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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第六章 三日月の浜辺に流れ着く
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 7

 篠塚桃花は図書棟を一人抜け出して、JS学園の高等部の建物が立ち並ぶ一角に来ていた。オムレツの形をした体育館を通り抜け、第一学習棟と第二学習棟の間にある、女神の像を一度見上げてから、そこを通り抜ける。彼女の格好が目立ちすぎるためか、遠巻きに指を指されているのを感じるが、今はそんなことを気にしている場合ではない。本人は気がついていないかもしれないが、転入して一ヶ月近くが経つ。すでに彼女のことを知らない生徒などJS学園にはいない。近づいて来ないのは、恐れ多くて、だ。

 第二学習棟に入り、生徒のほとんどが気にすることもない高価な彫像を横目に、廊下を急ぐ。一階の奥に、生徒会室がある。ノックをすると中から、どうぞと、聞きなれた芹沢雅の声が聞こえる。

「失礼する」

「あら、桃花ちゃん、どうしたの?」

 普段見慣れない眼鏡を掛けた雅が、書類をまとめながら立ち上がる。

「聞きたいことがある」

「今?」

「気になったら、すぐに調べないと気がすまないのでね。その仕事はどうせ見せかけだろ?」

「校長が無能だから。どうして私が学園の予算管理までやらないといけないのかしら。でも、それもあと半年だもの。その後は、桃花ちゃんにお願いすることになると思うけど」

「それはお断りだ。あいにく、私の苗字は篠塚でね」

「それでも私が推薦すれば決まると思うわ」

「そんなこと今どうでもいい。それよりも確認したい」

 篠塚は机ごしに雅のすぐ手前までくる。彼女よりも頭が三個ほど大きい雅を見るには、かなり上を見なければならない。

「菫お姉さまは、何を調べているのだ?」

「……私も知りませんわ」

「お姉さまは、私に劣らず性格が悪いからな。おそらく結構な事件を追っていると思うのだが」

「本当に私も知らないのよ。菫お姉さまは、学生時代からそうでしたから。コネだけじゃなくて、実力も行動力もある人でした」

「それが、この間の誕生日に日本にいた。それも屋敷に。だけど、私もお姉さまも、おめでとうの言葉一つ掛けられていない。ただ甲斐だけが、お姉さまと話している。それが事実なのか……実在したのか?」

「茜お姉さまも、目撃しています。あの日、あの場所にいたのは真実であると、私は信じています。でも、目的は分からない」

「今、どこにいるか知っているか?」

「さあ、分かりません」

「本当に何も知らないのだな」

「桃花ちゃんと同じよ」

「私はすでに仮説を立てている。だが、確かめるすべはない」

「だめよ、危険なことに首を突っ込んじゃ」

「そんな気はない。どうしたらここから確かめることが出来るかを考えているんだ」

「ならいいけど」

「それじゃあじゃましたな」

 くるりと振り返ると、篠塚の黒いゴシックなスカートがふわりと浮く。





 そのとき、芹沢菫は、船から降りたところだった。神名島に、彼女は来た。


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