表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/119

6 「のんびり行くさ」

「赤い…」

 目の前に広がる海は赤かった。


 ゼオレグの町に入った玲達は、この町の代名詞でもある港へと来ていた。


「海を見るのは初めてかい?」

「え、ええ、初めてです」

 玲は「赤い海は」という言葉は飲み込んだ。


 地球の海は青い。だがそれは海水が青いからではなく、光の反射・屈折・吸収によって青く見えているだけだ(詳しい説明は出来ないが)。


 ノアの海が赤いのは、海水の性質によるものなのか?もしくは海水自体が赤いのか?

 詳しい理由は分からなかったが、玲はひとまずこう考える事にした。


 『異世界だから』


 地球での常識など役に立たない事を改めて思い知らされた。



「さぁ、そろそろギルドへ行こうか」

 マリー達は依頼の結果報告の為に。玲はハンター登録の為に。

 ハンターギルドへと向かった。



「盾と剣と槍の紋章。あれがハンターギルドの印だよ。大きな町なら大抵は在るから」

 マリー達に連れられてやってきたハンターギルド。


 建物の中に入ると、そこは

 荒廃した場末の酒場、筋肉と傷を自慢しあう半裸の男達、テーブルや椅子だった物達の残骸と血と埃で薄汚れた内装。


 というわけでは無かった。


 そんな荒くれ者達のたまり場的なイメージをしていた玲は、整理整頓された店内と、おとなしく自分の番を並んで待っているハンター達に若干驚いていた。


「あれ?昼間から酒を飲んで絡んでくる酔っ払いとかは?初めて見る新顔に『ここはボーヤの遊び場じゃないぜ?』とか『おいおい、いつからここは幼稚園になったんだ?』とか言ってくるテンプレの三下は?」

「ようちえん?てんぷれ?何を言っているのか分からないけど、この支部は酒場を併設してないし、ゼオレグには国軍が駐屯してるからガラの悪い奴はあんまり居ないよ」

「そもそも、そのイメージは何だ?誰を見てのイメージだい?

 ん?ちょっとじっくり話を聞かせて貰おうじゃないか」

 思いがけず漏れ出した思考にリックが首をかしげ、マリーが剣呑な雰囲気になる。


「えーと、ちょっとなのか、じっくりなのかハッキリしないと困ると言うか…」

「ハッキリさせようか?」

「いえ、ごめんなさい」

 素直に頭を下げた玲の額をマリーのデコピンが襲う。


「痛!?」

 それは高校球児だった頃に受けた硬球のデットボールを上回る破壊力だった。


「暴力反対!世界は平和を求めています」

「そうだね私も言葉の暴力には反対だね」

 涙ながらに訴える玲にマリーが冷やかに言葉を返す。


「ふむ、それだと腕力による暴力は反対しない。そういう事に…グフッ!」

「揚げ足を取るんじゃないよ!」

 背後に立っていたリックのみぞおちに深々と突き刺さるマリーの肘。

 玲は自分がちゃんと手加減されていた事に気付く。


「馬鹿な事やってないで行くよ」

「はーい」

 玲は大人しくマリーに付いて行った。


「まっ…て…」

 あまりにも良い角度で入り呼吸困難になっているリックを置いて。



「あ、マリーさん、お帰りなさい」

 まず向かったのは『受付』という看板の掛かったカウンターだった。

 受付にいた女性がマリーだと気付き挨拶をする。


「どうでした?」

 魔物の討伐依頼だったのだから、2人が無事に帰ってきた段階で結果の予想は出来ているのだろう、首尾を聞くその表情は明るい。


「ああ、バッチリさ。森に住み着いたランガルの群れ、12体を討伐して来たよ。

 いつも通りに全部持ってきているから、買い取りカウンターで討伐証明出してもらうよ」

 そう言ってマリーは受付の女性に笑いかける。


「それは後でやるとして、まずはこの子の登録を頼むよ」

 そう言ってマリーは玲の背を押す。


「よろしくお願いします」

「え?あ、はい」

 受付の女性は、頭を下げる玲に目を向ける。


「それでは、改めまして、ハンターギルド、ゼオレグ支部へようこそ。

 本日はギルドへの登録で宜しいですか?」

 満面の営業スマイルを受け、玲のハンター登録が始まった。



 ギルドへの登録は簡単だ。

 ・犯罪者ではない事(前科者も刑に服し終えていればOK)

 ・ハンターとしての仕事に適している事(全盲や半身不随等の障害がない事)

 ・15歳以上である事

 以上が満たされていれば、3000ギルの登録料を支払えば誰でも登録出来る。

 登録料が高めなのは、軽い気持で登録する者を無くすのが狙いだ。ハンターは命懸けの仕事なのだ。

 お金が無い者の為にギルドがまずは立て替え、その後の依頼達成報酬から少しずつ返済する(利子有り)システムもある。


 ちなみに玲の登録料はマリーが支払った。


「それではこちらの登録用紙に記入をお願いします」

 出された用紙は、氏名と年齢、得意な武器や魔法を書き込むだけの簡潔な物だった。


「必要ならば代筆も致しますが?」

「あー、いえ、大丈夫です」

 玲にとっては初めて目にする文字なのだが、不思議なゴッドパワーのおかげで問題なく読み書きが出来た。


「これでお願いします」

「はい、確認させて頂きます」

 必要事項を記入した用紙を受付に返す。


「レイ・カトー様、18歳。得意武器魔法共に無し。

 これで宜しいですか?」

「はい、問題ありません」

「それではこの内容で登録いたしますので、こちらの水晶に手を乗せてください」

 目の前に出された透明な球体の乗った箱。


「そちらの魔導器は個人の魔力の波長を読み取り記録します。

 その情報を元に専用のハンターカードを発行します」

 このハンターカードは魔力の波長に共鳴し、記録された氏名やランクの表示をする仕様になっている。

 つまり、このハンターカードは持ち主以外には反応しない。

 その事からハンターカードは身分証明としても使用出来る。


 玲は指示されたとおりに水晶に手を置く。

 水晶がわずかに光を放つ。


「はい、結構です。これで登録作業終了です。

 ハンターカードは3日ほどで出来上がりますので、それまではこの仮の登録証を使用して下さい」

 登録作業自体は僅か数秒で終了したが、特殊なハンターカードの作成には時間が多少かかるようだ。


「次に依頼とハンターのランクについて説明します。

 依頼はその難易度によってSABCDEFの7階級にそれぞれに+と-を加えた21段階で評価されます。これを一応の目安としてお考え下さい。

 同様にハンターもその実力によって階級が付けられます。ただし、ハンターランクには依頼ランクにはないG、SS、SSSが存在します」


 説明によるとハンターはGランクから始まり、この段階で適正がないと判断される事も有るそうだ。

 イメージとしては、

 Gランク=志望者

 Fランク=見習い

 Eランク=駆け出し

 Dランク=半人前

 Cランク=1人前、中堅

 Bランク=熟練者、一流

 Aランク=超一流

 Sランク=国内トップクラス

 SSランク=大陸全土での英雄

 といった感じだ。


「御自分のランクより高いランクの依頼を受けることは出来ますが、2ランク下の依頼は受けることが出来ません。ただし、ギルドもしくは依頼人より直接指名のある場合は別となっております」

 つまりCランクのハンターはEランクの依頼は受けられないという事だ。


 マリーの言っていた「この森にレオルリーフの採取依頼で来る者はいない」というのは、レオルリーフの採取というEランクの依頼を受けられるのはDランク以下のハンターだけで、ジルドの森は魔物のアベレージがCランク以上だという。そのこと事から、Dランク以下のハンターがレオルリーフの採取の為にジルドの森に行く事は自殺行為に等しいので来ないという意味だった。


 依頼の取捨選択もハンターの力量の内だ。

 当然ギルド側からアドバイスはするが、最終的な選択はハンター側が行う。

 毎年無謀な依頼を強行して命を落とすハンターが少なからず出る。

 自分の身の丈に合った依頼が選べる事が大事なのだそうだ。


「では次に依頼の受け方ですが」

「ああ、それは実際にやりながら教えるから」

「え?あぁ、分かりました」

「じゃあ、付いておいで」

 マリーに案内され玲は依頼が表示されている掲示板に向かう。


「依頼はランク毎に掲示板に表示されている。金枠の掲示板はAランク以上、銀枠の掲示板はBとCランク、木枠の掲示板はD,E,Fランク」

 そう言って木枠の掲示板の前に立つ。


 依頼は一つ一つ『依頼票』にされ掲示板に貼られている。

 木枠の掲示板は、銀枠の物に比べて依頼票がかなり少ない。


「今回はEランクの『レオルリーフの採取』ね。採取依頼は先に採取してあった物を納品しても問題無いけど、討伐依頼は依頼を受けてから討伐しないとダメよ。

 採取依頼は現物の納品、討伐依頼は討伐証明部位の提出で依頼達成」


『依頼 レオルリーフの採取

 内容 レイルリーフの納品

     1口5株 23ギル  

 期限 なし 』


「この依頼票を持ってカウンターで依頼の登録処理をして貰うよ」


 再びカウンターに戻り依頼の登録をして貰う。依頼票に受領印が押される。


「この受領印が無いと意味が無いからね。必ず受付で登録するんだよ」


 今度は買い取り・鑑定用のカウンターへ案内される。


「ここが、買い取り用のカウンター。大物は倉庫で行うよ。

 依頼票と一緒に物を出したら、鑑定して達成証明印を依頼票に押してくれるから、それを持って受付カウンターで報奨金を貰って終了。簡単だろ?」

 そう言ってマリーは自身のアイテムボックスから麻袋を3つ取り出し玲に渡す。


 ジルドの森にはいたる所でレオルリーフが群生しており、100株を超える大量のレオルリーフが採取出来た。

 当然ながら玲の持っていた麻袋には入りきらず、マリーが持っていた麻袋を借りて収納しておいて貰った。


「あー、それと今回は、ちゃんとレイが採取したのを私が持っていただけだから良いけど、高位のハンターが採取した品を低位のハンターが提出したりすると、両者共に違反とみなされるから注意しなよ」

「まぁ、こういった採取系の依頼は実の所ギルドを通さずに直接売買した方が儲かるからやる人間は少ないけど、知り合いのハンターを早くランクアップさせようとしてやる人がよく居るからね」

 そんな裏話をしている内に玲達の番が回ってきた。


「これ、お願いします」

「はいよ、レオルリーフね。って多いな」

 麻袋3つ分のレオルリーフをカウンターに乗せる。


「買い取りカウンターの職員は【鑑定】のスキル持ちだから誤魔化しは効かないよ。よく似た品を混ぜて水増ししてもすぐバレるからね」

「さすがは、ねこ「何か言ったかい!」…いえ、別に」

 職員の鑑定結果を待つ間にマリーの実体験を元にしたありがたいお話を聞く。

 何か口を挟もうとしたリックはマリーのガンつけで黙りこんだ。


「よし、レオルリーフ122株で、24口だな。余った2株はどうする?1株4ギルで買い取る事も出来るけど?」

 ギルドの買い取りカウンターは依頼とは無関係の品物の鑑定と買い取りもやっている。

 勿論その場合は手数料も掛かるのだが。


「引き取って次回の依頼に回した方が良いな」

「売るなら、知り合いの薬剤師に売ったほうが儲かるしね」

「お前等な、ギルドハンターならギルドに貢献しろよな」

 マリーとリックの言葉に職員は溜息混じりにぼやいた。



「はい、依頼完了ですね。レイさんはGランクですので、後4つ依頼を達成しますとFランクへと昇格します。頑張って下さいね」

 登録したてのGランクは5つ依頼を達成すると昇格するらしい。

 その際の依頼のランクは関係無いそうだ。Aランクの依頼だろうと、Fランクの依頼だろうと5つこなす必要が有るらしい。

 ちなみに同じ依頼は何回こなしても1つとしてしかカウントされない。


 Fランクに昇格した後は達成した依頼のランクや内容から実力を勘案して飛び級に昇格する事もあるそうだ。


 2つの依頼は同時に受けられない。だからメインとなる依頼を受けながら、採取系の依頼なども頭に入れて探しておくのだそうだ。

 初日に5つの依頼をこなしFランクに昇格する事も珍しくは無いそうだ。


 こうして加藤 玲、いやレイ・カトーの異世界生活が本格的に始まろうとしていた。


「のんびり行くさ」

 掲示板の依頼を眺めながらレイはそう呟いた。

名前が『レイ・カトー』で登録されたので、

今後の主人公の名前の表記は『レイ・カトー』で統一します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ