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103  「あなたがそれを言いますか」

 アクセルを全開にして土煙を巻き上げ道なき平原を疾走する魔導二輪車。

 運転者はクロード、リアシートに座っているのはレイ。


「良いなコレ。くれよ」

 コレまで何人にも言われた言葉である。


「嫌ですよ。一度馴れたらもう馬車には戻れないんですから」

「だよな。俺もマジで欲しいぜ」

「あげませんよ」

「エリス嬢に早く複製するように伝えといてくれ」

 これもまた何人にも言われている言葉である。


「そろそろ戻りましょうか」

「だな。あんま遅くなると面倒だしな」

 クロードの帰り(というより魔導二輪車の帰り)を待つ連中を思い浮かべる。

 ともかく速く走らせてみたい。そんなクロードの要望によりサイドカーは外された。本当は1人で乗った方が速度は出るが、もしも万が一の為にレイを乗せてのドライブだった。

 その為に不機嫌になっている者が若干いる。


「クロー、テレスティナさんの事なんだけどさ」

「言うな。分かっちゃいるさ」

 クロードも朴念仁ではない。自身に寄せられている想いには気付いている。

 気付いた上で応えられない。だから気付かぬ振りではぐらかしてきた。


「けどよ、ティナの事は愛してはいるが恋してはいない。家族、妹みたいなもんなんだ」

 大事な人の1人である。上から数えればすぐに出てくる相手である。

 クロードはテレスティナの為に命を賭ける事も出来る。

 それでも恋愛対象ではない。


「それに俺は何かに縛られたくねぇ。自由に、そう自由な風でありてぇ」

 それもクロードの本心だった。


「カッコつけてるだけの見栄さ。分かってる。マジでいつか刺されるかもな」

 それが自分勝手な言い分だとも分かっている。

 テレスティナに言われるまでも無く恨まれても仕方がない。

 自身の性分が災いして刺されるなら、黙って刺されるさ。そう割り切っていた。


「そういうお前も、ハッキリしねぇとな」

「は?」

「ハクレン達だけじゃなくアスカやなんかともコソコソしてるらしいじゃねぇか」

「いや、それは……」

「甲斐性があるのは結構……ん?」


 草原を抜け街道へと出たクロードの目に商隊とおぼしき一行が映る。


「近づかない方が良いか?」

 クロスロードの一部の者には知られているが、まだ魔導二輪車は秘密にされている存在だ。

 信用できるかどうか分からない者にまで見せたくはない。

 それを理解してかクロードは速度を落とす。


 しかし、

「あれ、襲われてないか?」

「こんな町の近くで珍しいな」

 大きな町の近くの街道は比較的安全である。

 魔物や盗賊の類は存在が確認されれば早めに討伐隊が組まれるからだ。


「盗賊? いや、人ぽくないな」

「オークやゴブリンでもなさそうですね」

「つうか、デカイな」

 足の止まった商隊の周りで武器を持った数人の姿が見える。

 そして、その相手は遠目に見ても大きいと分かる幾つかの人影。人の頭の高さに胸がある。


「オーガかな」

「こんな場所に?」

「どこにだって居るときゃ居るさ」

 クロードは他人事のように無関心そうにぼやく。


「助けに行ったほうが良いですかね?」

「厄介ごとに気軽に首突っ込むなよ。それに、いらねぇだろ」

 クロードの言葉にレイも既に倒されたらしき巨体に気付く。


「その為の雇った護衛だ……てか、あれマリーじゃね?」

「え? そうですか?」

 まだレイの目では個人を識別できない距離である。しかし、クロードには見えているのらしい。


「あー、間違いないな。リックも居る」

 いつの間にか取り出した遠眼鏡で確認したくロードが断言し「お前も見るか?」とレイに手渡す。


「ヘリオスだっけ? なら、この道で来てもおかしくないか」

「あー、確かに。そういえば今日辺り着いても良い頃でしたね」

 頭の中で王国内の地図を思い描く。

 ヘリオスからの行程を考えればおかしくはない。


「アイツ等なら助けに行くか?」

「……いえ、迂回して先に行きましょう。手助けは要らないでしょうし、他にも人が居ますから」

「そうか? まぁ、大丈夫だろうけど、一応ケリが着くまで見てからでも」

「多分、というかほぼ間違いなく大丈夫ですよ」


 そう言うレイが覗く遠眼鏡にはマリーとリック以外にもオーガを相手取る人物が映っていた。

 病的なまでに白い肌、燃える様な赤い髪、槍を携える人物。

 そして、壊れた馬車の車輪を交換している男。


 ジコルファブレン・アガンレスとユゥリー・エイジス。

 相手がドラゴンであろうとも問題ないであろう2人の姿だった。





「やぁ、リザリー。久しぶり」

「あ、貴方は……」


 ハンターギルドクロスロード支部内に静かな戦慄が走る。

 端的に言えば職員の1人に。


「実はさ、護衛してきた商隊なんだけど、積荷に嘘の申告があって、……聞いてる?」

 ポカンと口を開けて呆けているリザリーにユゥリーは首を傾げる。


「……ハッ! スイマセン。ちょっと待ってもらって良いですか? チョット! コッチ!」

 しばらく視線を彷徨わせたリザリーはユゥリーの背後に居たレイに気付くと正気を取り戻し部屋の隅へと呼ぶ。


「どういう事ですか!? またですか!?」

「なんか積荷がオーガだったらしいんだ」

「そんな事聞いてません! 何でユゥリーさん? どうして?」

「それは俺も知らん。門で偶然会っただけだ」


 コレは半分本当で半分嘘である。

 会ったのは偶然ではなく待っていたのだ。

 しかし、ユゥリーが何故クロスロードに来たのかは与り知らぬ話である。



 街道で彼らを見つけた後、クロードとレイは彼らを迂回する形で先回りしクロスロードに戻っていた。

 城門のところで何食わぬ顔で偶然のように会った。

 マリーとリックとの再会を喜び、何故か一緒だったユゥリーとジーンに驚いた振りをした。


 ユゥリーとジーンもまたヘリオスから商隊の護衛を請けてきたようだ。より正確には「ジーンが」だ。

 ギルドから要注意人物に指定されているユゥリーは自身の名を出すと面倒になる事を理解してか、依頼を請ける事は滅多にしない。今回も依頼を請けたジーンに「付いて来た」だけである。


 商隊の護衛を請け負ってクロスロードまでの道中だったが、その積荷に問題があった。

 事前の情報では積荷はヘリオス産の商品。という話だったのだが、実は闘技場などで戦わせる為の魔物だった。

 使役の為の隷属術を施して『鮮度劣化防止の箱』という名目の箱に押し込んでおいたのだが、何かの拍子にオーガ数体の隷属術が外れ暴れだした。


 魔物だろうとも「大事な商品」と依頼主が言うので殺さずに捕縛しなければならなかった。

 闘技場用の魔物の売買は別に違法ではない。「大事な商品」というところに間違いは無い。しかし、そういった重要な情報を隠していた事は問題だと抗議にギルドまで来たようだ。


 こういった時には自身の名が大いに役に立つとユゥリーが先頭切ってやって来たようだ。

 終始笑顔という圧力を受け、涙目のリザリーがその商人と商会ギルドへの抗議と報酬の上乗せの対応を約束させられていた。




「まさか2人がマリーさん達と一緒だとは思いませんでしたよ」

「たまたまさ、着くまではあの2人がレイの知り合いだとは思いもしなかったさ」

 確かにユゥリーとジーンがヘリオスに向かったのは知っていた。リックとマリーもヘリオスからクロスロードに向かっているという事も聞いていた。

 しかし、その2つが結びつくとは予想だにしていなかった。


「今回クロスロードは通り道だっただけで目的地じゃなかったんで「いれば挨拶ぐらい」のつもりだったんだが、まさか出迎えに来てくれるとはな」

「いや、たまたま別用があっただけですよ」

 レイの言葉はウソである。

 ウソをつく意味があるのかと言えば特にないのだが、本当のところを説明する意味もないとも言える。


「そうか。そういえば、なんか人が少なくないか?」

 ギルド内を見渡しユゥリーが聞く。

 夕方に近いこの時間は普段ならば一仕事終えたハンターがその完了処理や買取の申請等でそれなりに居るのだが、ここ数日間人影はまばらだ。

 テレスティナから逃げたハンターが多かった。という訳だけではない。

 逃げたハンターは精々が十数人、クロスロード支部の2割弱でしかない。

 しかしその十数人に付き合う形になった者、そのあいた穴を埋めるべくいつも以上に働く者、様々な現象が重なった結果、普段よりギルド支部舎はすいていた。


「えぇ、まぁちょっと」

「なんだ、何か問題か?」

「問題というか、なんというか」

 根本を話せば実に情けない話である。

 逃げ出した者達は余程テレスティナが怖いのか、仕返しされるだけの恨みを買っている自覚があるのかだ。


「ふーん、まぁ、深刻な話じゃないなら良いけど。そういえば、クロスロードに教会の聖女テレスティナと勇者ジークフリードが来てるらしいな。見かけたか?」

「あー、それは、まぁ見かけたというか、なんというか」

「ん?」

 言葉を濁すレイにユゥリーは事情有りと察して話を変える。

 だが、変えた話題こそ核心に至る話だった。


「聖女と勇者は先日まで我が家に居ました」

「……どういうこと?」

 これもまた予想外の言葉だったのだろう。ユゥリーも目を丸くして驚いていた。



「お前、付き合う相手はちゃんと選んだほうが良いぞ?」

 テレスティナとの出会いとその縁を話した所、ユゥリーからありがたい忠告を頂いた。

 人にとって物事の基準は自分自身である。レイもまた自身を甘いと分かってはいるが特別にお人好しだとは思っていない。誰にでも優しくしているつもりはない。

 しっかり選んだ上での付き合いだ。


 とはいえ、縁は勝手に出来ていて、知り合いは選ぶ間もなく増えていく。

 巡り合わせとは数奇なものか、はたまた類が友を呼んだのか、レイが関わる人物に珍妙な人物が多かった。

 その自覚はあった。


 そして、

「あなたがそれを言いますか」

 レイの知り合いの中で最も得体の知れない人物が目の前に居た。



 この日、後に王国全土を震撼させた事件、その始まりの役者がクロスロードに集まっていた。


暫くは更新できなさそうです。


詳しくは活動報告にて。

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