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52 「明後日が楽しみだ」

 赤の月、第三週の光の日。

 赤の月は一年の始まりとされる白の月から数えて7月目だ。

 光の日は地球で言うところの日曜日だ。この日を休日にしている者は多い。

 そして、レイも光の日を休日と決め、この日は依頼を受けないと決めていた。

 エリス、ハクレン、ミーアにもほの日はのんびりと自由に過ごすように言ってある。


 レイは自室でカードの整理を行うと共にクールタイムが終わるのを待っていた。

「3、2、1、0。【トリプルドロー】」

 クールタイムが終わるとほぼ同時に次のドローを行う。

 現れたカードは『VIT+10【NN】』『光球ライト【N】』『祝福の腕輪【SR】』


「お!スーパーレア。ツイてるね」

 トリプルドローで取得できる3枚のカードのレアリティは重複しない。

 2枚はNとNNになってしまったとしても残りの1枚はR以上が確定する。

 確率的には90%がR、10%がSRだ。今のところはまだ出てはいないがEXの可能性も1%以下だが有り得る。


「ふーん、『祝福の腕輪』ね」


『祝福の腕輪 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆【SR】

 女神の祝福を受けた腕輪

 使用限定カード

 品質 高品質(高品質ボーナス『聖属性補正』)

 効果 全能力値補正 中

    スキル ホーリーソード修得

    聖属性補正 中 』


「中々チートな逸品だな。もうチョイ早くに出て欲しかったな」

 具現化した『祝福の腕輪』の白銀の輝きを見ながらレイが残念そうに呟く。

 性能的にも、外観的にも文句の付けようのない逸品に思える。

 もう少し早くに手に入れていたのなら、コレをハクレンの誕生日プレゼントにしただろう。

 

「まぁ良いさ、持っていて困る物でもないし」

 使わずに持っているだけでは宝の持ち腐れなのだが、実際に腐る訳でもない。

 いずれ使い道もあるだろう。


「それと、『光球ライト』か」


『光球 ☆☆☆【N】

 生活系、基礎魔術『光球ライト』が使用出来る

 共用カード

 効果 光源となる光の玉を作り出せる(複数可)

 使用MP2 』


「ん~、要らないな」

 便利と言えば便利な魔術だが、その為に装備スロットの1つを潰すほどの物でも無い。

 そもそも『基礎魔術』という『浄化』『光球』『点火』『息吹』という4つの基礎魔術を使えるカードを装備済みだ。

 

「はい、素材行き」

 素材というのは、リサイクルドローを行う為に捨てるカードの事だ。

 これまでの試行の結果、リサイクルドローについてもいくつか分かった事がある。

 1つはリサイクルドローを行う為のカードは、拾った物や店で買った品をカード化した物ではダメだという事だ。

 リサイクルドローは時間とカードをかけていけばいつかはExに辿り着ける。

 流石に拾った石と雑草でEXカードを手に入れるのはナシという事なのだろう。

 つまりは、リサイクルドローの素材として使用できるのは、スキル【カードファイター】で手に入れたカードだけだという事だ。

 

「じゃあ、『光球(3星)』『氷針(5星)』『土壁(6星)』『VIT+10(5星)』『クロスボウ(6星)』を素材に【リサイクルドロー】」


 5枚のカードが集まり1つのカードに変わる。


「ふむ『火炎槍フレイムランス(7星)』か。中級魔術だな」


『火炎槍 ☆☆☆☆☆☆☆【R】

 火炎系、中級魔術『火炎槍フレイムランス』が使用出来る

 共用カード

 効果 炎の槍を生み出し指定した対象を攻撃出来る

 使用MP30 』


「予想通りだな」

 リサイクルドローについて、もう1つ分かったのが手に入るカードは素材にしたカードの系統によって決まるという事だ。

 カードの系統は『アイテム』『魔法』『スキル』『能力値補正』それと『神威』の5系統だ。

 『神威』を素材にする事はまず無いので素材になるカードは4系統と言える。

 そして素材にしたカードの多数決で新しいカード決まるようだ。ただし『枚数』ではなく『星の数』による多数決のようだ。

 今回は『魔法』系のカードが手に入るように素材を調整した。

 同じ様に素材を調整することで手に入るカードの系統をコントロールできる。

 あくまで、系統のコントロールでしかないのだが。


「さて、出かけるか」

 個人個人が自由に過ごすと決めた休日。

 エリスは調べ物をするとかで図書館に出掛けている。

 ミーアは孤児院に遊びに行った。

 ハクレンは先程から庭で剣を振っている。


 朝の内にレイも出かける予定だと言ってある。

 ハクレンが「お供します」と言っていたが、今日は連れて行くわけには行かない。

 サッサと用事を済ませて帰ってこよう。

 そう決めてレイは家を出た。 






「いらっしゃいませ!」

 扉を開け店内に入ると元気な声が飛んでくる。


「あ、レイさん」

 客がレイだと気付くと、輝く笑顔と共にイリスが走り寄ってくる。


「こんにちは。順調か?」

「はい。といっても、まだ座って店番してるだけなんですけどね。お客さんの実際の対応はハイネリアさんがしてます」

「そうか、じゃあ呼んでもらえるか?」

 レイに頼まれたイリスは「はーい。ハイネリアさーん!」と店の奥へと駆けていく。


 イルアが働き始めたように、イリスも働き始めていた。

 イリスの就職先は『ユーディル雑貨店』だった。

 さすがにハンターギルドに子供を2人も雇ってもらう訳にはいかず、考えた末の答えだった。


 イリスは例のロリコン野郎が未だに諦めていない可能性が有る。

 下手な所で働かせると攫われる可能性も捨て切れない。

 だが、ユーディル雑貨店なら安全だ。


 腕の良い占い師でもあるハイネリアには『クロスロードの占術士』という通り名がある。

 クロスロードの近隣のみならず、王都や聖都からも占って欲しいと客が集まる。

 上流階級どころか王侯貴族にさえファンや信者と言って良さそうな客が何人もいる。

 そんなハイネリアの庇護下にある者を襲う。この町の裏事情を多少なりとも知る者なら避けるだろう。


 そこまでをレイが考えていたかと言えば、答えは『No』なのだが。



「いらっしゃい」

 奥から現れたハイネリアは笑顔でレイに話しかける。


「イリスは役に立ってるか?」

「ええ、良く働いてくれてるわ。掃除をしなくて済むんで助かってるわ」

 レイの質問に笑顔で答えたハイネリアはそのままイリスの頭を撫でる。


「でも、いくらなんでも子供一人に店を任せておくのは無用心じゃないか?」

 いくら客が来たらハイネリアを呼ぶ事になっているとはいえ、来るのが客だけだとは限らない。

 なんといってもこの店の在る一角は治安のあまり良くない裏町スラムだ。

 突然強盗が来る事も考えられない事ではない。


「そこは大丈夫よ。この店は悪意や害意がある者は近づかない様になっているから」

「は?何それ?」

「そういう応用結界術よ」

 ハイネリアの説明によると、その結果術は強盗目的の者から冷やかし目的の者まで広い範囲で悪意ある者を無意識に遠ざけるのだという。

 『悪意避け』と呼ばれる古くからある術なのだそうだが、逆に古すぎて今ではあまり知られていないらしい。


「それで?今日は何の用かしら?」

アレ(・・)、出来てるか?」

「アレ? あぁ、アレね。出来てるわ。ちょっと待っててね」

 そう言うとハイネリアは再び奥に姿を消す。しばらくすると小さな箱を持って戻ってくる。


「はい、コレね。確認して」

 渡された箱の中には白く輝くブレスレット。

 「急げば翌日には出来上がっている」と言われていたのだが、必要となるのはまだまだ先だった為、時間をかけて仕上げてもらった。


「凄い綺麗な細工だな。以前の物とは全然違うな」

「そりゃそうよ。腕の良い職人に頼んだんだから」

 以前レイが探してきてハイネリアに渡した物はほとんど細工の無いシンプルなブレスレットだった。

 それをどうせならと細工を入れてもらった。ハクレンへの贈り物なので狼をイメージした意匠だ。

 ハイネリア自身も簡単な物なら出来るのだが、今回は本職の職人にお願いしてもらった。


「気に入った。ありがとう」

「どう致しまして。追加料金と合わせて30万ギルよ♪」

「ワーオ、本当にイイ値段だ」

 当初の値段は1個10万ギル。2個で20万ギルだったが、細工を施してもらった事で値段は5割増しになった。

 それでもレイはこの出費を惜しいとは思わない。

 それだけの価値ある品だと納得できていた。



「さて、明後日が楽しみだ」

 レイは受け取った小箱をカード化するとバインダーにしまう。

 今度スリ盗られたら目も当てられない。


 ハクレンの誕生日は2日後だ。

 サプライズと言っても大した事は出来ないのだが、その辺は心の問題だ。

 ちょっとした贈り物と誕生日を祝う気持ち。

 どちらかと言えば大事なのは後者だろう。


 喜ぶハクレンを想像しニヤけたレイは家路を急ぐのだった。

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