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11 「気楽に掛かってきな」

「よう!リック、マリー!」

 レイがマリー達と共に護衛対象の商人を合流予定場所で待っていると、そこへ1人の男が手を振りながらやって来た。


「久しぶりだな、リック。相変わらずナヨちいな」

 豪快に笑いながら歩み寄る男は、背丈はマリーよりも高く、その身は引き締まっているが、左足を引きずる様に歩いている。

 無造作と言うより自由奔放に伸ばしただけの茶色い髪を首の後ろで括っている。


「マリーも、相変わらずイイ女だな。そろそろ俺のオンナにならないか?」

「クロー、アンタも相変わらずだね」

 男の言葉にマリーが苦笑いを浮かべながら言葉を返す。


 男の名はクロード・ギンガム。

 元Aランクのハンターだ。


 クロードは、マリーとリックと他2人のハンターとパーティを組んでいた。

 マリーとリックをパーティに誘った先輩ハンターであり、そのパーティーのリーダーだった。

 しかし、とある依頼の最中に大怪我をし、片足に後遺症が残り引退し商人となった。


 人柄は豪快、普段は大法螺吹きの楽天家なのだが、実は如才ない人物で意外に商才が有ったらしく、ハンター時代よりも稼いでいるのだそうだ。


「宜しく頼むぜ、2人とも。今回の積荷を王都まで持っていけば金貨20枚以上の儲けになるんだからな」

 金貨20枚といえば、この国の一般人の賃金の半年分以上だ。


「ああ、大丈夫さ。貰える金の分だけはキッチリ働くよ」

「おう、言ってくれるじゃないか。安心しな。働いた分だけキッチリ払うさ」

 マリーの言葉にクロードも笑いながら言葉を返す。

 マリーの言った「貰える金の分だけキッチリ働く」というのは、現役時代のクロードが報酬をケチろうとした依頼人を「ケチるんなら手を抜くぜ」と脅すときによく言ったセリフだった。

 暗に「報酬は値切らせないからね」と言っているのだが、そこは10年来の友人への挨拶のような物だ。


「それと、2人じゃないんだよ。3人さ」

「あ?何だ、ついにメンバー増やしたのか?」

 クロードがハンターを辞め、パーティが解散した後、マリーとリックにも様々なパーティから誘いの声がかかった。

 しかし、2人はその全てを断り、どのパーティに入る事もなく、新たなメンバーを募集する事もなく、コンビで活動してきた。


「そういう訳じゃないんだけど、この子をクロスロードまで連れて行ってやろうかと思ってね」

 そう言うとマリーはレイを紹介した。


「彼はレイ・カトー。ちょっと前にFランクに昇格したばかりの新米さ。まぁ、ちょっと縁が有ってね。ダメかい?」

「ふーん。ま、別に構わねぇよ。クロスロードは通り道だし、同行者が1人増えたってどうって事ねぇよ。ただ、護衛の数が増えても報酬は増やさねぇからな」

 そう言ってクロードは悪戯っぽく笑う。


「ともかくだ、最近は盗賊なんかも増えてるみたいだし、護衛をしっかり頼むぞ」


 こうして一行は、王都へ向け出発した。

 まず目指すのは、クロスロード。

 ウォルビラ街道を西へと向かう。





「へぇー、ベノムスコーピオンか。アレは猛毒だからな、解毒薬も上級じゃないと効き目が無いんだよな」

「そうなんだよね。やっぱり薬は上級品を揃えておかないとダメかねぇ?」

「いいや、全部を上級で揃える必要はねぇよ。良い物を1つか2つ持っときゃ良いさ。

 そういう意味じゃ、ルオルードの霊薬を非常用に1つ隠し持っとくのは良いかもな」

 二頭立て馬車の御者台でマリー、リック、クロードが近況を報告し合っている。


 クロードは2人の話を聞きながら時折自分の意見を挟んでいる。

 マリーとリックもクロードの意見に頷き、自らアドバイスを求めるように言葉を交わす。

 クロードは2人にとって頼りになる兄貴分なのだろう。


 レイはそんな3人の楽しそうな会話を荷台の隅で聞いていた。

「いや、まぁ別に良いんだけどさ。特に話す事が有る訳じゃないし」

 荷物の間の狭いスペースに押し込まれる様に体育座りで小さくなっている。


「良いさ、俺はステータスの確認でもしておくから」

 「別にいじけてる訳じゃないんだからね!」と誰にでもなく言い訳をしていたりする辺り、寂しいのだろう。


====================

レイ・カトー  Lv:9

年齢:18歳  性別:男 

職業:ハンター   称号:異世界人


【HP】 143/143

【MP】  60/60


【STR】59(49+10)

【VIT】50(45+5)

【DEX】41

【AGI】44

【INT】41

【MND】38

【LUK】26


スキル     【スキルポイント 13】

カードファイター:Lv1(ユニークスキル)

初級剣術:Lv5

初級薬剤錬金術:Lv1

バインダー:Lv1

====================


 レイはホーンラビットとの戦いの後も毎日平原へ出掛け狩りを行ってきた。

 その結果レベルが9まで上がっていた。

 5日目に手に入れた『初級剣術【NN】』によって剣の腕前だけは初級経験者程度には成った。

 だが、Eランクでさえレベル20が目安なノアにおいては、まだまだだった。

 魔物として最低ランクに位置するホーンラビットであればどうにか勝てるようになったが、ハウンドドック相手では危険だった。


 そこで、初級剣術スキルのレベルを上げてみる事にした。

 どうやらレベルが1上がるとスキルポイントが3入るようだ。

 新しくスキルを取得するには初級スキルで5ポイント、中級で30ポイント、上級で100ポイントが要る様だ。

 スキルポイントを2ポイント消費する事でスキルのレベルを1つ上げられた。

 8ポイントをつぎ込み初級剣術をレベル5に上げた。

 その結果『スラッシュ』『連撃』というアーツを修得した(レベルいくつで修得したのかは不明)。


 『スラッシュ』を使えるようになった事でハウンドドックを一撃で倒せるようになり、以降は平原に恐れるべき敵がいなくなり朝から晩まで狩り(野ウサギと穴ネズミ)に勤しんだ。



 初級薬剤錬金術は下級回復薬等の作成が行えるスキルで、現在レイの主な収入源になっている。

 比較的簡単に手に入るレオルリーフ。一株3~4ギルで売れ、平原の様々な場所に生えている。

 そのレオルリーフ1株と井戸で汲んだ水だけで作成出来る下級回復薬は1個が30ギルで売れる。

 魔力消費3の元手無しで大量生産し広場に居た行商などに買い取って貰った。


 本来は専門の学校や錬金術師に弟子入りして相応の期間をかけて習うのだが、それをカード1枚を装備する事で習得した。



 スキル『バインダー』は完全にカードファイターの補助スキルだった。

 能力は、カードを収納できるバインダーを呼び出せる。

 バインダーに入れたカードは、使いたいと頭で思い描くだけで手元に呼び出す事が出来る。

 それどころかバインダーに収納したままで使用出来る事を『火矢ファイヤーアロ』のカードで確認した。

 問題点は収納してあるカードを自分で覚えておかなければいけない事と、収納枚数に限界が有る事か。

 カードファイターのスキルレベルに追従する様でレベル×100枚が収納出来る。


 同じ様にスキルファイターの補助スキルが他にも在りそうだ。



「スキルポイントまだ余ってるし、何かスキルでも取ろうかな?」

 そんな事を考えながら、今度は装備について考える。


====================

【頭部】

【体】レッドオーガのレザーアーマー 

【腕】レッドオーガの篭手

【右手】ショートソード

【左手】

【足】レッドオーガのレザーブーツ

【装飾品】不死鳥の首飾り


【カード】『STR+10』『初級剣術』

     『初級錬金術(薬)』『VIT+5』

     『  』


====================


「グラムが意味無しだったからな…」

 メモリアルドローで手に入れた『神剣グラム』は、その能力が『使用者の技量に応じて』という物だ。

 つまり、達人が持てば天井知らずの性能を発揮するが、素人が持てばナマクラにしかならない。

 素人に毛が生えた程度のレイでは、切れ味は鉄の剣に劣る、ただひたすら頑丈な鉄の板となってしまった。

 結果として神剣グラムはバインダーの奥で眠りについている。


「後1枠も何か装備するか?今日で『火矢ファイヤーアロ』が使えなくなるから、魔法カードを1枚装備するかな」

 『火矢ファイヤーアロ』は10日限定のカード。今日がその10日目だ。

 今持っている魔法カードは、『浄化クリーン』『癒しの手(ヒールハンド)』『氷針アイスニードル』『ヒートソウル』『石弾ストーンショット』『エアシールド』の6種だ


「『火矢ファイヤーアロ』の代わりにするなら『氷針アイスニードル』かな?」

 最後の装備スロットに『氷針アイスニードル』をセットする。


「どうすると魔法は覚えられるんだろう?」

 ゲームであれば、レベルが上がると自然に覚える事もあるのだが、この世界ではどうなのだろうか?

 そんな事を考えていると、いつの間にか馬車は止まっていた。


「レイ、お昼にするよ」

「はーい」

 御者台から声を掛けられる。


 町を出て数時間、全く話し相手がいなかったレイは小踊りする様に荷台から這い出した。

 そして、途中でハッとして「別に嬉しくなんか無いんだからね」と呟いた。

 相当寂しかったようだ。




「坊や、ちょっと付き合いな」

 馬を休ませ、昼食を食べた後、クロードがレイに声を掛けた。


「え?なんですか?」

「マリーも付き合ってくれ、リックは留守番な。荷物を頼む」

「ああ、分かった」


 クロードに連れられてしばらく歩く。

 レイがただの散歩なのかな?と思い始めた頃、

「この辺で良いかな?」

 クロードが立ち止まる。


「坊や、剣を抜きな」

 立ち止まり振り返ったとき、クロードの手には剣が握られていた。


「は?」

「お前さんの実力を知っておきたいのさ。いざと言うときに、どこまで戦力として計算して良いのか、信用して良いのか、それが分からないうちは安心出来ねぇんでな」

 そう言って右手の剣を一振りする。


「いや、でも…」

 私生活にすら影響のある足で大丈夫なのだろうか?

 レイがそう思いマリーを見る。


「見てもらいなよ、レイ。クローの腕は確かだよ。あんな足でも、下手したら私やリックよりも強いかもね」

「おいおい、『かも』だと? 随分と偉くなったもんだな。一対一ならまだ俺の方が強いに決まってるだろ」

 クロードが肩をすくめて苦笑いをしている。


「ケガして引退してなければ、Sランクも夢じゃなかった男だよ。クローが認めた相手は皆上級者になってるよ。アンタも見てもらいな」

 マリーがそう言い、真顔で頷く。


「マリーやリックは、お前さんに借りが有るんだろ? 言いにくい事も有るだろ。俺がハッキリ見極めてやるよ。お前がハンターとしてやって行けるかどうか」

 そう言って不適に笑うクロード。しかしその目は笑っていない。

 対峙しているだけでレイの背中を冷たい汗が流れる。


「やってやるよ」

 レイは腰のショートソードを抜き構える。


「そう固くなるなよ。大丈夫さ、別に取って食うわけじゃねぇ。

 気楽に掛かってきな」


 こうしてレイの腕試しが始まった。

クロード:本名、クロード・ギンガム(愛称:クロー)35歳

    元Aランクのハンター。ケガで引退し商人となる。

    ハンター時代の伝手や本人の商才も有って昔より儲かっている。

    Sランクも夢ではないと言われるほどの剣の腕前だったが、

    実は気配察知や隠身などのスニーキング技能の高い斥候が本職だった。

    引退した後もマリーやリック等の後輩を気にかけている。


このクロードさんもちょくちょく顔を出す予定です。

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