一話
暖炉のぬくもりが気持ち良くて、私は眠ってしまっていたようだ。目をゆっくりと開け、体をほぐす為に伸びをする。そこは当たり前だが私の家だった、ただそんなに立派な物ではなく木でできた小屋といった物だ。もちろん自分の物なので大事にしているし、それなりに気に入っているが。今日の夕ご飯は今朝採れた野菜で作ったスープにしようーー調理の段取りを考えながら、私は家の扉を開ける。そこにはいつも通りの景色があった。見渡す限りの広大な白い大地、その中にポツンと立っているのが私の家だった。
「……」
別に何かを期待していたわけではない、ただの習慣だ。私は何も考えずに扉を閉めようとした時に、するはずのない人の声がした。
「女性がこんな辺鄙なところで一人ぐらし、よろしくないねキミ」
そこには自転車に跨る、見知らぬ女の子がいた。
突然家にやって来たので驚いてしまったが、私はとにかく彼女を家に入れる事にした。
「いや、ありがとう。延々自転車を濃いでいたからとてもお腹が減っていたんだよ」
彼女はそんなことを言った後は、ひたすらスープとパンを交互に食べていた。私はそんな彼女を頬杖をついて見つめる。いろいろと聞いて見たい事もあったが、とりあえず思ったことを口にする。
「よく食べますね」
彼女は少し眉を顰め、持っていたスプーンをこちらにピッと向け言う。少し行儀が悪い。
「女性に向かってその言い草はどうだろう。私は食いしん坊ではないのだからな、訂正を要求する」
私はテーブルに身を乗り出し、スプーンを握る彼女の手に触れ、やんわりと行儀を直した。彼女はそのようすをじっと見ていたが、やがて頬を膨らませて言った。
「子供じゃないんだぞ」
私としても少しらしくないことをしているという意識はあったが、気になるのだから仕方ない。とりあえず謝っておく。
「すみません。なにぶん人と接するのは久しぶりでして」
彼女は本気で気分を損ねていたわけではなかったようで、すぐにカラッと笑った。
「いやいいよ。自分の悪い所を指摘してくれる人は貴重だし、私も人と久しぶりに話しているから緊張しているのかもしれない」
私たちは顔を見合わせて笑った。
食後のお茶を飲んだ後、私の方から切り出した。私の家に来るという行為はとても難しい事なのだ。
「わざわざこんな所に来たのには何か理由が有るのでは?」
彼女は頷き言う。
「うん、私は君の話を聞きに来たんだ。君の家がどうしてこんなに人と距離を取った所にあるのかを聞きたいんだ」
「そんなことを聞いてどうするんです?」
「どうもしないよ。ただ私はこの世界に起こっているこの不可思議な現象について調べてるんだ」
私にとって自分の話は別に秘密でも話しにくいことでもなかった。別にそこまで長い話でもない。
「昔はこの家も、小さいですがきちんとした村の中にあったんです。私はその村で暮らしていたんです、その日までは。その日の前兆何てものは一切なく、気がついたら村は消え失せ、代わりにこの砂の大地が広がっていたんです。私は初めはそのことに動揺しましたが、時間と共に慣れて行きました」
私は彼女に見せたい物があると言って、外に出るよう促した。