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15 「夜も眠れない」

 自由都市クロスロード。

 その大通りを気だるそうに歩くレイ。

「あー、だるい。やっぱり今日は寝てるか?いや、1日無駄にするのもなー」


 クロスロードに来てから二月が過ぎた。

 マリーやクロードに紹介してもらったハンターや店屋の皆様に協力して頂きCランクへ昇格を果たした。


 クロスロードにやって来て最初の10日は急激に変化した体に慣れることに終始した。

 その甲斐あって微妙な手加減も完全にマスターし、完全に体は馴染んだ。


 ギルドにてレベルの測定を行った結果『ステータスはCランク並み』と判定されたが、実績不足の為に当面はDランクとされた。

 そして、先日ギルドより『森に作られたオークの集落の調査』という昇格試験を出され、見事に達成しCランクに昇格した。


「クソー、頭が痛い」

 ハンターランクがCランクに上がった事を祝って、昨晩は祝宴となったのだが、調子に乗って飲み過ぎてしまった。


「調子に乗りすぎたー」

 途中の「Cランクと言えばもう一人前。一人前ならこの位飲めるよな?」との煽り文句に乗せられてしまった。


「あのバケモノ共め」

 いくらでも、まるで水のごとく飲み干した同席者達に怨嗟の呪いを送りながらハンターギルドの前まで辿り着く。


「あ~、頭痛てぇー」

 本日何度目になるのか分からない、言うだけ無駄な言葉を吐きながらドアを開ける。



「あ!レイさん、おはようございます!」

「あぁ、オハヨウ。ゴメンもうちょいボリューム下げて」

 ハンターギルド、クロスロード支部の看板娘、元気印のリザリー嬢は朝から二日酔いには厳しいハイテンションだった。


「Cランクに昇格して初のお仕事ですね!迷宮ですか?それとも迷宮ですか?もしかして迷宮ですね!」

「ですね!て言われてもな。何でそんなに迷宮推し? 今日は行かないよ」

「チッ」

「舌打ち!?舌打ちしたよねこの娘!?」

 リザリーが何故か迷宮を推しまくるのは、実は一般依頼の処理が面倒臭いからだというのは、ごく一部の者しか知らない秘密だ。


「今日は依頼を受けに来たわけじゃないよ。ハンターカードを受け取ったら、森で薬草でも採ってくる予定だよ」

「あ、カードの受け取りですか?それなら大丈夫です。ちょっと待ってて下さい」

 嫌そうに歪めていた顔を笑顔に戻し、奥の事務所に向かうリザリー。


 今日の用件は登録情報の更新の為に預けておいたハンターカードの受け取りだ。

 これが無いと城門を通過する際の手続きが面倒臭い。ハンターカードが有ればそれを提示するだけで済む。


 今日の体調では魔物の討伐や迷宮に潜るのは危険だろう。

 かと言って、寝て過ごすのは勿体無い。

 なら森で薬草採取だ。という事になった。


「ん!?」

 ハンターカードの到着を待っていると、背後に何者かの気配を感じる。

 振り返ると、そこに居たのはレオルード・ベオクレス。

 クロードやマリー達の元パーティメンバーで現クロスロード支部のエースハンターだ。

 身の丈が2メードに迫る筋骨隆々といった偉丈夫で、その豪腕で振り下ろされる大剣はどんな物でも断ち切る事から『断剣のレオルード』と呼ばれている。


「おはよう、レイ。良い朝だな。今日も元気に仕事に励もうか!」

 レオルードはそう言って笑うとレイの肩をバシバシ!と叩く。


「ちょっ、レオ痛いから」

 肩がではなく頭が、だが。

 何故この男はこんなに元気なのだろう?昨晩は同じ様に、というか確実に自分以上に飲んでいた筈なのに。

 そんなレイの心中などお構いなくレオルードにはまるで昨晩の影響など見られない。


「お待たせしました。あれ?レオルードさん?どうしたんですか?

 あ!分かりました。迷宮ですね」

「いや、そういう訳では「分かってます!迷宮ですね!!」」

 レイのハンターカードを持ってきたリザリーがレオルードの姿に再び迷宮推し攻勢に入った。


「流石です。Aランクに昇格しても慢心する事無く、日々迷宮に潜り心身を鍛える。

 そんじょそこらの軟弱ハンターとは心根が違います。

 昨日も迷宮。今日も迷宮。明日も迷宮。いっその事迷宮に住んだらどうですか?

 きっと、クロスロードの迷宮を走破する日も近いでしょう!

 素晴らしいです。流石です。まさしくハンターの鑑!」

 レオルードに一切の言葉を挟ませる隙を与えず、マシンガントークを決めるリザリー。


「今日も迷宮ですか?」

「う、うむ、当然迷宮である」

「流石です!レオルードさん!(フー、危なかった)」

 レオルードがその右手に依頼票らしきものを持っている事に気付き、1秒以下の時間で即決したリザリーのファインプレー(本人にとって)だった。


 ハンターギルド、クロスロード支部の看板娘は能力の使いどころが間違っていた。


「俺のハンターカードは?」

「あぁ、そうでした。はい、ハンターカードです。

 ん?体調悪そうですよ?大丈夫ですか?」

「ああ、唯の飲み過ぎだから気にしないで」

 レイの顔色が若干悪い事をリザリーが気付いた。


「いかんな、体調管理はハンターの基本だぞ」

「そうだね。もう無理だと言ってる人に無理矢理飲ませたらダメだよね」

「当然だな」

「無駄ですよ。皮肉なんて通用する人じゃないですから」

 昨晩の事を遠回しに皮肉ってみたのだが、全く持って無駄に終わった。

 既に諦めた感のあるリザリーが溜息混じりにたしなめる。


「でも、本当に体調が悪いなら無理しない方が良いですよ。

 ほら、顔色も悪いですし」

「そう言われてみれば、顔色が悪いな」

 2人がレイの顔を覗き込むように見てそう言う。


「ですよね。顔が悪いですよね」

「うむ、確かに顔が悪い」

「あれ?おかしいな、心配されてないぞ?悪いのは顔色だよね、顔色。『色』が無いと悪口だよ」

 完全に分かった上でのリザリーと、全く分かっていないレオルード。

 よりタチが悪いのはどちらだろうか。





「まったく、アイツ等は……」

 暖かく見送られたレイは城門を潜り近場の森を目指す。


「しかしレオの奴、酒に強くなるスキルとか持ってんのか?」

 そんな不毛なスキルが有っても困るのだが、そうでもなければ納得がいかないほどレオルードはザルだった。


 レイが異世界ノアに来てから約三ヶ月。

 その間でスキルについて分かった事が幾つか有った。


 本来スキルは習熟度によってスキルレベルが上がるものらしい。

 習熟度が規定の数値まで溜まるとスキルレベルが上がる。必要習熟度の多さによってそのスキルに向いているかどうかが分かる。

 ステータスを自分で見れて、ヘルプ機能によって習熟度も見えないと分からない事なのだが。

 スキルポイントを使ってスキルレベルを上げられる事はかなり有利といえる。

 

 また、スキルにも自動的に覚える物と、教わらないと覚えられない物があるようだ。

 例えば剣術は、剣を振っているうちに覚える物のようだ。つまりはスキルレベル0を最初から持っているようなものだ。

 こういったいつの間にか修得しているスキルとは違い、錬金術の様に教わる事でしか修得出来ない物も有る。

 そういったスキルは、スキルポイントを使用しても修得出来ない。

 だが、そういったスキルもスキルカードでの修得は出来る。


 つまり、スキル【カードファイター】は大分チートだという事だ。

 ちなみにカードファイターのスキルレベルを上げようと思ったらスキルポイントが300必要だった。


 スキルカードを装備スロットから外すとスキルは消えてしまうが、外す前にスキルレベルが上がると消えないという事も分かった。



「さて、まずはどこに行くかな?」

 森に着いたレイは、自身の知る薬草の群生地のを回る。

 広大な森は様々な場所に薬草の群生地が在る。ただ闇雲の探して回るのでは効率が悪い。

 群生地の位置を覚えておき、一定期間を空けて採取して回るのが効率の良い採取の仕方なのだそうだ。その間も新しい群生地を探しながらではあるが。

 当然ながら他のハンターとかぶり、採取できない事もある。しかし、それはお互い様なので文句は言わないのが暗黙のルールだ。


「ん?あれは…?」

 森の植生の向こう側に何かが居る。

 気配を殺し、向こう側を探る。


「オークか」

 居たのはオークだった。

 直立歩行をする豚のような魔物だ。独自の文化を持ち、集落を作り、場合によっては国をも作ってしまう。

 そういった集落を作るという意味では獣人等の亜人と呼ばれる種族もそうなのだが、亜人と魔物では大きな違いがある。

 他種族と共存の意思が有るかどうかだ。

 オークやゴブリン等は自種族以外は敵としているので人類と敵対する魔物に分類されている。

 ちなみに大元は同じ種族だが、人類との共存していたら鬼人と呼ばれる亜人、人類と敵対していたらオーガと呼ばれる魔物、という風に区別される種族もある。


 この森にオークが集落を作ったのは3ヶ月ほど前。

 クロスロードに住む人達が気付いたのが半月ほど前。

 すぐに調査隊の派遣が決まった。


 オークはDランクの魔物。

 しかし、集落を作っていることから指導者となるオークロードが居るのではないかと予想された。

 オークロードはワンランク上の魔物。

 だが、Bランクのハンターが15人以上居るクロスロードのハンターギルドは『大した脅威ではない』と判断し、昇格時期のハンターの試験として利用する事にした。

 お目付け役のBランクハンター2人、Cランク1人、Dランク4人が派遣された。

 集落にはオークロードが1体、オークが20体。規模としては予想よりも小さかった為、その場での判断で調査から討伐に切り替えられた。

 それに参加していたレイも6体のオークを討伐し、その実力を認められCランクへの昇格となった。


「生き残りかな?」

 オークは繁殖力が強く、すぐにその数を増やす。

 『見かけたら可能な限り狩っておけ』これが基本とされている魔物だ。

 周囲を見渡す限りでは、オークの数は3体。討伐出来ない数ではない。


「よし、やるか」

 二日酔いも大分収まり、体調的にも問題無さそうだ。


 剣を抜き、機をうかがう。

 ちょうど3体が背中を見せたところで襲い掛かる。


「『氷針アイスニードル』」

 1体のオークの頭部に針と言うにはかなり大きい氷の塊が3本刺さる。

 レイは突然の攻撃に驚き混乱するオークに向かい走り出す。


 レイに気付いた1体のオークが巨大なこん棒で迎撃する。

 頭部目掛けて振り下ろされたこん棒を軽やかに避けたレイは、そのオークの首筋に剣を突きこむ。

 「分厚い皮下脂肪に守られた腹部は狙うな」とはオークの集落に行ったときにBランクハンターに言われた言葉だ。


 最後の1体が倒されたのも、すぐの事だった。



「まぁ、こんなもんかな」

 周囲に別のオークが居ないことを確認し、一息入れる。


 有り余っていたスキルポイントを注ぎ込み初級剣術のスキルレベルを上げたところ、Lv9の次はLv10ではなくMASTERとなった。

 すると自動的に【中級剣術Lv1】を修得していた。どうやらMASTERになると上位スキルを修得するようだ。


 通常この【中級剣術Lv1】は4~5年ほどの修業の後に身に付く物なのだが、レイは2ヶ月足らずで修得していた。当然ながら本人はその辺りの異常さを理解してはいない。


 血の匂いに誘われて別の魔物が来ないうちにオークの死体をカード化する。

 敢えて死体を放置して、寄って来た魔物を狩るという剛の者もいるらしいが、そんな事をして手に負えない魔物が来ても困る。

 『安全第一』それが今ではレイの座右の銘といっても良かった。


「予想外に儲かったから、今日は帰るか」

 オークの討伐依頼は受けていないが、オークは買い取り対象部位が多いので結構な金額で売れる。

 全身を持ち帰れば、1体で1500ギル程度にはなるだろう。3体で4500ギル。日本円に換算すると4万5千円位だ。

 一日の稼ぎとしては上々ではないだろうか。




 森から町へ戻ると、先ずはギルドへと向かう。

勿論オーク3体を買い取って貰う為にだ。


 以前にもリックも言っていたのだが、買い取りはギルドを通さずに、直接店とおこなう方が儲けは大きい。ギルドの取り分の中間マージンが無くなるのだから当然だ。

 しかし、普段世話になっているギルドに多少なりとも貢献する為に「買い取りはギルドで」というハンターは少なくはない。

 レイもその1人だ。


 ギルドのドアを開け店内に入る。

 買い取りカウンターへ向かう。


「あ!レイさん!大変です、大変なんです!!」

 その途中でリザリーに呼び止められた。


「ん?どうした?強力な魔物でも出た?」

「まさか、そんな事態ならレイさんに声を掛けても仕方が無いじゃないですか」

「うん、分かってたけど、失礼だね君は」

 悪びれる事も無く、言い切れる辺りがリザリーの凄さなのかもしれない。


「そんな事より、本当に大変なんです」

「うん、だから何が?」

「お客さんです」

「はぁ?とりあえず落ち着いて1から説明しろ」

 全く要領の得ないリザリーを落ち着かせ、再度説明を促す。


「レイさんを訪ねてお客さんが来てるんです」

「ほう?」

「しかも、女の子」

「え?」

「更には美少女」

「は?」

「終には『彼の事を思うと夜も眠れない』とか、ぬかしてやがります」

「なんと!?」

 全く心当たりがない。


「会いますか?会っちゃいますか?会うんですね! 分かりました、呼んできます!」

 勝手に人の返事を決めたリザリーが、見事なダッシュを決めてレイを置き去りにする。


「いや、えーと、どういう事?」

 レイの呟きに答えてくれる者は誰も居ない。


 待つ事わずかに10秒未満、リザリーに手を引かれ現れたのは、確かに美少女だった。


 そして、その少女はレイには見覚えが有った。


「あれ?確か君は・・・」

「エリス」

「ん?」

「エリス・ロックハート。私の名前」

 少女の口から美しい声が発せられる。

 但し、それはまるで感情がない機械の様な抑揚のない物だった。


「ああ、そうだったね。確かオークの集落を調査しに行ったときに一緒だったよね」

「そう。その認識で間違いない」

 レイの言葉にエリスは簡潔に答え頷いた。


 エリスは先日行われたハンターランク昇格試験を兼任した『オークの集落の調査』に参加したハンターの1人だった。

 その折に顔合わせと自己紹介をしていたのだが、物静かな少女との認識しかしていなかった。


「で?用件は?」

「眠れない」

「は?」

「気になって」

「えーと、もうちょっと分かりやすく文章で喋ってくれないかな?」

「ん、了解」

 レイの提案を快諾したエリスは、自身の伝えたい事をまとめるように考え込む。


 どうでも良い事だが、エリスの後で目をキラキラ輝かせるリザリーが鬱陶しい。


「オークの集落に依頼で行ってから、貴方の事を考えて夜も眠れない」

 今度のエリスの言葉は、簡潔ながら分かりやすい完璧な物だった。

 相変わらず抑揚が全く無い事以外は。


 字面だけで見れば愛の告白なのだが、なぜか全く別物な気がするのはなぜだろうか?


 そして、ニヤニヤ笑うリザリーがなぜこんなにもウザいのだろうか?

クロスロード編の開幕です。


ぼちぼち主要キャラに登場して貰います。


現状で主要キャラになる予定は

本命:エリス・ロックハート

対抗:レオルード・ベオクレス

 穴:リザリー・フォルテシオ

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