7 「パネェよ、異世界」
異世界生活3日目。
レイは朝から海を眺めていた。
王国で海の玄関と言われる港町ゼオレグ。
町は人と活気に溢れていた。
道行くのは人だけではなかった。
獣耳の生えた獣人。
耳の尖った痩身のエルフ。
小柄だが肉厚のドワーフ。
角の生えた鬼人。
その羽で宙に浮く妖精人。
正に様々な人種が闊歩している。
ノア(という世界の呼び名は誰も知ら無いらしい)には7つの大陸があり、現在居るのは2番目に大きい大陸で、その大陸を2分する大国家『リンディア王国』なのだという事だ。
「やっぱり、赤い海には違和感があるよな」
レイの知っている海と比べるとノアの海は色だけでなく匂いも違っていた。
海からは塩も取れるというのだから塩水なのだろうが、なぜかレイの知る海風とは匂いから違っていた。
大気中のマナでも溶け込んでいるのだろうか?
「パネェよ、異世界」
それがレイの偽らざる本音だった。
△ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △
ギルドでの登録と初依頼の報告をした後、自分達の依頼の報告を終えたマリーが3枚の金貨を渡してきた。
「これはルオルードの霊薬の代金だよ」
金貨3枚、30000ギル。貨幣の価値が分からないが、何となく大金である事は理解出来た。
「別に、ルオルードの霊薬の代金としては高くもないよ。
まぁ、リックの命の値段としては妥当か、ちょっと割高かな?」
「ちょっ!?僕の命は30000ギル以下?」
「フフ、まぁ遠慮なく受け取りなよ」
大金の受け取りに戸惑うレイの手にマリーが金貨3枚を握らせる。
「ありがとうございます」
実際、無一文だったレイには先程のレオルリーフの依頼報酬の552ギルだけでは生活に困るところだった。
当面をしのげるまとまったお金が手に入った事は喜ばしい事だ。
その後、マリー達の定宿を紹介され泊まる所の確保も出来た。
1泊素泊まり350ギル。朝夕の2食付で500ギル。
マリーとリックは3日、レイは10日の宿泊を申し込んだ。
1泊2食付で500ギルという所から、貨幣価値は大体1ギル=10円というあたりで良さそうだと考えたレイは、ルオルードの霊薬が30000ギル=30万円と言う事に気付き唖然とした。
(Rカードのアイテムは大体この位の値段なのだろうか?
【トリプルドロー】なら確実に1枚はRカードだ、それを売り捌くだけで生活していけるんじゃないか?意外とイージーモードだな。)
そんなヘタレな事をレイは考えていた。
勿論、異世界を堪能すると言う目的が変更になったわけではないが、最悪の場合の保険としての案だ。
その晩は、マリー、リックと2人の知り合いという数人のハンターと共に、2人の無事と新たな出会いを祝しての宴となった。
危険と隣り合わせのハンターには、出会いと別れが日常茶飯事なのだという。
今日隣で酒を飲んだ相手が明日には帰らぬ人となる事も珍しくはない。
そんな中で、命を落としかけたリックが、新たな出会いで助かった事を皆が喜んだ。
「しかし、ベノムスコーピオンとはツイてなかったな」
「いや、助かったんだから運が良かったんでしょ」
「いやいや、ツイてたらベノムスコーピオンには遭わないだろ」
酒が進むにつれ話題は死に掛けたリックの話になる。
リックも「マリーを庇って刺された」とは言わない。
そこがリックのイケメン度の高さを物語る。
「ありがとうな、レイ。コイツとは長い付き合いでな。まだ互いに駆け出しで、その青いケツをドノヴァンが狙ってた頃からの付き合いだ」
「チョッ!ライアン!その話は」
「あら、その噂本当だったの?リックが衆道者に狙われてたって?」
「そんな噂が!?」
「オウ、俺が発信元だ」
「ライアン!?」
酒が回ると話はどんどん下世話になっていく。
だが、皆が楽しみ、いじられるリックですら満更では無さそうだった。
「じゃあな、また飲もうぜ」
「オヤスミ。リック、マリーに襲われない様にね」
「襲うか!」
「りゃあ、ボキュが襲うきゃな」
「黙れ、酔っ払いが。置いていくぞ?」
たいして飲んだようにも見えなかったが、酒に弱いらしいリックがグデグデになり、マリーに肩を借りている。
それがいつもの事のようで、マリーも慣れている様だった。
リックを部屋に連れて行ったマリーが自分の部屋に戻ったかどうかは、まぁどうでも良い話である。
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翌朝、二日酔いの為に体調の悪そうなリックを引きずってマリーは出かけて行った。
装備品の手入れと、使ってしまった消耗品の補充をするのだそうだ。
レイも「町を案内しようか?」と誘われたのだが「2人のデートを邪魔するのは気が引ける」と茶化しマリーに殴られた。
そういう訳で、1人で港まで町を見て回りながらやってきた。
そして現在レイは、赤い海を眺めながら自身のスキル【カードファイター】について考えていた。
今朝、40時間有ったクールタイムが0になった。
【トリプルドロー】を行ったのは一昨日の16時。
日が沈む前というだけで正確な時刻は分からなかったのだが、ノアでも1日が24時間だと言う事が分かったので逆算する事で割り出せた。
何故、1日が24時間と分かったかというと、ゼオレグの町では朝の6時から夕方の18時までの間は1時間毎に鐘が鳴らされている。どうやって時間を計っているのかは分からないが、クールタイムのカウンターと見比べる限りはほぼ正確と言える。そして、最後の鐘が鳴ってから、次の日の最初の鐘が鳴るまでも12時間だった。
つまり1日は24時間という事だ。ただし、ノアでは何時ではなく何刻と言うようだ。そして、午前午後と言う表現も無い。1刻から24刻となっている。
ちなみに1年は360日。1月は1週間5日(光の日、土の日、水の日、火の日、風の日)が6週間で30日、12ヶ月で1年となっている。
クールタイムが0となった事で、次のドローが出来る。
「次はダブルドローだな」
レイは次のドローについては既に決めてあった。
トリプルドローが必ずR以上のカードが手に入る高レアリティーカード取得用のドローだとするのなら、ダブルドローにはどんなメリットが有るのか?
レイはそこに興味が有った。
「【ダブルドロー】」
周囲に人影が無い事を確認し小声で呟く。
その手に現れた2枚のカード。
『STR+10 ☆☆☆☆☆【NN】
基礎能力値にボーナス
共用カード
効果 基礎能力値STRに+10
使用時、発動回数1回。効果継続1時間 』
『初級錬金術(薬) ☆☆☆☆☆【NN】
スキル『薬剤錬金術(初級)』が使用出来る
共用カード
効果 初級の薬剤錬金術が可能になる
使用時、発動回数1回。効果継続1時間』
「ふむ、基礎能力系とスキル系か。両方ともNNだな」
2枚のカードを簡単に確認し、次いでステータス画面のログを確認する。
『ダブルドローを行った』
予想通りダブルドローの項目が有ったので、注視してヘルプを起動する。
『ダブルドロー:
2枚同時に取得出来る。クールタイム12時間。
SR以上レアリティのカードを取得する事は出来ない』
「ほう、クールタイムが短いな」
ノーマルドローのクールタイムが8時間だとすれば、2枚取得した際のクールタイムは計16時間。
ダブルドローなら12時間。4時間の短縮、25%の効率アップだ。
その代りにSR以上のカードが出ないというデメリットが有る。
だがこのデメリットは気にしなくても良いだろう。
もともとSR以上のカードが出る確率は1%だ。大したデメリットではない。
つまり、ここまでの情報をまとめてみると、
ダブルドローは、1枚あたりのクールタイムは6時間で高レアリティは出ない。
トリプルドローは、1枚あたりのクールタイムは13時間でRカード以上が必ず1枚は手に入る。
「とりあえず次はノーマルドローで、10回目がトリプルドローだな」
ノーマルドローのクールタイムを次回で調べる事と、メモリアルドローとなりそうな10回目をトリプルドローとする事だけは決めたが、通常時をどうするかはまだ保留だ。
そして、もう1つ考える事が有った。
「こいつ等をどうするかな」
一昨日引いたカードを再度確認する。
『不死鳥の首飾り ☆☆☆☆☆☆☆☆☆【SR】
不死鳥の涙を結晶化させた宝石の首飾り
使用限定カード
品質 高品質(高品質ボーナス『全状態異常耐性 大』)
効果 即死攻撃無効
HP・MP自動回復 中
全状態異常耐性 大 』
「コイツはチートだよな」
レイには『自動回復 中』『耐性 大』というのがどの程度の効果なのか分からないが、かなりの効果であるだろう事は想像出来た。
実際の効果は『自動回復』はHP・MPの最大値に対して小で10秒毎に0.3%、中で10秒毎に1%、大で10秒毎に3%が回復。『異常耐性』は小で25%、中で50%、大で75%、極で95%の確率で無効化が出来る。
「更にコイツは意味が分かんないし」
『建雷命 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【EX】
雷光を纏いし剣神。武芸全般に秀でた軍神
発動時に全MPを消費
神威カード
力 :★★★★★★
技量 :★★★★★★★★★
特殊能力:★★★★★★★
発動継続時間:600秒
クールタイム:30日 』
表には雷を纏い剣を構える男が描かれている。
「確か、建雷命って日本の神様だよな?雷の神様だったかな?
それを召喚する感じか?」
詳しい使い方等の詳細説明が無い。
10分しか発動しない代わりに全MP消費にクールタイムが1ヶ月とかバランスがおかしい。
クールタイムが有るという事は、使い捨てではないという事だ。
なら早めに使ってみて能力を把握しておきたいのだが、その後1ヶ月使えなくなるというのは考え物だ。
能力調査の実験の為に切り札が使用出来なくなるというのは困りものだ。
「ふむ、10回目のメモリアルドローでもう1枚神威が出たら試してみようか」
とりあえず今後の方針をそう決める。
「あとは『不死鳥の首飾り』は装備だな。『STR+10』もだな」
『不死鳥の首飾り』を具現化する。
親指サイズの透明な宝石の付いたシンプルな首飾りだ。
【鑑定】スキル持ちなら一目で価値が分かってしまうかもしれない。
とりあえず服の下に隠しておく。
カードの装備も「装備したい」と念じるだけで完了する。
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【頭部】
【体】異世界の衣
【腕】
【右手】
【左手】
【足】
【装飾品】不死鳥の首飾り
【カード】『STR+10』『 』
『 』『 』
『 』
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「さて、服や装備品でも買いに行こうかな」
呟きと共にレイは人の溢れる雑踏にまぎれていった。