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97 「クロスロードへ行く?」

転生者その3こと勇者ジークフリード視点です。

「クロスロードへ行く?」


 クロスロードは王国の中央部にある都市だったか?


 ある昼下がりノエルが持って来た話。というか指令か。

 それはまたいつものようにいきなりの話だ。

 のんびり昼寝でもと横になっていた俺をいつもの様に起こしたノエル。


 いつもの様にいつもの事で、最近は慣れてしまった感もある。


「今度は何しに行くんだい?」

「テレスティナ様がクロスロードへ行くようです」


 いや、全く答えになってない。

 ティナがクロスロードに行く。まぁ、好きにさせたら良いんじゃない?

 ラディウス教が誇る聖女様。テレスティナ・エイレンス。希代の神聖魔法の使い手にして神殿最強の存在。

 彼女がどこへ出かけようとも何の問題もないだろう。


「……」

「えー、つまりです。エイレンス派の好きにはさせない。ということです」

「うん?」


 いや、全く分からない。

 むしろ謎が深まるばかりだ。


「良いですか、教皇様の退位が決まりました」

「あぁ、それは知ってる。まだ公式発表はされていないが、再来年の春だとか」

「はい。という事は、次期教皇を決めなければいけないという事です」


 リンディア王国の2人の王。国王と教皇。その関係は複雑だ。

 どちらが真に偉いのか? そんな談義が始まれば誰かが不敬罪になりかねない。

 どちらも誰かの下に置いてはいけない存在らしい。


「次期教皇の選出はそう簡単には行えません。国王が太子を指名すれば良い王家と違い、教皇様には後継者を指名する権利がありません。15人の選出人が連日の議論の末に選出します」

「へえ、そうなんだ」

「そうなんです。15人の選出人は複数の都市から招集されます。その中でクロスロードは特別なんです」


 ノエルの説明によれば、クロスロードから呼ばれる選出人は3人。これは王都から呼ばれる3人と並んで最多人数らしい。というか、複数人呼ばれるのは王都とクロスロード以外は公都オリシスの2人だけらしい。


「本来は王都から2名。それ以外は主要都市から1名ずつだったのですが、6代ほど前の選出の儀で不正が有り8つの都市が選出票を剥奪されました」


 15人の選出人の過半数が賄賂を受け取っていたらしい。

 以降、その8都市は教皇選出には関わらせてもらえていないらしい。


 とはいえ、選出人は『15人』と決まっているため新たな選出人の輩出地を決めなければいけい。しかし、誰かに都合の良い都市は別の誰かに都合が悪い。誰もが自分の都合が良いように進めたい。結果、新たに4都市は決まったがそれ以上は決まらなかった。

 王都リンドン、公都オリシス、自由都市クロスロード。王国の大都市の内不正に関わっていなかったこの3都市の選出票を1つずつ増やす事に決まった。


 残った1人分の票をどうするか。

 誰もが納得する新たな選出都市を決めるのは難しい。

 そこで、最も特定の派閥が有利にならない方法が採用された。

 ラディウス教と最も距離をおき、どの派閥の影響下にないクロスロードに票を預ける。という方法らしい。


 王国内において唯一支配層が世襲しないクロスロードであれば、世代交代によって支持派閥が変わる。今はどうであれいずれは取り込める可能性がある。

 そんな読みもあったのだろう。


「つまり、クロスロードは次期教皇選出の重要地の1つ。いえ、王都の選出人が流れに乗るだけの傾向が強いので最重要地といえます」


 確かに。王都の選出人は王太子以下次世代の王国トップが選ばれる事が多いらしい。次期教皇に恩を売っておく絶好の場だからだ。

 勝ち馬に乗って危険な賭けには出ないだろう。

 となれば、クロスロードが持つ3票は重いだろう。


「この時期にテレスティナ様がクロスロードに訪れるというのは、きたるべき選出の儀への下準備に他なりません」


 そうか?

 あのティナがそんな事をするか? 派閥争いとは無縁だと思うし、何よりそういう面倒な根回しとかしないタイプだと思うけどな。


「それで、俺にクロスロードに行ってどうしろと?」

「テレスティナ様に張り付いてください」

「はい?」

「彼女が姑息な根回しを行えないように監視します」

「えー」


 なんか、ものすごく面倒臭い事に巻き込まれ始めた気がする。





 面倒臭い事に巻き込まれるような予感は残念ながら的中した。

 聖都エレオスから王都までのガレオス街道を北上する事10日、ティナが消えた。


 正確にはティナとアスカが、だ。


 クロスロード行きをティナに誘われたアスカ。

 どうやら共通の知り合いが居るらしく話が盛り上がっていた。

 そんな2人、正確には2人と1匹が突然姿を消した。


 そんな訳で俺は今日という日を『朝からやり直す』事になった。



「どこへ行くんだい?」

 昼食と休憩の為に一行がキャンプを張り始めた頃、最後尾からスーと離れていく2人に声をかけた。

 どのタイミングで離れていくか分からなかったので朝から見張らせてもらった。


「どこ?てクロスロードよ」

「2人で?」

「まぁね。知ってる? 街道は以外に遠回りしてるのよね。ここから真っ直ぐ行けば3日で行けるのに、街道で行くと5日もかかっちゃうのよ」


 そもそもガリオス街道は王都と聖都を結ぶものではない。

 王都と聖都の間にある主要な町をつなぐもので地図上で見れば大分蛇行している。


 最短行程と街道行程。その差の2日が惜しい。

 そういう事なのだろう。

 もしくは仰々しく、休憩のたびに一々時間のかかるこの一行が面倒臭いのか。


 その気持、分からなくはない。

 1人で行けば3日の距離が4日も5日もかかる。

 クロスロード着予定も7日後になっている。


「森越え山越えだからだろ?」

 人の手の入っていない領域は魔物の領域である。

 ここからクロスロードへの最短ルートは山とその麓の樹海だ。

 だからそこを迂回するように街道は遠回りしている。


「あら? 私とアスカちゃんの2人じゃあ危険だと?」

「まさか。そんな心配はしてないよ」


 この2人、というよりもティナとコンに勝てる魔物が居たなら、王国は討伐に総力を挙げることになる。

 心配事は別だ。


「黙っていなくなったら面倒な事になるだろ」

 主に「抜け駆けされた!」と騒ぐであろうノエルをはじめとしたブルーデン派の連中が。


「なら、ジークも一緒に行く?」


 いや、それは……、良いかもしれん。

 きっとティナを止めるのは無理だろう。なんやかんやで最終的には強行される。押しとめるのはほぼ無理だ。

 無理について行こうと一行は滅茶苦茶になるだろう。

 なら黙って行かせた方が良い。

 その結果、「何故行かせたんですか!」と怒られるだろう。

 ついていけば、後で「何故声をかけてくれなかったんですか!」と怒られるだろうがまだマシだろう。

 少なくとも今日は面倒臭い事にはならない。


「せめて書き置きを残す時間くらいくれ」


 別に面倒事の先送りではない。





 さすがは元ハンターと現ハンターだ。野営にも手馴れていた。

 あっという間に火が起こされ、食事の準備が進む。

 いつの間に準備したのかというほど手際よく串焼きの肉や魚、それを挟むパンが用意されていく。


 2人分だけ。


「え? ジークの分? 用意してないわよ?」

「自分達の分しか用意してなかったもの」


 神殿からの御一行様一団から逃げ出す算段を前からしていた2人。

 一行の食料運搬車から自分達の分を持ってきていたようだ。


 俺も黙っていても食事が出てくる楽ちんモードに馴れ過ぎていた。


「しょうがないわね。保存食なら幾らかあるわ。それで良いかしら?」


 アスカが保存食らしき干し肉と固そうなパンを見せる。

 まぁ無いよりは断然良い。


「あぁ、悪いな。恩にきるよ」

「良いわよ、別に恩にきなくても。一食5000ギルね」

「は?」

「需要と供給のバランスを考えたら値段が高騰するのは仕方ないと思わない?」


 どうやらこの娘は人の足元を見てあこぎな商売をするようだ。

 いかんな。困った時は助け合いという日本人の精神を見失っている。

 世界中から賞賛される素晴らしい美徳なのだ。


 人の弱みに付け込むようなことをしてはならない。


 大人としてきちんと言ってやらねばならない。


「高い、2500」

「嫌なら良いのよ4900」

「……刻みが細かいぞ、3000」

「いざというときの非常食なのよ? 安いわけないじゃん。4850」


 ……更に刻まれた。

 ダメだ。譲り合いの精神もなさそうだ。


 こうなったら言うべき事は1つ。


「手持ちがないんで後払いで良いかな?」

「毎度あり♪」


 まぁ、金額は別に幾らでもいいさ。

 夢の三食寝付きの飼い殺し生活だ。お金は持っていても使い道がない。



 その後、深夜から明け方までの火の番を仰せつかった。

 同情するかのようにアスカの相棒コンが俺に近づき膝をポンポンと叩く。


 別について来なきゃ良かったとか悔やんでなんかいない。


 やり直そうかなとは思ったけどな。




 そんな若干虐げられているような気がしない事もなくもない山間強行軍も2日目。

 クロスロードまであと半日といった頃だった。


「あれ?」


 アスカの乗る馬の頭の上でコンが何かに気が付いたように立ち上がる。

 何かを嗅ぎ取ろうとしているのか鼻を上げヒクヒクさせている。

 たしか狐もイヌ科なので犬と同じくらい嗅覚が鋭いと聞いた事がある。

 狐を模したコンもやはり鼻が良いのだろうか?


「どうしたの?」

「この先に多くの気配があるんだよね」

「それなら、獣人の集落ね。昔からこの辺りに集落があるらしいわ」

「じゃあ、そこで今夜は休ませてもらいましょうよ」

「んー、どうかしらね? クロスロードから少し離れた位置に獣人だけで住む。つまり人と共存する気はないって事じゃないかしら」


 たしかにティナの言うとおり。

 態々こんな森の中に作った村に住んでいるのは近くの町(クロスロード)との間に何かがあったからだろう。

 排他的な村でもおかしくはない。


「んー」

「どうしたのよ?」


 いまだに鼻をヒクヒクさせながらコンが唸っている。


「知った臭いが混ざってるんだよな」

「知った臭い?」

「あぁ。多分ハクレンちゃんだ」

「ハクレン? じゃあ」

「ところが、あの野郎の臭いがしないんだ。あとエリスちゃんも」


 クロスロードに居るという知り合いの事だろうか?

 「ハクレンちゃん」という事は女性か。コンは男をあまり名前で呼ばない。呼ぶにしても嫌々そうに口にする。「あの野郎」というのは男だろう。

 男嫌いの女好き。そんなキャラ作りだろう。だが実際はそんな事はない。「エリスちゃん」より「あの野郎」の方が先に出てくる辺りしっかり気にかけているのが分かる。


「ハクレンだけが獣人の集落に居るって事?」

「まぁ、行ってみりゃあ分かんだろ」


 こうして向かう事になった獣人の集落。

 そして、その後に待つ出会い。


 それが俺の運命を大きく変える事になるとは、この段階では知る由もなかった。


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