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95 「認めねぇって言ってんだろ」

ご無沙汰しておりました。

何とか再開です。

「ついに出てしまった」

 いつかは出るだろうと思ってはいたが、実際にその時がくると悩むものだ。


 その手に現れたカードの一枚。


『神霊薬 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆【SR】

 万病を癒す霊薬、欠損部位修復、機能不全回復など

 死者の甦生を除くあらゆる回復効果を持つ

 使用限定カード

 品質 普通

 効果 全状態異常回復

    HP全回復 MP全回復  』


 確率上レアリティSRのカードも100回のノーマルドローで1枚は出る。

 トリプルドローに至っては10回に1回の出現率だ。

 実際にSRカードは30枚以上ある。

 その中には、かつてマルクトに見せられた『隕石招来メテオストライク』も有る。


 だからSRカードがそこまで珍しい物。という訳ではないが、このカードは若干違う意味で使い道に困る。


「たぶんこれがエリクシールなんだろうな」

 カードに書かれた名前と一般的に知られている名前が合っていない事はよくある。

 だが、書かれている説明文から推測するにこれが全てを癒すという伝説の薬でありそうだ。


「うーん、どうするかな?」

 扱いに困る一品である。

 効果は極上。万が一に備えるという意味合いではこれ以上の物もない。

 が、そういう物は得てして勿体なさ過ぎて使わずじまい。という事になりかねない。


 大事に備えて持っておく。というのが普通なのだろうが、これには別の使い方がもある。


 エリクシール。別名オールヒールとも呼ばれるこの薬を長年研究しているハイネリアに渡し研究の足しにして貰う。

 彼女には【錬成鑑定】なるスキルがあるらしく、その品を錬金術で作る為に必要な基本素材を逆引きできるらしい。勿論、基本素材が分かっただけで素材の下処理から錬成陣や混ぜる順番、タイミングまでは分からないらしいので、そこから先に研究と実験がいるようだ。


 もし研究が完成し、量産できるようになればその方が断然良い。


 問題は、どこでこれを手に入れたのかを説明出来ない事だ。


「となると、アイツかな?」

 いっその事、ハイネリアに全て話す。という選択肢もあるが、今更何と言えば良いのかも分からない。


 気は進まないが、アイツの力を借りるとしよう。





「あら、レイ君。珍しいじゃなぁい。ご無沙汰しちゃって寂しかったワー♪」

「クネクネすんな気色悪い」

「ま、失礼しちゃうワー」


 クロスロードの片隅。

 スラムとまでは言わないが、人気の少ない界隈に建つ怪しい小さな店。の更に地下。

 それが雑貨屋である『ジェイの店』。正式な店名は知らないし知りたくもない。

 あまり他の客が居る所を見た事がない。という点はハイネリアの『ユーディル雑貨店』と同じだが、その意味合いはまるで違う。

 ユーディル雑貨店が主人が商売をする気があまりないのが大きいのに対して、ジェイの店はいかがわしいというのがその理由だ。店主の見た目と人柄を含めて。

 店の分類は雑貨店らしい。その売り物はまさに雑多。何でも売るし何でも買う。客が欲しいと言えば仕入、買って欲しいと言えば買い取る。合法非合法を問わない。

 その代わりに選ぶのは客。店主が気に入った相手としか取引をしない。


「それでぇ? 今日は何かしらぁ? いつもの魔石の買取? それとも何か欲しい物でも? もう、レイ君の頼みなら何でも仕入れちゃうワ」


 俺はそんな厄介な店主になぜか気に入られてしまったようだ。


「気色わるい声出すなジョニー」

「まぁ! ジョニーじゃないって言ってるでしょ! ジェニーよ、ジェニー。ジェニファー」

「黙れ。青ひげ生やしたムキムキのジェニファーなんて認めねぇって言ってんだろ」


 ハイネリアに紹介されたのだが、握手の直後にハグされて尻を撫でられた。

 即座に剣を抜いた俺を責める者はいないだろう。

 ハッキリ言って会いたくない人物のトップ3に間違いなく入る。

 全力でその存在を拒否したい。


 それでも度々この店を訪れる理由は「商売相手としての信頼度は絶大」だからだ。

 高レベルの鑑定スキル持ち。交友関係は広く様々な伝手がある。さらに口は堅く、口外無用と断れば秘密は絶対に守る。

 『商売相手』として限定するなら最高の相手だ。

 そうでなければ合法非合法を問わない商売で生き残れるはずがない。


「ちょっと頼み事があってな。見て欲しいのはコレだ」

 近づいてこようとするジェイ(ジョニーとジェニーの妥協点でそう呼ぶ事にした)を手で制し、カウンターに神霊薬を置く。


「これは……」

 それ自体が芸術品のようなガラスの小ビンに入ったそれをジェイが目を細めながら眺めている。


「中を見せてもらっても良いかしら?」

「あぁ」

 ジェイは一言断りを入れてビンのフタを開け中身の鑑定を行う。


「……ッ!? これ本物!?」

 ジェイも自身の鑑定スキルに絶対の自信を持ちながらも、にわかには信じられないらしく二度三度と鑑定を繰り返す。


「何だった?」

「……エリクシール。効果は全回復。ケガ、病気、状態異常、その全てを即座に回復させる秘薬よ。伝説、幻、そんな代物ね」

 高レベルの鑑定スキルにより正確な情報を得ている。


「これをどこで?」

「それは聞かないのが約束だろ」

「とは言えこれは流石にね」

 物の素性や出所を問わないのが俺とジェイの間での決まりである。

 その約束で魔石の買取やただのハンターには手の出ない様な品を買い取ってもらっている。

 だが、それでもこれは例外か。

 既に製法が失われた、どころか実在したか否かが議論の争点となる代物だ。


「ところで、話は変わるんだけど」

「え? あぁ、ただの世間話ね。分かってるワ」

 したり顔で頷くジェイ。若干ドヤ顔なのがイラつくが、この察しの良さはさすがだと感心する。


「王都で聞いたんだが、なんか古い遺跡が見つかったらしいな」

「えぇ、どこぞの若いハンターが大活躍したらしいわね。残念ながらワタシの所までは流れてきてないけど、王都の研究者が大喜びの遺物がゴッソリ出て……まさか! パクってきたわけ!?」

「ん? 何の話だ?」

 何を言っているのか全く分からない。

 そもそも遺跡で発見した宝物の所有権は発見者にある。

 国に雇われた調査隊のメンバーならともかく、ハンターであれば見つけた宝を持ち帰ることに何の問題もない。

 それに、始めに言ったとおり、その件とエリクシールは別の話しだ。


「ふーん。でも、残念ながらコレは買い取れないわね」

「なんでだ? 何でも買い取るって話だろ?」

「買えないの。値段がつけられないし、そんな金額払えないワ。白金貨で何百枚ってレベルよ」


 残念そうに首を振るジェイ。

 ここで適当な値段を言って相手を騙そうとはしない。

 コイツの趣味と人格は全く受け入れられないが、仕事に対する姿勢だけは信頼している。


 まぁ、そうなるよな。


「買ってくれとは言わないさ。言ったろ、頼み事だって。コレを出所秘密でハイネに渡して欲しいんだ」

「姐さんに?まぁ、 確かに喜ぶでしょうけど、何で自分で渡さないの?」

「俺が出所だと知られるとアレコレ聞かれて面倒くさいだろ。その点お前なら『怪しげな古物商から買い取った』で済むだろ」

「アタシがバラすとは思わないわけ?」

「お前は客を売らないよ」

「あら、信用されてるのね♪」

「あぁ、でなければ、こんな薄気味悪い変態の店なんてとっくに潰れてるだろ」

「ヒドイ、傷ついちゃうワー」

「黙れ。この程度で傷つくような繊細な神経なら、さっさと妖怪なんて辞めちまえ」


 断っておかなければいけないのだが、俺はこの手の人種に理解がない訳ではない。

 勿論、バカにする気も見下げる気もない。

 だが、この目の前にいる人物は、あえて気色悪がられようとしている節がある。

 少なくとも、初めて会った日はクネクネしてはいなかったし、おネエ言葉でもなかった。


「失礼しちゃうワ。それで、それだけ?」

「あ? なにが?」

「ハイネ姐さんに出所が知られたくないのは、アレコレ聞かれるのが面倒臭いからだけ?」

「そうだよ。他に何がある」


 ハイネリアは義理堅い。基本的に「倍返し」といったタイプだ。

 今も良くしてもらっているのは初めて会ったときの恩返しが終わっていない。といった思いがあるからだろう。

 そこへエリクシールを渡したりしたら恩返しは一生続くだろう。


「ふーん。へぇー」

「なんだよ。ニヤニヤすんな」

 まるで「分かってますよ」とでも言いたげなジェイのニヤケ顔にイラッとする。


「まぁ良いワ。そういう事にしておいてア・ゲ・ル♪」

「ッ!? 危ねぇだろ。殺す気か」


 気色の悪い言葉尻に合わせて飛んできた殺傷力を持つウィンクを全力で回避した。


「ホント、結構傷つくんですけど」

「そうか、そら良かったよ」


 この程度で傷つくような面の皮か。


「そんで、タダで譲るわけじゃない。コイツを元に作成に成功したら優先的に回してもらえ。そんで俺に売れ。安くな」

「面倒事をアタシに押し付けて自分は良いとこ取りなわけネ」

「別にお前が損する事も無いだろ? お前もローリスク・ハイリターンだろう」


 ジェイの怪しい商売はハイネリアも重々承知だ。

 出所不明の怪しい物をハイネリアに流した事も一度や二度ではないだろう。


「まぁいいワ。きっと姐さんも喜ぶワ」

「んじゃ、よろしく」


 事が済んだらさっさと退散。

 この瘴気溢れる魔界は人の身には辛い。主に精神面で。


「あぁ、そう言えば、ちょっと面白い情報があるんだけど? 聞いていかない?」

「いかない。俺は一刻も早くこの場から去りたい」

「つれないワねぇ。でも、そこがイイ♪」


 恐ろしい事を言うな。

 悪魔に魅入られるなど冗談じゃない。


「特別タダで教えちゃう」


 カウンターの奥で青髭を生やしたガチマッチョが肩肘を突いて笑っている。

 男臭い笑みならば嫌悪感も無いのだろうが、何故か乙女の笑みに見えるから気持ちが悪い。


 そんなジェイの口から取って置きの情報が解き放たれた。


「聖女様が来るそうよ」

「はぁ?」

「しかも、勇者と巫女を伴って」


 なんだそりゃ?

 完全に何か起きるフラグじゃねぇか。

お待たせしました。


待っていてくれた方が居ればですが。

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