10 「この町を出る気はないかい?」
*1/11 魔力循環器増幅器の効果修正。蓄積魔力100000⇒500000 増幅量25%⇒10%
「10、9、8、7」
異世界生活7日目。
漸くこの日がやって来た。
「6、5、4」
ハンターランクがついに上がった?
いいや、それは既に2日前に上がっている。
では、一体何の日か?
「3、2、1、0」
記念すべきドロー10回目を行う日だ。
異世界に来て初日にトリプルドローを行い、
3日目以降は日に2回のドローを行い、つい今しがた9回目のクールタイムが0になった。
予想では10回目のドローはメモリアルドローになる筈だ。
しかも、10回目これこそが本命と言える。
なぜなら、この能力の作成者は『マルクト』。
思い違いでないのなら、セフィロトツリー第10のセフィラを意味しているのだろう。
マルクとが象徴する数字は『10』。
という訳で10という数字にはとても期待している。
「さて、何が出るかな?」
ワクワクしながらカードをドローする。
「【トリプルドロー】」
虚空から3枚のカードが手の上に現れる。
手にした3枚のカードは
『バインダー【R】』『VIT+5【N】』『エアシールド【NN】』
だった。
「あれ?メモリアルドローの効果は?」
これではただのトリプルドローと変わらない。
10回目はメモリアルドローじゃなかったのか。
そう思った時、
『メモリアルドロー(10th)の効果【ボーナスドロー】を発動しますか?
はい / いいえ 』
脳内にアナウンスが響いた。
「驚かすなよ」
どうやら今回はボーナスドローが別口で引けるらしい。
当然『はい』に決まっている。
『はい』を選択すると、新たな脳内アナウンスが聞こえる。
『今回のボーナスドローは3枚のカードの『レアリティ』と『系統』を指定して引く事が出来ます。但し、EXカードは1枚のみです。
1枚目のカードのレアリティを選択して下さい。
選択可能なレアリティは『EX』『SR』『R』『NN』『N』です』
「まぁ、ここはやっぱりEXだよな」
EXカードが手に入る機会なら、それを逃す手は無い。
レアリティはEXを選択する。
『1枚目のレアリティは『EX』。系統を選択して下さい。
選択可能な系統は『アイテム』『魔法』『スキル』『神威』です』
「そこはもちろん神威でしょ」
是非とも神威は複数枚所有しておきたい。
系統は神威を選択する。
同様に2枚目、3枚目のカードのレアリティと系統を決める。
『ボーナスドローの選択は
1枚目レアリティ『EX』、系統『神威』
2枚目レアリティ『SR』、系統『アイテム』
2枚目レアリティ『SR』、系統『アイテム』
で、宜しいですか? はい / いいえ 』
「ふむ、これで良いかな?」
レアリティはSRで問題無い。
系統の選択に魔法は無しだ。何故なら使えない可能性がある。折角のSRカードを使用1回だけで消費するのは勿体無い。
スキル系も使用条件に下位スキルの保有とかが有って使えない可能性がある。
基礎能力系は使えない事は無いだろうが、『STR+1000』とか出られても困る。そういう偏ったステータスは趣味じゃない。バランスが大事だ。
アイテム系なら外れは無さそうだ。最悪換金してしまうという手もある。
「という訳で、これで良い」
あまりグダグダ悩んでもしょうがない。
『はい』を選択しボーナスドローを発動する。
手の上に現れた3枚のカード
『マルス【EX】』『神剣グラム【SR】』『魔力循環増幅器【SR】』
「おう、見事にチート臭いのが並んだ」
『マルス ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆【EX】
勇敢なる闘神。不退転の進軍する者。
発動時に全MPを消費
神威カード
力 :★★★★★★★★★★
技量 :★★★★★★★
特殊能力:★★★★
発動継続時間:600秒
クールタイム:30日 』
「マルス?たしか火星の神様だっけか?ギリシャ神話か何かだったよな?」
結局はどう使うのかは良く分からない。
そのうち実験しておこう。
『神剣グラム ☆☆☆☆☆☆☆☆☆【SR】
神が鍛えたという剣。使用者の技量に応じその切れ味が増す。
使用限定カード
品質 高品質(高品質ボーナス『耐久値自動回復』)
耐久値 5500/5500
特殊効果 混乱・恐慌・威圧無効化
耐久値自動回復 』
「神が鍛えた。というか、全部マルクトが作ってるんだろ?」
実際にどのくらいの切れ味かは分からない。
『魔力循環増幅器 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆【SR】
魔力を封入し蓄積させる魔導器。内部で魔力を循環させ増幅させる。
蓄積した魔力は使用者に還元、又は魔力結晶石として排出。
使用限定カード
蓄積魔力 0/500000
効果 魔力増幅量10%/日 』
「内部で循環増幅?日に10%ずつ増幅していくと1ヵ月後には10倍位になってるんじゃないか?そもそも魔力結晶石って何だ?」
ここに来て、また見知らぬ単語が出てきた。
言葉の通りに魔力が結晶化したものなんだろうけど、どんな意味があるのかが分からない。
「よし、困ったときはマリー先生だ」
そう決めるとマリーさん達が朝食を取っているであろう食堂へと向かう事にした。
△ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △
「ん?魔力結晶石?手に入れたのかい?」
「いえ、そういう訳じゃないんですけど、ちょっと小耳に挟んだので」
詳しい話を聞いた訳ではない。という意味では嘘ではない。
「魔力結晶石というのはね、その名の如く魔力が結晶化した物だよ」
「魔物の体内で作られているらしいけど、どうやって出来るかは不明なんだ」
マリーさん達の話によると、魔力結晶石は魔物の体内から稀に見つかる事が有るそうだ。
下位の魔物からはほとんど出る事は無く、高位の魔物ほど発見率が高いのだという。
内包している魔力の量(密度?)によって色が変わり(白→青→黄→赤→黒)、大きさと色によって買取の値段が変わるのだという。
「買い取ってなんに使うんですかね?」
「確か、魔導器の動力源になったり、個人の魔力回復に使えたりするらしいよ」
「へぇー」
つまり『魔力循環増幅器』は金を生み出す打出の小槌という事だ。
MP回復が出来る『不死鳥の首飾り』も持っているのだから、どんどん魔力を溜め込んで、ある程度溜まった所で10%増加分を結晶石に変えて売り払えば、半永久的に金が手に入る。
そんな皮算用をリックの一言が打ち砕く。
「まぁ、売るより個人で使った方が断然良いけどね」
「え?」
「迷宮で倒した魔物からはポロポロ出るから、買い取りの値段は大した事無いよ」
「さっきは見つかるのは稀だって言ってませんでした?」
「それは自然の魔物からは、という事さ。自然の魔物で結晶石が採取出来るのはAランク以上の魔物がほとんどだからね、そのランクの魔物自体が稀な存在だからね」
「じゃあ、迷宮?そこの魔物からは何で取れるんですか?」
「その辺が謎なんだよね。そもそも迷宮自体が謎だからね」
迷宮というのは各地に存在する謎のダンジョンだ。
その存在は謎に包まれており、巨大な生物、古代の遺物、自然のミステリースポット等の様々な説が有るが、本当の所は誰にも分かっていない。
迷宮は出没する魔物や罠の有無などの難易度によって、下級・中級・上級・超級に分けられている。
「下級迷宮で取れる白結晶石なんかだと、単価も2~5ギル、下手したらレオルリーフを探した方が儲かるかもね」
どうやら結晶石で遊んで暮らそう計画は始まる前から頓挫していたようだ。
「話は変わるんだけどさ、レイ、アンタこの町を出る気はないかい?」
「は?」
「いや、別にこの町に居て欲しくないとか、そういう訳じゃないんだよ。
ただ、この町は初心者には厳しい環境だからね。ほらこの町は初心者は少ないだろ?」
言われてみれば確かに、ゼオレグには駆け出しのハンターは少ない。
なぜなら最寄りの狩り場であるジルドの森が魔物のアベレージがCランクと高めで、比較的低ランクな平原の魔物は軍の駐屯部隊が治安維持と錬兵訓練を兼ねて討伐してしまう為、駆け出しのハンターは薬草の採取や小動物の捕獲がメインになってしまう。
決して稼げる環境とは言えない。
「この町はCランク位の腕が無いとハンターとしてはやっていけないからね」
そう言ってリックさんが肩をすくめる。
確かにそうだ。
ゼオレグは活気ある港町だから港での荷揚げ作業など仕事はいくらでも有る。
だがそれなら別にハンターである必要は無いという事だ。
「今度ね、知り合いの商人の護衛で王都まで行くんだけど、アンタも途中まで一緒に行かないかい?」
「えっと、どういう事ですか?」
話が二転三転し何の話なのか分からなくなる。
「王都まで行く道の途中に私やリックが駆け出しの頃に世話になった町が在ってね」
「僕もマリーもCランクになる位まではその町に居たんだよ」
マリーさん達の話によると、その町の近くには危険な魔物の少ない初心者向けの森から、危険な魔物が多数住み着く峡谷まで様々な狩り場が在り、下級と中級の迷宮が日帰り可能な距離に存在する。
駆け出しのハンターにとってはランク上げの場に事欠かないのだそうだ。
マリーさんが右手の人差し指を立てる。
「リンディア王国には幾つかの主要街道が在ってね、その内の1つが王都リンドンと南部の聖都エレオスとを結ぶガリオス街道さ」
王都リンドンは、言わずと知れたリンディア王国の首都で、王様が住んでいる。当然ながら王国最大というか大陸でも最大の都市らしい。
聖都エレオスは、王国の国教でもあるラディウス教の3大聖地の1つ大神殿を囲むように発展した王国南部最大の都市だ。
「そしてもう1つが、西部の公都オリシスとここ港町ゼオレグとを結ぶウォルビラ街道」
今度は左手の人差し指を寝かして言う。
公都オリシスは王国西部の要地で王族にも連なるオリアリス公爵が治める都市だ。
マリーさんが両手の人差し指を交差させる。
「そしてこの2つの街道の交点がその町さ。
誰が呼んだか別名を自由都市。多くの旅人とそれ目当ての商人、そしてハンター達が入り乱れる町さ」
「レイが本気でハンターとして生きて行こうと思うなら、まずはその町でしっかりと腕を磨くのが良いと思うよ」
リックさんが真剣な顔付きでそう話す。
話は分かった。
このまま上級者向けの町に居続けるより、初心者向けの町に行った方が良いという事だ。
そして、その初心者向けの町を護衛の依頼の途中で寄るからそこまで一緒に行かないか?という事だ。
実に有り難い話ではないか。
勿論ご好意に甘えさせていただこう。
「そうですね。俺もその方が良いと思います。お願いします」
そう言って頭を下げる。
「そうかい。なら出発は3日後だよ」
「大体20日位かかるからね。途中に宿場町も在るけど、野宿する事にもなるから準備はしっかりとね」
2人はそう言いながら笑う。
そこで俺は大事な事に気づく。
「ところでその町はなんて言うんですか?」
まだ町名を聞いていない。
「自由都市クロスロードさ」
2枚目の神威『マルス』は正確にはローマ神話の神様です。
ギリシャ神話でいう所のアレスですが、
アレスはイメージ的に破壊を撒き散らす厄災の神様ぽかったので、
マルスの方を採用いたしました。
話は漸くクロスロードに、
ただこのまますんなりとは行けませんが。




