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5 「ほら、あれがゼオレグだよ」

 異世界初日は静かに終わり、異世界2日目の朝が普通に訪れた。


 マリーが見つけた野営地で火を起こし、夕食を摂り、結界石を使用し眠りに就いた。

 結界石のおかげか、マリーのおかげか、玲はぐっすりと眠った。

 マリーと違い、野外で眠る経験など無かった玲だったが何故かすんなりと眠りにつく事が出来た。


 それまでの間に玲はマリーから様々な話を聞いた。

 野営に向いている場所。野営の際に気にすべき事や、やってはいけない事。

 簡易的な魔物への対処の仕方や撃退の方法。


 その中で玲が最も気になったのは、ハンターという存在だった。

 マリーの話に時折出てきたハンターと単語が気になり聞いたところ、

「ハンターというのはハンターギルドに所属している者の事さ。

 一言で言えば、何でも屋かな。ハンターギルドに寄せられる依頼をこなし金銭を得る。

 薬草採取、魔物の討伐、商人の護衛、様々な依頼をこなす仕事さ」

 との事だった。


 冒険者や探索者など様々に呼ばれる事もあるようだが、ハンターが正式名称で、更には公的名称でもある様だ。ハンターを名乗って良いのはギルド発行のライセンスを持つ者だけらしい。


 ハンターにはランクが有り、Gランクから始まり、G→F→E→D→C→B→A→Sとランクアップする。

 その上にSSとSSSというのも存在するのだが、これは一種の名誉称号の様な物らしく、一般的にはSランクが最高位とされている。

 ちなみにマリーとリックはBランクで一流と言っても良いレベルだという事だ。


 もう1つ玲が気になったのが、マリーの腕輪だった。


 マリーはほとんど荷物らしいものを持っていなかった。

 気が付くと最初に見た血の付いた剣も無くなっていた。

 にもかかわらず、野営地を見つけた後には様々な道具が並べられていた。


 不思議に思う玲の視線に気付いたマリーは笑いながらその腕輪を見せた。

「これは『アイテムボックス』だよ。正確には腕輪についている宝石が、だけどね」


 アイテムボックスというのは大昔に作られた魔道具の1つで、大量の物を収納出来るのだそうだ。

 ただ、一口にアイテムボックスと言っても、ピンからキリまで有るようで、収納するだけの物から収納・仕分け・状態保存まで出来る物まで様々なようだ。


「これは結構な高性能品でね、収納量も多く、盗難対策に使用者登録まで付いてるんだよ」

 そう言ってマリーは自慢するように腕輪を見せつけ嬉しそうに笑う。


 全く同じに見える腕輪がリックの左手にも付いていた。


「マリーさんとリックさんは恋人なんですか?」

 玲の素朴な疑問にマリーが固まる。


「なっ!?ば、馬鹿な事言うんじゃないよ!私とリックが、そんな…なんて……馬鹿だねー!」

 顔を真っ赤にして挙動不審になるマリーに確信が生まれる。


「リア充め、爆発しろ!」

 そんなマリーに玲は祝福の言葉を送っておいた。




「ほら、朝だよ起きな」

 肩を揺すられ起こされた玲をマリーの優しい笑顔が迎える。


「お早うございます」

「おはよう。簡単なスープを作っておいたから朝食にしよう」

 そう言って指差す先には、湯気の立ち昇る鍋が在った。

 どうやらマリーは一足早く起き朝食の準備をしてくれていたようだ。


「さーて、そろそろあの馬鹿も蹴り起こさなきゃね」

 そう言ってリックに歩み寄ったマリーは

「いい加減に起きな!今日はもう背負しょわないよ!」

 言葉通りにリックを蹴り起こした。



「ヒドイよマリー」

「いつまでも寝てるアンタが悪い」

 蹴られた脇腹をさすりながらリックが愚痴る。

 しかしマリーはそんな愚痴を一蹴する。


 リックはアッシュブロンドの髪を短く刈り上げたイケメンだ。

 体格的には中肉中背というより若干小柄な方だ。

 優しげな風貌でどこか儚げな雰囲気を醸し出す母性本能を刺激する癒し系だ。


「爆ぜろ!イケメン」

「えーと?」

 玲の呪いの言葉を正面から受け、リックは不思議そうな顔をする。


「彼はレイ。アンタの命の恩人だよ」

「は?なに?どういう事?」

 いきなりの展開に全く付いて来れていないリックにマリーがここまでの経緯を説明する。


 マリーとリックがこの森で魔物を狩り終えた後の事だ。

 一時休憩をしてから町への帰路に着こうとしていた時だった。

 猛毒を持つベノムスコーピオンがすぐ傍の茂みに潜んでいた。


 最初に気付いたのはリックだった。マリーを狙い毒針を振り下ろそうとしていた。

 声を掛ける間もなくリックはマリーを突き飛ばした。

 そしてそのリックの腕に毒針は突き刺さった。

 素早くマリーがベノムスコーピオンを退治したものの、既にリックは猛毒に倒れていた。


 毒を吸い出し、ありったけの解毒薬を使ったが手に負えず、町へ急いで戻る事にした。


「本当に困ったよ。危険だけど夜通し森を行くしかないと思ったね。

 リックの呼吸はどんどん荒くなるし、熱も出てきていたし。これはヤバイと思ったね」


 マリーは獣や魔物を蹴散らしながら町へと急いでいた。

 玲と出会ったときに血染めの剣を持っていたのは、その都度しまうのが面倒になった結果、抜き身のまま持ち歩いていた為だ。


「そんな時にレイに会ったのさ。事情を話したらルオルードの霊薬を渡してくれてね。

 そういう訳でレイはアンタの命の恩人さ」

「ル、ルオルードの霊薬!?それってアレ?金貨何枚もするアレ?」

「そう、アレ。ちゃんとお礼言っておきなさいよ」

 マリーに言われるまでも無く、リックはレイに深々と頭を下げる。


「ありがとうございました。おかげでマリーを独り者にしないですみました」

「なっ!?」

 突然のリックの言葉にマリーが固まる。


「ほう?そういえば随分と焦っていたようでしたな?」

「でしょ?こう見えて、結構可愛げが…ゴハァ」

「な、何を言ってんだい!」

 リックの言葉を遮るようにマリーの見事な脚線美が延髄に叩き込まれる。


「レイも、あんまり悪ノリすると怒るよ」

「ノー。暴力反対!」

 どうやらまだ怒ってはいないらしい。今のは単なる反射的行動なのだろうか?


「照れてるだけさ、2人きりの時は…ゴフ」

「黙りな!」

 地面に突っ伏したまま更なる爆弾の投下を試みたリックは、後頭部を踏まれ地面とキスをする事となった。


「アンタ達、これ以上ふざけるんなら覚悟するんだね」

 その右手には、いつの間にか剣が握られている。


「「スイマセンでした!」」

 睨みをきかせるマリーに、男2人は即座に頭を下げた。



 そんなマリーとリックだったが、ハンターとしての腕は確かだった。


 マリーは生粋のインファイター。

 戦闘に入るやいなや、一直線に敵に肉薄しその剣を叩き込む。

 強さと速さで暴れまわる姿は、しなやかな躍動感に溢れていた。


 リックは器用に何でもこなす万能型。

 遠距離からの魔術による先制攻撃、マリーの死角を補うようなフォロー。

 剣と魔術の両方をバランス良く使い危なげなく敵を葬っていく。


 そして2人は互いを信頼し合っているのだろう、アイコンタクトさえ必要としない抜群の連携で敵を狩り尽くしていく。


「全く出番が無い」

 一応は玲もショートソードを持ち、『火矢ファイヤーアロー』を準備をしておいたのだが、必要とされる事は無かった。

 危険を冒さずに済む。それは喜ぶべき事なのだろうが、一抹の寂しさも感じていた。



「この辺でお昼にしようか?」

 森の中を歩き続ける事数時間、日が頂点に差し掛かった頃にリックがそう切り出した。


「もうすぐ森を抜けられるだろう、一気に抜けた方が良いんじゃないか?」

 マリーはこのまま森を抜けてしまおうと提案する。


「いや、一度休憩をした方が良いだろうね」

 そう言ってリックが玲へと視線を送る。


「ああ、そうか。そうだな、休憩にしよう」

 玲の体力が限界に近いことを察したマリーも前言を撤回し休憩に賛同する。


「スイマセン。助かります」

 玲がその場にへたり込む。


「フフ、もうちょっと鍛えないとダメだね」

「全くだ。リックよりひ弱というのは問題だぞ」

 それは体力の問題と言うよりは、絶えず周囲への警戒を続けねばならない事への精神的疲労が原因なのだが、玲には反論するだけの余力も無かった。



「お、レオルリーフだ」

 休憩を兼ねて軽い昼食を食べ終え出発しようとした時、周囲を見ていたリックが何かに気付いた。


「ん?本当だ。レイ、ちょっとおいで」

 リックの視線の先を確認したマリーが玲を呼ぶ。


「良いかい、これはレオルリーフ。所謂薬草の一種だよ。繁殖力が強く、森や平原だけでなく町の隅に生えていたりもする。下級回復薬の元になるから年中採取依頼が出されているよ。10株で50ギルぐらいかな。50株も持って行けば1日のメシ代ぐらいにはなるよ」

 そう言ってマリーが一株抜いて見せる。

 まるで春菊とでもいうか、そんな感じの緑の野草だ。


 『ギル』というのはこの国での通貨単位だ。

 硬貨は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨、白金貨、聖晶貨の8種類だ。

 1ギルが銅貨1枚で、銅貨10枚で大銅貨1枚。大銅貨10枚で銀貨1枚といったように10枚で上位硬貨に変わる。

 白金貨は余程の大商人でもなければ使う事は無く、聖晶貨に至っては本当に実在しているのか分からない代物だという。


 10株で50ギル、50株なら250ギル。それで1日の食事代という事なら、1ギルは10円前後といったところか。


「ハンターになるなら、最初はこういった簡単な採取がメインになるからね。覚えておいて損はないよ」

 既にマリーとはハンターになりたいという旨の話をしてあった。


 何の伝手も無い玲にとって己の身一つで生きていくにはそれが手っ取り早い方法だった。

 そもそもが玲の心中を言葉にするなら「その為にノアまで来た」という事になる。

 剣と魔法の世界を満喫するのが目的ともいえるのだから、まずはハンターになるのが必然とも言えた。


「それと、『全部採らない』これも大事な事だよ。ここには30~40株は生えているから、10株ぐらいは残そうか。そうしたら3ヶ月もすれば元に戻っているだろうね。そうやって適度に残す事。目先の事だけに囚われたらダメだよ」

 ハンターを志望する後輩に、ハンターの心得を教えるマリー。


「まぁ、この森にレオルリーフの採取依頼で来る者はそうそうはいないだろうけど、そういう習慣をつけておくと良いよ」

「うんうん、マリーも立派になったもんだ」

 そんなマリーと玲をニヤニヤしながら見守っていたリックが口を開く。


「何か文句でも?」

 含みの有る言葉にマリーが眉間にしわを寄せる。


「いやいや、お見事な指導だと思いまして。流石は『根こそぎ』マリーさんだ」

「なっ!?」

「根こそぎ?」

 リックの言葉にマリーが絶句する。

 なにやら面白そうな話が聞けそうな雰囲気に玲が聞き返す。


「そう。あれは10年ほど昔、僕がまだハンターになったばかりの頃。薬草に似た草を見つけると、真偽を確かめずに全て根こそぎ持っていくハンターが居たそうだ。ついた渾名が『根こそぎ』さ。その後あまりに雑草の持込が多いのでギルドマスターにハンターの心得をみっちり説教されたらしいよ」

「しょうがないだろ!あの頃はまだ【鑑定眼】を修得してなかったんだから」

「うんうん。しょうがない、しょうがないよね。

 良いかいレイ、大事なのは先人の失敗から学ぶ事だよ。それがどんなにしょうもない失敗でも…グハ!」

 ゴスッ!と良い音をさせリックの脳天に鞘ぐるみの剣が叩き落された。


「悪かったね。しょうもない失敗で!」

 かつての失敗を暴露され赤面のマリー。


「グオォ!頭が割れる」

 頭を押さえ転げまわるリック。

 彼こそ過去の事例から何も学んでいないような気がした。


「うん。学習は大事だな」

 そんなリックの姿に過去の事例から学ぶ事の大事さを教わった玲だった。




「ほら、あれがゼオレグだよ」

 森を抜け、その先に広がる平原を1時間以上歩き、ようやく見えてきた城壁。


「あれがゼオレグ」

「そう、リンディア王国の玄関。港町ゼオレグさ」


 更に歩き続け、大きく見えてくる城壁。

 そしてその向こうに見える大海原。


「……赤い」

 ノアの海は、赤かった。

マリー:本名、マリアンヌ・シモンズ

    面倒見の良い姉御肌の28歳

    バクチ好きで、以前は宵越しの金は持たない主義のギャンブラーだった。

    その結果、リックに多額の借金をし頭が上がらなくなるが、

    3年掛けて完済。以降は今のような対等なパートナーになった。

    (実際はマリーが主導権を握っている様でいて上手く操られている)


リック:本名、リッケンバウム・エイレンス

    Bランクなのに「ハンターには見えない」と言われるのが悩みの27歳

    マリーと同時期にハンターギルドに登録し、7年前からコンビを組む。

    下戸なのに酒宴等、大勢で騒ぐことが好きで、皆から弄られる役。

    マリーの尻に敷かれているようで、その実は上手く操っている。

    (時々、怒らせて殴られるのも計算通り?)


チョイ役のつもりで出したのに、意外と愛着のわいた2人です。

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