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13 「オーバーキルだったかな?」

 夜の帳が下りる頃、焚き火を囲むように座る3つの影があった。

 マリー、リックそしてクロードの3人だ。


「しかし、運が悪いと言うのか、良いと言うのか、複雑なものだねぇ」

「そうだな。ベヒーモスに出くわした俺達は不運としか言いようが無いが、世の中としては出くわしたのが俺達で良かった。という事だろうな」

 焚き火に枯れ枝をくべながらクロードがしみじみと言う。


「クロー、アンタどう思う?」

「レイの事か? なら、よく分かんねぇ。その一言だな。説明どころか、何が起きたのかわかってすらいねぇ。ありゃ俺の理解の範疇を超えてやがる」

 マリーの言葉に答えクロードはすぐ側の馬車へと視線を送る。

 正確にはその荷台で寝ているレイへとだ。


「そんなに凄かったの? 」

 実際にその活躍を自身の目で見る事が出来なかったリックが疑問を口にする。


「バカお前、ベヒーモスを一刀両断したなんて話聞いたこと有るか?」

「30を超える分身体を瞬時に切り裂きもしたな」

「そう言えば最初に蹴り一発で小山のようなベヒーモスが吹き飛んだっけな」

「それに凄まじい雷撃だったよ。くらったベヒーモスは炭化していたな」

 

「いや、ゴメン。もういいから」

 止まらなくなったマリーとクロードの話にリックは諦めたよう頭を下げた。



 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △


「神の力を纏う。それが神威カムイか」

 建雷命タケミカツチの能力により雷光を纏ったレイが呟く。


「グラムにしておいて正解だったかな」

 その右手に持っている剣も雷光を纏っている。

 ただの鉄の剣であれば、その雷の高熱で融解していたかもしれない。


「さて」

 改めて見るベヒーモスは大きかった。

 正面に立てば、正しく見上げるほどの巨体だ。


「まずは『迅雷』」

 瞬間、正しく雷光と化したレイがベヒーモスを蹴り飛ばしていた。


「なっ!?」

「おいおい、マジかよ」

 岩陰から見ていたクロードとマリーがレイが動いた事に気付いたのは、ベヒーモスが吹き飛んでからだった。


「ふむ、やっぱチートだな」

 迅雷は建雷命タケミカツチの能力としては攻撃用ではなかった。

 ただ目標地点に向けて雷光と化して移動する。それを利用して攻撃も可能というだけ。

 ただし、攻撃技ではなくともその速度故に威力は絶大だ。

 実際、今もその気であればベヒーモスの頭部を貫通し破壊する事も容易だった。

 今のは攻撃ではなく、ベヒーモスの体に優しく着地しただけだった。


「悪いけど、色々実験に付き合ってくれよ」

 今のレイにとってベヒーモスは既に能力を試す実験相手でしかなかった。

 その為に、簡単に終わってもらっては困るのだった。


 むしろ、ベヒーモスを仕留めないように手加減する事が難しいほどだった。


 蹴り飛ばされたベヒーモスは、その身を起こすと、その背のコブを次々と打ち出した。

 そのコブの1つ1つが分身体、ミニーモスとなった。その数は30を超えていた。

 そのミニーモスがレイを囲む。


 無数のミニーモスがレイに向かって走り始める。

 同時に、ベヒーモスがレイに背を向け走り出した。


 この時、ベヒーモスは目の前の相手に勝てない事を本能的に察知したのか逃げ出す気でいた。

 その為に、自身の分身体を時間稼ぎの捨て駒とする気でいた。


 しかし、全くの無意味だった。

「ふーん。もう良いの? なら『電光石火』」

 瞬時に、まるで分身したかの様に、ほぼ同時に全てのミニーモスの前にレイが現れグラムを振るう。

 レイの姿が1つに戻った直後、ミニーモスが無数の肉片へと変わる。


 ベヒーモスの思惑は大きく外れ、数秒の時間稼ぎにもならなかった。


「逃がすかよ。『神雷槍』」

 逃げようとしていたベヒーモスを見据え、レイの手に雷の槍が生まれる。

 投擲された槍は一直線にベヒーモスを貫く。


「ヤバ、強すぎたか?」

 それは全力とは程遠い一撃だったが、ベヒーモスにとっては致命的な一撃だった。

 槍に貫かれたベヒーモスはその場に倒れ痙攣している。


「あ~ぁ。まぁ、しょうがない。トドメを刺すか」

 本当はまだ幾つかの技を試してみたかったのだが、なぶり殺しにするのも、死体を切り刻むのも趣味ではない。

 最後に1つ大技でトドメを刺す事に決める。


 レイの身に纏う雷光が一際強くなる。

 その雷光が右手のグラムへと集中し、長大な雷の剣と化す。

 再び雷光と化したレイが瞬時にベヒーモスの目の前に現れる。


「『神雷断剣』」

 振り抜かれたその一太刀がベヒーモスの巨体を容易く両断する。

 それどころか、両断されたベヒーモスは雷により断面どころか全身を炭化させていた。


「オーバーキルだったかな?」

 『かな?』ではなく、明らかにダメージ過剰だった。

 別にノアではオーバーキルによるボーナスもペナルティも無いので気にする事でもないのだが。


「ベヒーモスはAランク上位の魔物だっけ?だとすると、神威カムイはバランスブレイカー過ぎるな」

 神威カムイを使うと、加減した一撃ですらAランクの魔物に致命傷を与える。

 まともに戦えば、Sランクの魔物すら楽勝かもしれない。


「ふむ、使い所が難しいか?」

 神威カムイの能力は使ってみれば自然と理解出来る。

 少なくとも建雷命タケミカツチに関しては自然に理解出来た。

 問題は戦力過剰になってしまう事だ。Aランクの魔物ですらザコのようなものだ。

 使用すると30日は再使用が不能なのだが、Sランクの魔物を連日討伐にでも行かない限り問題はない。


 後、気になるのはもう1つ。

「MP全使用によって倒れる事だな」

 この事も神威カムイを使用した瞬間に理解した。

 効果時間が過ぎたら魔力欠乏により失神する事間違い無しだ。


「仲間が居ないと使うのは危険だな」

 取り敢えず、今回での最大の収穫はこの事に気付いた事かもしれない。




 悩んでいるレイを見ながら放心している者が居た。

 クロードとマリーだ。

「クロー、今のは夢かな?」

「そう思うなら、つねってみたら良いんじゃな…って、痛い!痛い!」

「ふむ、夢ではないな」

「自分の体で試せよ」

 早くも赤くなり始めた頬を擦りながら、涙目のクロードが抗議する。


「何なんだ、アイツは?」

「さあね。単なる新人ハンターではない事だけは確かだね」

 マリーには10年、クロードに至っては20年近いハンターとしての経験が有った。

 不可思議な体験も、理不尽な体験も何度もしてきた。

 そんな2人にとっても理解どころか見当すら付かない事態というのは、珍しい事だった。



 倒れたレイを回収したクロードとマリーが馬車に戻ったのは、3人が出かけてから約1時間後の事だった。


 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △


「何なんだろうな、アイツ?」

 クロードは本日2度目となる質問を呟いた。


「そう言われてみると、僕も彼の事はあまり知らないな。マリーは?」

「そう言えば、レイと初めて会ったときに、ちょっと気になる事を言っていたね」

「ほう?どんな話しだ?」

 マリーの言葉にクロードが興味深そうに身を乗り出す。


「レイは、お祖父さんと一緒にどこかの山奥で暮らしていたらしいんだよ。そして『自分の目で世界を見てみろ』と送り出されたらしいね」

「…で?」

「山から出た事は無くて、訪ねて来る人もいなかったらしいよ。しかも、送り出される際も転移術で飛ばされたみたいだしね」

「つまり、徹底して外界との接触を拒んでいた。て事か?」

「たぶんね」


 それはレイが咄嗟に語った嘘だった。

 しかし、マリーの口から語られたそれは、レイの素性の謎に拍車をかけた。


「そこまでして隠さなきゃならない何かが有るって事か」

「かもね。しかも、ルオルードの霊薬ぐらいならともかく、あのグラムとかいう剣まで所持していたとなると、只者じゃないだろうね」

 クロードの言葉にマリーが補足を加える。


「確かに僕も不思議に思っていた事があるんだよね。

 レイは言語や算学はかなり高度なレベルで修得しているんだ。

 言葉は、ほとんど訛りの無い完璧なヘルサニル語だし、読みも書きもほぼ完璧。複雑な計算を暗算で正確に行える。あれは高度な教育を受けていないと無理だよ。

 なのに、一般常識はかなり抜け落ちている」

「なるほど、一般的な常識は地方の文化や風習によって違いが出る事もあるから、敢えて教えなかった。という事かもな」

 リックの言葉にクロードが自身の見解を上乗せする。


 彼等の中でレイの素性がかなり特殊な物へとなってきていた。


「年齢は18? 誤差が3年位はあると見て、15年~21年位前に何らかの事態よって山奥に匿われていた。相応の教育を受け、強力な装備品を持ち、謎の超絶能力を持つ。

 フゥ、考えれば考えるほど、謎の深まる奴だな」

 クロードがここまでの話をまとめると、溜息と共に呟いた。


「良いじゃないか、別に。素性がどうであれ、レイはレイさ。

 直接話をして、触れ合って、私はあの子が悪い奴だとは思えないよ。

 ちょっとお人好しが過ぎる、危なっかしい、良い子だよ」

「俺も悪い奴だとは言ってねぇよ。ただ、あの力は危険だ。伝説に出てくる英雄もビックリだろよ。

 国や貴族のお偉方にバレたら、こき使われるか、飼い殺しにされるか、何にせよレイの為にはならないだろな」

 クロードの心配事は腕の良いハンターによくある話だった。

 英雄的な功績を上げたハンターが国や貴族に召抱えられ、酷使された挙句に非業の最期を迎える事は珍しくはない。


「しょうがねぇ。レイの事はレオに頼むか」

「レオ?アイツ、今何処に居るんだい?」

「ちょうど、クロスロードに居るよ。ゼオレグに向かう際に寄った時には、依頼で出かけていたみたいで会えなかったけどな」

「大丈夫かな?レオは良い奴だけど、その…」

「バカだからね。お人好しで、人としては信用は出来るけど、かなり残念なバカだからね」

 3人はそう言いうと、肩をすくめ笑いあう。


「まぁ、私達も暫くはゼオレグを拠点にしているつもりだし、たまには様子を見に行くよ」

「そうだな、俺もクロスロードなら年に何度かは行くし、気にかけてみるか」

 結局は彼等も皆お人好しだった。




「(ヤバかったー。まさかあの時のでまかせが役に立つとは)」

 既に大分前から目の覚めていたレイは、荷台で寝転んだまま冷や汗をかいていた。


 神威カムイについてどう説明したら良いものか悩んでいたが、どうやらクロード達はレイのでまかせを深読みしてくれた様だった。


「ちょっと、目立たないようにしないといけないかなー」

 今の話を聞く限りでは、目立ち過ぎるのも危険な様だ。


 クロスロードではあまり目立たないようにしようと決めたレイだった。

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