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90 「天下分け目の天王山」

『 』内を日本語として使用しています。

「つくづく隠し扉が好きね」

 横へとスライドして開いていく壁を見ながらミユキは呟く。


「お前! 何をした!」

 怒鳴り声に視線を移すと、目を見開いたゴライオスが居た。

 凄まじい勢いで駆け寄るゴライオスにミユキは武器を取り出す間もなく両肩をつかまれた。


「女、貴様一体何をした? どうやってこの扉を開いた?」

「か、壁の文字を読んだだけよ」

 ミユキはゴライオスのあまりの剣幕に敵対していた事を忘れ質問に素直に答える。

 その答えに更にゴライオスは驚いたように目を見開く。


「読んだ!? この文字が読めるのか?」

「えぇ、まぁ読めるわよ」

「まことか! なぜ読める? 何の文字だ? 何処の文字だ? 貴様は何者だ?」

 ゴライオスは壁の文字とミユキを交互に見ると壁の文字を指差し矢継ぎ早に質問を繰り出す。

 その目には先程までとは違う色を帯びていた。

 目の前の問題に真剣に取り組む学生。僅かなヒントも見逃すまいとモニターを凝視する謎解きゲーマー。

 所謂、探求者の目だった。


「まぁ、故郷の文字だからね」

「故郷!? 故郷だと! 未だにこの文字を使用しているという事か? 何処だ? 大陸の何処に在る?」

「ちょっ、この大陸じゃないわよ」

 ゴライオスがミユキの肩を揺さぶり答えを急かす。

 何か一言答える度に質問と勢いが数倍になって帰ってくる。

 完全にミユキは気おされていた。


「……大陸外? そうか、その可能性があったか。……いや、だとすると……。しかし、それでは……」

 ゴライオスはミユキの言葉に周囲を歩き回りながら何かを考え込んでいる。

 時折天を仰ぎ、宙に何かを指で描き、そして頭をかいて首を振る。

 放って置けば納得がいく答えが出るまでそうしているであろう事が容易に想像できた。


「えーと、もう終わりで良いわけ?」

 三度、破砕音と共に砕け散ったゴーレム。

 しかし、それにさえ反応を見せないゴライオスにミユキは大きく息を吐いてその場に座り込んだ。




「大丈夫か?」

「あんまり大丈夫じゃないわ」

「コレを飲んでおけ」

「ありがと、助かるわ」

 ローゼンハイムから渡されたポーションを受け取ったミユキは一気に呷る。

 本来はキズを治す為の物なので疲労回復にはそれほどの効果はないが、無いよりはましである。


「で、何がどうなったんだ?」

「知らないわよ。壁の文字を読んだら壁が開いて、アレが何か考え込み始めた。何なのかしらね?」

 ローゼンハイムの疑問にミユキも訳が分からないと肩をすくめる。

 ミユキの周りにレイ達が集まってきた後もゴライオスは考え込んでいた。

 いったい何がしたいのか、それが分からない事が不気味であった。


「あー、これはエージ・ユーキの遺産だな。こんな所にもあるとはな」

「なんだと?」

 ミユキの言葉に壁の文字を見たレイが苦笑いを浮かべる。


「どういうことだ?」

 『エージ・ユーキ』という言葉にローゼンハイムの目が鋭くなる。


「以前、公都オリシスの近くに同じ様な仕掛けがあってな。奥にエージ・ユーキの遺産があったのさ」

「ほう、大発見ではないか。遺産とは何だったのだ?」

「分からん。吹き飛ばしちまった。あんな感じにな」

 レイが指差すのは粉砕されたゴーレム。


「胸の中に遺産が有ったらしい」

「……バカか、貴様は?」

「しょうがないだろ、そんなところに有るとは思わなかったんだから」

 エージ・ユーキの遺産と言えば、国宝に指定されてもおかしくない逸品ばかりだ。

 実際に彼がその友人でもあったエドワルド王に譲ったという剣は国宝として代々の王に継がれている。

 それ以外でも彼が愛用した武具は、超一流と言われる者達にとっても垂涎の的だ。

 それを失ったといえば歴史的損失と価値を知る者は嘆くだろう。

 事実、目の前のローゼンハイムは天を仰ぐように大仰に嘆いている。


「多分奥にもう一つ謎掛け、というか合言葉的なのがあるだろうな」

 レイは開いた壁の向こうに視線を送る。

 釣られるように皆も奥へと視線を送る。


「ほう、小僧、貴様も何やら知っているようだな」

 突然掛けられた声に緊張が走る。

 いつの間にか考え事を終わらせていたゴライオスが腕組みしながらレイ達を見ていた。


「待て、休戦だ。最早俺に争う気はない」

 武器を取り出し構え始めた一同をゴライオスは片手を上げて制する。


「信じると思う?」

「信じて貰うしかないな。証を、と言われても困るがな」

 歯を剥き好戦的な笑みを浮かべるシャーリーに対して、ゴライオスは両手を上げ戦う気はないと主張する。


「先程の言葉を信じるなら、この奥に更に封じられた扉があるのだろ? 俺の興味はその扉の奥だ。そしてそこへ行くにはどうやら貴様等の協力が必要のようだ。ならば、俺としては是非とも協力してもらいたい所だ。争う気など起きんさ」

「アンタに協力する理由がコッチには無いんだけど? それを調べるのは、アンタを倒した後でも良いわけだし」

「確かに、な。……いや、そうとも言えんだろうな」

 武器を下ろそうとしないシャーリーの好戦的な物言いにゴライオスは笑みを返す。


「外は見たか?」

「なに?」

「外に居る者達を見たか? と聞いている」

「あぁ、畑作りをさせられている人達ならな」

「アレ等の命と引き換えでは?」

「引き換え?」

「奴等は既に隷属させられている。俺はその術式を知っている。協力し合う価値はあると思うが?」

「……」

 「協力し合う」とは言うもののそれは人質を取った上での脅迫にすぎない。

 既に死んでいると思われていた者達。だが実際には生きていた。

 それが分かった以上、可能な限り生きて帰してやりたい。

 そんな思いが見透かされていた。


「拒否権は無い。という事か」

「いや、構わんさ。好きにすると良い」

 そう言いながらもその顔には確信めいた笑みが浮かんでいた。


「心配するな。この奥さえ確認できれば最早此処に用も無し。あの者共を返した所で不都合も無い。貴様等共々、無事に帰すと約束しよう」


 その約束が守られる保障はどこにもない。

 それは誰もが分かっていた。


「まずはこちらが誠意を見せよう」

 レイ達の考えを察したかのようにゴライオスが一枚の羊皮紙を取り出し放る。


「隷属化の術式が書かれている。これを解析すれば解除出来よう」

「これは……。エリス、頼む」

 投げれた羊皮紙を受け取り広げたレイは一瞬固まると、それをエリスに渡す。

 中には見たことの無い文字と紋様が描かれていた。


「見た事のない術式。文字からすると古代文明の物」

「解読できるか?」

「時間をかければ」

「任せた」

「任された」


 エリスはレイの言葉に頷くと羊皮紙をしまう。

 なにやら楽しげに見えるのは気のせいではないのだろう。

 難しい宿題が出されるほどそれを解く事を楽しめる奇特な者がいる。

 エリスは間違いなくその奇特な者の一人だった。



『天下分け目の○○○』

 第一の扉の奥にあった第二の扉の横に記された日本語の合言葉。


「知ってるか?」

「当たり前でしょ」

 レイの言葉にミユキが呆れたように答える。


「なら、どうぞ」

 レイはミユキに扉の前を譲る。

 それを受けて自信満々にミユキが進み出る。


「じゃあいくわよ。『天下分け目の天王山』」


「……」

「……」

「……」

「……」


「……何も起こらんが?」


 自信満々に合言葉を唱えたミユキだったが、しばらく待っても一向に何かが起こる気配はなかった。


「まぁ、間違ってるからな」

「何でよ!?」

「天下分け目の……と言えば『関ヶ原』だろ」

 

 レイがその言葉を口にした瞬間、扉が淡く輝き、カチン、ガチャ!という音と共に開いていった。


「……ほらな」

 扉の封印は○○○の中だけで解除される仕組みだったようだ。

 まだ開くとは思っていなかったレイも驚いていたが、気を取り直しドヤ顔をミユキに向ける。


「スイマセンね、不勉強で」

「まぁ、勘違いしている奴も多いだろうさ」

 不貞腐れたようなミユキをフォローしつつレイは扉を潜る。

 その後ろに「アンタとエージ・ユーキが勘違いしてんじゃないの?」とぼやきながらミユキが続く。


 扉の奥は以前訪れた別の遺跡と同じく大きな部屋になっていた。

 ただ違っているのは、


「ドラゴンが居ないな」

「えぇ、いませんね」

 広く何もない部屋を見たレイの感想に同じ物を見ているハクレンが同意する。


「何も無い様だが?」

 部屋の中を見回したローゼンハイムが非難の目をレイへと向ける。

 その向こうではゴライオスが更にキョロキョロと辺りを見回していた。


「レイ、あれ」

 エリスがレイの袖を引きながら部屋の一角を指差す。


「あぁ、前の遺跡ではアレの上にドラゴンの象があったんだよな」

 部屋の奥にはドラゴンの像が置かれていたのと同じような台座のみが在った。


「違う。魔力を発してる」

 エリスがレイの言葉に首を振る。

 それは以前の遺跡とは違うという事を示唆していた。


「ほう? あれがか?」

 その言葉にゴライオスが台座へと向かう。


「これは……」

 台座に近づくとゴライオスは何かを見つけ立ち止まる。


 それに興味を引かれた一同も台座へと向かう。



「なにコレ?」

「ふむ」

「人……か?」


 台座の中心では透明な蓋の下に一人の男が横たわっていた。


「なんか水? 液体が入ってるわね」

「というか、之は生きているのか? 死体を保存しているのか?」

「たぶん生きてる。微弱でも魔力を発してる」

「という事は、この液体は生命維持用ですか?」

 台座を囲み皆が覗き込むように見ながら意見を交わす。


「レイ、ちょっとこれ見て」

 そんな中でミユキが台座のある部分を指しながらレイを呼ぶ。


 そこの有ったのは『開』『閉』と漢字が彫り込まれたボタンだった。


「……押して良いのか?」

「知らないわよ」

 その文字は読めたが意図が読めなかった。

 

「とりあえず、開けてみましょう」

 特に考えるでもなくミユキが『開』をボタンを押す。


 プシューという排気音の後に透明な蓋がゆっくりと開いていく。

 同時に中を満たしていた液体も抜けていく。


 蓋が完全に開き液が抜けて暫く、皆が固唾を飲んで男の動きに注視する中、男の目が開く。

 そのまま上半身を起こした男は軽く伸びをして首や肩を回す。


『で、お前等全員元日本人か?』

 男の口から突然発せられた日本語。

 それ自体と言葉の中身から目の前の男の素性が知れる。


『いや、俺と彼女だけだ』

 レイが自分とミユキを指差して答える。


「なら、こっちの方が良いかな?」

「あぁ、通訳が要らなくてすむよ」

 流暢な王国公用語を話す男。

 その事に周囲から安堵の雰囲気がにじみ出る。


 皆聞きたい事が各々あったようだが、なにから聞けば良いのか躊躇っていた。

 そんな空気の中、単刀直入にミユキが聞く

「まず最初に皆が聞きたい基本的な事なんだろうけど、あなた誰?」

 

 確かにそれは誰もが知りたかった事だった。


「俺か?」

 男は周囲を見回し皆の視線にある興味と同意の感情を読み取るとニヤリと笑って言葉を発した。


「俺は、結城 英治さ」

ゴライオスは目的と手段が逆転している節があります。

何で力を求めていたかはどうでも良くなっています。

古代の文明の解明が楽しくなっています。

変わり身の早さは、それ以外はわりとどうでも良い感じと思って読んで下さい。

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