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1 「キミに決めた!」

 20XX年、世界は核の炎で包まれた。

 という訳ではない。


 代わりにという事でもないが隕石が落ちてきた。

 大したサイズではない、精々が地球の50万分の1程度だ。砂粒みたいな物だ。


 地球という天体には、という話だが。


 人間サイズでいえば、直径25m、重量15万トンの岩が10km/sで迫ってくれば十分過ぎる脅威だ。


 そんな物がクリスマスイルミネーションの飾り付けが始まった師走の住宅地に衝突した。




 加藤 玲(25歳 男性 独身)は今年の春に都内の私立大学の大学院を卒業し、就職を機に1人暮らしを始め、郊外のアパートで暮らしていた。


 そんな彼の住むアパートの専用駐車場に隕石は衝突した。その地点から僅か十数メートルの位置に住んでいた彼は異変に気付く間も無く、蒸発した。


 こうして玲は25年と4ヶ月の人生を終えた。


△ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △


「キミに決めた!」

「なに言ってんだアンタ?」

 玲は、突然意味不明な事を叫んだ女性を冷めた視線で眺めた。


 豪華な椅子に腰掛けた若い女性だ。

 少し長めの薄い黄色の髪に、黒い瞳、オリーブ色の貫頭衣を小豆色の帯で結んでいる。


「いやいや、そう言わないでさ。まぁ、座りなよ」

 揉み手をしながら近づいてきた女は椅子に座る事を勧めてくる。



「状況は理解しているみたいだね?」

 女は椅子に腰掛けた玲の正面に自身も座り、にこやかに話し掛けてきた。


「まぁ、一応はゴネても仕方が無いという事は分った」

 ここに来るまでに既に散々ゴネた。結果、根気強く説得された。具体的には、ほぼ半日同じ説明を延々と繰り返された。


「フフ、すまないね。彼女達には時間という概念と諦めるという感情が無くてね。必要なら同じ説明を、それこそ百万回でも繰り返すよ」

 実際、正に機械的ともいえる正確さでリピートされた。


「さて、現世に未練は無いかな?」

「有るさ。それこそ幾らでもね」

「ほう?例えば?」

「死ぬと分かっていたら、セコセコ貯金なんかしないで好きな物を買っときゃ良かった。とか、格好付けずに由美ちゃんの誘いに乗っとけば良かった。とかな」

 がっつくのはみっともないと、下手に紳士ぶったのが間違いだった。


「フフ、未練があるなら戻る?」

「は?」

「私にはそれを認めて実行するだけの権限と力が有る。君が本気で望むなら叶えてあげても良いよ。

 どうする?」

「え?マジ?」

「うん」

 女はにこやかな笑顔を崩す事無く頷いた。


「生き返れる?でも、あの惨状で生き残っていてたらイロイロまずいんじゃないか?」

 隕石衝突の熱と衝撃で衝突地点ではあらゆる物質が融解・気化し、その高温と高圧により炭素からダイヤモンドが生成される程だった。

 その衝突地点の正に目と鼻の先に有ったアパート(木造、築25年)など姿形の残ろう筈が無い。


「まぁね。でも『偶々、出掛けていました』で問題ないよ。君が部屋に居た事を証言出来る人は残念ながら1人も生き残っていない。

 実際、お隣さんは無事だよ。婚約者とは別の女との温泉旅行のおかげでね」

「婚約者!? というか、二股!? あのオッサンが!?」

 隣に住むオッサン(推定30代後半)に婚約者がいた事もそうだが、それ以上に二股をかけていた事に驚愕する。

 モテる様には見えなかったのだが。


「そういう『偶々出掛けていて無事でした』という人は結構な数だよ。別に珍しくもないから怪しまれはしないよ」

 確かに玲も駅前に食事にでも行っていたら生きてはいただろう。


「で、どうする?」

「…何でそんな事してくれるんだ?」

「おや?慎重だね。

 そうだね、美味い話にはウラが有るよ。

 でも、別に君にはデメリットは無い筈だよ」

「ん?どういう事だ?」


「簡単な話さ、先程ちょっと話したけど、私達には時間的概念とかがいろいろ欠落していてね。不老不死とでも言うべきかな。永遠の時を永遠にこの場所で生きる、ちょっと娯楽が足りなくてね」

 にこやかに笑ってはいるが深刻な問題なのだろう。


「だから、ちょっとした娯楽や刺激が欲しいのさ。

 そう、様々な物を見ながら喜怒哀楽の中で生きるキミ達と感情を共有する。とかね」


 説明によれば、それは自身の魂の一部を玲と同化させて繋げる事で、玲の見た物、感じた物を自分自身で体験したかの様に感じる事が出来るらしい。

 別に思考や感情が逆流してくる事は無く、玲には特に何かの影響も無い。との事だ。

「まぁ、主人公に完全に同化して映画を見る。そんな感じかな?」

 この場所を離れることの出来ない彼女にとって、他人の物語を見るしか娯楽は無いのだという。

 それなら見るだけではなく、体験や感覚まで共有した方が面白いという事のようだ。


「何で俺なんだ?」

 隕石の衝突によって出た死者は100人では済まない。

 そんな中で何故自分なのか? それは当然ともいえる疑問だった。


「まぁ、簡単に言えば直感? 魂の同化には相性みたいな物が影響してくるんだ。キミとなら上手くいく気がしたのさ。

 あとは、君は面白そうだ。既に理解した上で無駄だと分かりながら半日もゴネる所は、只者じゃ無かったよ」

 確かに玲は全てを理解した上でゴネていた。

 自分が死んだ事、対応している相手がプログラムに従うだけの機械のような者だという事、どれだけゴネたところで何かが変わるわけでも無い事もだ。

 それが分かった上で半日間粘った。理由は特に無い。ただ意固地になっていただけかもしれない。


 だが、その半日間があったから彼女の目に止まったのだ。

 それを『運命』と呼ぶのかもしれない。


「そう言えば、まだ名乗っていなかったね。

 私の名前はマルクト。別にアドナイ・メレクと呼んでくれても構わない」

「加藤 玲。25歳、独身。ちなみになりたての故人」

 2人は互いに名乗ると自然に握手を交わした。


「で、どうする?」


 2度目となるマルクトの質問に玲は若干思案し答える。


「異世界に送るとか出来る?」

 突然の玲の提案にマルクとが一瞬驚いた顔をする。

 だが、すぐに気を取り直したのかニッコリと笑う。


「勿論」

「ウッシ!」

 軽く肯定したマルクトの言葉に玲はガッツポーズをする。


 別に玲がマンガやライトノベルに傾倒して異世界転移に憧れていたという訳ではない。

 マンガもアニメもゲームも作り物の世界。現実ではありえない。そう割り切っていた。


 だが、死後の世界が在り。

 神様っぽい存在が居た。


 ここに至って、玲も「あれ?異世界も在るんじゃね?」と思い始めていた。

 ならば、普通の人生に戻るよりはそちらの方が面白そうだ。

 それに、かつては彼もそういった物語に胸を熱くした覚えもあった。

 その思いが再び彼の胸に火を灯しつつあったのも事実だ。


「で、どんな世界が良い?」

「そりゃぁ異世界といえば『剣と魔法』。ファンタジー世界だろ」

「フムフム、『剣と魔法の世界』か。在るよ、ちょうど良いオススメ世界が」

 良い笑顔でサムズアップしてみせるマルクト。


 その世界の名は『ノア』。

 世界樹が吐き出すマナにより魔法が生み出された世界。

 マナの存在により生物は様々で独特な進化をしてきた世界。


「ノアではマナの影響で魔物化した獣がいるよ。

 そういった魔物を前にしたら人なんか弱者、捕食される側。

 それでも良い?」

「ああ、それを何とかする事が出来るから人間は生き残れているんだろ?

 なら、俺も何とか生き残れるさ」

 この時、そんな風に軽く考えた事を彼が後悔するには、まだ暫く時間が掛かる。


「まぁ、君が良いと言うなら私に異論は無いよ。

 じゃあ、イロイロと決めようか?」

「いろいろ?」

「そう、単に生き返るだけなら要らないんだけど、異世界に送るならイロイロ決めないといけないね。

 例えば、生まれる所からやるか、それとも今の姿のままで行くか。とか」

「つまり、転生か転移か、という感じか?」

 転生のメリットは、ノアの事を学び馴染む時間が有るという事と、最も成長する幼少期を使ってハイスペックに成れるという事だ。

 転移のメリットは、手っ取り早く異世界を満喫出来る事だ。


「ふむ。………。このまま転移で、お願いします」

 イロイロとハイになりつつある彼の頭にリスクマネージメントという言葉は無かった。


「『ノア』に『転移』で決まり。じゃあ、次はいよいよお待ちかねのヤツ行っちゃいますか?」

「ほう、お待ちかねのヤツと言いますと?」

 玲がズイっと身を乗り出す。


「異世界物といえばアレでしょう?」

「アレですか!?」

 マルクトも身をズイっと乗り出してくる。


「「チートスキル!」」

 「イエーイ♪」とハイタッチを交わす2人。


 確かに魂の波長は似ているようだ。

加藤 玲:自称計算高い、理論派の理系人間。

その割りには大分直感で決めますが、本人は理論派のつもりです。


本日はもう1話、今回とで前後編ですが、投稿予定。

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