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70 「闘技場にでも行こう」

『リンディア王国、王都リンドン。

 その始まりは王族の保養地として離宮の1つがその地に建てられた事に遡る。

 当時の王がそれまでに類を見ない最大級の離宮を作ろうと意気込んだ結果、3万人規模の地方都市に匹敵する広大な敷地面積を誇る離宮へと仕上がった。

 そして、その離宮を管理・手入れする者、離宮を警護する者が住む場所として離宮を囲む城壁に隣接する居住区が作られた。

 それがリンドンの始まりである。


 王国が周囲の国々を併呑し拡大して大国となっていく中、拡大した版図を統治するにあたり行政改革の必要性が訴えられ、国政改革『十年計画』が打ち出された。

 その主幹事業として遷都が提案された。

 いくつかの候補地の中から選ばれたのが現在の王都リンドンである。

 理由としては、既に十分に立派な離宮があり、それを新たな王宮とする事で王宮建設費用が抑えられる事、周囲の用地確保が容易である事等、様々な理由が上げられたが、最大の理由は誰もが口には出さなかった「聖都エレオスから遠い事」だった。


 初代国王が神の信託により即位した例に倣い、国王の即位には神の啓示という名の神殿の許可が必要とされてきた。

 その結果、神殿の国政に対する影響力は大きかった。

 その当時の王都だったのが王国南部のディアハイム、現在での『古都ディアハイム』だ。

 馬を走らせれば半日という近すぎる『王都ディルアイム』と『聖都エレオス』の位置関係も問題のひとつと認識されていた。

 政治と宗教を切り離す『政教分離』も遷都の狙いの1つとして確かにあった。


 新たなる王都として選ばれたリンドンは、より良い場所を勝ち取ろうと多くの貴族や商人から多額の寄付が寄せられ、遷都を含めた国家改造計画『十年計画』の主幹事業に多額の国費が投じられた結果、5年の歳月をかけ大陸でも類を見ない巨大都市として造られていった。


 王都リンドンの特徴の1つとして、都市の建設計画時から決められていた区画分けがある。

 都市内部に色分けされた城壁があり、壁の色によってその先に進める者と進めない者を分けている。

 最奥にある王宮を囲む白い城壁。当然ながらこの白い城壁の向こうへ進めるのは極々限られた一部の者だけである。

 その1つ外には赤い城壁に囲まれた貴族の住居や行政庁舎があり、この区画にも一般人は立ち入れない。

 その外側には青い城壁に囲まれた区画がある。そこには立ち入り制限こそ無いが、この区画に住居や店を構えようと思えばかなりの金額を用意しなければならない。いわゆる富裕層の区画である。

 その外に一般市民の暮らす区画がある。

 城壁を1つ越える度に居並ぶ建物の格式が別物へと変わるが、赤い城壁の向こうにどんな建物があるのかを知る事なく生涯を終える者の方が多い。


 更に王都を囲む城壁の外にも内に入りきれない者達によって作られた壁外町もある。

 王都の周辺は軍による治安維持活動が念入りに行われている為、魔物や盗賊等による被害はほぼ皆無と言える。

 その為か、壁外町の規模は年々大きくなり「10年後には王都城壁内部の人口を超える」とも言われている。


 リンディア王国、王都リンドン。

 大陸最大の都市はいまだに成長を続けている。 』




「フム、参考になるのかどうか微妙なパンフレットだな」

 馬車の返却の為にやってきたハンターギルドの王都支部に来ているレイは順番待ちの列に並びながら暇潰しに置かれていたパンフレットを読んでいた。

 王都の大まかな地図と名所案内、王都の成り立ち等が書かれている。

 だが、地図は大まか過ぎて役に立ちそうにもなく、名所案内も有名所ばかりで穴場的な物はない。


「まぁ、案内は大丈夫か」

 一行には王都出身者がいる。

 案内人は不要といえば不要だろう。


「次の方」

「あ、はい」

 ちょうどタイミング良く順番が回ってきた為レイの思考が切り替わる。

 「もう少しよく考えておくんだった」と後悔するのはもう少し後の事である。




「さて、まずは宿だな」

 馬車の返却を終えたレイ。

 まず確保したいのは活動拠点だ。


「エリス、お勧めの宿は?」

「知らない」

「……はい?」

「王都で宿に泊った事がない」

 観光業に携わっていない地元民は観光案内には向かない事が多い。

 何故なら地元を観光をする事が無いからだ。

 当然ながら実家のある地元で宿屋暮らしという者は少ないだろう。


「……え~と、王都の観光案内とか出来る?」

「図書館と資料館と研究施設と魔法実験場なら完全網羅」

 レイの質問に自慢気に答えるエリス。

 エリス・ロックハート、彼女のような趣味思考に偏りのある人物は観光案内には向かないのだろう。

 良く考えれば分かる事ではあった。


「……ハァ。初っ端から当てが外れたな」

「ギルドで聞いてまいりましょうか?」

 溜息を吐き肩を落とすレイにハクレンが提案する。


「あ! だったらエリスの実家に泊めてもらえば良いんじゃない?」

 ミーアが名案を閃いたと言わんばかりの表情で言う。


「問題ない」

「でしょでしょ!」

 簡単に頷いたエリスを見てミーアが目を輝かせる。

 ロックハート家は貴族ではない。しかし、それに匹敵する名家である。

 当然貴族並みの暮らしをしているであろう。

 そこにお泊りが出来る。娘の友人ともなれば下にも置かぬもてなしも期待出来る。

 ミーアはそれが狙いだった。


「あぁ、それもアリだな」

 ロックハート家のもてなしを期待してではないが、宿を探さずに済むというのは魅力的だ。


 ただし問題もある。

「あのオッサンが面倒臭そうなんだよな」

「あぁ、マイアス師ですね」

 なぜかレイをエリスの婿にしようとしている節のあるマイアス。

 そこへ2人揃って行けば「御両親へ御挨拶」とされかねない。


「パパならいない」

「いない?」

「イルハイム連邦への使節団に同行してる」

「ホウ、なら良いか」

 決まりだった。

 エリスの父、マイアスは感情豊かで人付き合いはよさそうだが、基本人の話を聞いていないような思い込んだら一直線で他人の迷惑など無関係といった男だ。

 それに対し母、クローディアはエリス以上に無表情なのだが、きちんと常識をわきまえた大人な女性だ。

 マイアスが居ないのであればそう面倒事にはならないだろう。

 そうレイは判断した。


「エリス、本当に迷惑じゃないのか?」

「ん、問題ない。ただ、まだ時間が早い」

「早い?」

「ママの仕事が夕方までかかる」

「あぁ、じゃあ、それまで観光でもするか」

「ん、案内する。どこが良い?」

 目を輝かせ上目遣いにエリスが尋ねる。


 しかし、残念ながら、

「いや、エリスに観光案内は無理そうだから」

「ッ!? 王立図書館とか」

「それは観光するところじゃないな」

「戦術級魔法が見れる第3実験場は観光名所。年間10万人が訪れる。半年先まで予約でいっぱい」

「そこは今から行っては入れるのですか?」

「……実験場を外から眺める」

「それ楽しいの?」

「ムゥ」

 レイ、ハクレン、ミーアにダメ出しをされエリスがうなだれる。


「じゃあ、闘技場にでも行こうぜ。今回の目的の1つだしな」

「ハイ! 参りましょう」

 目を輝かせるハクレン。

 本当に楽しみにしていたらしく尻尾がブンブンと振られている。


「あ~、エリス、案内してくれるか?」

「ん、こっち」

 心なしかうなだれたままのエリスに先導され一行は闘技場へと向かった。




 闘技場。

 王都観光の目玉に1つともなっている石造りの巨大の建物だ。

 腕自慢の戦士達が日夜その技量を試し合う場所であると同時に、王都に住む市民や観光客がそれを見て楽しむ場所でもある。

 そして、どちらかと言えば後者の方が色濃い場所である。

 人対人の決闘が行われる事もあれば、人対魔物の戦いが行われる事もある。1対1もあれば集団戦の時もある。

 舞台内に森や荒野を再現する事もあれば、川に架かった橋や宮殿の回廊を模して戦う事もある。

 水を張り船を浮かべ水上戦を行う時もあれば、天馬や飛竜に乗った騎士が空中戦で魅せる事もある。

 観客を楽しませる為に様々な仕掛けが施されている闘技場は正に娯楽施設と言える。

 勿論、戦う当人達にとっては命懸けで腕を振るう戦場である。


「へー、ここが闘技場か。あまり武芸者ぽいのが居ないんだな」

 レイが見渡したその場所は予想以上に綺麗な所だった。

 荒くれ者達が闊歩する粗野なイメージだったが、意外にも居るのは殆どが一般人といった感じの人達ばかりだった。

 武器を携えている者はほとんど居らず、居ても警備の者らしき制服の者が槍を持って立っている程度だ。


「ここは観客専用の入り口です。参加者の入り口は西側になりますよ」

 突然掛けられた声の方を向くと、柔和な笑みを浮かべた女性が居た。

「当闘技場の案内人を務めますカサンドラと申します。失礼ですが当闘技場は初めてとお見受けいたします。よろしければご案内いたしますが?」

 カサンドラと名乗った女性は優雅に一礼すると柔和な笑みを浮かべたまま案内役を買って出た。


「何で初めてだと?」

「あれだけ物珍しそうにキョロキョロ見回していらっしゃれば」

「あぁ、なるほど。じゃあ、お手数ですが案内お願いします」

 そう言ってレイはカサンドラに銀貨を手渡す。

 リンディア王国にて何かサービスを受けるにはチップが必要になるのが通例だ。


「ありがとうございます。すぐに観戦なさられますか? それとも場内をご案内いたしますか?」

「じゃあ、場内の案内をお願いします」

「かしこまりました」

 カサンドラに案内され闘技場を回る。


「当闘技場の最大収容人数は5万人。光の日と火の日が開催日となっております。開催日には次回の対戦内容の発表がされる事になっております」

「へー、名前の隣の数字は?」

 カサンドラが指し示した対戦内容の案内板。その名前の隣に書かれている数字の意味をミーアが尋ねる。


「対戦成績を表しています。前が対人戦、後ろが対魔物戦です。0‐0 3‐3というのは対人戦は行った事はないが、対魔物戦は3戦3勝という意味になります。名前の下に書かれているのがオッズです」

「オッズ? 賭けもしているのか?」

「はい。闘技場における大事な収入源です。ただ中には強すぎて賭けの成立しない場合もあります」

 そう言ってカサンドラが見る視線の先には『薔薇騎士ローゼンハイム 対 豪腕バルモンド』そのオッズは『1 対 99』。薔薇騎士ローゼンハイムに賭けても何の得にもならない。


「皆様は運が良いですよ。薔薇騎士が闘技場に出られるのは2月ぶりですから。彼の試合を見ようと今日は満員なんですよ」

「ふ~ん、人気なのね。無敗みたいだし」

 あまり興味なさ気にミーアが呟く。

 薔薇騎士ローゼンハイムの隣には7‐7 3‐3という数字。闘技場で全勝を意味している。

 その隣ではハクレンが本日の対戦内容を食い入るように見ている。


「あの、もし参加しようと思ったら?」

「本日と次回は対戦内容は決まっているので飛び入りは難しいと思います。ただ、対魔物戦であれば可能です。しかし、実力に見合わない魔物とマッチメイクされる可能性がありますのでお勧めは出来ません。参加を望まれるのでしたら事前登録をして実力認定試験を受ける事をお勧めします」

 ハクレンの質問にカサンドラが難しい顔で答える。

 闘技場での対魔物戦は基本的には人が勝つように調整されている。どうやって倒すか、もしくはどれほど鮮やかに倒すかを楽しむ物だ。その為、人が惨殺されるような戦いは好まれない。

 実力未知数な者の飛び入り参加は闘技場としても望んではいない。


「では、そろそろ舞台の方へ参りましょうか」

 カサンドラに案内され階段を上っていく。

 階段の出口に近づくにつれ観客席からの熱気が感じられる。


「ウワー! 凄っ!」

「投影魔術。拡大倍率10倍。使用者は舞台脇の4人」

 階段を出て最初に目に入ったのが巨大な壁に写し出された映像だった。

 その場所からは肉眼では何が起きているのか分からない距離だが、巨大な投影映像のおかげで最も遠い最上段からでも問題なく観戦が出来る。


「あれは……」

「ストーンゴーレム」

 エリスに言われるまでもなくそれは見れば分かる事だった。

 現在戦っている魔物は身の丈が人の倍はありそうな巨大な石のゴーレムだった。


「闘技場に出てくる魔物の大半は魔法生物です。時には野性の魔物も出しますが制御するのが大変ですので」

「魔道学院の生徒が練習で創ったりもする」

 カサンドラの説明にエリスが補足説明を入れる。


「じゃなくて、あの女性の方」

「彼女ですか? 最近売り出し中の剣闘士です。見慣れぬ武器を使用する豪快な戦いぶりで人気を博しています。どんな相手も恐れぬ勇姿から突撃戦乙女アサルト・ヴァルキリーとも呼ばれています」

「いや、というかアレ……」

 映し出された映像のレイが見つめるその先はストーンゴーレムに果敢に飛び掛る女性の姿。特にその手の得物。


『砕け散れー!』

 映像が投影されているのと同じようにその音声も拾われ闘技場のいたる所から聞こえてくる。

 ガガガガ!という破砕音でストーンゴーレムを削っていく。


「アレ、ドリルじゃね?」

 それは正しくかつて地球で見たドリルという名の道具だった。

闘技場、イメージは古代ローマのコロッセオです。

当然ながら八百長じみた結末の分かっている劇のような見世物もやります。


そして、新たな登場人物も。

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