8話 魔風刃、炎雷の少女と相見える
颯真に新しい出会い。
相手は誰なのか・・・?詳しくは本編で!
〈童、今年の戦いは二者玉石混合と聴くがどうする気だ?〉
昼休み、唐突にラファールに話しかけられた颯真。それも先程説明があったばかりの魔装戦祭についてのことだった。
「やれるだけやってとっとと去る。勝ち進んでいったところで虚しい栄光貰うだけならいらねぇ」
〈そして我も使わぬ、と〉
「できればな。つか俺一人だからよかったけどよ、あまり公共の場で話しかけんなっつってんだろ?」
〈ここは公共と言い切れるものではあるまい?〉
「ぐっ・・・」
颯真は昼食のために屋上にいた。あまり人のこない、ある意味颯真の安息の地。教室だと最近嫉妬深くなりすぎるアスティロットに変に絡まれたり明香里が妙にうざくなったり、挙句リコリスも最近変な感じだと思う颯真はほぼほぼ毎日逃げるように屋上にいた。
〈我としては天ヶ崎という女子と一つ刃を交えてみたいものだがな〉
「やめてくれ俺が死ぬ」
〈死なぬだろ〉
からかわれながらも黙々と箸を進める颯真。黙り込んでしまった颯真に面白くなくなったラファールもまた、黙り込んだ。そんな時だった。
「(ガチャ、キィィィ・・・)・・・おろ、誰か入ってきた?」
あまり人の来ない屋上に、颯真以外の者が来た。元々隠れ気味だった颯真はこっそりその人物を見ることにした。
{ひゃぅっ!?}
〈・・・白、か〉
(は?)
柵の傍に立つ少女が突如としてスカートを押えたのを見た颯真。そして意味深なことを呟くラファール。
〈童は非常に人を見ないのだな〉
(いやだから何が白?)
〈下着だ〉
(お前はアホか!?)
〈よくよく見れば出ているところは出て引き締まっているところは引き締まる。それなのに肉付きのいい女子だ〉
(・・・あー、お前が非常にスケベで変態だってことを再認識するいい機会になった)
明らかに変態な目をし始めたラファールを置き、颯真は今後を考え始めた。
(流石にあの子に気付かれないで脱出するのは無理あるだろうな・・・。かといってこのまま隠れ続けるのもどうかと思うし・・・)
颯真は離脱する方法を考えていたが、あらゆる意味で無理だと理解した。まず出入り口までこっそり移動する・・・のは少なくともドアの開閉音で気付かれてしまうのが目に見えていた。次に考えたのは相手の見えない位置から柱伝いに降りていく方法・・・だが、いくら風の術式があるとはいえ、浮遊系統はなく、落ちたら落ちたで最悪即死、窓が開いている保証もない。
(・・・万事休す、か)
はぁ、と溜息を吐く颯真。進退窮まったその状況で入り口横の壁に身を隠していたが・・・
{・・・私よりもっと強い人がいるはずなのに・・・なんで私が序列1位に・・・}
(・・・序列1位!?まさかあいつが!?)
不意に聞こえた少女の呟き。発言の内容に少女が序列1位・天ヶ崎禮華だという事を理解する。
〈ほう、あの女子が序列1位と。世は誠に不可思議なものだな〉
(不可思議もいいとこだ・・・!あんなちびっこいのによく術式不要で戦い抜いてこれたなホント!余計に脱出プラン潰れきったよ!)
自分が隠れているその相手が序列1位。下手に気配を消そうものならあっという間にばれてしまう。完全に打つ手無しとなった颯真は大人しく隠れていることしかできなくなった。少女・・・禮華の呟きを盗み聞くのをおまけに。
{・・・私にも・・・ベルスレットさんや宮城さんのような大技を持っていれば1位だって胸を張って言えるけれど・・・そういうのがない私が1位なのはおかしいよぉ・・・}
禮華が気にしていたのは自分には魅せるような大技がないという事だった。(颯真の場合は最悪自分が破滅する恐れがあるのだが)禮華が挙げた2人には他を圧倒し、周りに魅せる大技がある。だが、禮華にはそれがない・・・というのだ。
(・・・いやいや、今まで顕現武装だけで戦い抜いてきたんだろ!?それだけでも十分魅せてるだろ!)
思わず一歩尻込みしてしまう。その一瞬、じゃり、という音が聞こえた・・・ような気がした颯真。だが、信じられないことが彼を襲った。
{っ!・・・誰か、居る!?}
(マズい、気付かれた!)
少女に完全に気付かれてしまった颯真。その一瞬、ラファールから焦りの声が放たれた。
〈童、直ぐ我を召べ!詠唱不要、名を思えば顕現する!〉
(な、なんでお前を!?)
〈理由は後に語る、さもなくば死ぬぞ!〉
マジか、とラファールの言葉通り、颯真はすかさずラファールを顕現する。その刹那だった。
{雷瞬歩!}
そう聞こえた瞬間、ラファールに対し鉄を擦り付ける音が聞こえた。
「あ、危ねぇ・・・ラファールの言った通りにしなきゃホントに胴が上下オサラバしてたぞ・・・」
改めてラファールを構え、目の前の少女、禮華と対峙する。・・・が。
「・・・え、あ、み、みやしろ、しゃん!?」
「・・・は?」
体勢を立て直したその瞬間は全身にバチバチと雷を纏っていた禮華だったが、颯真を見た瞬間纏っていた雷は霧散、持っていた刀も手から滑り落ちて消失した。
〈この女子、恐ろしく顔が赤いが何かしたのか童?〉
(記憶にございませんの一点張りだ)
〈・・・成程〉
顔を真っ赤にしてあわあわしているのかよく分からない顔を見せる禮華に、颯真はラファールと共に呆然としていた(ちょっぴりラファールは理由を理解し始めていたが)。
「しかしなんであいつは逃げたんだ?」
〈・・・あんなに露骨な反応されていて尚気づかぬとは〉
「露骨だったか?」
ぼやきながら教室に戻る颯真。だが・・・入ってすぐその体は教室から追放されてしまった。なぜなら・・・
「ソーマぁ!!」
「ぐふぁぁっ!?」
アスティロットが突撃心配ダイビングを颯真の鳩尾めがけて発動し、避けきれず教室の外へと追い出されたのだ。
「大丈夫何もされてないどこもケガしてない!?」
「い、今のが一番・・・怪我しそうな・・・気がする・・・」
鳩尾一撃で意識を保つのがギリギリとなっている颯真は、何とか残った意識で傍らに立つ少女に問いただした。
「あ、明香里、何が、あった・・・!?」
「とりあえず颯兄、ほんの数分前だけど教室前をおそがい(凄いとか恐ろしいとかそういう意味)スピードで走ってったのって誰?」
「・・・あれが1年序列1位だよ・・・」
「・・・え」
さらに遅れてやってきたリコリスが颯真の言葉を聞いて絶句した。
「あ、あれがライカ・・・!?術式なしで入学試験担当を倒したと聞いてたからてっきり・・・」
「人は見かけによらないんだねぇ・・・」
しみじみ言う明香里や唖然とするリコリスに、颯真は二の句を告ぐに必死になっていた。
「だ、だから何が、あったかを・・・」
どうにか紡がれた言葉に、リコリスはああ、と思い出したように口を開いた。
「ソウマが来る少し前にだけどライカが廊下を走っていったのよ。物凄いスピードでね」
「・・・それはさっき明香里からも聞いた・・・。で、なんでそれがこれに繋がったのかをだな」
「リコちゃんがその天ヶ崎さんだっけ?が走ってきた所が屋上に行ける道だったなと言ってそれを聞いたロッテちゃんが心配病発症しちゃって」
「だ、だからか・・・」
未だに「大丈夫?」と聞いているアスティロットをどうにか宥め、腹を押さえて教室へと入っていた颯真であった。
が。
「宮城君、大丈夫?」
「・・・大丈夫じゃないっぽい、っす・・・」
その強がりは長続きしないのが定石。午後1発目の授業が始まってすぐ、颯真は鳩尾の痛みがぶり返し、「こんなの耐えられねぇ」と言わんばかりに保健室へと1人姿を消したのだった。
「言っとくけど、見舞突撃禁止しておくわよ、アスティロット」
「ふえぇ・・・」
「原因ロッテちゃんだもんね・・・」
初登場、天ヶ崎禮華。彼女は魔術が使えない子です。「瞬雷歩」は魔術でなく雷への魔力物質変換による技のようなもの。
剣のみで試験に勝ち、序列一位となった彼女は恥ずかしがりで戦い嫌い。
そんな彼女は気になる颯真にどう仕掛けていくのか。
それは今後のお楽しみ・・
次回は彼女がまたまた出てきます。