠璃が続ける。

「ここに残されてる遺跡がね、多分全部偽者なのよ。そんな古いものじゃない。あたしは子どものころから、そういうところで遊んでたから、何か、違うって感じるの。うまく説明はできないんだけどぉ」

「遺跡が古くなかったとしても、佐根姫の時代にはもうあったんだろ」

「あったものもあったと思う。だけど、そんなことって、調べればすぐ分かることじゃない。それを知らないふりをしてるところとか。お姉さん的には、怪しいわけ」

「それじゃあ、お宝も……」

「多分、この場所さえも、見つけられない自信があったんじゃないかなぁ」

 瑠璃がそう言った瞬間、彼らから離れたところで、こつんと、何かが落ちたような音が響く。照好は驚き、そちらを睨む。少しずつ目が慣れてきているとはいえ、何も見えない。

「誰だ!」

 照好は叫んだ。彼らが入ってきた方向とは正反対だ。方角的には北、研究施設がある場所だ。瑠璃の照好を握る力がぐっと強まる。それを感じながらも、否、それを感じたからこそ照好は勇気を奮い立たせ、そちらへとゆっくり進む。川の上手へ、一歩ずつ、一歩ずつ。

 やがて、そこにあっては不自然な床に気がつく。ここまで直接の岩肌だったというのに、突然の整えられた床だ。そこが、変に黒く滲んでいて、川へと続いている。

「血……」

 瑠璃がそれを見ながら、小さくつぶやく。そして、ふらっと、瑠璃が倒れそうになる。とっさに照好は彼女を支え、抱きしめる。

「だ、大丈夫。だけど、もう恐いよ」

 再び、足音のような、音。それが二、三続き、バタンと、扉が閉まるような、音。

「分かった。帰ろう」

 瑠璃は小さく頷く。


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