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21 「追い剥ぎか?」

 鉱山の村アルマ。

 鉱山と言っても特異な鉱石が取れるわけでもなく、その規模は小さなものだ。

 人口は約150人。30人程度の鉱夫とその家族、彼等を支える人達の住む小さな村だ。

 村と言うよりも集落と言った方が正しいかもしれない。


「あれがアルマだな」

 クロスロードを出発した3日後の夕方、レイ達3人を乗せた馬車がアルマ村に辿り着いた。


「誰だ、お前等?」

 第一村人はまだ若い男だった。


「ハンターギルドの者だ」

「あぁ、ハンターか…村の真ん中、井戸の前にあるのが村長の家だ」

 それだけ言うと、第一村人は歩き去って行く。


「なんか思ったほど荒れてないな?」

 彼等にとって鉱山に入れないのは死活問題だ。魔物のせいで鉱山に入れず、さぞ荒んでいるんだろうと予想していたのだが。


「何か、のどかな感じだな」

 村は比較的平穏だった。子供が走り回り、大人達ものんびりとしている。


「確かに、妙と言えば妙だな」

 レオルードも首を傾げる。


「まぁ、まず村長に話を聞いてみるか」

 3人は先程教わった村長の家を訪ねてみる事にした。


 呼び鈴を鳴らすと、筋骨逞しい初老の男性が出てきた。

「誰だ?」

「ハンターギルドから来たんだが」

「おぉ、ハンターか。待ってたぞ。さぁ、入ってくれ」

 村長は笑顔で3人を家に招き入れた。




「2足歩行で犬頭か、住み着いたのはコボルトだな」

「たぶんな。コボルトリーダーぐらいは居るかもしれんが、そう大物でもないだろう」

 村長のジバルから聞いた話によると、魔物は廃鉱となった坑道に住み着いていたらしく、いつ頃から居るのかは分からないらしい。

 その特徴からコボルトではないかと予想しているらしい。


「それで、被害は?」

「無い」

「え?」

「その廃鉱は、今使っている坑道とは入り口も別でもう行く事も無い。気が付いたのも偶々だ」

「なるほど。それで村に悲壮感が無いのか」

「そうだ。今は念の為に鉱山には立ち入り禁止にしているが、皆が骨休めの休日としか思っていない。コボルト程度ならハンターが来れば直ぐに討たれるだろうと思っとる」

 ジバル自身も特に危機感は持っていないようだ。


「村の者で討伐も考えたが、そこまで危険を冒す程の事態でもあるまい。という事になった。コボルトの肉は食えんが、牙と爪は売れるし、毛皮も敷物ぐらいにはなる。あの金額でハンターが雇えるなら、その方が良かろう」

 今回の依頼の報酬は15000ギル。ただし、討伐した魔物は村に置いていく事になっている。ハッキリ言って割りの良い話ではない。

 レイ達も遠出の討伐依頼の練習みたいなつもりだったので、ちょうど良かったと言えばその通りなのだが。



「今日はもう日も暮れる、討伐は明日だな。それで宜しいかな?」

「あぁ、明日の朝からにした方が良いだろう。逃げ場のない坑道なら討伐もし易い」

「なら今晩は我が家に泊っていけ。小さな村で大したもてなしも出来んがな」

 ジバルとレオルードがそう決め、今日は村長宅に一泊する事になった。


 その晩は村長宅にて夕飯をご馳走になり、夜は村で唯一の酒場で明日の打合せを兼ねて飲む事になった。


 そして、当然の様にからまれた。


「おう?何だガキじゃねぇか。ここはお子ちゃまの来るとこじゃねぇよ。何飲んでんだ?ミルクか?」

「なら家に帰って飲みな。ここはガキの来るとこじゃねぇぞ」


 明日の打ち合わせ自体はアッサリ終わった。ものの数分だ。

 その後、アホの様に酒を飲むレオルードを中心に大盛り上がりの酒宴になっていた。


 チマチマ飲むレイと酒を飲めないエリスが、酒場の隅で時間を持て余している所に、新たに酒場にやって来た2人の若い男がからんできた。


 さて、どうしよう?コレは叩きのめせば良いのか?

 そんな風にレイが考えていると、男達はレイの奥にいるエリスに気付いたようだった。

 エリスは相変わらず、この事態に全く興味を示す事無く、一瞥するとプイっと視線を逸らし無関心を決め込んでいた。


「お?随分とカワイイ子が居るじゃねぇか。どうだいお嬢ちゃん、俺がミルクを奢ってやろうか?」

「俺()、じゃなくて俺()だろ?」

 既に多少酔っているのか、男達はいきなり下ネタ全開で笑う。


 「ヨシ、ブン殴ろう」レイがそう決めた時。

「おい!」

 男達の後から野太い声が聞こえた。


 空になった木製のジョッキを持ったジバル村長だった。

 2人の若者の間を抜けてカウンターに近づくと、木製ジョッキをゴン!とカウンターに叩きつけ、店主に言い放つ。

「テッド、ミルクだ!ホットで頼む」


「え?……あぁ、ホットミルクな。ちょっと待ってろ」

「おうよ」

 一瞬呆気にとられた店主だったが、ジバルと目配せをし笑みを浮かべ準備を始める。


「どうしたジョッシュ?俺の事はからかってくれねぇのかよ?」

 クルリと振り返ったジバルが若者に問いかけ、厳しい顔で睨みつける。


「いや、それはその………」

 2人は言葉に詰まり、小さくなる。


「下らねぇ事すんじゃねぇよ。酒が不味くなる」

「「すんません」」

 ジバルの言葉に2人は素直に頭を下げる。


「テッド、こっちの2人に串焼きな。ジョッシュとカイルの奢りだ」

 ジバルがレイとエリスを指差し注文する。


「「えっ?」」

「あん?なんか文句あんのか?」

「…無いッス」

 ジバルの恐喝まがいの命令に2人の若者には逆らえるだけの気概は無く、ただ頷くしかなかった。


「悪かったな、ちょっと悪ふざけしただけだ。勘弁してやってくれ」

「いや、大丈夫、気にしてないから」

「ん、大丈夫、聞いてなかったから」

 謝るジバルにレイも気にしていないと伝える。エリスのは若干意味が違ったが。


「オラ、お前等も飲むぞ。あの旦那を潰さねぇと帰れねぇからな」

 気を取り直しジバルが2人の若者の尻を叩き席へと戻ろうとする。


 そのジバルの背中に、店主テッドの声が掛かる。

「んで、ジバル。コイツは誰が飲むんだ?」

 指差す先には湯気の上がるホットミルク。


「ん?あ~~。そうだ!」

 困り顔のジバルがテッドからホットミルクを受け取る。

 そのままレイの前に置き肩を叩く。


「俺の奢りだ。存分にやってくれ」

「飲まねぇよ!」

 レイが心の底からツッコミを入れる。


 アルマ村の夜はまだ始まったばかりだ。


 ちなみにホットミルクは物欲しそうに眺めていたエリスが頂いた。

「欲しいのか?」

「(コクコク)」

「熱いから気をつけろよ」

「ん。あと、串焼きはキャンセル」

「なに?遠慮しなくても良さそうだぞ?」

「代わりにフライドポテト。特盛りで」

「なにその順応力の高さ?」


 まだまだ宵の口だった。



 翌日。


「坑道の中では火の魔術は使うなよ。何故だかは知らんが、そういう言い伝えだ」

「ん、了解」

「高威力の術も使うな。これは崩落の危険が有るからだ」

「ん、了解」

 レオルードの指示にエリスが素直に頷く。


「あと、射線の1メード以内に俺が居る時は魔術を撃つなよ」

「ん、努力目標に設定」

「確約して! 目を見ろ、目を!」

 レイの言葉に視線を逸らすエリス。相変わらずのようだ。


 コボルトの牙や爪はそれなり鋭い。剣や槍等の道具を使うだけの器用さも有る。

 だが、体格は人間の子供ほどで、筋力、瞬発力も大した事は無い。

 単体でのランクはD-。オークやゴブリンよりも下だ。

 問題はその数だ。大技の使えない坑道は多勢に無勢では危険な場所だ。


 しかし、それも坑道の大きさ的に50体も居ない、20~30体程度だろうと予想されている。


「油断するなよ。坑道内は暗い。暗視能力はコボルトの方が上だからな」

 コボルトは夜行性だと言われている。故に早朝ではなく、日が昇って暫くしてから寝込みを襲う。


「作戦を確認するぞ。住処を見つけたら?」

「私が明かりを生む」

「俺が『氷針アイスニードル』でリーダーを倒す」

「混乱したコボルトを端から撫で斬りにする。完璧だな」

 作戦と言うほどのものでもないのだが、コボルト相手ならコレで十分なのだろう。


「さぁ、行くぞ!」

 意気揚々と先頭で坑道に入るレオルード。


 ランクD-のコボルト相手に張り切るAランクハンター。

 この段階で結末は見えていた。



 30分後。

「思ったより少なかったな」

「というか、今回レオは見てるだけじゃなかったのか?」

「ムッ!?」

「『ムッ!?』じゃねぇよ。アンタ1人で片してどうすんだよ」


 坑道内のコボルトの群れは16体だった。

 その内14体をレオルードが片付けた。まさしく電光石火の早業で。


「ふむ。一流の技を見るのも勉強だな」

「わざわざ遠出して!?」

「狭い坑道内での剣の使い方、勉強になっただろ?」

「ほとんど何も見えなかったよ」

「鍛錬が足りんな」

「なら、貴重な実戦経験を横取りすんなよ」


 こうしてレイの片道3日の初遠征は、ろくに活躍の無いまま終わった。


 かと思われていた。




「お、ちょうど小屋が在るな。少し早いが今晩はあそこに泊るか?」

 コボルトの討伐をジバル村長に確認してもらい、依頼達成のサインをもらってアルマ村を出発したレイ達は、その日の夕方のうちにガリオス街道に入っていた。

 国内の主要街道でもあるガリオス街道は往来する人の為に宿泊小屋等が建てられていた。


「まぁ、野営よりは良いよな。別に急ぐ理由も無いし」

「ん、賛成」

 レオルードの提案に2人も賛同する。


 小屋の脇に馬車を止め、馬を厩に繋ぐ。

 3人が小屋の中に入ろうとした時、1台の荷馬車が目の前の街道を猛スピードで走り過ぎていく。


「ん?何だ?」

 馬車が馬を全力で走らせるほどの速度で街道を行く事は滅多に無い。

 急ぎの早馬なら単騎だろうし、今からあの速度を出していては次の宿場まで持たない。


「何だあれは?」

 馬車の来た方向に目を向けると、遠くに1台の馬車が走っていた。

 砂煙を上げているところを見ると、こちらもかなりの速度なのだろう。


 その馬車が徐々に近づいててくるに従い、ハッキリと見えてくる。

 馬車を後から追いかけてる馬の一団。そしてその馬の上で剣を振り回す男達。


「追い剥ぎか?」


 遠征は家に帰るまで遠征だった。

呆気なく終わった遠征と見せかけて

ここからが本番(大した事は有りませんが)

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