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身内の来訪者

現在、ダンジョンは零層を除いて十二層まで攻略されている。


第零層【休息の間】


第一層【始まりの地】


第二層【亜人の集落】


第三層【木枯しの借地】


第四層【熱を持つ空】


第五層【怪物の住処】


第六層【英雄の武器庫】


第七層【子龍の高崖】


第八層【醜い村の長】


第九層【元素伝う球体】


第十層【剣使う魔の屋敷】


第十一層【骨の塚】


第十二層【心殺のアトリエ】







俺は現在、第十二層の【心殺のアトリエ】へと足を運んでいる。


理由は単純で、現在まで攻略されているのは十二層まで、十三層へと辿りつく道には、十二層に住むエリアボスを倒さなければならないからだ。


これまで二ヶ月間も渡ってこの十二層をクリアしようとやっけになる"勇者"もいたが、エリアボスはおろか、十二層の中心区に足を運ぶことすら出来ない状況に陥っている。


攻略は二の次にしていたが、あまりにも空白の期間が開きすぎている為に痺れを切らして俺は様子見と云う形で十二層にやってきた、が。



(―――クソ、これは、少しキツイな)



この層をクリアできない連中の心中を、少しだけ分かってやれた気がした。


この十二層、【心殺のアトリエ】は、まさしく人の心、精神を殺す為に作られたエリアだ。


霧に包まれ、墓場を模したこのエリアには、時折として人の悲鳴や、何かを削る音も聞こえる。


霧の先から現れる血塗れの中華包丁を持ったビニールのエプロンを来た一つ目がうろついていたり、肉と肉と肉を繋ぎ合わせ、蛸の様な怪物が地を這いずり回っている。


精神的に恐怖に蝕まれそうなシルエット、俺の近くに歩いているのに、そいつらは俺に気づく事は無かった。



("神隠す秘匿の外套(アルカヌム=デウス)"………今一度思うが、これが在って良かった)



常時ステルス状態へと変貌させる俺の魔法、"神隠す秘匿の外套(アルカヌム=デウス)"。


これが在る限り、スキルB以上の看破能力を持つ物が居ないければ、まず見破られる事は確実に無い。


麻袋を被った斧を持つモンスターを通り過ぎて、申し訳程度の鎧の収納庫から、探索スキルを持つ勇者が可能な限り書き綴ったこのエリアの地図のコピー紙を取り出す。


聞けばその"勇者"が云うには、中心区の前で、"とある"物を見て、畏怖し戻ってきたらしい。


このダンジョンから帰ってこれる者の生存率は40パーセントとやや低い、その探索スキルを持つ"勇者"は運が良かったと云えるだろう。



(ここら辺が、中心区辺りか…………)



地図に描かれている通りの、ヤギの首が無い銅像を過ぎれば、其処は、何やら囲いが細工されてあった、墓場の様な場所だった。


その首の無いヤギの銅像を超えると、ぎし、ぎしと、何かを締める音や、何かを裂く音が聞こえる。


霧を掻き分け、進んでいくと、モンスターの群れが在った。


大きな中華包丁を振りかざし、赤い鮮血が所構わず飛び散り、麻袋を被った斧の男は、何やら、棒みたいな物を砕いて、千切っている。



「―――――っ」



俺は、そのモンスター達が、何を持っているのかを理解した。


何を引きちぎり、何を殺し、何を弄んでいるのか、嫌なほど理解してしまう。


それは、かつて人と呼ばれたものであった身体の残骸。


およそ、数十人の"勇者"と呼ばれる誉れ高き人間類が、そのモンスターの手の平に踊らされていた。


ダンジョン内で死ぬ事は稀ではない、モンスターと戦い死んだ者や、何らかの事故で死んだ者も居る。


生存率四十パーセントと云うのは、おそらく帰ってこれなくなった者、モンスターとの戦いで死んでいった者だとばかり思っていた。


仕方が無いことだと割り振っていた、しかし―――。


目の前の光景は、ただの命の弄びでしかなかった。


ある怪物は巨大な木製の杭に、針糸で皮膚と杭に縫い合わされ、口や目、開いている物全てを塞がれていた。


ある怪物は治癒魔術でもあるのか、女性勇者と、男性勇者の下半身を切り捨て、切断面を縫い合わせて二面相をしていた。


ある怪物は勇者の首を切り、犬型のモンスターの胴体と合わせ、人面犬を作り出していた。


ある怪物は命を弄んでいた。


ある怪物は命を弄んでいた


ある怪物は命を


ある怪物は


ある怪物は


怪物は


怪物は


怪物は



「あ、ぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」



軋む、揺らぐ、精神が崩れる、心が砕ける。


嘔吐する、地面に膝を付き、悔しいのか、悲しいのか、良く分からない涙を流す。


殺さなくては。


命を弄ぶ、怪物たち―――ではない。


最早人である事を失ってしまった、哀れな勇者の末路を、全て殺さなくては。


それが、あの光景の勇者達に出来る、救済の手でしかなかった。


弦を引く、毒で生成した鏃を矢につけて、狙いを定める。


そして射るとしたその瞬間。




「―――危ねえなぁ坊主、迷彩が解けてるぜ?」




刹那、燃え盛る火炎が、俺の後ろに居た怪物を焼き殺した。


気が付かなかった、いつの間にか俺の魔法は解けていて、後ろから、斧を持った怪物に、殺される所だったのだ。




「へぇ、さっきの奴ぁ【ラブリュス】っつーのか、まあ確かに、斧を持ってたらそうなわな」




「お、前は?」



霧の中、顔も分からない命の恩人に、そんな牙の向いた言葉を掛ける。


俺の問いに、さして回答する気も無く、その槍を持った男は怪物たちの前に行く、手に持つ槍を、手の平でひらひらと舞わせ、たん、と槍を構える。


その槍は、一度だけ見た事がある。





「"肆儀筆頭の(クァットゥオル)"――――――」






かつて、無能の王が最初に選んだ十名の勇者にのみ与えられた、槍を主張する兵器。


全ての四方を司り、四つの元素、四つの方角、そして四つの神を宿わせる、ランクEX魔装。





「――――"神突護槍(アッスルトゥス)"!!」






第四順列、【反骨者】ランバード=フランロッド、その人だった。




急激な破壊音と、同時に巻き起こる爆炎と風来。


モンスター毎塵へと葬った、一撃必殺の光景は、誰がどう見ても、爽快、としか言いようが無かった。


霧も舞い散り、不気味な夜が顔を出す。


月明かりが照らし出し、その厳つい伊達男の顔が合間見えた。



「よォ、坊主――――ん? お前………ジークじゃねえか!!」



そして、その伊達男は、俺の叔父さんでもあった。




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