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71 「 ミユキ・ハザクラ」

 それが女性だと分かったのは綺麗な流れるような黒髪の長髪と綺麗な顔が大々的にスクリーンに映し出されていたからだった。

 そして、『突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリー』という二つ名を聞いてその考えに間違いがなかった事を知った。

 頭部以外を覆った全身鎧は無骨で女性らしさは丸で感じられなかった。

 そしてそれは、その右手に装着されたソレを見ても同じ事が言えた。


『砕け散れー!』

 魔術により拾われた音声が闘技場内に響く。

 その手に持つ円錐状の物体がギュィィンと唸り声を上げながら回転する。

 その回転体を前面に押し出し突撃していく。

 その回転体は火花を撒き散らしながらストーンゴーレムを削っていく。


『行ったー! 突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリー。自慢のユニーク装備『ドリル』は今日も健在。堅いストーンゴーレムが見る見る削られていく。しかーし! ストーンゴーレムもただやられるのを見ているだけではない。その豪腕で払いのける』

『そうですね。突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーのドリルは確かに高い破壊力を持っていますが、さすがにストーンゴーレム相手では瞬殺とはいかないでしょう。素早いガーゴイルよりは鈍重なゴーレムの方が相性が良いでしょうが、決定打にはならないでしょうね』

『そうですね魔法生物は痛みを感じない分いくら削っても効果はないですからね。さあ、どうする突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリー!』


 実況と解説と思われる2人のやり取りも闘技場内に響く。

 それを聞きながらレイの口から言葉が漏れる。

「やっぱりアレ、ドリルなのか」

「アラ? カトー様はドリルを御存知で?」

「いや、まぁ、噂で」

「そうですか。ドリルは突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーの専用ユニーク武器なのだそうです。他の剣闘士が借りて使用したところ持ち上げる事すら出来なかったとか」

 カサンドラからそんな逸話を聞いていると、舞台上の戦いに変化が生まれてきていた。

 突撃 ⇒ ドリル攻撃 ⇒ ストーンゴーレムが振り払う。このサイクルを何度か繰り返していたが、それでは埒が開かないと振り払われ距離をとった突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーが何かをタメ始めた。


 皆が固唾を飲んで見守る中、目を見開いた彼女が叫ぶ。

『ドリル・ナッコォォ!』

 巻き舌気味の絶叫で正拳突きのように突き出された右手からドリルが射出された。


 射出されたドリルはストーンゴーレムの右腕の根元に食い込んだ。

 そのまま高速回転でストーンゴーレムを削っていく。むしろ回転数は上がっている。


「いやいや待て待て、おかしいだろ」

 思わずレイは突っ込んだ。

 射出された後もドリルが回転しているのは良い。それまでの回転力を維持しているか、内部に回転動力があるからだ。

 しかし相手にぶつかってからも回転力が落ちず、むしろ上がっている事は理解できない。


 ――物理学的にあり得ない。

 心中でそう突っ込んだレイだったが、魔法の蔓延る世界で「物理学的に」という事自体がナンセンスであった。


 レイの内心での驚きなど関係なくドリルはストーンゴーレムに潜っていく。

 そして、時間にして10秒前後か、ついにドリルがストーンゴーレムの右肩を貫通する。

 大穴の開いた右肩の先、右腕が崩れ落ちる。


『やりました! ついにストーンゴーレムを撃ち抜きました!』

『いやいや、本来ストーンゴーレムは力技でどうにかする相手ではないんですけどね。体のどこかに刻まれた魔導刻印を見つけてそこをピンポイントで削るのが正攻法なんですけどね』

 解説と実況の言葉に場内の観客からも歓声が上がる。

 どうやら彼女は非常識な存在らしい。その非常識さが闘技場の観客には受けるらしい。


 一方でゴーレムを貫通したドリルはどこかへ飛んでいくのかと思いきや、闘技場内を旋回し主の下まで戻っていく。

 それを再び装着し、片腕をなくしたストーンゴーレムを見据える。


『そろそろ終わりにしよう』

 そんな彼女の呟きを収音魔術が拾い場内に流す。


『おっと、ここで終了宣言だ! という事は……。出たー! アサルトブレイカー!』

 解説者が興奮気味にまくしたてる。

 それに煽られるように場内の熱気も最高潮を迎える。


 いつの間にか消えていたドリルに変わりその手に装着されていたのは、無骨な箱から飛び出た金属製の尖った棒。

 それは所謂

「アレ、パイルバンカーじゃね?」

 杭打ち機だった。


『ブースト!』

 そんな掛け声と共に弾丸のように一直線にストーンゴーレムへと突進していく。

 鎧の肩と腰の部分から後方へ向け炎が噴射されそれが推進力となり更に加速していく。


『撃ち抜く!』

 迎撃に振り下ろされる拳より早く懐へと飛び込む。

 突進の勢いのまま突き上げられた鉄杭はストーンゴーレムの腹部に突き刺さる。


『ペネトレイト!』

 そんな叫び声と共に「ズガン!」という炸裂音が連続で5回鳴り響く。

 炸裂音が1回鳴る度に重そうなストーンゴーレムの巨体が浮き上がる。


 腕を引き戻し飛び退って距離を取る。

 右腕の杭打ち機(アサルトブレイカー)に付いていた鉄杭はストーンゴーレムの腹部にそのまま残されている。

『エクスプロード!』

 そう叫ぶと大きく右手を振ってストーンゴーレムに背を向ける。

 それとほぼ同時にストーンゴーレムの体内で鉄杭が爆発し内部から破砕する。

 水平に伸ばされた右腕の杭打ち機(アサルトブレイカー)から薬莢らしきものが排出され同時に排熱の蒸気が噴き出す。

 そして鎧の隙間からも蒸気らしき物が噴き出している。


『決まったー! 突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーがストーンゴーレム『ガレオン5号』を粉砕! 完全決着!』

 実況者の声と共にスクリーンにはガックリと項垂れる男が映し出されている。それが今回のストーンゴーレムの作者なのだろう。


 観客の歓声に適当に手を振って応えている突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリー

「カサンドラさん、彼女の名前は?」

「名前ですか? ミユキ・ハザクラです」

「ミユキ・ハザクラ。これはもう確定で良いかな」

 レイはそんな呟きと共にスクリーンに映る突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーミユキ・ハザクラを見つめていた。


 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △


「あのさ、用が有るんならサッサと済ませて欲しいんだけど?」

 ミユキは不機嫌そうな声と共に路地の角を睨みつける。

 闘技場を出てからここまで付かず離れず付いてくる相手にイライラしていた。


「いや、どのタイミングで声を掛ければ良いものか悩んでいてね」

「サインが欲しいなら闘技場で声を掛ければ良かったんじゃない?」

 暗に「闘技場から付けていたのは知っている」という警告なのだろう警戒心むき出しの鋭い目付きで

路地から出てきた男を睨みつける。


「別にサインが欲しいとかじゃないよ。ちょっと聞きたい事があってね」

「フーン、で? 何が聞きたいわけ?」

「あのドリルとか杭打ち機とか、かな」

「教えると思う?」

 その言葉はミユキの警戒心を煽り立てる。

 淡い燐光と共に闘技場で身に纏っていた全身鎧がその身に装着されている。

 右手には例の杭打ち機も付いている。


 だが、次に発せられた言葉にミユキの目が見開かれる。


『いや、やっぱりちょっと違うかな。本当に聞きたいのは、ハザクラ・ミユキがどんな字か、かな? やっぱり葉っぱの桜で美しい雪?』

 それはミユキにとって慣れ親しんだ母国語、日本語だった。

 ただそれだけで彼が何者なのかを理解する。所謂ところの同郷者だ。

 そして本当にそんな事が聞きたい訳ではないと言う事も分かっていた。


『あぁ、忘れてた。俺はカトウ・レイ。加えるにふじの花の藤に王偏に命令の令で加藤 玲。こっちではレイ・カトーと名乗ってるけどな』

『なるほど。君が何者かは分かった。ちなみにミユキはひらがなよ』

 ミユキから発せられた日本語の返信に自身の予想が正しかった事を知りレイは胸をなでおろす。


 しかし、

「えっと、その臨戦態勢の解除はして貰えないのかな?」

 同郷者である事を理解した後も一向に武装解除する気配のないミユキにレイがおずおずと言葉を掛ける。


「ん? 相手の出身地が分かった事が警戒を解く理由になるの?」

「あぁ、うん、まぁそうだよな。でも、本当に何かしようという訳じゃないんだぜ」

「敵意は無さそうだとは思ってるよ。だとしても信用するかどうかは別問題」

 そう言いながらもミユキは武装を解除する。ただし警戒が解かれているようには見えない。


「それが貴女の能力って事かな?」

「あぁ、いくつかの私専用の武装を即座に換装出来る。そんなところさ」

 わずかに含みのある言い方にまだ隠された能力があるとレイは推測するが、それを暴き立てる必要もする気もない。

 

「ドリルに杭打ち機。随分と偏ったラインナップだな」

「ロマンがあると言って欲しいね」

 レイの言葉にミユキが若干むくれて口を尖らせる。


「男子なら分からんでもないが、女子でロマン武器を選ぶ奴は少ないんじゃないかな」

「悪かったね。ロボット物のアニメやゲームが好きな女子もいるんだよ」

「悪いとは言わないが、実際に杭打ち機を使ってる奴を初めて見たんでね」

 現実的に見て杭打ち機は間違いなくロマン武器である。「扱いずらいが威力は抜群」とも思われるが、ほぼ零距離でしか使えず、また杭を打ち出す意味もない。零距離で使うのなら杭を打ち出す衝撃を直接相手に叩き込む方が効率が良い。


「私は主人公と言えばマ○キやリュ○セイよりキョ○スケ派でね」

「はい? 今何と?」

「何でもない! 単なる趣味だ!」

 何かを小声で呟いた内容が聞き取れずに聞き返したレイにミユキは怒鳴り返す。


「それで? 私が日本人だとしたら何だというのだ?」

「いや、別に。気になったんで声を掛けてみただけさ。何か問題があったときに手を貸してもらえたらありがたい。ぐらいかな」

「フン。同郷のよしみで手隙なら手伝ってやらん事もない」

「助かる。まだしばらく王都にいるのか?」

「あぁ。今のところ王都を出る予定は無い。君は?」

「俺はクロスロードだ。王都には旅行で来たところだ」

「そうか。なら、記念に闘技場で戦っていけ。なんなら君が馬鹿にした杭打ち機(アサルトブレイカー)の威力を味あわせてあげるけど?」

「いやいや、珍しいと言っただけで馬鹿にはしてないぞ」

「どうだか。まぁ良い。気が向いたら参加してみな」

 そう言ってミユキは踵を返すと歩き去っていく。

 その背中には「もう付いてくるなよ」とでも言わんばかりの気配が漂っている。

 最後まで警戒は解かれないまま一定の距離が保たれたままだった。

 同郷であると言うだけの赤の他人。そう簡単に信頼関係が構築出来る筈もない。


「アスカが特殊だったのかね?」

 出会ってわずかな時間でレイをある程度は信用出来ると判断したアスカが異常に思える。

 どちらかと言えばレイもミユキ寄りの初対面の相手には用心してかかるタイプだ。


「ああそうだ。一応アスカにも連絡しておくか」

 レイはアスカから渡されていた遠話の水晶を取り出し相手を呼び出す。

 アスカと連絡を取るのは初めてではない。彼女が聖都で勇者が転生者であった事を確かめた際にも連絡が来ていた。


 しばらく待つと水晶が淡く輝く。

『もしもし。どうしたの?』

「転生者見つけたぞ」

『ホント? どこで?』

「王都だ。 突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーの二つ名持ちの闘技場の名物剣闘士だ」

『フーン。分かった。こっちももう一人見つけたよ。今度のはマッドサイエンティスト? そんな感じ』

「そいつはまた面倒な」

『そうよ。コンを解剖しようとして大変だったんだから』

 その後はしばらく世間話とも愚痴とも言える話が続く。

 そして最後に、

『そういえば、世界樹の位置が分かりそうなのよ』

「マジでか?」

『そう。ただ、話がややこしいと言うか、イマイチ理解できないと言うか。いずれ変態科学者連れてクロスロードに行くわね』

「分かった。じゃあ、またな」

『ええ、またね』

 水晶から光が消え通信が途絶える。


「変態科学者ね。アイツ等とは気が合うかもな。イヤだねー、面倒臭くなりそうで」

 レイはボヤキながらエリス達と合流すべく集合場所のハンターギルドへと歩き出した。

ミユキさん、まだまだ警戒中で堅いですが、本来はもう少しノリの良い人の予定です。


ちなみに私もキョ○スケ派です。

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