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レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第六章 三日月の浜辺に流れ着く
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 1

 ぺらぺらとページをめくりながら、篠塚桃花は本を読む。太陽はその活動を終え、静かな帳が四方を包んでいる。部屋に備えられた月見窓からの光だけが、その本のページを照らす。そのわずかな光の中で読み進めるときを、篠塚桃花はこの上なく好きだ。

 それは、彼女にとって周りの環境が大きく変わったとしても、決して変わらないもの。彼女にとって唯一絶対の、心安らぐ瞬間。

 喧騒もなく、

 退屈もなく。

 めくるページに書かれている文字は西洋のアルファベット。時折見慣れないアルファベットがあることから、おそらくは古代の、ラテン語だろう。

 その同じ部屋の隅に、甲斐雪人が座っていた。否、壁にもたれ、寝息を立てている。けれど、それもうるさくないし、彼女には気にならない。

 めくるページの途中、彼女の動きが不意に止まる。

 もし……

 違う、あの事件はすでに終わったのだ。彼女はあの事件に関わり、彼女なりの回答を得て、警察も、彼女が指名した人物を犯人として捕まえた。

 けれど、彼女の胸の中にわずかな疑問が残っている。

 確かに、彼女が導き出した結論は正しい。けれど、それはあのK田邸で起きた、あの事件に関してだけだ。彼女が突きつけた状況証拠、犯人がもらした、犯人しか知りえない情報、すべてはK田邸で起きた事件に対する証拠でしかない。

 甲斐と二人であそこへ行った日に起きたもう一つの事件、つまりKカンパニーでの事件については、何の証拠もない。ただあるのは、犯人の自白だけだ。くだらない人間関係が裏にあったと、あとで聞いた。それも事実だろう。

 けれど、どうしてこんなにも胸の中がざわつくのだろう。

 ……おそらく、あの金庫の中に銃は入っていなかった。K田博士からのメッセージでそれを読み解くことができる。銃はK田妙が用意したものか、あるいはどこかからもたらされたものか。そして次の事件が起き、また銃の行方が分からなくなっている……

 何か重大な見落としをしていないだろうか。


 それは、芹沢雅の誕生日会で、彼女の姉が、現れたほど、想定外な、何か……。


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