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4、お医者さんに診てもらう、ということなら我慢します。

 ……本気でぶつなんてひどいです。

”いたいよぅ”

「まだ頭が、くわんくわんするな。んで、結局の所、今日は何しに来たんだ? まさかただ俺の顔を見に来たわけでもあるまい?」

’どちらかというと、キィちゃんの顔を見に来たんだけど。まぁ、本題はディエのことよ’

「ああ、なるほど。このちっちゃいお嬢さんは術式で縛ってないようだが、何かの実験作か?」

’流石ね。見ただけでそこまで分かるなんてすごいわ’

「おだてるな、何も出んぞ」

’ディエをよく見て。それであなたの意見が欲しいの。あなたは私とは違う実験作を完成させたみたいだけれど’

 え、私ですか?

「よせやい、キィはただのポンコツ自動人形だよ」

 へっぽこぴーのぷぅのくせに生意気です。

’ほら、そういうところよ。どんなによく出来た自動人形でも、命令されていない行動は出来ないはず。簡単な会話をしたり、自発的な行動をしているように見えたとしても、それはあらかじめ決められたロジックに従って、前もって決められた答えを返すに過ぎない。百回同じことを聞かれたら、百回同じ答えを返すものでしかない。でも、キィちゃんはどう見ても自分で考えて行動しているようにしか見えないわ’

「状況に合わせて行動できるように、とんでもなく大量の行動パターンを組み込んであるだけだよ。その上で、まったく同じ答えを返さないように、同じ答え方でも複数のバリエーションを用意してあるだけだ。それが結果的に自分で考えているように見えるだけさ」

’私に隠すことは無いでしょう? あなたがディエを見て分かるくらいには、私にもキィちゃんのことが分かるつもりよ’

「……ふむ。じゃぁ、お互いに目利きするか? どれだけ相手の作品の本質を理解できたかで勝負だ」

’分解しちゃ、だめよね?’

 そんなことされては、困ります。

「本人がこう言ってるから遠慮してくれ。俺だってそのお嬢さんを解剖したりはしない。まぁキィの場合はそもそも分解できるようになってはいないけどな」

’え、どういう構造なの?’

「基本的には人間と同じような感じだな。ネジとか一切使ってないから、分解というより解剖に近い作業になる」

 道理で私の廃棄処理を嫌がるわけです。

「外見で判断してくれ。あと聞きたいことがあれば本人に聞いてくれ。首の後ろと手首に端末につなぐ接続端子があるが、それは使用禁止な?」

’そんなズルはしないわよ’

「じゃ、時間は三十分。いいな?」

’いいわ。ディエ、覚悟はいい?’

”えーっと、よくわからないんだけど、わたし何すればいいのかな?”

 当事者である私とディエンテッタさんに断りも無く、勝手に話を進めないでください。

「嫌なのか?」

 女性とはいえ、初対面の方に身体をいじられたくはありません。

’ディーは?’

”だから、わたし、何をすればいいの?”

’コウとお話したり、遊んだりするだけでいいのよ’

”そんなことなら、べつにいいよ?”

 えーっと。ディエンテッタさん、だまされてます。私達、モルモットにされそうなんですよ?

’キィちゃんも、だめかしら? あなたが嫌なら、出来るだけ身体には触れないから’

「ヴィスはオートマタ技術者の資格も持ってるから、おまえをいじって変なことにはならんと思うぞ? 俺のメンテより、ヴィスの方がいいかもしれん」

 ……わかりました。お医者さんに診てもらう、ということなら我慢します。

「じゃ、ヴィスは隣の部屋を使ってくれ。あそこならベッドもあるし、キィのメンテ用の機材もある」

’それじゃ、キィちゃん借りるわね’

「おう、お手柔らかにな」

”で、わたし何すればいいの、コウさん?”

「とりあえず、全部脱いで見せてくれるだけでいいぞ」

”ふえぇーーっ?!”




 今、ディエンテッタさんの悲鳴が聞こえたような……。

 コウさん、まさか何か変なことをしてるんじゃないでしょうか。は、そういえばあの部屋には確か、資料と言い張ってコウさんが買い込んだドールハウスが……。

’キィちゃん、下着は着てていいから、とりあえず服、脱いでもらえる?’

 うう、私もかなりピンチな感じです。

’……つくづく、人形には見えない娘よね。近くで見ると瞳とか人工のものだって、分かるんだけど’

 しくしく。あの、脱ぎましたけれど。

’あら、結構カワイイ下着つけてるのね。コウのやつ、意外に趣味いいじゃない’

 コウさんの趣味がこんなにいいわけありません。私がネット通販で購入したものです。

’……ふーん。あ、ちょっとそのまま。そこでくるりと一回転してもらえる?’

 はい、こんな感じでどうでしょうか?

’すごいわね……。なんて自然な動きなのかしら。コウは人間の体と同じような構造って言ってたけど、ほんとにそんな感じね。あいつが既製品使うとも思えないし、まさか筋肉繊維の一本一本手作りなのかしら。職人芸ね’

 えーっと、口を挟むようで悪いのですが、私の身体って、かなりアナクロな作りをしてますよ? 部品は複雑に組み合わさっていますけれど、基本構造はバネと歯車です。

’バネと歯車の組み合わせであんなに自然な動きが出来るものですか。そんなものを使っていたら、どうしたって動きがぎくしゃして、それこそロボットにしか見えない動きになるはずよ’

 そう言われても、事実ですから。

’ちょっと身長と体重を測らせてね’

 はい。

’あら、何でこんなに軽いのかしら。私より……って。えーっと、比重が変ね。まさか金属を使ってないのかしら’

 あの、コウさんには体重を内緒にしておいて下さい。

’あいつが作ったのに、知らないわけがないでしょう?’

 いえ、最近少し太ってしまったので。ダイエットに成功するまでは、内緒にしておいて下さい。

’……自動人形が太るわけないでしょう。だいたい、あなた、食べ物を食べるわけじゃないんでしょう? それとも、エネルギーとして燃料か何かを外部から身体に取り入れるのかしら。動力源はいったい何なのかしらね’

 さあ? 実は私も知らないんです。

’人工筋繊維を使うにしても、小型のアクチュエーターを使うにしても、基本は電力だから……。一体どこから充電するのかしら。それともやっぱり何らかの燃料を外部から取り入れるのかしら。ちょっと、首の後ろ、見せてもらえる?’

 え、えーっと。首は弱いので、あまり触らないでくださいね。

’あら、首が弱点なのね。構造上もろかったりするのかしら。……へぇー、ちゃんと表皮で隠れるようになってるのね。ちょっと見せて?’

 あ、あん、だめです。そこは!

’……変な声出さないでくれるかしら?’

 だって、くすぐったいです。

’まさか、触覚があるの、あなた? そういえばさっきゲンコツしたときも痛そうにしていたわね’

 人間で言う、五感に当たるものは一応全部あります。食べ物を食べる必要がないので、味覚はあってもなくても同じなんですが。

’本当に自動人形なの、あなた。……人間がロボットのふりをしてると言われた方が、まだ信じられるわ’

 そんなことを言われても、私は人形です。

 中身を見せるわけにはいきませんけれど……ちょっとこっちに来て下さい。

’何を?’

 少しかがんで下さい。そうです、そのくらいです。

’いったい何なのかしら?’

 えい。

’ち、ちょっと、そんなにされたら息が出来ないわ’

 じっとしてください。

 聞こえますか? これが私の心臓の音です。私の命が刻む音です。

’……ずいぶん変わった音がするのね。かちかち、きぃきぃ、かちかち、きぃきぃ……。本当に歯車みたいな音がするわ’

 はい。私の名前の、由来でもあります。

’なんだか、時計みたいね?’

 私の自動人形としての基本構造は、からくり時計だそうですから。

’……自分の動力源を知らないって言ってたわね。それは、今までに燃料の補給や、充電などのエネルギー補給をしたことがないってことかしら?’

 はい。活動する上でどうしても消費される水分や潤滑油を除いて、私はまだ一度もエネルギー補給らしきものを受けていません。

’永久機関なんてありえないから、空気、もしくは水からエネルギーを生み出す機関があるか、一定量のエネルギー資源、もしくはエネルギーを内臓しているか……つまり使い捨てってことだけど……そのどちらかね’

 おそらく後者ではないかと思われます。私もいつかは死ぬそうですから。

’ロボットに死を与えるなんて……あいつ何を考えてるの!’

 きっと何も考えてませんよ?

 ばか、ですから。コウさんは。

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