表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レテ川に記憶の欠片を沈めて  作者: なつ
第二章 その凶器は殺人者の手へ届けられた
12/56

 5

 古川順也は、はしゃぐ古川直也をそのままにさせ、持ってきた荷物をまとめ、そこからノートを取り出す。

 神名島。その中央を流れる佐根川。佐根姫伝説とやはり何か関係があるようだ。先ほど伊崎園子が、それを基にしたレクリエーションを行うと言っていた。果たして、どのようなレクリエーションなのだろうか。これでも順也はかなりの研究を佐根姫伝説に費やしている。そして導かれる結論もあり、このモニターに応募したのだ。もちろん、詳しくは書いていないがモニターに応募する際に自身のプロフィールにその旨は載せてある。そして、順也が選ばれたのはむしろ、このためなのではないか、と思う。モニターなどというのは、おそらくは体裁なのだろう。

 なぜなら、順也の研究の結論は、この神名島に、佐根姫の埋蔵金が眠っているのだから。

 佐根姫の悲しい物語は、多くは知られていない。A県の中でも、中央から電車で30分以上かかる地方の、小さな国の話でしかない。そこに流れる川の名も同じ佐根川という。偶然の一致ではないことは、順也が調べ上げたことから確信を持っていえる。

 佐根姫が落ちた川が、その本土の川なのか、それともこちらの、神名島の川なのか。

 残された結論は、こちらでしかない。

 それゆえ、ここに佐根姫が残した宝が眠っているのだ。

 神流しの祭り。

 鬼と、忘却の。

 奇異、奇跡。

 なんの矛盾もない。


 問題は、他のモニター参加者である。先ほどの様子を見る限り、まるでこの伝説のことを知らない。あるいは、その振りをしているだけかもしれない。だが、そんな必要はない。少なくとも、このモニターが順也が考えているものなのだとしたら、園子は知っているだろう。それをあの場で隠す必要など、まるでない。

 それともただ、このモニターが、あたかも本物のモニター活動であると思わせるための参加者なのだろうか。その可能性がないわけではない。それでも、このメンバーの多さには疑問が残る。何らかのエキスパート……地理学であったり、あるいは、警察のトップクラスの人材であれば、この埋蔵金を探す上では役に立つかもしれない。が、メンバーが多ければそれだけ不利になることもある。

 もし、埋蔵金が見つかったときに、どうするのか、という問題だ。

 あるいは、他のメンバーはすでに誓約書にサインしているのではないだろうか。つまりは、ここで見つかったものの取り分を数パーセントとして、残りはKカンパニーに属する、とするような。

 なるほど、それならば説明がつく。

 だが、一人を除いて皆若い。

 それほど優れているようには思えない。

 日比野重三と言ったか、彼だけ気をつけておけば問題ないだろう。

「……ちゃん」

 直也がソファーの隣に立ち、順也の腕を引っ張っている。

「父ちゃん!」

「うん? 何だ?」

「もう、またぼーっと考え事して。時間だよって、何度言えば分かるんだよ」

「おお、そうかそうか。いや、父ちゃん、結構歳かな。来るだけで疲れちまったよ」

「もう。僕先に行くよ」

「ああ、すぐ行く」

 直也がぶーぶー言いながら、部屋を跳び出ていく。順也も立ち上がる。メモ帳と、ボールペンが胸のポケットに入っていることを確認してから、すぐに彼も部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ