8 「かかって来やがれ!」
レイ・カトー、只今ハンターギルドに来ております。
いえ、正確にはまだ入ってはいないんですけど。
昨日はギルド内にザ・荒くれ者といった輩は居なかったが、果たして今日もそうと言えるだろうか?
答えは『否』だ。
何故なら
「テメェ、このヤロウ!覚えとけよ、バカヤローが!!」
目の前に、そのザ・荒くれ者が居るからだ。
「何見てんだコゾーが! 文句でもあんのか?」
「いえ、別に」
こちらに怒りの矛先を向けって来たので慌てて目を逸らす。
「ケッ!ふざけやがって!」
ザ・荒くれ者はつばを吐き捨て壁を蹴ると歩きさる。
「ふむ、荒くれ者だが、序盤で威勢よく現れて名前も出ないうちに瞬殺されるタイプだな」
きっと中で暴れたに違いない。
恐る恐るドアを開け中を覗いてみるが、別段荒れている訳でもない。
「ん?」
不思議に思いながら中へと入る。
誰も入り口を振り返りもしない。
かと言って寒々しい空気が有る訳でもない。
あれほど怒鳴り散らした男が居た筈なのに「別に何も無かった」といった雰囲気だ。
「あのー?」
「はい?あ、レイさん」
カウンターには昨日と同じ受付の女性が居た。
時間的に微妙なのか、列は出来ていなかった。
「今、怒鳴りながら男の人が出てきたんですけど?何かあったんですか?」
「ああ、あの人ですか?討伐証明部位を誤魔化そうとしたんです」
ゼオレグの北西に広がる平原、そこに出没するハウンドドックを討伐した際の討伐証明部位は上の犬歯なのだそうだ。
しかし、今の男はそこに下の犬歯も混ぜて討伐数を誤魔化そうとしたのだそうだ。
「馬鹿ですよね。プロの鑑定士がそんな物を見間違える事なんて無いのに」
そして、アッサリ見破られると、逆ギレして職員に掴み掛かったらしい。
「ギルドの職員なんて元ハンターばかりですよ?あんな小物なんて秒殺です」
その上、逆にKOされて情けなく捨て台詞を吐いて逃げていったのだという。
「まぁ、よくある事です」
「そうですか」
よく有るのか。
あのザ・荒くれ者を秒殺するとか、マンガなら主役の役目じゃないか。
そんなのが普通に職員として働いているとは、恐るべしハンターギルド。
「それで、ご用件は? ハンターカードならまだ出来てませんよ?」
「ああ、いえ、初心者向きの防具屋を教えて下さい」
そう、服や装備品を手に入れようと思ったのだが、何処に行けば良いものか迷ってしまったのだ。
【カードファイター】は元手無しで様々な物が手に入る。中には市販されていないレアな物までもだ。
ただし、何が出るか分からないという弱点がある。
次回のドローで良い防具が出るかもしれない。なら今装備を買うのは無駄な事だ。
しかし、それを当てにしている訳にもいかない。もしかしたら当分防具は出ないかもしれない。
そう思って良い防具を買ったら、より良い防具が出るかもしれない。
そんな事を考えていると何も出来なくなってしまう。
カードゲームでもそうだが、どんなに戦術を練り、バランスよくデッキを構築しても。ドローの運が悪ければ破綻してしまう。
【カードファイター】も、次のドローを当てにしていると裏目に出る事になりかねない。
そこで俺は、次のドローに過大な期待はせずに、現状のカードだけで考える事にした。
防具は現状無いのだから、防具は買おう。
武器はショートソードが有るので今は良いだろう。
という訳で、まずは防具の充実を考える事にした。
ちなみに、ゲームでも武器と防具のどちらを先に充実させるかという古来から続く論争が有る。
俺は、死亡ペナルティーが無いなら武器、有るなら防具と決めてきた。
ペナルティー無しなら敵を倒すことを優先するが、ペナルティー有りなら死なない事を優先してきた。
ノアにはセーブポイントは無いだろう。死んだら教会で生き返るということも無いだろう。
死んでも生き返る事の出来るアイテムや魔法が有るかも分からない。
なので、死なない事を最優先に考える事にした。
「という訳でまずは防具だ」
誰に説明する訳でも無いが、ギルドで教えてもらった防具屋の前で独りごちる。
「スイマセーン、初心者でも安全且つ快適に使えて、それなりの防御力でお値段もそこそこの掘り出し物はありませんか~」
店内に入ると開口一番でそう注文する。
「あん?何だと?」
並べられている盾を磨いていた店員(店長?)が眉間にしわを寄せて聞き返してくる。
「えーと、軽量コンパクトで扱いやすく、丈夫で頑丈で耐久力の高いお値打ち価格な逸品を下さい」
「ねぇよ!そんな物が有るなら俺が欲しいわ!」
「じゃあ、初心者用のオススメ装備一式を」
「最初からそう言え!」
幾つかの質問に答えた結果、店員がすすめてきたのは、レザーアーマーだった。
「皮製だからって甘く見るなよ。確かに金属の鎧の方が防御力は高いが、Gランクのシロウトには重くて使い辛い。最初は野ウサギか穴ネズミなんかが相手だろ?動きの邪魔にならない軽鎧の方が無難だ」
というのは店員の言だ。
確かに、現状で俺がフルプレートアーマーを着たら重さで動けなくなるだろう。
「それにな、一流のハンターでも皮鎧を愛用する奴は多いぞ。まぁ、そういう連中のは、それなりに高位の魔物の皮だったり、魔術処理を施して有ったりと鉄の鎧なんかより遥かに防御力も高いがな」
そう言われてみると、マリーさんもレザーアマーだったな。
「なら、皮鎧を金貨1枚で一式見繕ってくれ」
「あいよ!って金貨!?Gランクハンターが?」
驚き、信用していなそうな顔の店員に金貨を見せると、そこからは張り切ってイロイロ準備をし始めた。
「まぁ、そうだよな。安いヤツなら350ギルだもんな。10000ギルなら結構な上客か」
金が物を言うのは異世界でも変わらないようだ。
「装備よし! じゃあそろそろ初の冒険に出かけますか」
買ったのはレッドオーガという魔物の皮で作られた装備だ。
最高級品という訳ではないが、初心者で手が出せる装備ではないのだそうだ。
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【頭部】
【体】レッドオーガのレザーアーマー
【腕】レッドオーガの篭手
【右手】ショートソード
【左手】
【足】レッドオーガのレザーブーツ
【装飾品】不死鳥の首飾り
【カード】『STR+10』『 』
『 』『 』
『 』
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装備品を手に入れた俺は町の北の草原にきていた。
野ウサギや穴ネズミといった小動物がいるらしい。
そして、その小動物を狙ったハウンドドックという魔物が出没するようだ。
今日の目的は、とりあえずは草原を見て回るといった所だった。
そうして野ウサギの1羽2羽でも捕まえられれば御の字といったつもりだった。
そう『だった』過去形だ。
俺の目の前には1羽のウサギがいる。
ただし、俺の知るウサギとは大分違う。
まず、額に1本角が生えている。
そして、ムシャムシャムシャと何かを食べている。いや、クチャクチャクチャか。
たぶん今食べられているのが穴ネズミという奴なのだろう。
異世界のウサギは肉食のようだ。
俺に気付いたウサギが血の付いた口から牙をのぞかせ「クカー!」と威嚇する。
「上等だ。ハンター様を舐めんなよ」
まだGランクだけどな。
ウサギのクセに全く逃げようとしない。
全く可愛げのない奴だ。
「残念だよ。お前がもしも俺の知る愛くるしいウサギちゃんなら、俺にも憐憫の情が湧いたかもしれないのに」
残念ながら憐憫の情はまるで湧かない。
なぜなら、目の前のウサギは、豚と見間違えるほどの大きさだった。
「かかって来やがれ!このブタウサギが!」
次回、ブタウサギ(そんな名前では有りません)との死闘が始まる。