1話 クラス挨拶、その一幕
第1話は入学式とクラスでの自己紹介です。
ある程度の登場人物が確定してる・・・はずです。
とりあえず、お楽しみください。
「・・・なぁ明香里、何とかならないかこの変な空気」
「うーん・・・無理かなぁ〜・・・?」
少年は明香里と呼ばれた少女にこっそり耳打ちしていた。耳打ちされた少女もその対策は全くないよと言わんばかりに首を振った。
「だって颯兄、数少ない開幕ランク4なんだよ?普通なら地道に強くなってランクあげてくのに開幕ランク4だなんてチートなんだもん」
「俺だってそんなこと考えてないっつーの・・・」
しかも少年には一部からは敵視の視線や熱視線すら感じられていた。ただただ興味だけで見られるのも客見せ動物のようで嫌だったのだが、それに加えて敵視や熱視線。辛いのも仕方ないのかもしれない。
「それにさ、ロッテちゃんもいるんだから大丈夫だって」
「はうっ!?」
「・・・なんでアスティロットを引き合いに出すんだよ」
明香里に引き合いに出され上ずった声を上げた少女、アスティロットに同情する形で少年は口を開いた。
「で、でも、そ、ソーマは強いから」
「ただの喧嘩殺法だけでのし上がっただけだってのに・・・最悪だ」
少年、宮城颯真はアスティロットのサポートにもならないサポートに頭を抱えるのであった。
この日は入学式のある日、生徒は全員分けられた先のクラスに集まっていた。
「今年は我が校にランク4が2人、ランク5が1人入学するという、大変珍しい年となった。今ランクが低いからと言って嘆くことはない。努力を重ねていけばランクも上がる」
学園長からのありがたい(と思う)言葉を颯真は右から左へと聞き流していた。どうせランク4の片割れは自分。そしてランク5は自分がよく知る人間。聞き流すしかないのは当然だった。
(ランク4がもう1人、ランク5が1人・・・ランク5はどうせアスティロットだろうけど・・・あと1人誰だ?)
もう1人のランク4が一体誰なのか・・・颯真にとってはそっちが重要となっていたのだった。
ランク。
魔法師の強さを表す数値の事で、数字が1から5の5段階で分けられている。颯真のランクはその中でのランク4。高いランクになってくるとその人数も減ってくる。
ランク4にもなってくると一握り、ランク5に至っては言わば絶滅危惧種扱いされるのだ。
そんなランクの中でも一握りとされるランク4である颯真は、目立ちたくないと思っていても自ずと目立ってしまうのであった。
そして総集会が終わり、各クラスでのHRが始まった。当然クラスの目線はほぼほぼ颯真に集中するわけである。
「・・・ホントにこの好奇の目線は何とかならんのかねと」
「無理だよきっと」
「お前まで裏切るってんかい明香里・・・」
妹にまでバッサリと諦めを入れられ、颯真はがっくりと項垂れるしかなかった。そんな颯真を脇目に、各々の自己紹介が始められようとしていた。
「えー、それでは自己紹介始めていってもらいますね。名前と魔法の属性とランクを言ってくださいね?」
(あ、これめんどくさそうなやつだ)
担任の「言え」という内容に颯真は内心顔を顰めた。ランクを言えば自分のランクがばれる。ただでさえ好奇の目線を向けられているのにそれが悪化しかねないのだから。ただ・・・
(そ、ソーマぁ・・・た、助けてぇ・・・)
颯真以上に困り果てている存在がいた。ランク最高値(絶滅危惧種)の5であるアスティロットだ。彼女は元来人見知りが激しく、颯真と明香里以外の人間に自分から話しかけることができない程である。そんな彼女がまさかの3番目に自己紹介を行え、となれば・・・
「あ、あぅ、ぁ」
言葉が出なくなってしまっていたのは当然であった。自分の番に回ってきて、立って自己紹介しろと言われ、視線が一気に集中してしまう(一部やらしい視線も含まれているが)となれば、アスティロットの口は無意識で閉ざされてしまうのである。
「えっと・・・アスティロット・ヴァーミリオンさん、でよかったんですよね?」
「(コクコク!!)」
担任の言葉に首を縦に振ることで名前については同意を示す。が・・・
「えぇっと・・・属性は・・・?」
そこから先の言葉が一切出てこない。ぴぃ〜、と聞こえてきそうな目線を颯真に向けるアスティロットだが、颯真は一切合財私は存ぜぬを貫き通しているため、その目線に気づくことはない。
「・・・颯兄、ロッテちゃん助けたげないの?」
アスティロットからすれば明後日の方を向き続ける颯真に、見かねた明香里が声をかけた。
「何れ1人立ちしないといけないんだから助けっぱなしにしてたらアカンだろ」
「それはそうだけどさぁ・・・見ててかわいそうなんだよね〜・・・」
「今はほっとけ」
小声でそう呟いた颯真。傍から見れば酷い男としか取れないかもしれないが、何時までも自分達兄妹しか頼れないままだと何れ自分たちがいなくなったら何もできなくなる。そうなってしまわないようにする気遣いもあった。
(ロッテちゃん人見知りが激しいからなぁ・・・)
明香里は未だに自己紹介すら碌にできないアスティロットに苦笑を浮かべるしかないのだった。
結局アスティロットの自己紹介は明香里の力を借りることでようやく済んだのだった。そして、自己紹介は後半になってさらに荒れるのであった・・・
「では次の人お願いしますね」
そう言われて、颯真の左前の少女が立ち上がった。颯真は先程までとそう変わらないスタンスで聞き流そうとしていたが・・・
「リコリス・ベルスレットよ。属性は火で固有名称が「獄炎」、ランクは4よ」
その瞬間、ざわざわと周りがざわめきだした。ランク4がこの時点で1人このクラスにいる。それが発覚した時点で当然だった。そしてもう1人、内心穏やかじゃない人物がいた。
(・・・火のランク4かよ・・・色んな意味で相性悪いぞあいつ・・・)
颯真だった。彼もランク4だが、リコリスという少女の属性を考えると、相性は最悪だった。
(・・・絶対絡まれるわアイツに・・・そんな予感しかしねぇ)
颯真は自分の番が回る直前まで頭を抱えるしかないのだった。
そして・・・目の前まで順番が進んだ。
「えと、宮城明香里です!属性は光でランク2で・・・ま、まぁよろしくお願いします?」
明香里は終わりがけで疑問符を浮かべてしまった自己紹介を終え、がたん、と席に着いた。
「颯兄だよ次」
「分かってるっての・・・やりたくねー・・・」
颯真は嫌々ながらも立ち上がった。
「宮城颯真、属性風のランク4」
そこまで言った瞬間がたっ、と椅子をがたつかせる音が聞こえた。発生源は・・・自分の左斜め前の少女、リコリスだった。その顔は自分以外のランク4を初めて見た、と言わんばかりの驚愕に染まり切っていた。
「・・・あー、よろしく頼む、以上」
颯真はそこまで言って座り込んだ。
「お疲れ、颯兄」
「・・・途中でガン見入っただろ・・・?」
「うんものすっごいビックリした顔で。今もじーっと見てるし」
リコリスは颯真を信じられないといった目線で見ていた。さらに言えば・・・
「おまけで言うけど」
「なんだよ」
「ロッテちゃんが心配そうに見てる」
アスティロットがおろおろした感満載で颯真を見つめていたのだった。
波乱の自己紹介は、2人のランク4が同じクラスにいる、という事実を明るみにして終わったのだった。
(お、同じクラスに私以外のランク4がいるの!?聞いてないわよそんな話!)
リコリスは困惑真っ只中にいた。ランク4が自分以外にいることは知っていた。だが、そのランク4が同じクラスに一緒にいるという事は知らなかったのだ。
(冗談じゃないわよ!家のため・・・ベルスレットのため・・・!弱者でいるわけにはいかないのに・・・!強者であり続けなきゃいけないのに・・・!!)
彼女の思いは自分の生家を守りたいという切なるものであった。
次回は・・・
炎の少女は己が力を示したらんと風の少年に決闘を挑む。
風の少年はその決闘で妹と口論に。
次回、「颯真VSリコリス 前哨戦」
次回方言多発注意です。