こたつ
こんなもんが、R-15な訳ないとは思うんですけど、まあ、ガイドラインを見たらそんな感じだったので、一応つけました。
冬になった。
今年も冬になった。
その為、私はこたつを出した。
こたつを出してしまった。
正方形のこたつを出してしまった。
今年もこたつを出してしまった。
「今年も出してしまった・・・」
私はこたつを出した日そう思った。正方形の天板を見てそう思ったし、毛玉の付いた布団を見てそう思ったし、四本の足を見てそう思ったし、こたつ内部のオレンジ色の光を見てそう思ったし、中央部の柵で囲われたエリア51みたいなところを見てそう思った。
こたつを出してしまった。そう思った。
「・・・」
こたつの布団をめくってオレンジ色の光に照らされながら例のエリア51を見ていると、なんだか吸い込まれそうな感覚があった。気がつくと私はこたつの中に足を入れようとしていた。危なかった。「あぶね!」って言って私はこたつの元を離れた。そしてその日はこたつに足を入れる事はせず電源を切って、布団で寝た。
その日、私は怖い夢を見た。
「おおお!」
だから夜中一回起きた。部屋は暗く、私は布団の上にいた。怖い夢だった。とても怖い夢だった。しかしもう何の夢かは思い出せなかった。ただ怖い夢だったという記憶はあった。でも、それだけだった。
「・・・」
こたつは暗闇の中にあった。
出したときと変わらずにそこにあった。
でも私は不用意にこたつに近づくような事はせずに、また静かに布団に横になった。ふと時間が気になったけど、結局は確認する事もなくそのままスムーズに眠ることが出来た。
次の日、私は早く目を覚ました。それから「よし」と呪文のようにつぶやいて布団を出てトイレに行ったり顔を洗ったりした。冬の水道水は殺し屋のように冷たかった。顔を洗ったとき殺されると思った。鼻水が出たりした。それから歯を磨いた。あと外に出る為に着替えをした。
こたつは相変わらずそこにあった。まあ、昨日出したのだから当たり前なんだけど。でも私はなるべくそのこたつを見ないように、意識しないようにして家を出た。
屋外はまだ薄暗かった。だから私は夏の頃だったらもう明るくなっているのになーって思った。毎年そう思っている気がする。あと寒かった。とても寒かった。だから私はしばれると思った。あと、どんぶくとも思った。吐き出す息も白かった。冬が来ているのだ。だからこたつも出したんだ。
それから私は近所にある市場に向かった。
「あら、静江ちゃん、今年も来たのね?」
市場に行くとある商店のおばちゃんが私の事を見つけてそう声をかけてきた。
「はい今年もこたつを出したんで」
私はありのままを語った。まあ、別に隠すような事でもないだろうし。
「あらそう、じゃあいつものね?」
「はい、お願いします」
私そう告げると、おばちゃんは私の前に一つの箱を持ってきた。その箱の外壁にはみかんが描かれていた。それはみかんの箱だった。
「はいこれ」
「ありがとうございます」
その箱の中にみかんがぎっしりと詰まっていた。所狭しと詰まっていた。ぎゅうぎゅうに詰まっていた。
「これを買います」
私はおばちゃんを見ていった。
その後、帰りにおばちゃんがそのみかんを私の家の前まで届けてくれるというので、私はそのまま手ぶらの状態で市場を巡った。玉こんにゃく串が売っていたのでそれを買って食べた。うまかった。揚げパンも買って食べた。うまかった。いぶりがっこも一切れ貰って食べた。うまかった。お酒が飲みたくなった。それから玉こんにゃくをもう一本買って食べた。二本目は若干からしを付けすぎたので涙が出たが、でもうまかった。お酒が飲みたくなった。
こたつで、飲みたくなった。
その後、市場のジェットストーブのある一角で、少しの間ぼーっとしていた。背後からジェットストーブのゴーゴーという音が聞こえてきて、それはいい具合に私の背中を暖めてくれていた。私はその状態で自分がいる市場を見回した。その市場は特段大きい規模のものではないし、別に珍しいわけでもない、普通の市場であるのだけど、でも、それでもそこにいる人達には活気があった。昔に比べたら活気がないとよく聞くけど、でも昔なんて私は知らないし、それは今、現在に必要なものでは無い気がした。そんなものは重要ではないと思えた。重要なのはどれほど維持できるか?そういうものの様な気がする。
それよりも、そんな事よりも、その時の私には『この場の人達はこたつが家に無いのか?あったとしたらどうしてこんな寒い場所に来れているのだろうか?』という事のほうが重要だった。
まあ言うまでもないことだけど、無論生活の為だろう。仕事の為だろう。お金が無かったら、生活は出来ないし、働かなければうまい酒も飲めない。
わかる。
でも、違う。違うんだ。そうじゃない。
ここにいる彼らは皆、こたつの力に、あの強大なこたつの力に、抗えることが出来るのだ。
だからこたつから出ることが出来る。
そして市場に、まだ朝の開けきらないこんな寒い市場に来る事が出来る。ジェットストーブの火に当たっている奴なんて私くらいのものだ。皆、忙しそうにしている。それにこんなジェットストーブが一台あった所で、この市場は暖かくはならない。
だって、すげー寒いんだから。
冬なんだから。
厳冬なんだから。
私には信じられなかった。
足を入れたらもう二度と出てくることが出来ない呪いのアイテムこたつ。
呪いの暖房器具こたつ。
私はあれに入ったらもう二度と出る事はできない。
でも、ここにいる皆は、きっとあれから出ることが出来る。
仕事の為、生活のため、約束があるから、外に出たいから、出かけるから、なんでもいい。理由は何でもいい。とにかく出る事が出来るのだ。
私にはそれが信じられなかった。
「あらー、静江ちゃんまだいたの?」
ふと気がつくと、目の前にさっきみかんを買った商店のおばちゃんがいた。見ると、その日の朝の市場はもう終わりつつあった。お客は既におらず、みなが忙しそうに片づけをしていた。あと窓から差し込む暖かい光があった。既に朝になっていた。
「送っていってあげようかー?みかんと一緒に」
おばちゃんは言った。
「あー」
心が、私の心が出来ていなかった。
まだこたつに対する心が出来ていなかった。
準備はした。
準備は完璧にした。
こたつは出したし、キッチンには水を入れたティファールもあるし、粉コーヒーとマグカップもある。延長コードもスイッチの奴を出した。こたつで見るであろうスマホも、その充電器もあるし、vitaと3DSもある、寝る用の枕も準備したし、蛍光灯には紐をつけたから長く伸ばしておけば電機を消す事も出来る。各種のリモコンも既に天板の上に乗っている。ノートパソコンも置いてある。あとは漫画とか小説とか適当にセレクトして持ってきたらいいだろう。そしてみかんを箱で買った。みかんを入れるための木の皿も無印で買ってきた。
準備は完璧だった。
こたつに入る為の準備は、全て整っていた。
しかし、
「・・・」
心が出来ていない。
私の心が、
いや、
正直に言えば怖いのだ。私は家に帰るのが怖い。だって家に帰ればこたつがある。準備が万端の状態のこたつとそれに伴うものがある。
堕落してしまう。
私には堕落してしまう事に恐怖があった。何も出来ないで、溶けていく自分に恐怖心があった。恐ろしいほどの恐怖心が。
しかしふと気がつくと、私はおばちゃんの運転する軽ワゴンの助手席に乗っていた。
そしていつの間にか、みかんの箱を持って自分の家の前に立っていた。
「・・・あれ?」
私の口からは間抜けな声が漏れた。既に屋外は完全に朝になっていた。
仕方なく自分の家に帰ると、室内には電気が付いていた。
「え?」
更に、こたつからオレンジ色のあの光が漏れ出ていた。
「何だ!」
私はみかんの箱を抱きかかえたまま言った。すると、
「おかえり」
声がした。
こたつの私が準備を行った一辺とは別の辺に、私が市場に行く時には無かったはずの『天は赤い河のほとり』全28巻が詰まれており、その脇に私の彼氏が座っていた。裕司が座っていた。そうして彼は既にこたつに足を入れてしまっていた。そして本棚から持ってきたであろう漫画を、私の天河を読んでいた。私はそれと金田一少年の事件簿の27巻セットとどっちにするか迷っていたのに、
「何してんだ!」
私は相変わらずみかん箱を持ったまま叫んだ。
私の心はまだ出来ていないっていうのに、お前は一体何をしているんだ!
「あー、いや、昨日、こたつ出すって言ってたじゃん、で、その時、静江、思いつめた顔していたから・・・様子を見に来たんだけど・・・」
裕司は言った。それにしては奴は既に天河を四巻まで読んでいた。あとシンクに準備していたティファールも持ってきていて、それで沸かしたお湯でコーヒーも飲んでいた。
「何処行ってたの?みかん?」
彼は、天河と私とみかんの箱を交互に見ながら言った。
「・・・」
それでも、
それでも私の心はまだ決まっていなかった。
私はみかんの箱をとりあえず置いて、それから天河を脇にどけて、コーヒーもこぼれないように一端シンクに乗せて、ティファールもシンクに乗せて、それから上着を脱いで、裕司の首の後ろを水平チョップして奴を一端気絶させた。
こたつのオレンジ色の光を見ていると大変なことになるので、その後すぐにこたつの電源も切った。コンセントを抜くとこたつから漏れ出ていたオレンジ色の光はすぐに消えた。
そして裕司が気絶している間に、私は服を脱いでバスルームに入ってシャワーを浴びて全身を洗った。
私がスポンジを使って全身をくまなく洗っていると、裕司が「何すんだよ!」と言ってバスルームの扉を開けてきた。
「ねえ、Hしたいから、裕司もシャワー浴びなよ、洗ってあげるから」
私は裕司を見て言った。
「・・・え?何?」
裕司は怒りを忘れたみたいにぽかんとした。
「エッチ、今から、したいの、わたし、あなたと」
私は噛んで含めるように言った。
「な、何で?きゅ、急じゃない?」
裕司は困惑していた。
「なんだおめえ、女子が、女子のほうからHしたいっていってんのにしねえのか?ホモか?」
私は言った。
「そ、そんなわけ無いだろお!」
裕司は言った。そして服を脱ぎ始めた。
その後、こたつに入ることが無いまま裕司と私は部屋の布団で交わった。裕司は私が突然Hしたいと言ったためか、何時もよりもかなりマンネリな感じだった。何時もよりもへたっぴだった。きっと彼はあらかじめ予定を立ててからこういう事をしたいタイプの人間なんだろう。と私はその時ふと思った。
そして行為が終わると、私達は再びシャワーを浴びて、その後昼飯を食べに二人でビックボーイに行った。
そこで私達はサラダバーやカレーを食べながら、今日私裕司の家に泊まるという話をした。あと晩御飯のものを買いに裕司の車でコストコに行くという話しもした。ツタヤにも行きたいね、っていう話もした。
私はとにかく今日は自分のあの部屋に戻りたくなかった。
まだ私のこたつに入る心が出来ていないからだ。
だからとりあえず、今日はこれでいい。
この様なめちゃくちゃな心の状態でこたつに入ったらきっと大変なことになる。今年度初こたつ、初こたは、なるべく穏やかな気持ちで行いたいんだ。だから、とにかく今日はこれでいい。いいんだ。
こたつには明日入る。
入ろうと思う。
明日はきっと入る。
明日からがんばる。
明日ならきっと入れる。
うん。
私はそう思うことにした。
明日ならきっとがんばれる。
これは12月5日の即興小説さんのバトルで破棄してしまったものを思い出して書いて、更にそれを半分に割った話です。同じの書くのもつまらないので。はい。ちなみに、そのバトルのお題は、マンネリな交わり、必須要素は、ホモでした。




