孤独の偽善者2
第二層"茂みの森"を抜け、木々に隠された小さな集落へと向かった。
そこには、"亜人"と云う人型の生物が住んでいる、しかしそこの集落の"亜人"は他の怪物たちと比較すれば大人しく、"勇者"である私達にも敵対心を持ってはいない。
亜人の集落に到着すると、血と灰の臭いが充満している。
既に燃えた後のこの集落には、以前寄った時の、和気藹々とした姿は無い。
【ラケルタ】と云う怪物に侵入され、領地を迫撃され、沢山の亜人を殺された。
唯一形が残った、亜人の教会へ足を運ぶと、耳の長い、エルフと云う種族の"亜人"が、血の付いた壁に寄りかかっていた。
この亜人はこの教会の神父だ、教会には神様の守護があり、如何なる生物が破壊をしようと崩れることは無い絶対領域の城。
その教会の中に入れるのは、神父と神に縋る信者、そして俺の様な"勇者"のこの三項目のみ。
そこのエルフは運が悪かった、運悪く外に出た時に、ラケルタの襲撃に巻き込まれたのだ。
そして運良く教会に辿り着き、神など信仰する脳も無いラケルタは教会に入る事が出来ず、追撃を食らわずに済んだ。
しかし傷が幾らか酷い、俺がこの集落に付き、現状を把握しながら教会に行けば、腹部から血を流した神父が倒れているのだ。
"治癒魔術"を使おうにも、俺にはそれが出来ない、魔力の貯蔵は十分、初歩的な"治癒魔術"なら扱える。
しかし、俺には【保有スキル】"毒の契"がある。
それが在る限り俺の魔力は全て"毒"になる、治癒魔術も毒が入り混じった毒物へと変貌し、相手を苦しめる。
在り合せの針と糸で傷口を塞ぐが、もう長くは生きれないだろう。
「―――なあ、生きてるか?」
神父の脈を確認しながら、致死量ギリギリの血を流す神父にそんな言葉を掛ける。
脈は弱弱しい、段々と冷たくなってくるのが判る。
もし、他の集落にこの神父を連れて行けば、何らかの人間が治癒魔術を使ってくれて、助かったのかもしれない。
もし、俺が他の"勇者"に声を掛けて、この神父を助けてくれと云えば、助かったのかもしれない。
しかし、神父はそうしなかった。
「―――ぁぁ、先程の、どうか、しましたか?」
その神父は随分と老いていた、手も顔も皺だらけで白い髭を蓄え、何処か遠く先を見詰める瞳をしていた。
助けを呼ぶと云った、他の村まで連れて行ってやるとも云った。
けれど、神父はそれを拒んだ。
昔から決めていた事、死ぬのであれば、教会の中で死にたいと、神父は云った。
最後まで、神父として、死にたいと、その老いぼれは、遠くを見詰めながら云ったのだ。
「―――神の祈りを、そして、神託を頼みたい」
ならば、俺はもうどうする事も出来ない、こうして、神父として死なせる事しか出来ない。
祈りと神託、これがきっと最後の仕事になるだろう、ならば、今ここにいる俺が、その仕事を見届けてやる。
にっこりと笑った神父は、俺の手を借りながら、教会の卓へと足を運ぶと、苦しそうな声を口にしながらも、俺の為に、祈りを捧げる準備をしてくれた。
俺は神父の前に跪き、頭を垂れる。
「汝、神の前にて、全てを晒し、全てを神に託したもうれ、さすれば、その祈りは、神に届くだろう」
そして、祈りたもうれ、と神父は云った。
俺は、何て祈っただろうか、ただ無心に頭を垂れたのか、それとも―――。
「汝、その身、その能を、神に晒したもうれ、さすればその能、神の目に届くであろう」
光が俺の前に囁き、形としてその場に留まる。
それは、【ステータス】と呼ばれるもので、自己の身体能力や、【保有スキル】、【ファクルタース】を表示する。
淡い光をした塊は、俺の目に映ると、その全ての自己の情報を、脳に通達させた。
【真名】ジーク=フランケット
【ステータス】
【筋力】D30【耐久】C51【敏捷】B79【魔力】C45【幸運】C57
これがステータス、五つの項目に分かれたその能力値のアルファベットは総合数値で、その横の数字が現在の経験値でもある。
01~20がランクE
21~40がランクD
41~60がランクC
61~80がランクB
81~99がランクA
そして100がランクS
となっている、俺のステータスは、基本ステータスよりやや下だが、それを上回るための能力を俺は持っている。
【ファクルタース】
"神隠す秘匿の外套"
ランク:B 対象:自身
使用した人間を景色に交わせ、一時的に透明状態にさせる。
ランクB以上の看破能力があれば能力を無効化できる。
"&「の弓"
ランク:?? 対象:"~
―――――
最後が掠れてよく見えない、おそらく、神父の限界が近づいているのだろう。
「―――どうでしたか?」
神父は、もうろくに前も見えない状態なのに、俺みたいな人間に笑いかける。
「―――あぁ、あんたの腕は、最高だ」
それだけだ、それだけ云えば、神父は笑って、そのまま卓から滑り落ちる。
俺は、神父がもう逝ったのだと知り、無常な悲しみを覚えながら、その場を後にした。