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49 「面子を増やすか」

「ふー、どうしたもんかね」

 レイは悩んでいた。


 悩みのタネは、パーティの事。

 以前マイアスに指摘されたのだが、ハクレンが敵に突っ込み過ぎる。

 これは本人の本能的な部分なのか、最初は自重しているのだが、戦闘に熱中してくるとどうしても歯止めが利かなくなるようだ。


 これまではそれでも問題は大した事ではなかった。

 ハクレン自身の戦闘能力が敵に比べ高かった故にだ。


 だが、最近挑戦し始めた中級迷宮『ゴラオスの迷宮』ではそうもいかなくなってきていた。

 ゴラオスの迷宮は全50層の迷宮で、走破することでBランクハンターに認定される。

 クロスロードのハンターの多くがこの迷宮の走破を目指している。


 当然、下級の迷宮とはわけが違う。

 下級迷宮だった『フェルドリッヒの迷宮』のボスだったボーンナイトが第3層で普通に出現する。しかも徒党を組んで。

 そして第五層で現れたリビングアーマーで行き詰まった。

 このリビングアーマーはとても堅い。元々堅い敵が苦手なハクレンは大分苦戦する相手だ。

 だが、それなのにハクレンは敵に突進してしまう。

 レイが制止すれば踏み止まるのだが、レイに指示を出す余裕がなくなると突出してしまう。

 それまでの相手のように簡単には倒せない為、結果囲まれてしまう。

 そしてハクレンを救おうとレイも敵に突っ込み囲まれる。


 全てマイアスに指摘された通りだった。


 問題はそれだけでは無かった。

 リビングアーマーは匂いを発せず、特定の領域に相手が踏み入るで動かない。その為に音も出さない。

 ハクレンの嗅覚も聴覚もリビングアーマーの位置を捕捉する事が出来なかった。

 迷宮内の角を曲がったら敵が居た。という状態に探索は遅々として進まなかった。

 尤も本来はそれが当たり前の事なのだが、ハクレンの索敵能力に頼っていたレイ達には大問題だった。


 ハクレンはリビングアーマーとは相性が悪い。

 レイは1体1なら倒せるが、それに集中すると周囲が見えなくなる。

 エリスの魔術に頼ると、後々の魔力残量に不安が出る。

 戦闘を回避して進もうにも、敵の位置が分からず回避のしようがない。

 ショートカットできる転移ポータルが在るのは第8層。

 現状の戦力では上手く立ち回らない限り危険だ。


 そして、その上手く立ち回るための経験値が足りなかった。


「パーティの面子を増やすか」

 手っ取り早い手段としてはそうなる。


「レオに入ってもらう?」

「いや、レオはダメだ。アイツが入るとそれだけで中級迷宮が走破出来る」

 エリスの提案をレイが却下する。

 レオルードはゴラオスの迷宮を独力で走破出来る。

 パーティに入って貰えば心強いが戦力の増強どころか過剰になってしまう。

 そして、あの男の脳みその自重の文字は半分消えかけている。


「では、どう致しますか?」

「ギルドで募集をかける位しかないな」

 他に良い案は浮かばない。

 地道に実力を付けて、という案もあるが、時間が掛かるだろう。


「ハクレンに付いていけて、背中を守れるぐらいの奴が欲しいよな」

 それがレイの第一希望だ。

 ハクレンの突進癖は、どうにも種族的本能のようだ。

 そう簡単には治らないだろうし、もしかしたら完全には治らないかもしれない。


 問題は、

「いるのか、そんな奴?」

 ハクレンは素早さに特化している感がある。

 更に高レベル帯の者ならハクレンと同等以上の俊敏性を持つ者はいるだろう。

 だが、同レベル帯ではそんな人物が早々に見つかるとは思えない。


「どうしたもんかね」

 再び呟いたレイは考え込む。だが、考えれば答えが出るというものではなかった。




「えーと、たぶん募集しても無駄じゃないかと」

「え、何で?」

 取り敢えずパーティメンバーの募集をしておこうとギルドを訪れ、リザリーに相談したところ、この言葉が返ってきた。


「優秀でフリーなソロハンターなんて、中々パーティに加入してくれませんよ」

「まぁ、確かに」

 現在パーティを組んでいないのは、『組む気がない』『組んでくれる相手がいない』のどちらかだ。優秀なソロハンターは前者に当たるだろう。

 勿論中には「パーティを組む気はあるが、良いパーティに巡りあわない」という者もいるだろうし、「偶々最近パーティを解散して新しい所を探していた」という者もいる。

 だが、それは稀な例だろう。


「普通、パーティの強化を考えるなら、優秀そうな若手を入れて育てるか、他所から引き抜くか。その2択ですよ」

 即戦力が欲しいのなら、他所から引き抜くか、性格等の問題に目をつぶるか。その2択なのだそうだ。


「まぁ、レイさんのパーティで募集するならすぐに応募があると思いますけどね」

「そうなのか?」

「えぇ、エリスさんとハクレンさん。この2人とムフフフ♪な関係になれる可能性がありますから」

「ねぇよ!そんな可能性。俺が認めん!」

「じゃあ、女性限定になっちゃいますよ? あっ、ハーレムルートですね♪」


 それは考えていなかった。

 パーティに男を入れたくない訳ではない。

 実際、レオルードならパーティ入りを反対はしない。

 今はそれを考えていないのは、自分達の成長の為であって他意はない。

 だが、女目当ての男などパーティに入れたくは無い。

 とはいえ、条件に『異性目当ての加入お断り』とは書けない。

 となると、リザリーの言う通り、ハクレンとエリスに接近する事を目的とした男ばかりになりそうだ。

 それが嫌なら『女性限定』にするしかない。結果ますますハーレム化が進む。


 勿論、これはレイの思い過ごしだ。全ての男ハンターが女目当てではない。

 「そろそろ俺もパーティを組みたいな」と思っている真面目な男も大勢いる。


「レイさん。パーティが解散する理由の第一位は痴情のもつれですよ。極限状態に置かれた男と女は一瞬で燃え上がるものです。大切な女性を守りたいなら、変な虫を近づけない事です」

「お、おう」

 リザリーの熱弁に押され、レイは頷く。


 彼女が裏でレイのハーレムが4人にまで増える事に賭けている事はギルド職員の間で公然の秘密だった。


 取り敢えず、募集の件も保留となった。




「あ、レイ。ちょうど良かった。ちょっと話があって探してたのよ」

 ギルドを後にしようとしたレイに声を掛ける者がいた。


「おう、ミーア」

 なんちゃって女豹のミーアだった。

 相変わらず、見事な脚線美を惜しげもなく晒すショートパンツとタンクトップにジャケットを羽織ったラフな格好だった。

 背中のリュックが大きく膨らんでいる事から採取の帰りだろうか。

 この格好で森に採取や狩りに行くのだろうか?


「ちょっと世話になってるし、一応報告しておこうかと思ってね」

「うん?なんだ、オメデタか? やっちゃたのか? 結婚か?」

「ち、違うわよ。…その…相手がいれば………」

 レイの言葉に顔を赤くしゴニョゴニョと何かを呟いているミーア。

 レイにとってミーアはとてもからかい甲斐のある相手だった。

 言葉1つ1つに対してリアクションが大きく、扇情的な見た目に反して純心で、すぐ顔に出る。

 見ていて飽きない。


「そうじゃなくて、孤児院の事よ」

「おう、孤児院な」

「今度から補助金が増える事になったらしいわ」

「ほう、良かったじゃないか。でも、何で急に?」

「さぁ? 良く分かんないけど、そんな通達が来たんだって」


(きっとハイネが上手くやってくれたんだな)

 レイはそう予想するが、わざわざそれを言う事は無い。

 お礼は自分から伝えておけば良い。


「とは言え、貧乏は貧乏だからね。がんばって働かないといけないんだけどね」

「そっか、まぁがんばれ。そういえばミーアのハンターランクは?」

「私? Dランクよ。この間昇格したの」

 もし、即戦力になりそうなら、ミーアをパーティに誘ってみようかな。

 そんな風に考えていたレイの当ては外れる。

 Dランクという事は、まだ下級迷宮の走破をしていないという事だ。

 残念ながら中級迷宮で役に立つ即戦力にはならなそうだ。


「じゃあね♪」

 嬉しそうな軽い足取りで歩いていくミーア。

 歩調に合わせ揺れる斑模様の尻尾とお尻はやはり魅惑的だった。

 レイは思わずそれに見惚れていた。


「ゴホン!」

 背後から聞こえた咳払いに我に返ったレイを待っていたのは、ハクレンとエリスの冷たい視線だった。



 そんな一部始終をニヤニヤと眺めている者が居た。

 そして、レイ達と分かれ掲示板へと向かうミーアを見て呟く。

「きっとアレが3人目ね♪」


 幸か不幸か、その呟きを聞く者は誰もいない。




「居た! 兄ちゃん!!」

 孤児院の少年、イルアが息を切らせギルドに駆け込んできたのは、その2日後の事だった。

 レイの姿を見つけたイルアが駆け寄ってくる。

 そして、レイに縋り付く。


「助けてよ、兄ちゃん!」

 ただ事では無さそうな様子のイルア。

 続けて彼の放った一言は、無視できない物だった。


「ミーア姉が奴隷商に売られちゃう!」


 事態は予想外な方向へ進んでいた。


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