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身内の来訪者3


早々と中心区を抜けて、墓場がテーマとなったエリアボスの区域に入る。


叔父さんは対して変わらず、下手な口笛を吹きながら、槍を片手に奥へ進む。


そして、霧が裂け、其処から見えたのは数十に枝分かれした木だった。


いや、あれは木ではない、這う様に蠢くその魑魅は、人の身体を貼り付けた、脂肪の塊。


枝だと勘違いした棒は、長い長い人間の腕、人の形に似ているものの、それは決して人間と云う項目には当て嵌まらなかった。


百の腕を背中からむき出し、それは自由自在に動かして、その対極する位置に座る少女に向けて走り出す。



「ありゃあ、可哀想に、遊ばれてるぜ、アレ」



見るに、あの怪物は、百の腕が在ると言うのに、片腕一本しか使用せず、それを鞭の様に駆使する。


少女は避けるのに精一杯なのか、汗水を流しながら飛んだり跳ねたりして回避している。


怪物の身体に張り付いているかつての勇者達は、一つ動く度に苦しそうな声を上げている。


見れば、勇者達の身体には、怪物が扱う腕が巻きついていて、皮膚と皮膚が癒着しているのが見え、あの腕には、強力な粘着性のある性質を持つ事が分かった。


俺は、速やかに魔力で毒の鏃を作り出し、通常の鉄の矢の先端に取り付ける。



「加勢するつもりか?」



叔父さんは、面倒なことは辞めろ、と言いたげに此方に厳つい視線を送る。



「あぁ、あのお嬢さん、何のつもりだか知らないが、()()()()()()()、早めに蹴りをつけてやるだけさ」



どの光景を見れば、その様な言葉が出せるのか。


よく見れば分かる、あえて軽量の装備、まるで踊り子の様な服装をした少女は、笑いながらその攻撃を回避しているのだ。


まるで準備運動をする様に、走る前のウォーミングアップをする様に、華麗な動きでダンスを魅せる。


対して怪物には、その様な余裕が無かった、百の腕を持つのに、何故一本の腕だけで、身軽な少女に挑戦をするのか。


使わない、ではない、使えない、と俺は判断する。


木の幹の様に生い茂た百の腕、それにはまるで、金縛りに在ったかのように痙攣して動く事が無い。


見るに、その怪物の、心臓部位であろう胸元には、一つの魔力で出来たナイフが刺されてあった。


恐らくは、具現化系統の魔術か、あれの行動を制限するのに、たった一本のナイフで御するとは、最早彼女が何者なのか、間違えようが無い。


序列九位、【神踊】のヴヴ=メリアンコル。


元は勇者になる前は、一人の踊り子として世界に支持を得ていた人気ダンサー。


魔術によって作り出す華麗な閃光と組み合わせた踊りは斬新で、"ヴヴ流ダンス"として世界に知らしめたとも言われている。


情報誌の記事にも年にニ、三回取り上げられ、まさしく世界屈指の踊り子と言えるだろう。


確か、王様から送られた魔装は二つだが、今まで誰も見た事が無いのだという。


無論、俺その様な情報を耳にしたことが無いので、彼女がどの様な魔装を持つかは不明である。


不意に、ヴヴ=メリアンコルはこちらに気がつくと、笑顔を向けて此方に手を振った。


今、命がけの殺し合いをしているというのに、何と云う余裕さなのだろうか。


俺は、何故か其れが気に食わなかった。


弦を金具に固定し、毒矢を設置すると、何も起こる事無く矢を放つ。


致死量を超えた毒の矢が、魔力のブーストによって加速し、丁度胸元の魔力で出来たナイフを砕いて突き刺さった。


瞬間、その怪物は何が起こったか理解出来なかっただろう。


自らの体内に異物が混入し、内側から溶けていく感触は、死ぬ間際でしか味わうことは無い。


ナイフが砕けた事で、制限されていた肉体の拘束が全て解ける。



「およよー、こいつぁ、危ない危険がするですよー」



せめてものの道連れにする気なのか、百の腕が、そのダンサーに向かって指を這わせる。


ダンサーは特に身構えることも無く、流した汗を手で拭い、最後の一仕事だと、その腕に向かって、手刀を振り下ろした。


黄色い閃光が垣間見え、軌道を造り、その腕を切り裂く。



「うん、こいつで終了の終わりなのですよー」



二つに分離したかつての腕だった物は、光速で走り出す毒によって膨らみ、ぼん、と弾いた。


今回の毒には、二次感染をしない様に調整したが、ダンサーであるヴヴにとって、飛び散る液体を避けきれる。



「………はぁ、こりゃあ、俺が居なくてもよかったんじゃねぇのかー?」



叔父さんは大きく溜息を付いて、少しばかり自信が減ったと云わんばかりに肩を窄めた。



「あー、ランバートさんー久しぶりでこんにちわですよー………おりり?そちらの残念無念なイケメンそうな二枚目さんは?」



待て、少し混乱してしまう。


なんと云ったこのエキセントリックガールは。



「ん?コイツは俺の甥で家族でありますよー」



おい、移ったぞ叔父さん。



「あぁー、小耳から噂に聞く"毒の契"を持つ人な者ですかー、へー、これが~」



ジロジロと興味深そうに此方を見るヴヴと云われる少女。


俺は、そう云う女性方面の耐性はついていないので、少しばかり苦手である。


エリアボスを倒したので、少なからず次の階層へ続く門と、零層にまで戻るワープポイントがある筈だ。



「よっし、ここは気持ち悪いしな、一度下に戻るとするか」



【心殺のアトリエ】を攻略した俺達は、その階層を後にする。


後日、何故か叔父さんたちと会う約束になった俺は、巷の教会で待ち合わせをする事となった。


さらに余談ではあるが、第十三層は氷が覆う【未知の氷域】と云う"迷宮(ダンジョン)"が判明した。





次回はステータスの御披露目です。

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