それは、こんな物語
のんびり更新ですが、よろしくお願いします。
今回はプロローグとはちょっと違います。
「クソ!ツイてねぇ」
自分の運の無さを嘆きながら森の中を走る。
本来なら今日は、とある集落へ荷物を届けるだけの簡単な依頼に行く筈だった。
しかし、出発直前になってその集落が『人間立ち入り禁止』である事が分かった。
かつて人間に迫害され森へと追いやられた獣人達の集落なのだそうだ。
既に150年以上昔の話なのだが、未だにその恨みは消えないらしい。
獣人の中で長命種の者は当事者がまだ存命な為か、頑なにこの掟を貫いている。
2人の仲間は「依頼はキャンセル」と言い出したが、既に受けてしまっているので罰金が発生するし、昇格間近と思われるこの時期にマイナス査定は避けたい。
結果、配達依頼は獣人である2人に任せる事にした。
心配そうに何度も振り返りながら出発する2人を見送り、俺はヒマ潰しがてらに簡単そうな採取の依頼をソロでやっておく事にした。
見つけたのは『水月草』の採取だ。
『水月草』は綺麗な水辺で月光を受けて成長する草で、食べれば魔力回復を促進させ、調合・調薬すれば魔力回復薬になる。近場では森の湖に群生している。
その森は町から程近く、危険な獣も少ない為に駆け出しハンターの狩り場になっている。
ランクD+の依頼なのだが、これは水月草の識別が難しい事に由来する。
手当たり次第に採取して帰ってくるだけならEランクでも十分だ。
実際、水月草は簡単に採取出来た。
その帰りにCランクの『ファングリザード』に遭遇した。しかも群れに。
普段はこの森には生息していないのだが、時折エサとなる獣を求めて狩りにやってくるらしい。
このファングリザードは、言ってしまえば小型の肉食恐竜だ。
大きさは成人男性よりは小さいが、硬い鱗に高い走力と鋭い牙を持ち集団で狩りをする危険な奴だ。
その硬い鱗に守られた体躯は駆け出しのハンターでは歯が立たない。
こいつの討伐が出来て初めて一人前とも言われる。
俺も1対1ならば問題なく倒せる。1対3でも上手く立ち回れば何とかなるだろう。
だが、1対5ならまず戦わない。逃げの一手だ。
そのファングリザードが少なく見ても10体、たぶんもっと多いだろう。
更に仲間を呼ぶように奇声を上げながら追いかけてくる。
「クソ!ツイてねぇ」
俺は森をひた走る。
「むっ」
先行するように滑空していたエリスが地面に降り立つ。
「……」
エリスに追いついた俺も目の前の光景に絶句する。
目の前には見上げる程の断崖が在る。高さは身の丈の5倍以上は有る、跳び上がれる高さではない。
ここに辿り着くまで森の植生の為に気が付かなかった。
「…『飛翔』は?」
「レイを連れて行かなくて良いなら可能」
「見捨てるのは止めてね」
「善処する」
そこは「しない」と断定して欲しかったのだが…。
ファングリザードは俺達を取り囲む様に広がっている。
「レイ、もしかしてピンチ?」
「あぁ、ピンチだよ! たぶんだけどな!」
「ん、了解」
まるで危機感を感じさせないエリスの声に軽くキレ気味に答えるが、彼女はまるで気にした風でもない。
背後は崖、背後を心配しなくて良いのが唯一の救いか。
「やるか!」
「ん。了解」
ちょっと数が多いが、エリスの援護があれば無理ではないだろう。
いざとなったら切り札を使うまでだ。
「これで6体目!」
中々良いペースでファングリザードの数が減っている。
これならもうしばらくすると逃げられるか?
そんな打算が頭をちらつき始める。
ファングリザードの対処方は簡単だ。
こいつ等の武器は鋭い牙だけと言っても過言ではない。
間合いの外から鱗の無い場所を狙って攻撃するのが基本だ。
俺は武器を剣から槍に代える。目を狙うのが有効だ。
一度に相手をするのは1~2体だけ、後はエリスが魔法で牽制する。
野生生物の例に漏れなく火を恐れるので、火矢や火球で足止めしてもらう。
後は1体1体、少しずつ倒していく。
「右側牽制、広めに頼む」
「ん、『其は火炎、燃え盛る壁、留まりて阻め。火炎壁』」
6体目を倒した後、一斉に動き出したファングリザードをエリスの魔法が押し留める。
その間に左側に残っていた3体の内の1体を始末する。
「フウ、一息つけるか」
火を恐れたのかファングリザードは遠巻きに囲んでいるだけで、襲い掛かっては来なそうだ。
炎の壁が消えるまでは休憩出来るだろう。
そこへ、
「レイ、話がある」
エリスが突然話し掛けてきた。
自分から声を掛けてくるのは珍しい。
「何?今じゃなきゃダメか?」
「後でも構わないけど、今が最適」
「何?」
無駄な事どころか、下手すると必要な事さえ省略する彼女がそう言うのだ聞くべきだろう。
「もうすぐ魔力が尽きる」
「は?え?」
今なんと?
「魔力の残量が少ない、たぶん2割を切った」
「え~と、それは…」
「火矢が6回、火球が4回、火炎壁なら2回が限界」
「何でこのタイミングで…」
まずいだろ。エリスの魔法による援護が生命線だ。
「前に言われた」
「え?」
「以前に『魔力が尽きる前に知らせるべき』と言われた」
「ああ、そうだったな。ちゃんと覚えていたな。エライエライ」
「ん。がんばった」
俺の皮肉など通用するわけもなく、微妙にドヤ顔で胸を張る。
どうする?
切り札を使うか?たかがトカゲ如きに?
「レイ」
「今度は何だよ?」
「もしかして絶体絶命?」
「分かってるじゃないか。軽~くだけど、大ピンチだよ」
派手に燃えていた炎の壁の勢いが無くなっていく。
消えるのは時間の問題だ。
「大丈夫」
「何が!?」
「絶体絶命ならレオが現れる」
いやいや、流石にそんなに都合よくは現れないだろ。
「キャー、助けてー、レオー!」
全く悲壮感も、緊迫感もない悲鳴を棒読みでエリスが叫ぶ。
すると、
「呼んだか?俺を!」
どこからか声が聞こえる。
「本当に現れた!?」
あの野郎、出番待ちしてやがったな。
何処だ?
「崖の上」
エリスの指摘に上を見る。
大剣を担いだ偉丈夫が、そこに居た。
「助けを求める友の声!魂の叫びに応えて、レオルード・ベオクレス参上!」
大見得を切ったレオルードから嫌な気配を感じた。
「待て待て、レオ「トウ!」ル……」
やはりと言うべきか、レオルードは跳んだ。10メード(≒10メートル)以上は有ろうかという崖の上から。
「一刀両断!」
飛び降りる勢いを乗せて振り下ろされた剣は狙い違わずファングリザードを捉え、その胴体を真っ二つに断ち切る。
「おお!」
俺なら何度か斬りつけてようやく割れるという鱗を持っているのだが、流石はAランクハンターだ。
イケる。これならイケる。
そう思えた。確かにそう思えたのだが、
「む!抜けん!?」
その身を半ばまで地面に埋め込んだ大剣は簡単には抜けそうになかった。
「何してんの!?馬鹿なの!?」
実力はトップクラス。残念さもトップクラス。
それがレオルード・ベオクレスという男だ。
そんな目の前のカモをファングリザードが見逃す筈もなく、数体がレオルードに襲い掛かる。
慌てて剣を捨て退避するが間に合わず、1体のファングリザードがその腕に食い付いた。
「『火矢』」
エリスの放った火矢がファングリザードの顔面に炸裂する。
「おい!?」
「大丈夫」
非難の言葉を気にするでも無く即答される。
その大丈夫は「狙いを違える事は無いから」なのか「当たっても」なのか?
「フー、助かった。ナイスアタック!」
「ん、問題ない」
眼前に火矢を叩き込まれた事など気にするでもなくレオルードはエリスにサムズアップし感謝の言葉を口にする。
だが、その右腕は肉がえぐれ血塗れだ。
「ファングリザードにかじられてその程度かよ。流石はAランクハンター様ですな?」
「心配するな。お前も努力すれば辿り着ける」
「…そんな心配してねぇよ」
どうして俺の周りには皮肉が通用しない奴が多いのだろう。
「エリス、治療を」
「回復魔法は消耗が激しい。戦闘に回せる魔力が残らない」
「良いよ。神威を使う」
「ん。すぐ終わらせる。発動はまだ待って」
相変わらず俺の能力の謎を解明する気満々だな。
しかし勿体無い。ファングリザード相手に神威を使うなら、1000体ぐらいは居てくれないと割に合わない。
まぁ、エリスや俺に万が一があっては困るし、え?レオルード?自力でどうにかするだろこの男は。
「神威発動。【建雷命】」
さぁ、さっさと終わらせて帰ろうか。
見慣れた城壁、見慣れた門、顔馴染みの門衛、そして門まで迎えに来ていた2人の仲間。
よほど嬉しいのか、砂煙が立ち上るほど尻尾がブンブン回されている。
「まったく、簡単な依頼の筈だったのにな。相変わらず予想通りには行かないな」
「ん、だから興味は尽きない」
「退屈するよりは断然良い」
無表情で肯定するエリス。
豪快に笑うレオルード。
予想を裏切ってくれるのは周囲の人間もだ。
いい意味でも、悪い意味でも。
街の名はクロスロード。王国南部の交易都市。
多くの者が日々訪れる。偉人変人奇人普通人、勇者英雄悪党チンピラ、変態ド変態超変態。様々な人が入り乱れる街で、異世界人、加藤 玲は「レイ・カトー」として生きる。
これは異世界人レイ・カトーが愉快な仲間達と共に生きる物語。
時系列的には、物語開始からしばらく後です。
次回が第一話です。
よろしくお願いします。