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古川順也は、はしゃぐ古川直也をそのままにさせ、持ってきた荷物をまとめ、そこからノートを取り出す。
神名島。その中央を流れる佐根川。佐根姫伝説とやはり何か関係があるようだ。先ほど伊崎園子が、それを基にしたレクリエーションを行うと言っていた。果たして、どのようなレクリエーションなのだろうか。これでも順也はかなりの研究を佐根姫伝説に費やしている。そして導かれる結論もあり、このモニターに応募したのだ。もちろん、詳しくは書いていないがモニターに応募する際に自身のプロフィールにその旨は載せてある。そして、順也が選ばれたのはむしろ、このためなのではないか、と思う。モニターなどというのは、おそらくは体裁なのだろう。
なぜなら、順也の研究の結論は、この神名島に、佐根姫の埋蔵金が眠っているのだから。
佐根姫の悲しい物語は、多くは知られていない。A県の中でも、中央から電車で30分以上かかる地方の、小さな国の話でしかない。そこに流れる川の名も同じ佐根川という。偶然の一致ではないことは、順也が調べ上げたことから確信を持っていえる。
佐根姫が落ちた川が、その本土の川なのか、それともこちらの、神名島の川なのか。
残された結論は、こちらでしかない。
それゆえ、ここに佐根姫が残した宝が眠っているのだ。
神流しの祭り。
鬼と、忘却の。
奇異、奇跡。
なんの矛盾もない。
問題は、他のモニター参加者である。先ほどの様子を見る限り、まるでこの伝説のことを知らない。あるいは、その振りをしているだけかもしれない。だが、そんな必要はない。少なくとも、このモニターが順也が考えているものなのだとしたら、園子は知っているだろう。それをあの場で隠す必要など、まるでない。
それともただ、このモニターが、あたかも本物のモニター活動であると思わせるための参加者なのだろうか。その可能性がないわけではない。それでも、このメンバーの多さには疑問が残る。何らかのエキスパート……地理学であったり、あるいは、警察のトップクラスの人材であれば、この埋蔵金を探す上では役に立つかもしれない。が、メンバーが多ければそれだけ不利になることもある。
もし、埋蔵金が見つかったときに、どうするのか、という問題だ。
あるいは、他のメンバーはすでに誓約書にサインしているのではないだろうか。つまりは、ここで見つかったものの取り分を数パーセントとして、残りはKカンパニーに属する、とするような。
なるほど、それならば説明がつく。
だが、一人を除いて皆若い。
それほど優れているようには思えない。
日比野重三と言ったか、彼だけ気をつけておけば問題ないだろう。
「……ちゃん」
直也がソファーの隣に立ち、順也の腕を引っ張っている。
「父ちゃん!」
「うん? 何だ?」
「もう、またぼーっと考え事して。時間だよって、何度言えば分かるんだよ」
「おお、そうかそうか。いや、父ちゃん、結構歳かな。来るだけで疲れちまったよ」
「もう。僕先に行くよ」
「ああ、すぐ行く」
直也がぶーぶー言いながら、部屋を跳び出ていく。順也も立ち上がる。メモ帳と、ボールペンが胸のポケットに入っていることを確認してから、すぐに彼も部屋を後にした。




