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93 「最後はお前さんで良いのかね?」

「最後はお前さんで良いのかね?」

 剣を肩に担いだ男が笑顔でレイに尋ねた。


「お前とあのお嬢さん……て、寝てんなアレ。まぁ、いい。ともかく2人は別枠だろ? 何か有る。という事で良いんだよな?」

 正解の決められていない問題の答え合わせに臨むかのように、男は楽しそうな笑みを浮かべる。


 確かにレイは他の者に順番を譲っていた。

 たしかにそこには様子見とは違う別の思惑があった。


『ちょっと聞きたいんだが、オリシス北の遺跡を知ってるか?』

『ん? あぁ、たしかメタルドラゴンを番人に置いたのがあったか?』

 レイが突然話し始めた日本語に、男は知られたくない内容なのだろうと察し応じ答える。


『そう、それ。そのメタルドラゴン。アンタとそいつどっちが強い?』

『そりゃ、間違いなく俺だろ』

 男は迷う事なく断言する。

 人の手により生み出された魔法生命体、特に戦闘用のゴーレムは戦闘能力を求めて作り出されている。戦闘能力という点で創造者を越えている事は多々ある。

 だがエージ・ユーキはその例に当てはまらない様だ。


『とは言え、この体で勝てるか? となると、無理かもしれんがな』

 男は肩をすくめる。


『俺は確かに結城英治の人格・記憶・技能を引き継いでる。だが、体の性能までは再現できていない。やろうと思えばそれなりに再現は出来るだろうが、体が持たないだろうな』

 男は苦笑いを浮かべる。

 やろうと思えば、エージ・ユーキの術技の全てを再現できるのだが、ただでさえ数時間しか持たない体はその負荷に耐えられない。


『じゃあ、今のアンタとあのドラゴンが戦えば?』

『フム……負ける事はないが、アレを破壊するのは一苦労。て所かな』

 レイの質問に男は少し考え答えを導き出す。


『「俺は勝ったぞ」て事か?』

 そして、同時にレイの言いたい事も理解する。


『あぁ、胸に大穴を開けてやった』

『大穴? フッ、フハハハ! 良いぜ。アレを打ち抜いたって? それがマジなら魔王級だな』

 男はレイの言葉がツボに嵌ったらしく大笑いした。


『フフッ、いや、マジで良いぜ。予想以上だ。見せてもらうぜ』

 ひとしきり笑い満足したのか男は真剣な表情に戻り再び霊剣フツミタマを召喚した。

 体に負担をかけない武器という意味ではそれが最良の選択だったのだろう。


『いいぜ、神威カムイ健雷命タケミカヅチ】』

 レイは神威をスキル制限発動を使い50%で発動する。

 周囲でパチパチと火花が舞い散る。


 その光景に男の顔に驚きが浮かぶ。


『憑依術か』

 男は一目でそれが如何なる物なのかを理解した。

 古の既に失われたとされる術である。

 厳密に言えばそうではないのだが、それを説明するには最もしっくりくる物であろう。


「それじゃあ、行くぜ!」

 互いに準備が終わった事を知り、笑みを消し真剣な表情を浮かべた男の姿が消える。

 いや、消えたと思わせる程の速度でレイの背後に回り込む様に迫る。


 男の剣が虚実を織り交ぜ雨の如くレイへと降り掛かる。

 冴え渡る打ち込みの連続をレイは難なく見切り避ける。

 神威発動下でなければ初撃で終わっているだろうその剣撃の間を縫って、レイは男へと近づくと雷光を纏った手刀を振るう。

 その手刀を男はギリギリの所で受け流す。

 そのまま大きく距離を取って一息つく。


「いやいや、参った。まだまだ余裕。そんな感じか」

「そんな事はないさ。ただ、そもそもが50%での発動だけどな」

「武器を使わないのは?」

「耐えられる武器がないんだよ」

 一振り二振りなら持ち堪えられそうな剣は有る。

 だが、それでも存分に力を発揮できるとは言いがたい。

 ならばむしろ徒手空拳の方が心配がなくて良い。


「ふーん……使え」

 男は手にしていた剣をレイへと放り投げる。


「え?」

「ソイツなら、大丈夫だろう。特殊な能力は一切ないが、折れず曲がらず刃毀れもしない。存分に使ってくれ」

 その剣を受け取った瞬間、レイも「この剣ならいける」と感じとる。

 一振りしたレイはその剣が何故か思っていた以上に手に馴染む事に若干驚きながらも確信する。


「良いのか? たぶん一刀で終わるぜ」

「良いさ。俺も一振り以上は持たないからな」

 男はレイの言葉に笑顔を返し右手を掲げる。

 先程までと違うのは手の先の魔法陣が現れない事。その代わりに人差し指が不思議な紋様を描いていく。

 描かれていく紋様の最後の部分が書き終わると男の指がその紋様の真ん中を切る。

 その切れ目から黄金の柄が現れる。


神殺しの剣(ハルパー)

 紋様から柄を引く抜くと黄金に輝く内刃の曲剣が現れる。


「コイツで斬られたら、例え不死の存在でも死ぬ。まぁ、気をつけろよ」

 そう言いながら剣を構える男。剣を持つ手から肌がヒビ割れていく。

 剣が放つ魔力に体が耐えられないようだ。


「さすがにアレは不味いか?」

 その剣がヤバイ物だという事はレイにも見た瞬間に分かった。

 思い返してみれば、神威使用時に危険を感じたのは初めての事だった。

 レイは右手のフツミタマに視線を落とし下段に構える。


 ――斬られる前に斬る。

 ハッキリとは断言できないが、目の前にいる男の技量は今の自分ともそう変わりない。

 どんな隠し技を持っているかも分からない。そして、1つのミスが死を呼びかねない。

 ならばとるべき手段は最速の一撃。切っ先を跳ね上げるだけで良い。後はこの剣が斬ってくれる。


 レイは男の動きを視野全体でおおまかに眺める。どこか一点に集中しない方が僅かな動きを見落とさずに済む。そして、目だけではなく男の纏う空気を肌で感じ取る。


 僅かに空気が揺らいだように感じた。

 ――踏み込め!

 体の奥から聞こえた声に背を押されレイは一歩踏み込んだ。


 動き出したのはほぼ同時。いや、男の方が僅かに早かった。

 だが、正しく電光と化したレイと男ではあまりに速さが違っていた。

 男がハルパーを振る間もなくレイのフツミタマが振り抜かれていた。


「あー、やっぱりか」

 男が小さく呟く。胴のほぼ半分を白銀の刃が通り抜けていった。

 この結末は予想出来ていた。むしろ確信が有ったと言って良かった。

 それでも敢えて無理を押して神殺しの剣(ハルパー)まで出したのは、こういった常軌を逸した物が在るという事を見せる為だった。


「そういえば、名前を聞いてなかったな、教えてくれ」

 それは魔法生命体だからか、通常であれば即死でもおかしくはない傷を負いながらも男は平然と語りかけていた。


「レイ・カトー」

「そうか。じゃあ、レイ。たぶんお前は運命の輪の中にいる。この場に到れた事。俺と会い話した事。それだけの力が有る事。きっと、その時が来ればお前は巻き込まれる」

 男の最後は近いのだろう。ヒビ割れ始めていた体が崩れ始めていた。


 その言葉を遮るべきではない。出来うる限り聞いておけ。

 レイの中で何かがそう告げていた。


「嫌なら逃げても良いさ。たぶん追いかけては来ないさ。

 だが、もし俺のやり損ねた仕事を片付けてくれるってんなら、魔王レーグニッツを訪ねてみろ。あー、まぁまだアイツが生きてんなら、だがな」

 男は苦笑いを浮かべる。彼の持つ情報は300年前の物だ。今でも通用する情報かどうかは分からない。

 あいにくレイは魔王の名を1つも知らない。


「アレを見ればレーグニッツなら察するだろ。ソレは報酬代わりにくれてやる」

 男はレイの持つフツミタマと台座を指差し言う。

 何やら台座は動き左右に割れていく様だった。


「コイツがキーだ。大事に使えよ」

 そこまで言うと男はやり切ったといった顔で笑いキーを投げる。


 レイが受け取ったそれは赤い水晶だった。


 そして、

「言っとくけどな、全然だからな。俺が自分の体で戦えてれば、俺の……が全然強い……から……」

 最後まで言い切る事なく男は崩れ去った。




「……色々情報が多すぎるぜ」

 ため息を1つ吐いたレイはとりあえず遺産というのが何なのかを確認すべく台座へと向かう。


「これは……」

 ソレを見たレイは言葉を失う。

 ソレを最後に見掛けたのは何時の事だったか?

 少なくともこの世界、ノアには無かったであろう物。



 伝説のハンター、エージ・ユーキの逸話は数え切れないほど存在する。

 中にはどう考えても作り話だとしか思えないような物も少なくはない。

 例えば、こんな物がある。

『それは見かけた事のない鋼鉄の馬だった。

 並みの馬より遥かに速く、そして疲れる事なく昼夜を駆け続ける事が出来た』

 その真偽を確かめた者はいない。



 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 コツ、コツ、コツ。


 誰も居ない暗闇の中を一人の少女が進んでいく。


 目当ての物の前までやってくると、床に跪きソレを拾い上げる。


「ゴライオス様」


 ソレは男に刎ね飛ばされたゴライオスの頭部であった。


「エレノイアか」


 突然ゴライオスの生首が目を開き言葉を発した。


「試してあったとはいえ、我が身で味わうのは不快だな」

「申し訳ございません」

「まぁ良い。『不死の薬』の効果はよく分かった」


 古代の遺跡で見つけた謎の薬。

 色々と試した結果、飲んだ者を不死にする事が分かった。


 といっても、完全な不死ではなくそれに近づける。といった物。

 首を刎ねられた程度なら3日は死なない。



「奴等は?」

「城の中を探し転移装置を見つけたようです」

「そうか」


 体と首を繋ぎ合わせながらゴライオスは今の状況を確認していく。


「ならば5日とせずに王国の者が来るだろうな」

「はい」

「偽の死体を残しておけ。追われては面倒だ」


 今は気にしていなくとも、死体が無くなっている事にいずれは気付くだろう。

 そうなれば、捜索される事になるだろう。

 容易く足取りがつかまれるとは思わないが、常に不測位の事態は起きる。

 今回の様に。


「今後はどうされますか?」

「そうだな……」


 少女の問いかけにゴライオスは考えを巡らす。

 予備の拠点に移りこれまでの成果をまとめるか、それとも新たな遺跡を探すか。


「……フッ、世界樹か。唯のお伽噺と捨て置いていたが、調べてみるか」


 次の目標を定めたゴライオスは静かに闇の中に紛れていった。


建御雷神タケミカヅチの剣といえば布都御魂フツミタマという事でグラムに代わる主装備に。


今回の遺産はルパ○三世でお馴染み不○子ちゃんがよく乗ってるアレな感じです。


次で王都ともお別れです。

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