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6、愛してるぞ、って言ってくれたのは嘘だったんですか?

 どうぞ。

「ああ、すまんな」

’あら、おいしそう’

”わあー、ケーキだ!”

 私の手作りです。

”う……?”

 あの、ディエンテッタさん、どうかなさいましたか?

”え、だって、きぃちゃん、味見できないって言ってたから”

’おいしいわよ? お菓子なんて、レシピ通りに作りさえすればまずくなることはないわ’

 ありがとうございます。

’さて、落ち着いたところでいいかしら’

「おう、聞かせてくれ」

 なんだかドキドキです。

’正直言って、わからないことだらけだったんだけど、たぶん……’

 ドキドキ。

’キィちゃんは、ヒトを目指した物じゃないかしら?’

「惜しいな、少し違う」

’外見といい、体重の軽さといい、動きの自然さといい、一般的な自動人形の用途からしたら、不自然なまでに人間に近づけているみたいだったから。視覚と聴覚はともかく、嗅覚とか味覚とか触覚とか、わざわざ人形につける意味なんて皆無でしょう。そこまで無駄に人間に近づけておいて、それが目的じゃないってよくわからないわね?’

「外見を人間に近づけようとしたのは確かだが、それは目的ではなくて手段だな。人間社会で生活する上で、人間と同じものを見て、感じられるようにするための手段のひとつだな」

’はぁ、全然ダメね、私。それじゃ開き直っていくつか質問したいんだけどいいかしら?’

「おう、何でも聞いてくれ」

’この子は何で動いているの? 動力源がさっぱり分からないわ。あと関節とかどうやって動かしているのかしら’

「メインの動力源は心臓部に埋め込まれたゼンマイだ」

’は?’

 え?

「その動力を歯車で受けて、各部へ伝達し、バネを巻き上げたり伸ばしたりすることにより関節などが稼動する」

 なんか、今ものすごいことを聞いてしまった気がするのですが。

「なんだキィ、自分の身体のことなのに知らなかったのか?」

 バネと歯車はともかく、ゼンマイというのは初耳です。そんないいかげんな動力で動いてるんですか、私?

「ちゃんとメンテのときネジ巻いてやってるだろう?」

 いつ止まるかわからない動力なんか使わないでください。せめて単三電池とか、もうちょっと長持ちしそうなものにしてください。

’キィちゃん、ほんとにそれでいいの……?’

「安心しろ。頭部のバッテリーには単三電池を四本使用している」

 それなら安心です。単三なら、一年くらいは連続使用可能です。

 えーっとマンガン電池じゃないですよね? アルカリ電池だとうれしいのですが。

「ばか、今のは冗談だ。信じるなよ。電力が必要な場合は胸のゼンマイで発電機を回して生み出している。だいたい分解できない構造なのにどうやって電池を入れ替える気だ?」

 ……ホントに、ゼンマイ動力なんですか?

「安心しろ。巻くだけで一年かかるようなとんでもないゼンマイだからな。仮に今後おまえのメンテをする人間がいなくなったとしても、通常動作するだけなら今のままで三十年は稼動する設計だ。きちんとメンテして、ネジを巻いてもらえたとして、理論値では千二百年動く。実際には内部の部品の磨耗やらでまともに動けるのは三百年がいいとこだと思うが」

 さんびゃくねん、ですか。私の寿命って。

「あくまで俺の予想に過ぎないがな。ナノマシンが有効に働けば、半永久的に動くのかもしれん」

 ……ということは、私より先にコウさんが死んでしまう、ということですか?

「まぁ、その可能性が高いわな。俺は人間だから三百年も生きられんし」

 ……コウさんの最後は、ちゃんと看取ってあげますね。

「おう、まだまだ先の話だが、そんときはよろしくたのむぞ」

’なんだか不思議な感じね、あななたち’

”……いいなー”

 あの、何が不思議なんでしょう?

’自動人形とその製作者じゃなくて、恋人同士に見えるわ’

”わたしもそう思う。いいなー、きぃちゃんコウさんとラブラブで”

 らぶらぶ、ですか。私とコウさんが。

 なんだか複雑な気持ちですね。

「お、俺は自分の創造物に恋愛感情持つような変態じゃないぞ?」

 それじゃ、愛してるぞ、って言ってくれたのは嘘だったんですか?

’ふぅん、そんなこと言ったんだ?’

「い、いや、嘘じゃないぞ。その、あれは父親の、娘に対する、愛情みたいなものであってだな……」

 うろたえてますね。

’……ちょっと聞いていいかしら’

「な、なんだよ?」

’いいかんじにうろたえてるところ悪いんだけど、キィちゃんってどこまで人間そっくりに出来てるのかしら?’

「……」

 あの、ヴィスさん。随分と遠まわしな聞き方ですけど、それって私が性行為が可能かどうかということですか?

’平たく言うとそういうことね。さっきは下着までは脱いでもらわなかったから確認できなかったけど、無駄に人間そっくりなところとか、家事用というよりはセクサロイドっぽい設計みたいだったから’

”せくさろいどってなぁに?”

 セクサロイドというのは主に男性の性的な欲求を満たすために特化された、生身に近い素材で作られた自動人形のことです。

”おらんだのおくさんってやつ?”

’……どこでそんな言葉覚えてきたの’

 ちなみにコウさんの工房に素体が何体か転がってます。

「キィのボディを作る参考にしただけだぞ? 変なことに使ったりはしてないからな?」

 むなしい言い訳ですね。

’要するに、キィちゃんとは、できるわけね?’

「……ああ。人間との性交渉は可能だ」

’そういう風に作っておいて、手を出す気がない、っていうのはおかしくないかしら。容姿も自分好みにしておいて……ははぁなるほど。あなた、自分の恋人を作ろうとしたのね?’

「そうだな。そういう気がなかったといえば嘘になるが……」

 ヴィスさん、私にだって選ぶ権利という物がありますから。恋人というのは私の方から否定させてもらいます。

「聞いての通りだ。俺の意思でどうこうなるたまじゃないんだな、こいつは」

’……ちょっと待って。それってもしかして’

「そうだな。たぶんヴィスの考えていることは正しい」

’高性能な自動人形どころじゃないわね。あなた、こんなことが世に知られたら、消されるわよ?’

「大丈夫、誰も信じないさ」

 意思のある自動人形が、そんなに問題ありますか? 倫理的には問題あるかもしれませんが、現状の法律には引っかからないはずです。

’意思がある、というか自分で考えて行動するだけなら問題ないわ。人工生命体だって一般には術式で縛りはするものの、基本的には生命体として自分の意思があるわけだし。問題は、制御できないってこと’

「ああ。確かに俺にはキィに命令を強制する手段はない。そうしなかったのじゃなくて、できなかったわけなんだが」

’ディエンテッタは術式で縛っていないだけであって、縛れないわけじゃないわ。例えディエが人間を遥かに越えるものに進化したとしても、制御は可能なのよ。でもキィちゃん、あなたは危険だわ。人間と同じ知恵を持ち、意思を持ちながら、人間とは違う異質なモノ。人間より強靭な肉体を持ち、遥かに長い寿命をもった存在というのは、いずれ人間に取って代わってこの地球を支配しかねない。人間の立場から言わせてもらえれば、キィちゃんの存在は人類にとって脅威だわ’

 そんなことを言われても、私はただの人形です。それ以上でも、それ以下でもありません。

’コウ、あなたの作りたかったものがわかったわ。あなた、人間と同等の別の存在を作ろうとしたのね?’

「肩を並べて歩いていける、友人を作りたかっただけさ。今ある自動人形も、人工生命体も、人間に従うものでしかないからな」

’……ということはもしかして’

「ああ。人間とは少し違うが、こいつには子孫を残す能力がある。性行為が可能な設計になっているのはそのためだ」

 私、子供が産めるんですか?

「人間と交配できるわけじゃないけどな。キィと同系の人形をもう一体作成すれば、双方の情報を受け継いだ後継を産むことが出来る」

 ……いりませんから。そんなの。作らないでくださいね。

「ああ、俺としても野郎型の人形なんて今のところ作る気がおきんな。……いや人間と違うから別に男性型である必要は無いんだが。キィ、おまえがその気になったら自分で理想の相方作ればいいさ」

 ……不要です。いりません。結構です。必要性を感じません。

「俺だっていつまでもお前と一緒に居られるわけじゃないからな。俺が居なくなった後の話になるだろうが……。どんなによく似ていても、お前は人間じゃないんだぞ? 自分と同じ存在が居ない中、たった一人でずっと生きていくのはつらいと思うぞ?」

 まだ先の話でしょう? コウさんが死んだ後のことなんて、今考えたくはありません。

「そうは言うがな、結構大事なことだぞ?」

 だめです。お願いですから、こっそり作ったりしないでくださいね?

 そんなこと、想像したくもない、です、から、ぜったい、にやめて、ください。

’そろそろ落ち着いてくれる? キィちゃん’

 ……は、はい。取り乱してすみませんでした。

「さて、ヴィスはどうする?」

’私がどこぞへ密告したりするとでも?’

「いや、そんなことは心配してないが。キィのこと、どう思う?」

’……ごめんなさい、今日はノーコメントとさせてもらうわね’

 残念です。

’悪いけど、今日はもう、帰らせてもらうわ’

「ゆっくりしてきゃいいのに」

’あ、帰る前に、ちょっとお願いがあるの。今日の所は顔見せだけのつもりで、後日正式にお願いするつもりだったんだけど、あなた、ディエを預かってくれない?’

「どういうことだ?」

”ほえ? 聞いてないよ?”

’私のラボには、私しかいないから。このまま私のところでディエを育てても、私そっくりにしかならないでしょう? 早いうちに他の因子も取り込んでおきたいの’

「いや、預かるのは問題ないが。なんで今、急になんだ?」

’……たんなる気まぐれよ。私は帰ったらディエのイタズラの後始末もしなきゃいけないし。その時近くにいたら、ちょっときついお仕置きしたくなりそうだし。それにキィちゃんにも、コウ以外の存在とのやりとりはいい刺激になると思うのだけれど’

「おちびさん、いいのか?」

”うー? まさかヴィス、わたしのこと捨てちゃう?”

’そんなこと言ってないでしょう? 今日キィちゃんを見て、色々試したいことも出来たし。実験の準備を整える間、そうね、とりあえず一ヶ月くらいでいいのだけれど’

”わかった……”

「本人が了承したんなら、俺の方に異存はない。ようこそ、おちびちゃん」

’あ、ただし、ディエに妙な気は起こさないでね? キィちゃんもいるし、大丈夫だとは思うけど’

「俺、そんなに信用ないか?」

 自覚してないんですか……はぁ。

’じゃ、頼んだわよ? 必要な資料と資材は後で送るから’

「おう」

 玄関まで送ります。

’ああ、いいわよ。それじゃ、ね’

「またな、ヴィス」

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