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35 「さて、遺産て何なんだろうな?」

今回は日本語と異世界言語が混じっています。

「 」が異世界言語

『 』が日本語

としてお読み下さい。

『折角来たんだ、もうちょっとゆっくりしていけよ』

 金属の光沢を放つドラゴンの口から出た日本語の言葉。


『お前、何者だ?』

『おいおい、そっちから訪ねて来て、何者だ?は無いだろう』

 レイの質問にドラゴンが呆れた様な口調で言葉を返す。


『じゃあ、アンタとエージ・ユーキの関係は?』

『ふむ、そうだな、結城英次の遺産の番人といった所かな』

『へー、つまり「欲しいなら俺を倒してみろ」て事ね?』

『そういう事だな』

 アスカが再び希望の光を眼に灯し話しかける。

 番人だと言うドラゴン。という事は自然発生の魔物ではない。これも一種のゴーレム的な物なのだろう。


『それでその遺産はどこに有るのかしら?』

『教えると思うか?』

『アンタをブチのめした後じゃ聞けないじゃない』

『ハッハッハ、そりゃそうだ。俺の居た台座を調べな』

 物騒な話をにこやかに笑って話す少女と、それに面白そうに答える金属のドラゴンゴーレム。

 なんとも異常な光景だった。


「コン!任せるわ。やっちゃいなさい」

「オウよ!ガッテンだ!」


 アスカの号令に肩から飛び降りたコンが見る間に巨大化していく。

 その大きさは目の前に居る全長約3メードの金属製のドラゴンゴーレムと変わらない。

 9本の尻尾を持つその姿は、所謂『九尾の狐』という奴か。


「それじゃあ、行くぜ」

 コンがドラゴンゴーレムに向かい走り出す。

 

 ドラゴンゴーレムがその尾を振り迎え撃つ。

 コンはそれを軽く跳躍して避けると、そのまま飛び掛るように鋭い爪の生えた前足をドラゴンゴーレムに振り下ろす。

 ギャリギャリ!と嫌な音を響かせるが、ドラゴンゴーレムに目に見て分かる傷はない。


 今度はドラゴンゴーレムがコン目掛けて前足を振るう。

 コンは素早く飛び下がりその一撃を避ける。


「チッ、金属のドラゴン相手に肉弾戦は無理か」

 着地したコンが残念そうに呟く。

 本来コンは接近戦を得意とはしていない様だ。その上相手はいかにも硬そうな金属製のドラゴンだ。肉弾格闘戦での勝ち目は薄い。

 魔法でいけるか?コンがそう思っていると、ドラゴンゴーレムに更なる動きがあった。


「ハッ! 下がれブレスだ」

 ドラゴンゴーレムは大きく息を吸うような動作を見せている。

『遅い!』

「チッ!」

 その口から灼熱のブレスが吐かれるのと、コンが魔力障壁を展開するのはほぼ同時だった。


『ホウ、防ぎ切ったか。大したものだ』

「舐めんなよ。脳筋のドラゴンのゴーレム如きが、俺様に魔法戦で勝てるかよ」

 ドラゴンゴーレムの吐いたブレスはコンの魔力障壁を破ることは無かった。


「今度はこっちの番だな」

 コンの目の前に4つの槍が現れる。それぞれ炎、氷、風、土の四つの魔法の槍だ。

 それが同時にドラゴンゴーレム目掛けて放たれる。

 4本の槍は狙い違わずドラゴンゴーレムに命中する。

 だが、相変わらずドラゴンゴーレムには傷1つ見当たらない。


「チッ、やっぱり抗魔処理がされてるな」

 大事な宝の番人としてよく用いられるゴーレム。

 元々物理攻撃に強いゴーレムに万全を期して抗魔法処理を施す事は珍しくは無い。


「それだけじゃない。たぶん素材自体にも耐魔鋼が使われている」

 コンの言葉を補足するようにエリスが説明を加える。

 耐魔鋼とは金属の種類ではなく、金属を精錬する際から抗魔処理を施す事で、そうする事でより高い魔法耐性を持たせる事が出来る。更にその上に抗魔処理を施す事も出来る。

 素材自体の魔法耐性にも因るが、そこまで行えば極上の耐魔装甲になる。


「コン、どうにかならない?」

「なるさ。本気でやればどうとでも。ただその場合、この遺跡がもたないが良いか?」

 コンの言葉は負け惜しみという訳ではない。

 目の前のドラゴンゴーレムにはきっとSランク以上の脅威となる力が有る。

 だが、全力を出したコンは少なくともSSランク以上には相当する。

 目の前のドラゴンゴーレムを倒す事だけを考えるのならばそう難しい事ではないのだろう。


「良くないでしょ、それは」

「仕方ない、時間は掛かるがじっくり行こうか」

 今となってはそれ程価値の有る遺跡ではないのだが、だからと言って壊してしまって良い訳ではない。


「いや、俺がやろう」

 レイは神威カムイを使おうと考えていた。

 コンの様子から負ける事は無さそうだが、あまり時間が掛かるのも考え物だ。

 クロードとマリーはその目で見ている。リックとレオルードも話ぐらいは聞いているかもしれない。

 ならば、今更ハクレンとエリスに知られても構わないだろう。

 アスカに関しても同程度にチートなコンの力を隠そうともしていない。信用しても良いだろう。

 そもそもが、神威カムイを使わなければいけない程の相手に出会う事は早々無い。

 今回は絶好の機会と言えるのかもしれない。


「大丈夫ですか、ご主人様?」

 ハクレンが心配そうにレイに声を掛ける。


「大丈夫。カッコイイとこ見せてやるから良く見てなよ」

「はい!」

 ハクレンの頭をポンポンと叩き笑いかける。


「エリスも、説明は出来ないし、滅多に見せるもんじゃないからな。よく見とけよ」

「ん?了解」

 エリスは首を傾げつつも頷く。


「大丈夫なの?結構強そうよ、アイツ」

「あぁ、大丈夫だろ。ただ、終わったらブッ倒れるからヨロシクな」

「フム、お手並み拝見」

 アスカは興味深げにレイの背を見送る。


「お前にどうにかできるような相手とも思えんが?」

「切り札が有るのさ。それよりコン、皆が余波に巻き込まれないように障壁張っといてくれ」

「…分かった」

 不承不承といった感じでコンが頷き下がる。


『もう良いか?』

『悪い、もうちょっと待ってくれ。すぐ終わる』

 ドラゴンゴーレムに一声掛けて最後の準備に入る。

 右手で神剣グラムを持ち、左手に神威カムイ『マルス』を持つ。


 ドラゴンゴーレムはそれを律儀に待っていた。

 もしかしたらこのゴーレムの役割は番人や守護者ではなく、遺産を託すに足る人物かどうかを選定する事なのかもしれない。


「じゃあ、始めようか。神威カムイ発動【マルス】」

 カードがレイの体内へと消える。

 建雷命タケミカヅチの時と同じ様に電気が走りぬけ、それと同時にマルスの力と使い方を理解する。


 だが、理解は出来ても、慣れてはいなかった。

「ウヲ!?」

 ドラゴンゴーレムとの間合いを詰めようと軽く床を蹴ったところ、床が陥没した。


「あぁ、やっぱり加減が難しい」

 建雷命タケミカヅチは高い技量と豊富な技を持つ技巧派だった。

 それに対して、マルスはパワー一辺倒。特殊技能はほとんど無いと言って過言では無い。

 その代りに、そのパワーが尋常ではない。


 今度はゆっくりと歩いてドラゴンゴーレムに近づく。

 そんなレイを金属の尾が迎え撃つ。

 神威カムイにより強化されたレイの動体視力はその尾の動きを容易く見切り左手で掴む。

 そのままドラゴンゴーレムの巨体を引き寄せると右手のグラムを一振りする。

 僅かそれだけの事だが、ドラゴンゴーレムの左腕と左の翼が切り落とされる。

 体を両断するに至らなかったのは、単純にグラムの剣身の長さが足りなかったからだ。


『やるもんだな』

 ドラゴンゴーレムが素直に賞賛の声を上げる。


『だが、これはどうだ!』

 口内に魔力が集まる。高濃度に圧縮された魔力が光を帯びる。

 先程よりも高威力のブレスが吐き出される。

 至近距離から放たれるブレスをレイは正面から受ける。


 ブレスが吐き終わった後、そこには特に変わった様子の無いレイが立っていた。

『……今のを無防備に受けて無傷。お前、本当に人間か?』

『無傷ではないさ。熱で髪が若干焦げてるよ』

 レイもブレスが来る事は分かっていた。だが「避ける必要無し」と判断した。

 コンの様に寸前で魔力障壁を展開した訳ではない。

 マルスのパワーの源はその筋力ではなく、その膨大な魔力による無意識に行われる身体強化だ。

 その身から溢れ出す魔力を纏いブレスを弾いたのだ。


『今の俺は半神半人みたいなものでね』

『そうか。これ以上は茶番かな。幕を引けよ』

『ああ、そうする』

 レイの両手の間に魔力が集められ圧縮されていく。

 高密度に圧縮された魔力が光を放ち始める。

 それはドラゴンゴーレムのブレスと同じ原理の物なのだが、その量と圧縮比は比較にならない。 

 マルスの能力に特殊な物は殆ど無い。有るのは魔力操作と身体強化ぐらいだ。

 それ故にそれを極めていると言っても過言ではない。


『じゃあな』

『ああ、俺の遺産を頼む』


 レイの気分的には「かめ○め波」とでも叫びたいところなのだが、実際にそれを叫ぶ勇気は残念ながら無かった。

 放たれた魔力球はドラゴンゴーレムの胸を食い破りその内側に飛び込む。内部で破裂した魔力が下半身を残してその身を砕いた。


 振り返ったレイの視線の先で仲間達は唖然とした表情で固まっていた。

 そんな彼女達に手を振り、サムズアップしておく。

「さて、遺産て何なんだろうな?」

 飛び散ったドラゴンゴーレムの破片が降り注ぐ中、レイはのん気に呟いた。



「凄いです!ご主人様、凄いです!」

 嬉しそうに駆け寄って来たハクレンは満面の笑みでレイを褒め讃える。

 その頭を細心の力加減でレイは撫でる。


「滅茶苦茶ねアンタ。もうレベル上げは十分でしょ。そろそろ魔王討伐の旅にでも出かけたら?」

「魔王が居るなんて初耳だけど?」

「居るでしょ、どこかに」

 何故か呆れ顔のアスカが嘆息気味に言う。

「フンだ。周囲を気にしなくて良いならオイラだってあの位瞬殺出来るんだぞ」

 既に小さくなったコンがアスカの肩の上で妙な負け惜しみを言っている。


「ん?」

 気が付けばエリスが、ペタペタとレイの体を触って呟いている。

「魔力量が異常。なのに通常時の体外流出量はほぼ無い。考えられるのは…」

 何やら考察中の様なので放っておく事にした。


「で、何だったの今の?」

 アスカが遠慮無しに確信を聞いてきた。

 その言葉にハッとしたエリスもレイを見上げている。


「コイツは神威カムイ。俺の切り札だ。どういう原理なのかは俺も分からん。効果時間は10分。それを過ぎると魔力欠乏で意識を無くすし、一度使ったら暫くは使えない。見ての通りドラゴンだって圧勝だ。コンと同じで強すぎて並みの魔物には使えない。使い所が難しいんだよ」

 苦笑いのレイはそう言って肩をすくめる。


「そんな訳で、さっさと遺産とやらを確認しに行こうぜ。後7.8分で俺は倒れちまうからな」

「そうね。遺産、遺産。何かしらね金銀財宝?それとも高価な魔導具?何かしらね~♪」

 レイの言葉にアスカは小躍りしながら台座へと向かった。




「何これ?」

「何だろな?」

 台座に置かれていたのは手の平大の水晶だった。


「高価な物には見えないな」

「いえ、こういう物にこそ凄い価値が有るのよ。きっと」

 それは単なるアスカの希望でしかなかった。


 恐る恐るアスカが触れると、水晶は光を放ち始めた。

『おめでとう!』

 そして突然言葉を発し始めた。


『これを聞いているという事は、メタルドラゴンを倒したという事かな?だとしたら、まずはその事に祝福を』

 この水晶は言葉を記録しておく魔導具なのだろう。言葉を残したのが結城英治だろう。


 その水晶に残された言葉を要約すると、結城英治はやはり転生者だった。

 とある迷宮の最終階層に住む魔獣を倒して欲しいと依頼され、約10年という時間を掛けてその依頼を果たした。「元の世界に帰るか?」とも言われたが、こちらの世界に残ったようだ。

 その後は自由気ままに生き、そして30年にわたる冒険の末に様々な財宝や魔導具を手に入れたが、自分の死後に他人が何の労も無くそれ等を手に入れるかと思うと嫌になり各地に隠す事にした。

 そして、もしかしたら自分と同じ境遇の人間もまた現れるかもしれないと、転生者向けに遺産も幾つか残した。ここがその1つだそうだ。

 ちなみにメタルドラゴンには結城英治の自我がコピーされ入っていたのだそうだ。


『この場所以外にも転生者向けの遺産はまだ在るので、気が向いたら探してみると良い。

 そうそう、ここの遺産はメタルドラゴンを倒さないと手に入らない様になっていて、その胸の中に入れてある。メタルドラゴンを台座から引き離して、遺産だけ手に入れようとしていたのなら残念でした。まぁ頑張りたまえ』

 最後にそう言うと、水晶から光が消え辺りに静けさが戻る。


 全編に渡り日本語で話されたそれは、ハクレンとエリスには不明な言語による物で話の内容はまるで分からないのだろう。ハクレンは真面目に聞いていたが、エリスは途中から暇を持て余しコンをモフモフし始めていた。


 その内容はレイを戦慄させる物だった。


「ねえ、レイ君。メタルドラゴンっていうのはさ、あれの事よね?」

「あ、あぁ。多分な」

「遺産はその胸の中に在ったんだって」

「……らしいな」

 上半身を粉々に砕かれたドラゴンゴーレムを指差し、とてもイイ笑顔を見せるアスカ。


「あれ、遺産ごと粉々じゃない?」

「あぁ、そうだな、多分な。確証は無いけど」


(早く神威カムイの効果時間切れろ)

 レイはそう思いながら全力でアスカから目線を逸らし続けた。

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